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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第3章 活躍と暗躍は大親友

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第15話 踊る闇の手

 フィーレ魔法学院は登録を行い授業料を支払えば、誰でも自由に入学することができる。といっても警備の関係上無制限に開放されているわけでは無く、自ら身元を証明するか誰かの保証がなければならない。レーンの国民なら税金を納めている証明書や、実績のある人物の保証などがあれば良いので、無いに等しい制限ではある。

 そのため百年もの長きにわたって根を張る反抗組織にとって、新入生として暗殺者を送り込むのはわけないことであった。侵入してからしばらくは情報収集を行い、レネがよく目撃される場所を調べ、自分の目で確かめてから計画を練り、遂に実行に移ったのだった。





 本日のレネはいつもとは異なる行動をしている。杜人に出会う前までは一日のほとんどを図書館で過ごしたのに対して、出会ってからは迷宮に出かけたり普通に買い物に行ったりしていた。そして内容は変わってもその基点は変わらずに自室であった。

 しかし、現在はレネにとってはとても重大な理由により、ジンレイの屋敷にて寝起きしていた。要するに良い意味であっても注目されるのに疲れたので、しばらく学院内でも雲隠れすることにしたのだ。

 和室に改造された居間にて、柔らかい布団に包まれたままレネは幸せそうに眠っていた。そこに外界に合わせて窓から明かりが差し込み、自然な起床を促す。窓には障子が貼られていて、ところどころに色とりどりのもみじが上から落ちて来ているように描かれている。そのため差し込む光にもさまざまな色がついていた。

「……んむぅ」

 寝起きがよろしくないレネは寝ぼけたまま布団を這い出ると、着替えるために布団の上に座ったまま寝巻きのボタンを外し始めた。

『おはよう』

 杜人は傍にある足の短い座卓の上で毎朝の体操をしていたので、礼儀としてきちんとレネに声をかけた。もちろんレネから視線は外していない。

「うん……、おはよう」

 レネは寝ぼけたまま挨拶を返し、寝巻きを脱ぐ。しだいに露になっていく淡い光に照らされて輝く肌を、体操を終えた杜人はありがたやと拝み、拍手を打つ。だいたいここまでが毎朝の日課である。

「ん……」

『ブローチは座卓の上にあるぞ』

 視線を彷徨わせるレネに、杜人は正座しながらにこにこと教える。視線はもちろんレネに固定していた。

「ありが……」

 今朝のレネはブローチに手を伸ばしたところで覚醒し、腕を伸ばした状態で固まる。そんなレネとは対照的に、杜人は実に良い笑顔である。

『なに、朝から良いものを見せてもらったのだから礼はいらな……』

「きゃああぁぁぁ!」

 最後まで言う前に悲鳴をあげたレネの前面に魔法陣が瞬時に構築され、そこから出た青白い光が杜人を直撃し瞬時に結晶化して包み込みながら壁まで吹き飛ばした。そして効果時間が過ぎてからぽてりと床に倒れこんだ杜人はいつも通り痙攣の真似事をしているが、その顔はとても幸せそうだった。

『ふっ、夢のために死ぬことは男の本懐なり。今日も眼福でございました。がくり』

「ふんだ、ばか」

 ここまでが多少の変化はあるものの、朝の日課である。対杜人用の魔法が一番使えるようになった理由がこれであった。

 いつもこれなので朝に部屋を出ていたこともあったのだが、そんなときのレネは無意識の領域で不安定になって杜人が離れることを嫌がった。寝ぼけも直らないので、おそらくレネの中で存在を確認する儀式のような感覚になっていると杜人は推測している。これは杜人の落ち度なので、何も言わずにこうやって毎日幸せそうに吹き飛ばされていた。




 準備ができたら認識阻害の魔法具を起動し、シャンティナと共に外に出る。出口は学院の敷地内で人通りが無い場所に設置しているので見咎められることは無い。

「見ないでって言っているのに、どうしていつも見るのかなぁ」

『レネがとても可愛いからと毎日言っていると思うが。それ以上の理由なんぞ男には不要!』

「おー?」

 なぜか堂々と胸を張る杜人にシャンティナは拍手をする。レネは多少頬を赤らめながら、もう良いやとため息をついた。

 食堂に着いたレネは認識阻害を解除して、料金を支払うとカウンターに並んでいるいつものまかないを手にとって端の席に移動する。ちなみにシャンティナも同じものである。本日はいつもの二番出汁スープに四角く切ったパンの耳が入っていて、具材は黒姫芋が一個丸ごとである。

「安いからこれも豪華になったね。それにこんなに柔らかく煮ているし……。うん、おいしい」

「おいしいです」

『煮物との相性が良いのかもしれないな。今度肉じゃがでも作ってみるか』

 そんなところにエルセリアとセリエナがやってきた。エルセリアは貴族用の朝食で、セリエナはレネと同じくまかないである。特に約束はしていないが、会えたら一緒に食べているのだ。

「おはよ。今度モリヒトが新しいお芋の料理を作ってくれるって」

「おはよう。楽しみにしていますね」

「おはようございます。期待して待っています」

『おはよう。簡単な料理だから誰でも作れる。例によって調味料が無いから、外では無理だがな』

 いつもこのように和やかな雰囲気で食事は行われている。

 今日は食堂に慣れていない新入生と思われる人達がレネ達の近くをうろついていた。新入生以外はレネ達のいる席が半ば指定席になっていることを知っているし、あまり食堂を利用したことがない人でも近づこうとは思わないのだ。レネ達は場所にこだわっているわけでは無いので座られても気にしないのだが、いつの間にかそうなっていた。

 その人達もそのうち離れた席に座っていたので、特に何事も起きなかった。そういうわけで、朝の食堂は実に平和であった。




 暗殺者達はいつも居る場所にレネが居ることを確認し、ほっと息をはいた。今日は朝から自室を監視していたのだが、いつも現れる時間になっても出てこないので慌てて確認に来たのだ。そしてあっさりと発見できたので、気付かれたわけでは無いと安堵した。そうして怪しまれないように食事をして、決めておいた暗殺場所に移動するためレネより先に出ていった。

 そして図書館に先回りしていた暗殺者二名は静かに待機し、仕事に来て少し離れた書棚を歩くレネの気配を捉えながら時期を見計らう。すぐ傍には護衛が控えているのでひとりが陽動を行い、もうひとりが背後から強襲することにしていた。本当ならばもっと人数がいれば確実なのだが、たかが小娘二人に大人数を使う必要なしとこの人数になった。

 たとえ武器が無くとも無手で殺害できる力量があるからこその自信である。そしてどんなに強力な魔法を使えようが発動までには時間がかかるのが普通であり、その時間だけで終わらせることができる技量をどちらも持っていた。

 そしてなにより大人数で動けば目立ってしまい、国が組織排除に動き出すかもしれない。闇に隠れて活動の実態を知られていないからこそ国も手出しができないのである。知られていないということは闇に生きる者にとって最上の守りなのだ。

 二人は本を探すふりをしながら気付かれないようにレネとの距離を測っていたが、周囲に人が居なくなったときに目線と仕草で意思を交わし、遂に殺害を実行するために足に力を込めた。同時に足元が光ったことを認識すること無く、暗殺者達の意識は一瞬で闇に落ちた。




 食事が終われば本日は臨時司書としての仕事が待っている。そのためレネは図書館に行き、腕章をつけてさっそく仕事を始める。シャンティナは護衛なので、同じく腕章をつけて一緒に付いて歩いていた。ちなみに仕事が無い日は図書館で本を読んだり、街に出かけたりしている。

 上級魔法を使えるようになったときに実技の授業を受けようかと思ったときもあったが、杜人がいなければ以前と変わりがないことと、出れば今以上の変な評判が付くような気がしたので、今のところは独学で何とかしていた。

『いつ来ても、この本の量には圧倒されるな』

「そうだね。これでもっと本の入荷が早ければ完璧なのになぁ」

 図書館の本をほぼすべて読み終えているレネは残念そうにのたまう。杜人はそんなことを言えるのはレネだけだろうなと笑いながら、常人なら一生かけても読み終わらないくらい本がある図書館内を見回していた。

 レネは返却された本を抱えながら移動して所定の位置に入れたり、間違っているものを元の位置に戻したりを繰り返す。レネの後ろにはシャンティナが無表情なまま控えているため、近寄りがたい独特な雰囲気が漂っている。そのためたまに居た学院生達は、レネを見かけるとこそこそと逃げ出していた。

 そんなことになっているとは知らずに、レネはせっせと仕事をこなしていく。そうしてしばらく働いているときに少し離れた場所で何か音が聞こえたので見に行くと、二人の男がうつぶせに倒れているのを発見した。床には白い魔法陣が展開されている。それを見たレネは無言で頷くと、慌てることなく受付に向かった。

『あれはどういうことなんだ?』

「武器規制の結界に引っかかったんだよ。ここには武器の持ち込みが禁止されていることは周知されているけれど、他者に対して危害を加えようとしたり、盗みを働こうとしたりしたときにも反応するってことを知らない人が多いんだよね。だから、たまに新しく来た人とかが引っかかるんだよ。後は警備の人が対応するし、気絶しているだけだから心配いらないよ」

 それを聞いた杜人は、警告なしに気絶させるとは容赦ないなと頬を掻く。

『そんな便利なものがあるなら、どうして主要な建物に使わないんだ? そうすればだいぶ平和になると思うのだが』

「この結界は星級魔法なんだよね。だから大っぴらに使えないし、維持も大変なんだよ。ここで争われて魔法を使われた場合、確実に本が破損して大切な知識が失われるし、盗みを働く人を事前に察知するのは不可能だから特別に許可されているんだって。後は王城の宝物庫とか、ほんの一部にしか使われていないはずだよ」

 星級魔法は建前上封印されて使用禁止になっている。そのため使用していることを隠しているわけでは無いが、わざわざ宣伝もしていないのだ。

 結界の発動は珍しいが長年図書館に勤めるレネにとっては何度も見ていることなので、いつも通り報告して仕事に戻っていった。





 レネがしている臨時司書の仕事は午前中だけなので、午後は迷宮にて金策と修練に勤しむのが日課である。人が居ない場所を求めた結果、現在は第三十五階層に到達していた。

「さすがにこの階層は人が少ないね。おかげで気楽に行けるよ」

『当たり前だ。出てくるのが少数とはいえ、ある程度の魔法使い以外にはここは辛すぎるぞ』

 この階層には鏡鱗空魚以外に、影供という拳大で黒色球形の魔物が出てくる。出現数は少ないが、これが実に凶悪なのだ。

 まず魔法以外の攻撃はまったく効かない。そして単なる防具では防ぐことができずに体内に侵入されてしまう。そのため魔法使い以外は魔法具が無ければ逃げる以外の選択肢が無くなる。だがここまで来られる探索者なら、攻撃や防御用の魔法具を持っていないことはありえないので、気を付けさえすればそんなに脅威にはならない。

 問題は影供が持っている能力である。いつの間にか獲物の影の中に転移して来てそのまま潜み、その状態で生命力を吸うのである。影の中に潜んでいるときは一切攻撃は効かず、吸収を防ぐためには上級以上の障壁を使う必要がある。そして追い出すには同じく上級以上の結界を張って無理矢理はじき出すしか方法が無い。

 そのため上級魔法を使える魔法使いが居ないと、知らないうちに生命力を奪われて死んでしまうのだ。上級の魔法具はそれなりに高価であり、誰でも使えるものは更に値段が跳ね上がる。このためだけに買うくらいなら魔法使いを雇って一気に通過したほうが良いくらいである。そういう理由で、この階層はほとんど誰も居ないのだ。

 そんな階層をレネは上機嫌に歩いている。レネとシャンティナは全身を強力な斥力障壁で覆っているため影の中に侵入されても生命力を吸われることが無い。そして杜人が使える霊気槍で影に潜む影供を簡単に追い出すことができると分かったからだ。

 そうやって追い出したら黒い拳大の石が残った。その石は握っただけで容易に砕けるほど柔らかく、その中に小さな魔力結晶が入っていた。小さいとはいえ魔石よりは良いものなので、今では早く来ないかなと侵入を心待ちにしている状態だった。

「そろそろどうかな?」

『そうだな。霊気槍』

 杜人がレネとシャンティナの影に霊気槍を放つと、レネの影から黒い石がひとつ浮かんできた。それを杜人がジンレイの元に送る。実に簡単なので最近はこれを繰り返していた。

「けど、やっぱりそんなに居ないね。鏡鱗空魚は結構いるんだけどな」

『居たらもっと悲惨な状況になるだろうな。収支から言えば他にも収入源が増えているから、迷宮からは今程度で十分だろう』

 収穫は夕方まで居て二十個あれば良いほうである。金銭効率的には赤目妖精ほどではないのだが、現在は人が居ないことを重視しているのでレネは少ないと言いながらも十分満足している。

 補足すると階層を移動するだけの場合、遭遇する影供はせいぜい三体である。これと比べればレネと杜人の感覚が、普通からかなりずれてしまっているということがよく分かる。もちろん二人とも、これでゆっくりしていると思っているのだ。初期にかなり駆け足をしたことが、ここに来て大きく響いていた。

「慌てて狩る理由も無いしね。それに何となく狩り過ぎると集団に襲われるような気がするんだよね」

『確かに。必ずと言えないのが困ったところだが、迷宮が調子に乗り過ぎたものを排除しようとしていると考えれば合点がいくな。……なるほど、さすが経験者だな』

 杜人は最後に色々な思いを込めて呟くと、ニヤニヤと笑いながらレネを見つめる。もちろん先程まで調子に乗ってのりのりでしたねという視線だ。レネは頬を赤らめて恥ずかしそうに少しだけ俯くと、誤魔化すように手を横に振った。

「とにかく! そういう可能性があるからゆっくりやろう。……あ、誰か来た。移動しなきゃ」

『ふふふふふ、そうだな』

 レネはちょうどよく探索者の接近を感知し、話題を強引に終わらせるとにやけている杜人の発言を無視していつも通り駆け足でその場を後にした。もちろんその際はきちんと罠を避けながら走り、出会った鏡鱗空魚を撃ち落としている。撃ち漏らしてもシャンティナが居るので止まらずに移動できる。そのため常識では考えられない速度で一気に移動していき、すぐにその場所から姿が見えなくなったのだった。





 図書館での襲撃が間抜けな理由で失敗し、仲間が捕らえられたことを知った暗殺者達は、襲撃に気付かれて警戒が上がる前に倒そうと考え、外部で待機していた者が迷宮に入ったレネを急遽追いかけていた。

 最近のレネは第三十五階層に居ることが分かっているが、水晶柱の広間にいつまでも居れば要らぬ注目を浴びることになる。その他の場所では待機するわけには行かない階層であり、レネは外では姿を隠して移動しているので、迷宮の入口で来たのを確認してから後追いすることしか出来ず、最初から見失うことになったのだ。

 ここに来た暗殺者達は魔法使いではないため、防御のために高価な結界魔法具を携帯している。それでも全員分は無く長時間は使えないので時間を区切って使用し、影供の脅威から身を守っていた。

 そうやって追いかけているうちに急激に身体が重くなったので、影に侵入されたと判断した暗殺者達は一度立ち止まって魔法具を発動した。

「な……」

 誰もがそれまで言葉を発していなかったのだが、目の前に広がった光景に全員が呆然とし思わず驚愕の声が漏れる。目の前には結界の作用によって影から追い出された影供の群れが、所狭しと動き回っていた。その数はすぐには数えることができず、呆然としている間に結界にもびっしりと張り付き始めていた。

 いつもであれば追い出したところで結界を解き攻撃用の魔法具で倒すのだが、この数で結界を解けば先程のように一気に生命力を吸われてしまう。そのため我に返ってもただ見ることしか出来ず、ただいたずらに時間だけが過ぎて行くことになった。

 結局、迷宮へ追いかけていった暗殺者達は、その後誰も外の世界に帰って来ることは無かった。




 迷宮から帰って来たレネ達は汗を流してから食堂へ向かい、ちょうどよく出会えたエルセリアとセリエナが合流して一緒に食事をしていた。

「だからね、もしかしたら決められた時間内に一定数魔物を狩ると大量に発生するんじゃないかと思ったんだ」

「うーん、さすがにそれはきちんと実験できないし、何とも言えないのがもどかしいね」

 迷宮における魔物の大量発生は現在謎に包まれている。だから色々な説があるが、長く言われているものはどれもが一理あるものばかりだった。だからエルセリアもレネの意見だからと言って盲目的に賛成できなかった。

「ですが、少なくともレネは短期間に複数回大量発生した魔物と遭遇しています。以前一緒に行ったときも勢い良く豪快に狩っていましたし、可能性は高そうですね」

『良かったなレネ。これも豪快な狩り方のおかげだな』

「うぅ、調子に乗ってごめんなさい。反省しています」

「よしよし」

 セリエナは特に嫌味を言ったわけではなく、純粋に思ったことを口にしただけだ。だからこそより鋭い刃となって、自重しようと思っていたレネの心に突き刺さった。

 そのためちょっぴり涙目になりながら調子に乗ったことを反省し、そんなレネをエルセリアが優しい微笑を浮かべながら慰める。その様子をセリエナは困ったように微笑みながら見つめていた。

 ひとつ間違えば喧嘩が始まりそうな流れだが、誰もが楽しげにしている。もうこの程度なら冗談と分かる仲なのだ。

 そんな楽しいひとときを、シャンティナは会話にはまることなく黙って過ごしている。しかし、不満があるわけではなく、リボンは楽しそうに揺れていた。

 こうして楽しい時間を終えたレネとシャンティナは、エルセリア達と別れると認識阻害魔法を発動して人がいない場所へ移動し、きちんと誰も居ないことを確認してから今現在の住まいへと入っていったのだった。




 レネが何事も無かったように学院に帰って来たことによって、学院に残った暗殺者達は強襲部隊が失敗したことを悟った。そして誰も戻ってこなかったことから、確実に気付かれたと判断した。そのためもはや手段を選んでいられないと結論を出し、探しだして襲撃する者達と、確実に戻ってくるであろうレネの自室に侵入して帰ってくるのを待ち構える者達に分かれて行動することにした。

 部屋に侵入する者達は静かに鍵を開けると滑るように部屋の中に入っていく。そして全員が入ったところで鍵を掛けなおし、隠れようと周囲を見まわす。そのとき、待っていたかのようにテーブルに置かれていた丸い結晶から光が放たれ、何が起きたのかを認識することなく意識が途切れた。

 しばらくしてから扉が開き、待機していた情報機関の男達が部屋に入ると、倒れ伏した暗殺者達を静かに縛り上げて運び出していく。

 レネの部屋には図書館に設置されている結界の簡易版魔法具が設置されていて、条件として指定していた扉の開閉が行われたことによって発動し、中にいた者達を残らず昏倒させたのだ。簡易版故に使い勝手は悪いが、はまれば凶悪な魔法具である。もちろん簡易版でも物凄く高価なため、気軽に使える物ではない。

「さすがの暗殺部隊も油断すればこんなものか」

「今回は事前に情報がありましたから、対策も容易でしたしね」

 迷宮内では無理だが、街と学院ではシャンティナ以外の護衛がきちんと張り付いている。そして今回はとある組織にレネが狙われているとの情報提供があり、人数が一時的に増員されている中での出来事だった。

 だから暗殺者が大量に学院内に入り込んでいることもレネを見張っていた情報機関にはよく分かったし、すぐに行動しなかったので背後関係も調べることもできた。

「あっちはどうだ?」

「全員捕らえました。お姫様は何も知らずに帰りましたよ。それにしても、きちんと隠れ家を準備しているなんてすごいですね」

 レネの索敵範囲がかなり広いので直接見ているわけではないが、同じ場所に行き消失していれば何かがそこにあると分かる。そして一晩経ってすっきりした顔で出てくれば、休憩できる場所を確保していると推測できるのだ。レネが使っているのは昨日からだが、今日帰った場所が同じなので情報を扱う者に言わせれば隠していないのと同じことであった。

「だから不確かな情報でも、俺達がわざわざ出てきて護衛しているんだろうが。どうでも良いやつに国が動くわけがない。……良し、片付けて撤収だ。これから大掃除で忙しくなるぞ」

「楽しみですねぇ」

 のんきなことを言いながらも情報機関の男達の目は笑っておらず、これからのことに集中していくのであった。
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