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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第3章 活躍と暗躍は大親友

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第03話 次への一手

 栽培を始めてから数日が経ち、昨日までは順調に推移していたためレネも杜人も多少浮かれながら栽培畑に向かっていた。

「うふふ、なんだか順調すぎて怖いくらいだよ。さすが私だね」

『くっくっく、レネも言うようになったではないか。いよっ、さすが未来の大賢者!』

「えへへへへ……」

 大賢者と言われて、レネは頬を赤らめながらも嬉しそうににやけている。上機嫌なレネに合わせて尻尾のように黒髪も揺れる。そのため操作している走甲車も浮かれるように荒れた道を進んでいった。

 しかし、その喜びも栽培畑につくまでだった。昨日までは魔法具の明かりに照らされて輝かんばかりに濃い緑の薬草が生い茂っていた畑だったのだが、呆然と見つめるレネの前には茶色に変色して枯れた薬草があるだけだった。

 レネは膝をつくと震えながら枯れた薬草を手に取る。昨日までは天を目指していた茎は自重で柔らかく曲がり、もう手遅れであることは明白だった。

『魔法具に不具合は無いのか?』

「そ、そうだね……」

 杜人の呼びかけに調べなければならないことを思い出して、レネは起動中の魔法具を抜いて調べ始める。一つ一つを丁寧に調べていったが、不具合は特に見つからず正常に動作していることが分かっただけだった。

『となると、後はもう一度植えてみて再現性があるかの確認だな。少なくとも昨日までは問題が見られなかった。天候、温度などの唐突な変化で魔力波長の同調が途切れたのかもしれない。現状では可能性があり過ぎるから、絞り込みを行おう』

「そう、だね」

 落ち込むレネに杜人は普通の声で話しかける。これでも落ち込ませないように気を使っているつもりなのだ。ここ一番で気の利いた慰めを言えないのが杜人なのである。

 杜人がタマを呼び出して枯れた薬草を取り除き、レネは残りの種を蒔いていく。そうやってまた最初と同じような状態にして、その日は気落ちしながら帰っていった。





 その後、レネは詳細な記録をとりながら毎日観察していった。そして順調に生育していたはずなのに次の日に枯れていることを二度経験し、その都度種をもらってやり直していた。それでも原因は特定できず、レネと杜人は頭を捻る日々が続いていた。

「たぶんそろそろだよね。泊まらないと駄目かなぁ……」

『本当はそれが一番良いのだが、この間一月も休んだばかりだから無理をする必要はないさ。元々失敗が前提なのだから、道楽より仕事優先だ』

 レネと杜人はその日の観察を終えて、寮に帰る途中にある商店街を歩いていた。今日までは問題なく成長しているのだが、今までの例からそろそろ枯れる頃なのだ。それを観察するためには泊まり込みを行う必要があり、いつ発生するか分からないのでやるなら臨時司書の仕事を休まなければならない。

 そしてつい最近セリエナの研修に付き合って一月休んだため、さすがに休みたいとは言えない状況なのだ。そのため杜人は今回の栽培を道楽と位置づけて、真面目なレネの負担を減らす言い方をした。

「……そうだね。今回駄目なら栽培実験は一時中断しよう。駄目なら現状で繰り返しても変わらないし、術式を解析して修正するにも時間がかかるから」

『ああ、それで良いさ。……ところでレネ、あれは何だ?』

 落ち込みかけているレネの気をそらすため、杜人は興味を引きそうなものを選んで聞いてみた。今回選んだものは、芋のようなものにソースらしきものをかけて売っている露店である。こういった安い食べ物に詳しいレネなら食いつくと予想したわけだが、案の定レネは得意げに話し始めた。

「あれはね、賢者芋を皮を剥いてから焼いて、濃い目のソースをかけたものだよ。芋自体は栄養はあるけれど味も素っ気も無いから、ああやって味付けして食べるの。だから同じ物でも店舗毎に味が違うんだよ。値段も安いし結構満腹になるから、食事代わりにする人もいるみたいだよ」

『ほう、そうなのか。それにしても賢者芋とはすごい名前だな。由来は分かるか? 食べると頭が良くなるとかあるのか?』

 食いついたところで杜人は珍しい名称に興味を引かれ、由来を聞いてみた。それを聞いたレネは待ってましたとばかりに頷くと、なぜか自慢げに語る。

「あれはね、大賢者様が飢饉の際に飢えないようにと作り出した芋なんだ。あれのおかげで戦争時も食糧難にならなかったんだよ。栽培に必要なのは光だけで、種を地面に蒔くだけで二日後には根のところに食べられる芋ができるんだよ」

 杜人は行軍している軍に食料を送るためにせっせと量産している姿を思い描く。まずかろうが放置可能で二日で収穫できるなら確かに使わない手はないと頷いた。

「そして三日目に表面が硬くなるから長期保存が可能になって、四日目に黄色の花を咲かせて種をつけると芋は腐ってしまうの。で、今度はその種が次の日に発芽するから、順番に回せば毎日収穫できるわけ。今では迷宮から供給される分があるから飢饉なんてまず起きないけれど、この国の集落なら必ず備蓄されて栽培もされている作物だよ」

『はて、その割に食堂では見かけないな?』

 レネの貧乏な食事風景を見てきた杜人は、その中に芋なんて無かったと首を傾げる。それにはレネも笑顔で答えた。

「摩り下ろしてパンやハンバーグに入っているよ。栄養豊富で味が無いから量を増やすのに使われているんだ。前にただ焼いて食べてみたけれど、一個で飽きちゃったよ」

 昔を思い出して笑うレネを観察し、これなら良いだろうと杜人は計画を練った。

『そうなのか。意外と用途があるんだな。それでは俺も研究と備蓄をしておくことにしよう。芋と種を何個か買っておいてくれ』

「良いよ。おいしい料理を楽しみにしているね」

 レネは微笑んで賢者芋を通りの店で購入し、明るい笑顔のまま寮に向かったのだった。




 次の日レネが栽培畑に行くと、予想通り薬草は茶色く変色して枯れていた。三度目なのでそれほど悲しくはないが、ため息だけは出てしまう。

「原因が分からないのは同じだね……」

『仕方が無いさ。小さいときは問題なく成功しても、そのまま大きくすると失敗してしまうことは意外とあるからな。元々この実験は失敗続きのものなのだから、まだまだ検証が必要ということだろう』

「思いついたときは、絶対にうまくいくと思ったんだけどなぁ」

 レネは再びため息をつく。結構自信があったために落胆も大きい。そのため杜人は以降の行動で失敗を恐れて萎縮しないようにと、明るめな口調でレネを肯定する。

『なに、それは誰でもそうだから気にするな。むしろ、それがなければ始まらないから悪いことではない。何事も失敗を積み重ねることによって成功に繋がる。だから、成否ではなく最初の一歩を踏み出したことが重要なんだ』

「……ん、分かった」

 レネに笑みが戻ったところで杜人はタマを呼び出して枯れた薬草を処分する。終えたところでレネは魔法具を撤去しようと畑に行こうとした。

『レネ、それはそのままにしておいてくれ。少し案がある』

「え? 何をするの?」

 呼び止められたレネは不思議そうに聞き返す。それに対して杜人はにやりと笑った。

『なに、放置するだけなのももったいないから、賢者芋でも植えておこうと思ってな』

 そう言って杜人はジンレイを呼び出した。あらかじめ用件を伝えられていたジンレイは挨拶をしてからレネに種の入った袋を差し出す。

「どうぞ」

「ありがとう……」

 レネは戸惑いながら受け取り、杜人にどうすれば良いのかと視線を向ける。それを受けて杜人は大げさな身振りを交えて説明を始めた。

『今まではいつ枯れるかと心配しながら来る日々が続いていて、茶色を見かけると気落ちしていただろう? だが放置しても枯れない賢者芋を植えておけば、今度来た時は確実に緑の畑を見せてくれる。魔法具をそのままにしておくのは賢者芋が光で成長するからだ。設定してある波長が違うから影響はまずないだろうし、昼夜問わず照らされればきっと収穫量も倍になる……とか楽しみにならないか?』

 レネは最後に回転して畑を指差した杜人のおかしな姿勢にくすりと笑う。

「光の実験は収穫期間が半分になるって結果がもう出てるよ。けど、面白そうだね。少し離して蒔いて、今度来るときまでにどこまで広がるか予想してみよう。仕切りがあるから畑の外までは広がらないしね」

『良し、それでいこう!』

 レネも趣旨を理解して、嬉々として提案した。杜人も笑顔で賛同し、レネはそれを実行するべく蒔いた位置を記録して予想をノートに書き込む。

「私は中心から円形に広がると思う。この場所は一定方向からの風も無いし、種が落ちる方向は決まってないからね」

『くくく、浅はかなり。俺は光を求めて魔法具を中心とした群生になると予想しよう。やはり糧の近くにいたいと思うのは、生きるものとして当然の欲求だからな』

 もちろん観察するわけでは無いので、畑一面に生えればどちらが正解かなんて分かるはずが無い。どちらもそれを理解していて、目を合わせるとどちらともなく笑いあった。

「楽しみだね」

『そうだな』

 日の光に照らされている、まだ種を蒔いただけで何も無い畑を見つめ、レネと杜人は緑の葉が生い茂る様子を思い描いたのだった。




 帰って来てからレネはダイル商会に赴いて実験の一時中断を報告した。無償で支援してもらっているのに断りを入れないという選択肢は、少なくともレネには存在しない。

「なるほど、それは仕方がありません。良いところまでは到達できたのですから、資金のことはお気になさらずに研究を続けてください。私のときはもっと悲惨でしたから、現状でも十分価値があると私は思います。魔法草までいかなくても、ある程度は効果の高い薬草を栽培できていますからね」

 にやりとダイルは笑う。良いことを言っているはずなのに、表情と合わせると印象が逆転するのだから困った腹黒商人である。

「ありがとうございます。必ず改良して成功してみせます」

『問題は、原因が今のところ不明だから、いつになるか分からないということか』

 レネはその印象に引きずられないように気を付けながら、引きつり気味の笑みのまま返事をする。杜人もテーブルの上で腕組みをしながら頷いていた。

「お待ちしていますよ。それでは、今度はこちらからお話があります。まずはこれをどうぞ」

 ダイルは手紙をレネに差し出し、レネは何だろうと手にとって読み始めた。手紙は学院講師のレゴルからのもので、炭酸水製造をダイルに委託しないかと言うものだった。

『おそらく知ったのはセリエナからだな。そういえば、最近は栽培に忙しくて会っていないような……』

 レネの友達であるセリエナは、特待生となった今でもレゴルの補助員を行っている。現在手軽に炭酸水を作れるのは、魔法具を一緒に作ったレネ、エルセリア、セリエナだけなので、レゴルが知っているとなればセリエナからの可能性が一番高かった。

「えっと、どうしてレゴル先生が?」

 レネの疑問にダイルはぐふふと笑い説明を開始した。

「何でも休憩のときに出されて飲んだら気に入ったようで、毎回要求するわけにも行かないから委託製造してくれないかと相談されました。それで私も試飲してこれは良いとセリエナ様に交渉したところ、何でもレネ様がお作りになった魔法具ですから無理とのことでした。後は欲求に駆られた私達が、どうにかしようと動いてこうなったわけです」

『なるほど、学院でレゴル先生が直接言えば命令になりかねないからか』

 まわりくどい理由が分かって杜人は納得した。レネは考えていたが、問題点をいくつか挙げてみる。

「いくつか問題があります。まず、その魔法具は友達三人で一緒に作りました。ですから同意と利益の分配が必要です。それと、作った魔法具は個人が楽しむための小さいものです。ですから大量販売には向きませんし、利益を度外視して作ったので大型化した場合にかかる制作費が分かりません」

 勢いで作ったので、そのときの材料費は貴族でお金持ちなエルセリアが負担していた。本人が乗り気だったためそのときは目を瞑ったが、レネとしてはそういうことはあまりしたくない。

 レネの否定的な見解を聞いても、ダイルの態度は変わらなかった。むしろもっと乗り気になっていた。

「なるほど。それではその辺りの細かいことは後日打ち合わせを行ってからに致しましょう。都合が良い日を教えて頂ければこちらから参ります。それと今回の製作費用は私が出しますので、その点は大丈夫です」

『確かに炭酸水は癖になる人もいるから売れるのは間違いない。それでも結構な金額になるはずなんだが』

 炭酸水を造るためには圧力に耐える容器が必要になる。レネ達の個人用は水を入れても変質しない真銀を用いた贅沢なものだ。その他、容器に圧力をかけたり、注入する気体を大気から抽出したり、それを容器に注入したりと消費する魔力量も多い。

 レネ達はジンレイが作ったもので実験できたので実費しかかかっていないが、それをやらずに作るには材料費だけで十倍では納まらない金額が必要になる。最初から売り物としては考えていないので、安くするために今から素材選びをする気は無かった。だからレネは一応確認してみる。

「あのう、一度作っているとはいえ大型化すればいろいろ変わるので、安全のために何度も実験しなければなりません。材料自体も高価なので、実験だけでお店が吹き飛びかねないのですが……」

「ちなみに小さいのでどの程度必要でしたか?」

「ええと……。材料費のみで、おおよそ下のほうの魔導書が買える程度ですね」

 ダイルの質問にレネはおおよそで答え、さすがにダイルも頭を掻いて悩み始める。下とはいえ魔導書自体が高価なので、そこに人件費も入れれば確かに実験だけで吹き飛びかねないと分かった。

「それならばこうしましょう。大型化するのではなく今の魔法具をいくつか作って頂き、それを購入するということにします。後はこちらで何とかしましょう」

『これなら大丈夫だろう。恩も返せるからレネが取りまとめてみろ。二人とも断らないさ』

「分かりました。それでは他の友達に話しておきます」

 既に売る方法を考え付いているのだろうと判断し、杜人はダイルに賛成する。レネも恩を返せるならと話をして説得することにした。それを聞いたダイルは肩を揺らしながら相好を崩す。

「ありがとうございます。一度飲んでからあののど越しが忘れられなくなってしまいまして。今までは酒で誤魔化していましたよ」

『なるほど、熱心なわけだ』

「あはは……」

 今回は採算より自分が飲みたいからではないかと、つい疑ってしまった杜人とレネであった。




 レネが帰ってからダイルは商会の裏側を取り仕切る部下を呼び出して、笑顔で今後の指示を出した。

「大切なお客様に悪い虫が近づいているかもしれませんので、巣穴を調べてください。ついでに、どこから漏れたかも調べてください」

 ダイルはレネの報告を聞いて、人為的な妨害がされている可能性に真っ先に気が付いた。これは今までの経験があるから疑えたのであって、レネと杜人はあんなところまで来てわざわざ妨害する暇人がいるわけが無いと無意識に排除していたことだった。

 そして緘口令を敷いたわけではないが、おおっぴらに宣伝したわけでもない。恥ずかしがり屋なレネの性格なら、レネ側から漏れたとは考えにくかった。そうなると可能性が高いのはダイルのところからである。偶然なら良いが、人為的なことならこれは店の信用問題となる。

 レネから実験を行っていることを隠せとは言われていないので、漏れても公的には責任は無い。しかし、人の心はそれで納得しないと知っているのだ。結局最後は人対人で商売は成り立つと信じるダイルにとって、見過ごせることではない。

「分かりました。発見後は観察でよろしいですか?」

「ええ、害虫退治は発生源を潰さなければ厄介ですから。直接危険が迫っているときは現場判断に任せます」

 表情を変えずにダイルは指示を出し、部下は一礼して部屋を出て行った。

「こちらはこれで良し。やはり楽しませてくれますね」

 大店ともなれば、綺麗ごとだけでは済まされない事柄が勝手に飛び込んでくる。そのときに正論を言っても通じるわけがなく、泣き寝入りするだけでは食い散らかされてお終いになるだけなのだ。力無き者の言葉には、誰も耳を傾けないのが世の中というものである。

 ダイルは外を見ながら凶悪な笑みを浮かべる。その背中は誰が見ても、背筋に震えが走る気配を漂わせていた。





「なに? 芋畑になっていただと?」

「はい。憎き愚者の名を冠する芋でしたのでそれも枯らしておきました。それと情報では以降の栽培実験は中止するとのことでした」

 その愚者の発明に手も足も出なかった先祖を棚に上げて、報告を聞いたウンジールは上機嫌に口の端を吊り上げた。

「よくやった。後で褒美をやろう。ゆっくりと休め」

「ありがとうございます」

 構成員が退出してからも、ウンジールは笑みを浮かべたままだ。

「殲滅の黒姫とおだてられていても、しょせんは小娘だったか。毒を失ったのは痛いが、まだ手はある」

 ウンジールはそのまま次の作戦を練り始め、決まったところで別の構成員を呼び出して指示を出す。

「ここにしまっているものを迷宮に少しずつ捨てて来い」

 次の作戦は、魔法具を迷宮にばら撒くことである。一定以上の力を持った魔法具は、そのまま捨てると魔物化してしまう。中には手の付けられない魔物になるものもあるため、迷宮に放棄することは禁じられている。

 もちろん全滅して取り残された場合も魔物化するので、深い階層ほど強力な元魔法具の魔物が徘徊している。そのため難易度が年々上昇している。但し、上手に倒せば強力な魔法具が手に入るため、腕に覚えがある探索者は見つければ積極的に狩っている。

 そこで人為的に弱めの魔法具を低階層にばら撒き、まだ未熟な探索者達に脅威の度合いを勘違いさせたのち、強力な魔法具を投入することによって未熟な探索者の人数を一気に減らし、将来この国を支えるであろう力を削ぐのが今回の作戦である。

 レネへの工作が簡単に成功したために今回の作戦もうまくいくと確信し、ウンジールは目をぎらつかせて笑った。





 そして後日、レネはダイルの希望を叶えるために、食堂にて久しぶりに会ったエルセリアとセリエナに魔法具について話をした。

「私は良いよ。条件も好きにして」

「私も良いです」

 いつも通り輝く銀髪を肩口で結わえているエルセリアは微笑みながら了承し、セリエナも光を反射する綺麗な金髪を動かしながら頷いた。その返事は予想通り良好なもので、レナはほっと息をはいた。

 セリエナとしては実験に協力しただけなので分け前をもらうこと自体意外なことだったのだが、ここで言うのもなんだか変なので黙っていた。そしてそれを表情に出さないだけの演技力はある。それでも何となく申し訳ないので、無意識に魔法具である髪留めの位置を直した。

「ありがとう。けどレゴル先生がそんなに気に入るなんて意外だったね。もっとこう、強いお酒を静かに飲むような印象があったよ」

 レネはごつい顔のレゴルを思い浮かべて感想を述べた。それに対して杜人はテーブルの上で指を横に振って否定する。

『そうでもないぞ。見た目と嗜好は別物だ。むしろそう見られるから、見ただけで分からない炭酸水に惹かれたのかもしれない。男は見た目より繊細なんだぞ?』

「そうですね。私も意外でしたけど、レゴル先生はお酒を飲まないのですよ。ですから、それを知った休憩のときに出してみたのです。そうしたらその後になんだか話は妙な具合に進みますし、レネとは会えないですし、どうなるかと思いました」

 少しだけ恨みがましいセリエナの報告に、レネは微笑みながらも額に汗をかいていた。栽培実験のほうを優先していたので、食事も行動もいつもと違う時間になっていたから会えなかったと分かっているのだ。

「あはは、ごめんなさい。実は栽培実験をしていたから……」

 レネは今までの経緯を説明し、手を合わせて頭を下げた。

『俺の指導が行き届かなかったばかりに迷惑をかけた。やはりこれからはびしびしと……』

 なぜか偉そうな杜人をレネは無言で掴み取り、要求通りびしびしと容赦なく指を弾いて解放する。ぽてりと落ちた杜人はいつも通り痙攣しながらテーブルに横たわった。

 見た目は悲惨な状態であるが、エルセリアもセリエナもそれが演技と分かっているから仲が良いなあとしか思わない。そのため杜人のことは放置して話は進んだのだった。





 朝が来て、枯れ果てた畑にも太陽の暖かい光が降り注ぐ。本来であればその光を浴びて急激に成長する葉は、茶色く変色したまま変わることはない。そんな景色が静かに過ぎ行く昼下がり。一陣の風が過ぎ去って無残に曲がった茎を揺らした。

 するとその振動で、もう少しで種ができたはずの枯れて乾いた実が割れ、中身がそのまま地面に落下した。その光景を見ていたものは誰もおらず、天頂の太陽は暖かくその場所を照らしていた。
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