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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第2章 表と裏は未確定

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第20話 終わり良ければ

「……あれ?」

 衝撃が来たので死んだと思ったレネだったが、身体を包む覚えのある感触にそっと目を開いた。そしてまず巨人から遠ざかっているので速い速度で移動しているのを認識し、次にタマに乗っているのを認識した。そしてレネの耳にいつも一緒にいた声が届いた。

『危機一髪だったな。さすが俺。ふっふっふ、褒めて崇めても良いのだよ?』

 目の前に来て自慢げに胸をそらす杜人を見て、レネは反射的に掴み取ると泣きながら思いっきり握りしめた。

「ばかぁ!」

『ば、馬鹿とはなんだ。く、くるし……』

「レ、レネ、力を緩めないと」

 同じく目を開いたセリエナは、杜人に会えて興奮するレネをなだめる。それで解放された杜人は、乱れていないのにわざとらしく衣服を整えた。

『せっかく助けてやったのに何たる仕打ちをするのだ。まったく、とんでもない。甘えるならせめて二人きりのときにしてくれないか』

「甘えてない!」

「……とりあえずその辺にして、とにかくこの状況をどうにかしませんか?」

 セリエナはこのままでは際限なく続きそうな掛け合いにため息をつくと、状況打開のために話を進める。そんなセリエナにレネと杜人は同時に咳払いをして真面目な表情になった。

『出口が無く、魔法を封じられている。他にはあるか?』

「あの動人形には魔法がほとんど効かないよ。しかも頑丈だから、物質を生成する魔法も接近するまでに魔法封じで減衰してあまり効果がないと思う。拘束する魔法も効果時間が極端に短くなるはずだよ」

「それともう私とレネは疲れて動けません。もう少し時間をください」

 それらの情報を聞いた杜人は、腕組みをしてしばらく考えるとレネに指示を出した。

『レネ、魔導書をあいつに向けて見てくれ』

「こう?」

 レネが魔導書を巨人に向けると、魔導書から光の帯が飛び出して巨人に纏わりついた。帯は全身を包み込むように進んでいったが、途中で巨人が剣を振い断ち切られてしまった。それを確認した杜人は、頷くとレネに向き直った。

『思った通り、あれは魔法具だから取り込める。問題は見た通り、このままでは無理ということだな。レネ、拘束してみてくれ』

「え、封じられているから無理だよ? あれ? さっきのはどうして発動したんだろう。というか、どうやってモリヒトは出て来たの?」

 レネは疑問が大量に浮かんだので不思議そうに杜人を見た。杜人はそんなレネに肩を竦める。

『魔導書の機能のひとつだな。どうも負荷がかかるとそれに対する耐性が生成されるらしい。俺も詳しくは知らないからそんなものだと思ってくれ。だから俺を通せば魔法封じに関係なく魔法を発動できる』

「そうなんだ。分かった」

 納得したレネは素直に頷く。そして魔法書を受け取ると初級の拘束魔法である氷結を発動した。すると巨人の足に氷が這い上がったが、すぐに砕かれてしまった。遅延した時間は瞬きの時間もなかった。

『無理か』

「さすがに初級ではね。最低でも特級魔法じゃないと、動きを封じるのは無理だと思う」

 その答えに杜人は腕組みをすると、巨人を見つめながら考え始めた。

「とりあえず何とかなりそうだね」

「拘束する手段が無いと駄目なのではないですか?」

 レネは杜人の様子にほっとしながら笑顔でセリエナに話し掛けた。それに対してセリエナは色々規格外のことを聞いた驚きを飲みこんで、必要なことのみに絞って話題を繋げる。

「大丈夫だよ。少なくともモリヒトがこうやって悩んでいるときは、単に確実性が無いだけだから。だから方法自体はいくつか思いついているはずだよ」

 レネは自信を持って断言する。決して長い付き合いでは無いが、今まで良く見てきたレネは杜人が真面目になったときの考えが分かるようになってきていた。

 そんなレネを羨ましそうに見つめ、セリエナは小さくため息をついた。

「どのみち私はお荷物ですね。魔法封じがある限り何もできません」

『そんなことはないぞ。むしろ一番大変な仕事を割り振るから泣いて喜んでくれ』

 考えをまとめ終わった杜人がレネとセリエナに向き直り、人差し指を立てて横に振ると、意地の悪い笑みを浮かべた。そんな杜人にセリエナは真剣に答えた。

「……役に立つのでしたらいくらでも」

『良い返事だ。それでは説明を始める』

 杜人は表情を引き締め、レネとセリエナも真剣に耳を傾ける。

『まず、セリエナにこの杖を渡しておく』

「うん? セリエナは魔法陣を構築できないよ?」

 杜人が星天の杖を取り出したのを見てレネは首を傾げる。レネが所有する星天の杖は魔法陣を術者が構築する必要がある。そのためそのままではセリエナは使えない。その質問に杜人は頷いて説明を続ける。

『それは考えがあるから続けるぞ。まず始めにレネは第二章の封印を解いておく。これによってレネの魔力を複製した魔法具を通じて他の人が使えるようになる。どうやら変換を思いついたのは俺が最初では無かったらしい』

「そうなんだ……。後世に伝わっていないから無名の人なのかな?」

「秘密にして失われる技法は結構ありますからね」

 レネは首を傾げセリエナもありえることとして頷く。

 実際は大層な理由は無く、単に大賢者が魔導書を作るときに無駄な部分として削除し、後で個別にと思って記録を後回しにして、そのまま書いたつもりになって伝えるのを忘れただけである。得てして真実は呆れるような理由が多いものなのだ。

『こうすれば、セリエナはだいたい二人分の魔力を使える。まあ、例によって第二章の修復はまだ不完全だから無駄が多いのだが、やらないよりは役に立つ。レネはあれを抑え込める魔法陣を発動させずに構築し続けてくれ。できるだろ?』

「できるよ。魔法陣を構築するだけなら天級も大丈夫」

 奇妙な指示だが、必要があるからすると分かっているから質問は挟まない。頷くレネを確認して、杜人はセリエナを見た。

『今度はそれをセリエナが見て、そのまま写し取って魔法陣を構築する。そうしてセリエナがあのでかぶつを全力で拘束している間に俺が急いで取り込む。手順はこんなところだな。問題点は抑え込んでいる間に取り込み終わるか分からないところだ』

 今回の不安要素は抑え込むことができる時間である。魔法封じを無効にするには杜人が複製した道具を使わねばならない。

 セリエナのみで拘束した場合は恩恵が受けられず、発動に魔力を注ぎ込み短い効果時間の中で休まずに連続使用することになる。その場合は当然発動に失敗しやすくなり、一度でも途切れれば最初からやり直しである。

 そしてレネだけでどうにかするよりは、多少無駄にしてもセリエナの魔力も合わせたほうが多くの魔力を確保できるのだ。

 それでもレネとセリエナが同時に使えば、レネの魔力が先に枯渇する可能性がある。そうなるとセリエナも魔法陣を写せなくなるので、制限時間はレネの消費魔力に固定されてしまう。

 それよりもセリエナがひとりで使用し、レネは魔力供給に専念したほうが交互に切り替える手間も無く長時間拘束できるのだ。だから今回は敵が一体ということもあり、変則的な方法を採用した。即時殲滅の場合は二人同時に使ったほうがもちろん早い。星天の杖を使うのも、複製した魔法具で特級魔法を使えるのが手持ちにそれしかないからである。

「……ああっ! そうか、見ながら描けば正確に写せるんだ!」

「え、え?」

 レネは杜人の考えを理解したが、常識の世界に生きるセリエナは他者の魔法陣を見ながら複写するという考えに戸惑う。魔法陣は術者が構築するのが当たり前で、他者が構築した魔法陣では発動できないのが常識なのだ。

「それで発動するのですか?」

「するよ。基礎だけじゃなくてきちんと完成した魔法陣なら、術式を理解していなくても魔力を流すだけで発動する。普通は効率が悪いから上位の魔法ではそんなことしないけれど、今回は写したと言っても術者が魔法陣を構築したものだから、効率も良くなる。試せば分かるよ」

 杜人は頷くと、流星の杖をセリエナに渡した。そしてレネが氷結の魔法を構築して、それをセリエナが見ながら魔法陣を構築し魔力を込めると見事に魔法は発動した。

「やったぁ!」

「……」

 喜ぶレネの脇で、セリエナは涙を流して流星の杖を抱きしめた。生まれて初めて、すべてを自分で構築した魔法陣が発動したのだ。その喜びは言葉にできないほどだった。

『良し、実証は終わった。後は実行するだけだ。それと限界まで処理を上げないと間に合わないだろうから、二度目は無いと思ってくれ』

 少し間を置いてから杜人は呼びかけ、セリエナは小さく頷くと涙をぬぐって杖を持ち替えた。

「質問です。これなら天級魔法で破壊したほうが早くありませんか?」

 もっともな疑問にレネは力の抜けた笑みを浮かべて答える。

「その杖、魔法を二十個強制的に複製して消費魔力が百倍になる欠陥品なんだよ。さすがに天級魔法の百倍は二人がかりでも無理だと思う。特級では神鋼金製のあれを壊せるか心もとないしね」

『補足すると、失敗しても発動しないだけで魔力は消費する。そして他は複製すると中級までしか使えないものばかりだ。ついでにあれに再生能力があった場合、破壊しきれない可能性が一気に跳ね上がる。現状では回復もままならないし、明確な攻撃で凶悪に変化する可能性もあるから試すわけにも行かない。それよりは抑えつけて取り込んだほうが成功率は高いと判断したんだ』

「……そうですね。分かりました」

 セリエナは言われた情報を整理して、半端な破壊行動は失敗する可能性が高いと納得し頷いた。疑問が解消されたところで、杜人が場をまとめる。

『レネ、今回は魔力を限界まで搾り取るから、魔力欠乏になったら眠って良いぞ』

 魔力を使いすぎると身体が魔力を回復させようとして意識を眠りに落としてしまう。これは本人の意思に関係ない生理現象なので、耐えるのは難しいのだ。

「ありがとう。でも最後まで頑張るよ」

「私も限界まで頑張ります」

 どちらも笑顔で頷き体勢を整えると、追いかけてくる巨人を見据える。その頼もしい様子に杜人も笑みを浮かべた。

『では始めようか。レネ、封印解放。文言は【汝の主たる我が命じる。流転の力を記述せし章の封印を解放せよ】だ』

 レネは無言で頷くと胸元に魔導書をしっかりと抱き、深呼吸をしてから落ち着いた声音で文言を紡いだ。

「汝の主たる我が命じる。流転の力を記述せし章の封印を解放せよ」

『主からの封印解除命令を受諾、第二章【流転】、封印解放!』

「わ……」

 第二章の封印が解放されると同時に、星天の杖が淡く輝きだす。手に持っていたセリエナは、それまではどこか硬質でよそよそしかった感触が変化し、まるで長年使いこんだ道具のように違和感が無くなったことに目を見開いて驚いた。しかし、すぐさま気を引き締めて前方を見据える。

「いくよ!」

「ええ!」

 レネはセリエナの前に魔法陣を構築する。構築した魔法は特級魔法の『金剛縛鎖』である。これは単体に作用する物質顕現系の魔法で、指定した地面から鎖が出て来て縛り上げるものだ。作用範囲が広くないので消費魔力が比較的小さく、物理的に縛り上げることに特化しているので魔法が効きにくい神鋼金にも問題無く効果を発揮する。そして魔法効果の顕現としての鎖のため、一箇所の拘束でも全体を抑え込めるのである。

 セリエナはレネが維持している魔法陣を写し取り、魔力を込めて発動させた。

「金剛縛鎖!」

 発動と同時に巨人の進路上に魔法陣が複数浮かび上がり、上を通過しようとした巨人を飛び出した透明に煌めく無数の鎖が縛り上げ、そのまま腹這い状になるように引き倒して床に固定した。

『良し、魔法具収蔵!』

 間髪入れずに杜人は距離を保ちながら巨人に光の帯を伸ばし、全身を包み始める。そしてできるだけ早く取り込むために、内部処理を変更し追加の帯も伸ばした。

「うぅ……」

「くぅ……」

 成功に喜ぶ間もなく、レネとセリエナは急激に魔力が減少して思わずうめき声が漏れる。始めから座っていなければ膝をついていたと思うくらいの虚脱感が二人を襲っていた。その様子を横目で見ながら杜人は静かに二人を床に下ろして、処理能力を上げるためにタマを消去した。

『あと何回できる?』

「……一回かな。特級でも百倍は無謀だったかも」

「ひとりだったらもう倒れていましたね……」

 レネの構築する魔法陣は消費魔力が小さくなるように術式に工夫が施されている。そのため今回の魔法も分類上は特級だが上級に近い消費魔力だった。それでも百倍の負担は重く、莫大な魔力を持つ二人だからこそ何とかなったのだ。

 その返答に杜人は巨人を見ながら必要な時間を推測する。起き上がろうとしている巨人の力によって既に何本かの鎖はちぎれていて、取り込む帯を増やしてはいるが巨体なので今回だけでは間に合わないと結論をだした。

『すまん、間に合いそうもない。動き出す前にもう一度頼む』

「良いよ」

「はい」

 レネとセリエナは笑顔で頷き、そのときを待った。






「これは……、見つけました。この辺りです!」

「ふむ……これは閉じ込められているな」

 エルセリアは壁越しに強力な魔法の発動を感じ、即席で組み上げた感知魔法によって得た位置を地図上に指差した。そこは未調査の区域で、道が繋がっていない空間だった。

「壁が薄い場所は分かるか?」

「……ここです」

 エルセリアは拡散していく魔力を辿り、最も強い場所を示す。それを確認したレゴルは迷うことなくその場所に全速力で移動を開始した。

「待ってて、今行くから……」

 大規模な魔法が使われたことに焦りを覚えながら、エルセリアは小さく呟いていた。






「金剛縛鎖! ……く」

 セリエナは二度目の魔法を発動させると、力が抜けたように星天の杖を床に落としてぐったりと床を見つめている。レネも同じように身体の力が抜けた状態で座っていた。

『後は任せろ!』

「お願い……」

 まだ魔力は多少残っているが、もう星天の杖を使えるほどは残っていない。そのため後は杜人が頑張る番である。

 杜人は頭痛を堪えながら推測した限界時間に間に合うように、包み込む速度を更に上げる。だが、このままでは予想される時間には間に合いそうになく、中断して逃げるか、それとも更に突っ込むかを迷ったちょうどそのときに、レネが小さく声をかけて来た。

「モリヒト、彗星の杖を出しておいて。最後までやるから」

 気丈に笑うレネを見て、迷いが晴れた杜人も難しい顔を笑顔に変えた。

『やはりレネは素晴らしいな。そんなレネには不屈の黒姫の称号を与えよう!』

「そんな称号はいらないってば!」

「ふふっ、私も頑張ります」

 諦めないレネに微笑み、セリエナも実証に使って脇に置いてあった流星の杖を手に取った。できることはする。その想いを込めて起き上がろうとしている巨人を見つめた。そんな二人を信じ、杜人は必要以外のすべての処理能力を注ぐことを決心した。

『どうやら少しだけ足りなそうだ。集中するから後は任せた』

「うん、こっちは任せて」

「ええ、間に合わなくても必ず止めます」

 杜人はその返事に笑顔で頷くと魔導書の中に入り、普段は自動で行われている部分の設定を変更する。

『自動修復、意思体構成一時停止、魔法具収蔵を最優先処理事項に設定、処理範囲拡大。……良し』

 最後に自動復帰処理を指定すると、杜人の姿が掻き消え、部屋も一瞬で真っ暗になった。しかし、すぐに光の帯が全域に乱舞し空間を白く染め上げ、そのまま一斉に外に向けて飛び出していった。

 杜人が姿を消すと同時に、魔導書から数え切れないほどの光の帯が飛び出し、進行速度も更に加速する。この状態になると終了するまで外界を感知できないので、とっさのことに対応できない。だから今までためらっていたのだが、レネとセリエナの覚悟に杜人も覚悟を決めたのである。

 そしてレネとセリエナが無言で待機する中、あと少しで杜人の作業が完了しそうになったのだが、それより前に最後の鎖がちぎられそうになる。

「良いから寝てて!」

「約束は守ります!」

 自由になりかけた巨人がその身を起こそうとしたとき、腹の底から絞り出した掛け声と共にレネは氷結の魔法陣を瞬時に構築し、セリエナも今までで一番速くそれを写し取って魔法を発動させる。

 その魔法は床に這いつくばって身を起こそうとしていた巨人の四肢を氷で覆い尽くして、ほんの僅かの時間動きを止めた。止められたのは瞬き程度の短い時間。しかし、諦めない心が紡ぎ出した時間である。

 そしてその僅かな時間が勝敗を分けることになった。

 巨人は動きが停止したことによって最後の鎖から完全に逃れることができず、束縛の力に負けて再度床に抑え込まれる。そしてまた起き上がろうと動き始めたとき、ようやく光の帯が全身を完全に包み込み、輝きを増加させながら力を発揮し始めた。

 最初は重なっていた光の帯が溶けるように一体化していき、いびつな光の繭となった。そのときはまだ形状を保っていたため、取りこまれた巨人は手足を動かすことができた。しかし、既に内部と外部は切り離されているため効果は無く、繭同士が交わった場所から瞬時に一体化していった。

 そうして末端まで一体化し巨大な繭ができあがると輝きを一気に強め、ゆっくりとその巨大な繭が縮小していく。その光景を、レネとセリエナは油断することなく呼吸を忘れそうな勢いで見つめ続けた。

 そして光る繭が魔導書より小さくなり、吸い込まれるように内部に取り込まれても何も起きないことを確認し、互いに視線を合わせて頷いた。そうして大きく息をはいて全身から力を抜くと、同時にごろりと寝ころんだのだった。

「やったね。死にかけたけど」

「そうですね。二度と経験したくありません」

『ん? なんだ二人とも。そんな人生に疲れ果てたような無気力な姿は。若者らしく飛び跳ねて助かったことを喜ばないのか?』

 疲れ果てて寝ころぶレネとセリエナを魔導書から出て来た杜人がからかう。そのためレネはのっそりと起き上がり、やる気なさそうに喜ぶ。

「わーい、嬉しいな」

『喜んでくれて何よりだ』

 杜人はそれに鷹揚に頷き、レネは笑みを浮かべると杜人に向けて魔法陣が張り付いた指を弾いた。すっかり油断していた杜人は久しぶりの痛みにのけ反ってから、自身が定めるお約束に従って床に落ちて転げまわった。

『くっ、まだそんな余力があるとは……』

「この程度は少し休むだけで回復するから。もっと欲しい?」

「どちらも元気ですね……」

 そんな二人のじゃれ合いを、セリエナは寝ころびながら温かい目で見守っている。やがて膠着状態となったレネと杜人は、どちらともなく矛を収めた。そしてしばらくの沈黙の後、そっぽを向きながらレネがぽつりと呟いた。

「……ありがとう」

『どういたしまして、だ』

 杜人もそっぽを向いて答えるが、その声は優しかった。その様子をセリエナは眩しそうに見つめていた。
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