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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第3章 活躍と暗躍は大親友

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第09話 仕掛けられた罠

 最近話題になっている迷宮の噂がある。ひとつは見えない魔物である深淵の魔女の噂だが、こちらはその後の目撃例があまり無いため、信憑性が疑われている。もうひとつは魔法具が変化した魔物が増えて来たというものだが、こちらは出会う探索者が多くなってきたので徐々に噂から脱して本当になる勢いであった。

 そのため探索者はにわかに活気付いていたが杜人とレネは特に気にせず、ブローチのお礼を言うためにシャンティナを後ろに引きつれてダイル商会へ向かった。そして雑談が終わったときに、ダイルから噂に関連する奇妙な依頼をされた。

「できるだけ壊さないで、ですか?」

「はい。魔法具が一度魔物化すると、魔力が構成素材に溶け込んで更に上質な素材になるのです。ただ、壊れてしまうと使い道が限定されてしまうのです。ですから無理にとは言いませんが、もし機会があればと思いまして。ついでにそれを捨てた者が誰かを特定するのにも使えます」

 例えばランタン型の明かりの魔法具が魔物となった場合、倒すには核となる明かりの部分のみを取りだせば良い。その他の枠とか硝子とかが売れる素材となる。金属などの溶かして直せるものなら壊れても大丈夫だが、木などの再利用が難しい材料は壊れてしまうとどうしても小さくなるので、使う先が限定されてしまうのだ。だから剣などの場合はへし折ったりしても大丈夫である。

 そして今回は不自然に増加しているので、誰かが処理をせずに投棄していることは確実である。そんなことが続けば疑われるのは商品を扱っている商店や職人なので、国が動く前に特定してしまいたいのだ。もちろんダイルの目的はこちらである。

 噂を聞きつけた他の商店でも、なじみの探索者に同様の依頼をしている。かといって基本的に命を優先するので収穫は芳しくないのが現状であった。もちろんダイル商会でも他に依頼を出しているが、ダイルはレネならきっと何か楽しいことをやらかしてくれるに違いないと考えていて、そのときを心から楽しみにしていた。

 そんなことを考えているとはつゆ知らず、杜人はレネの周囲を漂いながら内容を検討し、良さそうだと頷く。

『そうだなあ、物によるが武器以外ならタマで抑えつけて霊気槍で攻撃すれば大丈夫じゃないか? それにこれなら未知の魔物に対する練習にもなる。レネもそろそろ上級魔法の練習を始めないと困るだろうから、良さげなものだけ選んでやってみるか』

 金は欲しいが、その場合はレネにできることはない。それでは練習にならないので手加減は良さそうなものだけに限定して、その他は殲滅しようと杜人は提案した。試験はまだ先だが、余裕を持ちたいので練習をしておきたいのは本当だ。最近はその他の攻撃力が過剰になってきたので、なかなかレネの出番がなく困っていたところだった。

 タマとジンレイと玄武は倒されても再生可能であり、シャンティナに至っては相手に怪我をさせないほうに力を使っている有様である。これではもっと下の階層に行かないとレネの出番は回ってこず、出番が回ってくる階層まで行くと現段階では力不足になりかねないのだ。

 だからレネも賛成し、そうしようと頷いた。

「分かりました。それでは、余裕があればやってみます」

「よろしくお願いいたします」

 その後に出現情報を聞いて、レネはシャンティナと共にさっそく迷宮に向かった。多く出現しているのが第二十階層ということだったので現在の狩場である第十七階層から移動していき、第二十階層に辿り着いたレネの目に飛び込んできたものは、とにかく多くの探索者達だった。

「もしかして、全員目的は同じ?」

『じゃないか? よく考えれば一攫千金の機会だから当たり前か』

 レネ達は通路の端を進んでいくが全く人が途切れず、魔法具の魔物どころか通常の魔物すら見かけない。たまに見かけても既に戦闘中だったり、出た直後に戦闘を開始したりするのでレネ達まで回ってこない。レネ達は隠蔽魔法で姿を隠しているので、魔物が近くに出現しても他の探索者はレネ達の存在に気付かず、そのまま戦闘に移行するのだ。

 この状況にレネと杜人は無言で視線を合わせると、同時に頷いた。

「下にいこう」

『賛成だ。時間の無駄だな』

 杜人はレネとシャンティナをタマに乗せると、隙間をぬって走り始めた。移動の途中で無理をして危なくなっている探索者に援護射撃を行いながら、一行は一気に第二十三階層まで移動した。





『ここはまた、逆に誰も居ないな』

「ここからは、かなり厄介な魔物が出るからね。拠点としないで一気に通り抜けるのが普通みたいだよ」

 レネはいつも通り調べたことを説明する。

「まず鉄人形という私の二倍以上大きいごつい魔物が出るよ。そいつには魔法は効かないし、頑丈だから倒しにくいんだよ。あと赤目妖精がでる。これは逆に半分くらいの大きさで、とにかく素早いの。それに魔法を吸収するから魔法は通じないし、きちんと加工していない魔法具だと術式まで吸収されて壊されるよ」

 この階層からしばらくは火力担当の魔法使いが役立たずになるため、誰もここに留まろうとする探索者は居なかった。そのためレネも難しい顔をしていた。そんなレネとは逆に、杜人は笑顔になっている。

『それは良いな。練習し放題だ』

 レネは説明を聞いて朗らかに笑う杜人に最初はいぶかしげな目を向けたが、少し考えててからその意味を理解してぽんと手を叩いた。

「そっか、魔法が効かないから練習台に何度も使えるね。誰も居ないから、迷惑をかける心配もしなくて良いし」

 納得したレネも頷くとにっこりと笑う。

 傍には過剰火力を叩き出す守り手がおり、玄武は生半可な魔法具ではないので吸収されて壊れることも無い。タマの溶解攻撃は鉄人形に有効に働き、素早く動ける。それに万が一のときはジンレイの領域に退避できる。だからレネは通用しない相手を用いて魔法の練習をすることができるのだ。

「それでは出発!」

『おー!』

 一同は元気に拳を振り上げると、気負うことなく通路の奥へと進んでいった。





 レネ達がしばらく歩くと、人が居ないせいなのかすぐに魔物に遭遇した。出てきた魔物は鉄人形一体である。発見と同時に鉄人形もレネ達を認識し、鈍い足音を響かせながら近づいてくる。

『これは良いな。それではレネ先生、お力を拝見いたします』

「任せてくれたまえ。こほん、……炸裂氷結槍」

 杜人のおふざけに上機嫌に答えたレネは彗星の杖を鉄人形に向ける。そして静かに上級魔法である氷結槍を改造した炸裂氷結槍の魔法陣を構築していく。構築だけはいつも練習しているので、光が宙に流れるように魔法陣は構築されていく。そして彗星の杖によって魔法陣は二つ複写され、都合三つの炸裂氷結槍が発動し、ゆっくりと近づいていた鉄人形に全て直撃した。

 結果、魔法が効かないはずの鉄人形は一撃で粉砕され、輝く余波が後ろの通路へ流れていった。その予想外な光景にレネが唖然としている横で、シャンティナはぺちぺちと小さく拍手をする。しかし、おざなりに聞こえる拍手とは異なり、髪を結ぶリボンはぱたぱたと興奮気味に揺れていた。

「……あれ? 何で?」

『実体攻撃分で吹き飛ばしたんじゃないか? 実際は効かないというより防御力が高くて効いているように見えなかったとか』

 きょとんとしているレネに、杜人も首を傾げながら推測してみる。それを聞いたレネは納得したように頷いた。

「そっか、だから鉄人形の素材を使っても魔法を弱体化できないんだ。きっと能力で強化されているんだね」

 鉄人形から得られる鉄は、普通の鉄より魔力の通りが良いだけである。苦労する階層で重たいものをわざわざ持って行こうと思う探索者はほとんどおらず、もう少し下の階層に行けば性能が一気に向上する真銀が取れるようになるため、研究もほとんどされていない。

 更にこの辺りを通過する魔法使いは上級に足を突っ込んだ程度の者が多いので、主となる魔法は中級となる。そのため魔法で攻撃しても威力が足りずに効果が無いように見え、等級が上がっても魔法が効かないと思ったままである。ついでに赤目妖精も居るので、上級を使えるようになっても来ないのである。

 そしてここより下の階層のほうが魔法を使えるようになるので楽という階層難易度の逆転現象があることと、金目のものが魔石程度しかないこともあって、苦労してまで魔法で倒してみようとは思わなかったのだ。

 もちろん全員そう考えるわけではないが、大した情報でもないので調べたことを伝えても名が売れるわけでもない。そのため話のネタにすることはあっても、積極的に広めようとは思わないのである。

 このため秘匿しているわけではないが、自然と知られていない情報となっているものであった。

『これなら思ったより楽かもしれないな』

「そうだね。それじゃあ次行ってみよう!」

 レネは元気に拳を振り上げ、一行は更に奥へと進んでいった。

 次に遭遇したのは赤目妖精三体である。顔の大部分を占める赤い瞳に体毛の無い茶色い身体。大きく裂けた口に曲がった背中。欠片もかわいいと思える要素は無かった。

 こちらも即座に気が付いてレネ達に素早く向かって来たが、硬鱗赤蛇で接近される恐怖に耐性を獲得したレネは慌てずに魔法を放つ。

「雷撃槍」

 金色の輝きと轟音を伴って雷の槍がそれぞれに突き刺さり、赤目妖精は後ろに吹き飛ばされる。しかし、起き上がった赤目妖精には傷ひとつ付いておらず、身体の周囲には金色の稲妻が小さく放たれていた。

 レネはそれを見て小さく頷く。

「火炎槍」

 今度は赤く輝く炎の槍を放ち、同様に吹き飛ばす。今度も傷は無く、追加で火炎を纏っていた。

「水晶塁壁」

 次は輝く結晶体が横に広がって行く手を阻んだが、赤目妖精が取りつくと溶けるように消え去り、身体に鎧のような形で透明な石を纏う。状態を確認したレネは杜人に視線を送り、今度は杜人が魔法を放った。

『霊気槍』

 構築した魔法陣から白い輝きが飛び出し、向かってこようとしていた赤目妖精達に突き刺さる。しかし今度は吹き飛ばず、三体とも高揚したように大きく飛び跳ねて元気に向かって来た。

『シャンティナ、倒せ』

「はい」

 予想していたことだったので慌てることなく杜人は指示を出し、シャンティナは小さく頷くと表情を変えずに飛び出す。そのときのリボンは楽しそうに振られていた。

 シャンティナは強化された赤目妖精に無造作に近づき、真っ赤な口を開けて飛びかかって来たところへ無造作に腕を横に振るう。力を入れずに無造作に振ったようにしか見えないのだが、拳が当たった頭部は無残にひしゃげ、遠くへ吹き飛ぶとそのまま動かなくなった。

 残りの二体も軽く振るわれた足で吹き飛ばされ、戦闘はあっけなく終了した。

「お疲れさま。怪我はない?」

「はい」

 レネは戻ってきたシャンティナを笑顔で出迎え、魔法具の確認を行う。言葉少なだがシャンティナのリボンもぶんぶんと振るわれていた。

 そして素材の回収をジンレイに任せて、レネと杜人は結果から分かったことを話し合う。

「上限は分からないけれど、上級魔法は問題なく吸収してしまうみたいだね。結構素早いから近接戦闘も苦労するだろうし、確かにこれじゃあ戦いたくないと思うのは当たり前かな。魔法具のほうは問題なかったから、魔法も対策をすれば吸収されなくなるかも」

『霊気槍も駄目だったから、吸収できない魔法というのは面白いかもしれない。……初級魔法の内側に上級魔法を隠してみたらどうなるか予想できるか? 外側を吸収しているうちに内側で攻撃するような感じなんだが』

 杜人の脳裏に浮かぶのは、偽装装甲を吹き飛ばして颯爽と現れるメカである。夢が満載な光景なので、いつかタマにも実装したいと思っていた。レネは額に手をあてて考えていたが、特殊すぎるのでやってみないと分からないという結論に至った。

「どちらかと言うとそれ専用の魔法じゃないと無理かな。吸収されるのが前提だから術式を連結できないしね。ええと、内部の魔法は基本圧縮するとして外殻にそれを中央に支える力を付ける。解放条件は……」

 ぶつぶつと言いながらレネが術式を構築していると、素材の回収を終えたジンレイが杜人に魔力結晶を三つ差し出してきた。

「ただいま回収したのですが、魔石が全て結晶化していました」

『うん? 珍し……くないのか。大変だレネ! 凄い発見かもしれん』

 杜人は大げさな身振りでにこやかにレネに近づいて結晶化について報告する。レネもそれを聞いて口元をほころばせる。

 ただ魔法を吸収させるだけで魔力結晶となるのであれば、もっと人気が出てもおかしくない。そして偶然三体とも結晶化するとも考えにくい。つまり、今の実験で何か決め手があったと考えたほうが自然なのだ。

「もしかして吸収した魔法の影響なのかな。これでお金持ちになれる!?」

『いやいや、先に強化を優先させてくれ。そうすればもっと良いところに行けるようになるから、何をしなくてもがっぽがっぽと儲けが出てくるぞ』

 杜人は腕を大きく回して将来の資金が倍々に増えていく演出をレネに見せた。嘘ではないが夢見るほどの儲けはでない。だが杜人は遊び心を忘れていないので、ただ繰り返して検証するのではなく楽しむために案を練り、レネを当然のように巻き込んだ。こうすればレネは嬉々として赤目妖精に検証を行うと予想したのだ。

「がっぽがっぽ……」

『がっぽがっぽだ』

 予想通り目を輝かせて妄想に走るレネに、杜人は人の悪い笑みで強調する。そのためレネは簡単にその気になり、変に笑いながら通路の奥を指差した。

「くふふふふ。さあ、いざ行かん冒険の旅へ!」

『おー!』

「おー?」

 いまいち分かっていないシャンティナもレネの真似をして拳を突き上げ、頭のリボンを楽しげに揺らしながら、走り始めたレネの後に付いていった。





 そして未曾有の大量殺戮の結果、遂に結晶化の方法が確定した。道行く先々で実験を繰り返し、最終的には百体は倒したかもしれない。それを成したレネは、歩きながら浮かれ調子に笑っていた。

「魔法を吸収させる順番と、水晶塁壁が決め手だったなんて普通思わないよね。しかも一定以上吸収させないと変化しないし、先に水晶塁壁を吸収させても変化しないなんてね」

『足止めは普通先に使うものだからな。だが、さすが未来の大賢者様は違った。いとも簡単に答えに辿り着くのだから。さすがレネ先生はひと味違いますなぁ、ふふふふふ』

「うふふふふ、それほどでもあるよ」

 検証の結果、ブローチの魔法具が常時展開している障壁の効果によって、不意打ちでも怪我をしないと判明したのでかなり調子に乗っている。連続攻撃を受ければ別だが、今の布陣でそれはありえないということもある。ついでに吸収できない魔法も開発に成功したため、もはやこの階層でレネが倒せない魔物は居なくなっていた。

「もはや私に怖いものはない! さあ、かかって来なさ……い?」

 そのため通路の曲がり角に差し掛かったレネは、無警戒に歩いていって直角に曲がったところで前方を指差し、大きな声で宣言してからそのまま表情を固まらせる。

 そこは大きめの部屋になっていて、レネが近づくと同時に複数の魔法陣が発生してそこから赤目妖精が飛び出してきた。そしてレネに反応して一斉に振り向き、その動作で目が合ったレネは思わず引きつった笑みを浮かべた。

「いち、にい、……たくさん?」

 レネの横でシャンティナは指折り数えて呟く。そこにいた赤目妖精の数、およそ百体。それが一斉に真っ赤な口を嬉しそうに開いた。そこには肉食獣のような鋭い歯が生え揃い、レネを見ながら音を立てて涎を垂らしている。そして今までと違い、そこに居た赤目妖精はなぜか肌が真っ赤に染まっていた。

『退却だぁ!? 後ろに逃げろぉ!』

「うひゃあぁぁ!?」

「これは仕方ありませんな」

 レネより遅れてその光景を見た杜人は、一瞬の硬直の後に即座に戦闘を放棄して大声で指示を出した。さすがに数が多すぎるので、どうやってもレネにとり付かれて障壁を貫通されると判断したのだ。そしていつも通りタマを集団の中に突撃させて時間を稼ぐ。

 杜人の大声で我に返ったレネは悲鳴をあげて逃げ始める。シャンティナも後に続き、レネを追い越すと更に速度を上げて離れ、前方に出現する敵に対して速度を緩めることなく一撃で屠り始めた。その後ろをレネと玄武が走り、ジンレイは殿を務めている。

 しばらくするとレネの速度が落ち始めたので、杜人は狼形態のタマを前方に再召喚するとレネを乗せて走り始めた。その結果僅かに距離は開いたが、いつも以上の速度で赤目妖精の集団は諦めることなく追いかけ続けている。

『良かったなレネ。全身を真っ赤に染め、食べてしまいたいくらい熱烈に愛されているようだぞ』

「そんな愛はいらない……」

 杜人の冗談にレネはタマの上でぐったりと倒れこみ、疲れた声で呟いた。検証のために連続で魔法を使用して消耗していた状態で、更に遠慮なしの全力疾走をしたため少し魔力欠乏の症状が出てきたのだ。

 そのため杜人はレネを休憩させることにし、途中の広間を通過してから出口で陣取ると、ジンレイとシャンティナに指示を出しながら玄武を操作して赤目妖精を殲滅した。

『だから調子に乗ると枯渇すると言っただろ。まあ、ここまで持つとは思わなかったが』

「ううっ、ごめんなさい」

 杜人も一緒に楽しんだのであっさりと済ませたが、レネはしょんぼりと落ち込んだ。現時点で第二章まで完成しているので第一章の封印は常時解放している。そのため杜人が複製した魔法具を通せば、身体の制限を無視して魔力を使うことができるようになっていた。

 その嬉しさもあり思わず無駄に連発したわけだが、見事に習いたての初心者が陥るようなことをしてしまったので、我に返ると恥ずかしさも手伝って落ち込んだのだ。迷宮に入る魔法使いにとって魔力残量の管理は必須事項である。できない者は鼻で笑われても文句が言えないことだったりする。

『なに、失敗して人は成長するのだから次に気を付ければ問題ない。それに今ならこの程度は対処可能だから大丈夫だ。もっと下に行ってからでは遊ぶ余裕すら無くなるかもしれないから、今経験できて良かったと思うぞ』

「……ありがとう。初心に戻って気を付けるよ」

 レネは最初の頃と比べて迷宮に対して警戒感を抱かなくなっていたことを自覚し、これではそのうち命を落とすかもしれないと気を引き締める。

 真剣な表情になったレネを見た杜人も、同様に頷いてからにやりと笑った。

『うむ、初心に戻って盛大に失敗してくれたまえ。……色々あったよなぁ』

「そういう意味じゃないからね! もうしないから!」

 杜人は笑いながらしみじみと頷き、レネも笑顔でそれに答えると捕まえようと大げさに手を動かす。もちろん杜人は手の届く範囲に居ながら避け続けた。そうしていつも通りの雰囲気になったところで、一行は笑顔で迷宮を後にした。














 いつもの部屋にて、リンデルの残党をまとめるウンジールは実行している作戦の推移をゆったりと椅子に座りながら聞いていた。良い報告なのでその口元はつり上がり気味になっている。

「そうか、愚か者どもが餌に食いついたか」

「はい。誰もが目の色を変えて争うように狩りあっています。既に撒く階層を赤目妖精の階層に切り替え、もうすぐ強力なものも投入する予定です」

 最初は狩りやすい階層にばら撒いて注目と欲望を集め、その後に狩れる階層を動かしていき最後は魔法に頼れない魔物が出る階層に誘い込んで強力な魔法具を投入する。これによって欲に駆られて来る未熟な探索者を一気に殺し、危険な階層として封鎖させれば作戦は終了となる。

 階層間移動に役立つ転移石は魔法使いが居ないと生成できないこともあり、比較的高値で取引されている。危険だからと通行止めになれば一時的に価格が上昇するということは誰でも分かる。そこで組織では更に下の階層の転移石を買いあさっていて、流通自体を少なくして更に価格を吊上げる予定となっていた。

 そのうち上位の探索者によって脅威は排除されるだろうが、対処が遅くなれば国に対する不満も出る。組織は差額で資金を増やせ、レーン内部に潜在的なヒビを入れることができる。そのため作戦を聞いた者達は、その素晴らしさに誰もが絶賛していた。

「そうか、ならば後は待つのみだな。放出する時期を誤るなよ」

「お任せください」

 報告者は丁重に頭を下げるが、抑えきれない喜びによって僅かに笑みを浮かべている。ウンジールはそれを咎めることなく、同じような笑みを浮かべていた。




 赤目妖精との戦闘から帰還したレネと杜人は考えた。あそこは儲かる。だがしかし、レネひとりではすぐに魔力が尽きるので効率が大変よろしくない。ならばどうするか。レネと杜人の意見は完全に一致した。

「大丈夫だよね?」

『大丈夫だろ?』

「ええ。人も居ない階層だから、たまには派手に行くのも良いかな」

「私も大丈夫です」

 誘われたエルセリアとセリエナは二つ返事で了承する。こうしてレネとゆかいな仲間達は、何も知らずに罠の中へと飛び込んで行くことになった。
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