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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第2章 表と裏は未確定

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第19話 希望を探して

 いきなりタマに取り込まれ、わけの分からないまま光に包まれて、次の瞬間には硬い床に放り出された。これがレネの認識である。

「あいた! もう少し丁寧にしてよ。いたた……」

 レネは打ち付けた腕をさすりながら立ち上がり、一緒に放り出されたセリエナに手を差し出して引っ張った。

「ありがとう。状況の確認をしたいところだけれど、後にしましょう」

「え?」

 セリエナは引きつった笑みでレネの後ろを指差し、レネは不思議そうに首を傾げて振り向く。現在いる部屋は先程までいた部屋より広く、天井も見上げるほど高いので大人数が居たとしても狭苦しさは感じない。そしてレネ達は部屋の壁際に居て、中央には白金色に輝く全身鎧を着た彫像が立っていた。

 両手には全身を覆えるほど巨大な盾を持ち、もうひとつの両手には盾と同程度の巨剣が握られている。つまり腕が四本あった。そして身の丈はレネの三倍はあり、それがゆっくりと動き始めているところだった。

「し、神鋼金の動人形!? な、何で? 魔物は居ないはずなのに……」

「罠扱いなんでしょう。閉じ込められて逃げられませんから、とりあえず狙いを分散させるために散開して動きを押さえましょう!」

 セリエナはレネの背中を叩くと、離れた場所に走っていった。レネもそれで気を持ち直し、急いで逃げ始めた。

「モリヒト、彗星の杖を頂戴!」

 レネは巨人の動きを見ながら杜人に杖を要求する。神鋼金には魔法がほとんど通じないが、束縛したりはできるので押さえ込もうと思ったのだ。だが、レネの要請にいつも一緒に居た杜人は応えなかった。

「モリヒト? …………どこに居るの?」

「レネ! 立ち止まっては駄目!」

 レネは杜人が見当たらないので言いようのない不安に襲われ、追跡者の存在を忘れて立ち止まると周囲を見渡した。セリエナは普通ではないレネの様子を見て、急いで近寄ると強引に引っ張ってその場を離れる。

 居なくなったその場所に、いつの間にか近づいていた巨人が巨体に似合わぬ素早い動作で巨大な剣を打ち下ろすと、床を破砕する轟音が辺りに響き渡った。そのためセリエナは思わず振り向いて確認したくなったが、なんとか誘惑に打ち勝って逃げ続ける。

「セ、セリエナ、モリヒトがいないの。見なかった?」

 泣きそうになりながらも自ら走り始めたレネの問いに、セリエナは多少早口に答える。

「おそらくですけれど、封じられていると思います。私の魔導書も使えませんでした。レネは魔法を使えますか?」

 セリエナは手を離すと魔導書である腕輪を示し、状況を簡潔に説明した。レネは目を見開くとすぐに氷針の魔法陣を構築しようとしたが、形になる前に霧散してしまう。

「もしかして、あの動人形のせい? 神鋼金製だし……、やっぱり! 鎧に広域魔法封じの魔法陣があるよ!」

 振り向いて確認したレネが絶望の声をあげる。

 広域の魔法封じは、術者が魔法陣を構築するなら魔力をつぎ込めば発動できる程度のものだが、基準に満たない魔法を消去し、対策をしていない魔法具の機能も一時的に抑え込むことができる。このため杜人の補助が無ければ初級魔法しか使えないレネでは必要な魔力を確保できず、魔法陣が自力で構築できないセリエナも魔導書を封じられたことによって魔法を使えなくなっていた。

 魔法が使えない魔法使いは単なる非力な人である。防御魔法もない生身では、巨人が持つ剣の一撃でばらばらになる自信が二人ともあった。

「そうだ、あれなら……」

 レネは鞄から魔導書を取り出す。手に入れた当初は紙の束だった魔導書も、現在では修復が進んで古びた本程度になっていた。

「汝の主たる我が命じる。同調の力を記述せし章の封印を解放せよ!」

 以前はこれで大きな魔力が放出されたのだが、今回はまったく変化がなかった。そのためレネは顔を曇らせる。

「これも駄目なの……」

「レネ、後ろ、後ろ!」

「え? ……ひょわわぁー!?」

 いつの間にか離れた所にいたセリエナの声にレネが後ろを振り向くと、巨人がすぐ近くまで迫って来ていた。封印解放の作業に気を取られたために逃げ足が鈍っていたのだ。

 そのためレネは魔導書を握りしめたまま慌てて速度をあげて距離を取り、セリエナの背中を追いかける。

「とにかく、良い案が浮かぶまで逃げましょう!」

「ふええぇーん。肝心なときに居ないなんてモリヒトの馬鹿ぁー!」

 レネとセリエナは涙目になりながら、巨人の攻撃から逃げ回るのであった。





「あのう、本当にこれで行くのですか?」

「はい。想定していましたよね?」

 遠慮がちに尋ねたリュトナにエルセリアはにっこりと笑って答える。但し、目は笑っておらず、言外に『黙っていなさい』と言っているのは丸分かりだった。そんな今まで見たことも無いエルセリアの様子に、リュトナは気圧されて黙ったまま引き下がった。

 リュトナが言うこれとは、リュトナが乗ってきた小型の走甲車のことである。走甲車の外殻には内部から魔法をかけることができるようになっている。そのため防御魔法を施せば、安全な外殻に包まれながら素早く探索が可能なのだ。

 エルセリアの言う通り小型のものは広い迷宮で使えないかとの発想で作られたものだが、普通の魔法使いでは探索中に防御魔法をかけ続けるだけの魔力がないので、現状はできるというだけの機能だった。そのため実際に役に立つかは分からないのである。

 地上に戻ったレゴルは駐屯兵団に助力を求め、そちらには調査済みの領域を急いで探索してもらうことにした。そしてレゴルとエルセリアは危険な未調査区域へと探しに行く。当然罠も残っているためその対策が必要であり、選ばれたのが防御できて素早く広域を探索できる小型の走甲車であった。

「準備はできたか」

「はい。大丈夫です」

 駐屯兵団に指示を終えて帰って来たレゴルに、エルセリアは内心の焦りを見せずに変わらぬ微笑みを向ける。既に走甲車には各種魔法薬などが積み込まれ、不要なものは本部に置かれている。後は乗り込んで出発するだけである。

「では行こうか。手前まで行ってから動人形を先行させる」

「分かりました」

 運転と動人形の操作がレゴルの担当で、防御と地図の魔法はエルセリアの担当だ。レネが開発した地図作製の魔法は当日のうちに教えてもらったので、エルセリアは単独で発動することができる。そして魔法具の素材による動作制限が無いので、その影響範囲と精度は魔法具を遥かに超える。天才というエルセリアの評価は、本人がそう思っていないだけで間違いではないのだ。

 こうして事態打開のため、エルセリアも動き始めた。





『……ん? 何がどうなった』

 薄暗い空間で目覚めた杜人は、起き上がると周囲を見回した。

『魔導書の中か。……出られないな』

 いつもの通り外に出ようと出口の扉を呼び出したのだが、押しても引いてもびくともしなかった。そのため杜人は椅子に座ると、何が起きたのかを調べるために履歴を調べることにした。この機能は魔導書の動作を理解するためと備忘録代わりに杜人が設置していたものなので、ある程度大雑把に記録されている。

『出られないのは魔法封じの影響か。……第一章の封印が解放されているな。目覚めが早かったのはこのおかげか』

 杜人は履歴を読んで状況を理解した。そして今目覚めたのは、内部空間の封じに対する無効処理が完了したからだった。通常よりかなり早く耐性を獲得しているが、これは修復が進んでいることと、レネから常に魔力が供給され続けているので魔法封じの影響を完全に受けずに済んだからである。

 魔法を封じられたことにより、普段魔力が体内にこもらないように無意識で発動している身体能力強化も封じられた。しかし、突然のことなので身体は対応できず、長い停滞の後で活性化し始めていた体内魔力生成機能は簡単には止まらず過剰供給状態になり始めていた。そこに封印が解放され魔導書との間にある魔力伝達経路が大きく開いたために、本能がこれ幸いとそこに流し込んでいるのだ。

 今は解放状態でも流入量を制御できるので垂れ流しにはならず、普段強化に回している分が流れ込んでいる状態だ。魔導書側から吸いだすこともできるが、それを制御するのは杜人のため今は流れてくる分だけである。

『全体はまだかかるな。さて、どうするか……』

 強制的に魔力を吸いだせば封じを完全に無効化する時間は短くなる。だが、外の状況が分からないのにレネに負担がかかることをして良いか分からない。

 杜人は迷った末に、現状維持を選んだ。これは封じが継続しているので普通では無い状況にいると推測し、いきなり負担をかけるのはよろしくないと思ったことと、レネから流れ込む魔力が何故か増加しているので、この分ならそう長くかからないと判断したからである。

 ちなみに増加した理由は、巨人に追いかけられて命の危険を感じているので、無意識に杜人に対して助けを求めているからである。もちろんそんな事情は閉じ込められた杜人には分からないので、増えることは良いことだと思う程度だ。

『とりあえず完了したら即座に対処できるように、状況予測をしておくか。……供給は乱高下していないから怪我はしていないだろう。封印が解除されているから危険な状態にはあるかもしれないが、今すぐどうにかなるものではない……』

 杜人は進行状況を示す情報窓を眺めつつ、現在起きている状況を考え始めた。







「ふ、普通に走るのってこんなに大変だったんだね。新しい発見だよ……」

「馬鹿言っていないで足を動かして!」

 全力ではないとはいえ、長時間動き続けたレネの体力はもう尽きかけていた。それでも止まらずに逃げ続けていられるのは、セリエナの励ましと手に持つ魔導書が淡く輝き始めたからである。

 セリエナも同じくそろそろ限界だったが、レネよりは余裕があった。それでも打つ手がない現状では気力を保つのも難しい。だからセリエナも魔導書の輝きに希望を持ち、レネの手を引きながら逃げ続けていた。

「あっ」

「えっ、きゃ」

 そうして逃げているとき、レネはとうとう体力の限界が来て足をもつれさせ倒れた。そして手を掴んでいたセリエナも引っ張られてそのまま倒れ込んでしまった。痛みに顔をしかめる暇も惜しんでセリエナはすぐさま立ち上り、倒れたままのレネの手を取って引っ張る。

「レネ、早く立って!」

「駄目、足挫いちゃった……」

 足を挫く以前に限界を迎えた足は、一度動きを止めたために力が抜けて震えていた。そのためセリエナに引っ張られても立つことさえできなかった。持ってきた魔法薬は逃げているときに使っているので、もう手元には無くなっている。

 レネは魔導書を胸に抱きながら微笑み、セリエナに逃げるように促す。

「私は良いから、逃げて。もう良いから」

「できるわけないでしょう! ほら、肩に掴まって」

 セリエナが必死にレネを立ち上がらせようとしたところで、二人の頭上に影が落ちる。二人が振り向くと、そこには巨大な剣を振り上げた巨人が居て、いままさに振り下ろそうとしているところだった。

「あ……」

 もう逃げても間に合わないと理解した二人は、目をきつく瞑って身体を固まらせる。そのすぐ後に、暗闇に包まれた視界が急に白く染まると身体に衝撃が走り、巨剣が床に振り下ろされた轟音が部屋中に響いた。






「どうやらこの階層に飛ばされた可能性が高いようだな」

「時間がありません。急ぎましょう」

 エルセリア達は罠を破壊しながら道を進み、転移の罠が発動した階層よりひとつ下の階層に来ていた。そこでまず複数の隠し部屋を発見したので壁を破壊して突撃し、それぞれの部屋で鉄製の動人形とアノクを発見した。

 動人形はエルセリアに襲い掛かって来たので容赦なく一撃で破壊し、アノクはおかしな笑みを浮かべながら立ち尽くしていたので、とりあえず離れたところから加減して攻撃し昏倒させた。そして身体を魔法で麻痺させてから持ってきた大きな袋に突っ込み、荷台に転がして探索を続行していった。その結果、通路にセリエナのノートが落ちているのを発見し、転移先がこの階層である可能性が更に高まったのだ。

 エルセリアは二人共タマに包まれていたので一緒の場所に居ると推測している。そして杜人も居るのだからレネ達が死んでいるとは欠片も思っていない。

「待ってて、今行くから……」

 やっと見つけた希望に、エルセリアは更に探索の精度を上げて道を突き進んだのだった。
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