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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第6章 写し鏡のその奥に

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第12話 大は小を兼ねる?

 次の日。レネはさっそく迷宮の第五十階層に移動した。ここからまた開放型迷宮になり、レネ達の目の前には短い草で覆われた草原がどこまでも広がっていた。

『真っ平の大平原とは、これはまた今までと違うな。それに探索者の姿もない』

「そういえば……居ないね」

 入口となる水晶柱がある場所に居るのは、レネとシャンティナ、エルセリアとセリエナだけである。他の階層では何人かは見かけるのだが、ここには誰も居なかった。

『何か情報は無いのか? 昼間は出現しないからとか』

「残念ながら、ここまで来ると魔物の大雑把な特性は報告されるけれど、詳しい情報は秘匿されて出回らないんだよ。重要な収入源なんだし、仕方ないよ」

「それに、この階層は天虎以外採取できるものがないので、天虎専門の探索者しか来ません。危険でも来なければ良いだけなので、調査も一通りしただけで終わりです。そのため、目撃情報が広まることもまずないです」

 いかにレネでも書物に書かれていない口伝を知ることはできない。来なければ良いだけの階層だと分かってしまえば、国としてはそれ以上予算を割く理由はない。詳しく調査しようにも大金がかかる。成果がないと思われる事柄に、個人資産を差し出す者もまずいない。

 エルセリアも肯定したため、杜人も仕方がないと肩を竦めた。

『ま、気にしてもどうにもならないか。それでは狩り方をおさらいしよう。まずエルセリアが防御を担当する。その他が索敵を行い、異空間に潜んでいる天虎を見逃さないようにする。魔法に対する耐性が高いので、攻撃は霊気系統を使える俺とレネとシャンティナが行い、その間の警戒をセリエナが行う。かなり素早いようだから、近寄られないように注意すること』

 この階層に出てくる魔物は天虎だけである。立ち上がるとレネの二倍程度の体高と、淡く輝く金と白の毛並みを持っている。光、火、雷を吸収し、その他にも高い魔法耐性と真銀製の武器すら弾いてしまう防御力を持っているが、一番厄介な点は巨体を自ら作り出した異空間に隠し、音もなく近づいてくることであった。巨体でも人より速く動けるため、攻撃範囲に入られた時点で詰んでしまうのである。そのため近寄られないようにすることが何よりも重要であった。

 来る前に役割は決めているので杜人の説明は簡単なものである。そして特に質問は出なかったため、一行は巨大化したタマに乗り込んだ。

「それじゃあ、行くよー!」

「おー!」

 いつも通りレネは元気に声をあげ、その他も笑顔で唱和する。こうして青空の広がる大平原に向けて威勢良く出発したのであった。





「居ませんね」

「昼間は出にくいのかな」

「そんな記録はないんだけどなぁ」

「確か、昼の天虎は希少品だと聞いたことがあるのですが」

「理由は分からないけれど、滅多に出回らないのは本当だね。天虎自体が贈り物として喜ばれるから、希少品なら効果倍増だよ」

「そうなの?」

 レネは同じ物なのにと不思議に思い、こてりと首を傾げて杜人を見る。ブランドマークのようなものと認識した杜人は、笑いながら肩を竦めた。

『中身より、他人が持っていない物を所有していること自体が、その家の格を示す道具となるからな』

「そうですね。小さな持ち物とかにも気を使います」

「その辺りに関しては、解放されてほっとしました」

「なるほどぉ」

 しばらくは大平原の散歩を楽しんでいたのだが、レネの地図魔法にもシャンティナの索敵にも反応はなく、実に平和であった。現在はタマを停止させて何が悪いか検討中である。

『異空間を感知できないとかはどうだ?』

「うーん……。地図魔法は精度の問題があるかもしれないけれど、シャンティナを誤魔化せるとは思わないよ。こちらを観察できる以上、繋がりは確実にあるわけだからね」

 杜人の指摘にレネは首を傾げて検討したが、襲撃も受けていないので出会っていない可能性のほうが高いと結論を出す。杜人も特に異論はなかったため、息をはき出すと不可視念手を発動し握りこぶし大の赤い実を取り出した。

『仕方がない。これを使って誘い出してみよう』

「何それ?」

 エルセリアとセリエナも確認するが、思い当たるものはなかった。そのため揃って首を傾げる。

『これは紅白花の種だ。滋養強壮の薬になるのだが、何でも猫が大好きで食べると酔っぱらうそうな。天虎も猫の一種だろうから、どうかなと』

「形は似ていても天虎は魔物だよ? 猫じゃないよ?」

「そうですね」

「その通りです」

 レネは大きく腕を動かして天虎の大きさを示し、次に小さく輪を描いて普通の猫を示した。エルセリアとセリエナもレネに同意している。

 杜人も興味本位のことなので、否定されても特に気にしない。だがしかし、それはそれ、これはこれである。レネ達に向けて仕方がないなと言いたげに笑うと、顔の前で指を振った。

『甘いな。大きかろうと魔物だろうとたいして変わらないかも知れないじゃないか。物事には検証が必要なのだ。レネ、書物には常に結果が書かれているのか!?』

「うぇ!? ……えっと、常には無いけど」

 いきなり指差されて驚いたものの、レネは律儀に情報を検索して答える。それを聞いた杜人は深々と頷いてから後ろを向いて彼方を指差す。

『物事の大敵は無関心だ。普通のことだけをしていたのでは発展はありえない。ときに無駄な行為が次の道を作るのだ! というわけで、ぽいっとな』

「結局自分がやってみたいだけじゃない……」

「あははは……」

 前半は良い話だったのだが、最後に種を割り楽しそうに遠くへ放り投げた。そのためレネ達は本当に仕方がないなぁと力の抜けた笑みを浮かべる。そしてシャンティナも楽しそうにリボンを揺らしながら立ち上がると、魔法弓を構えて種が投げられた方向へと素早く霊気槍の連射を行う。

 直後、少しずれて放たれた二射目が何もない空間で爆裂し、三射目も同じ場所で爆裂した。その後も目に見える速度で近づいてくる空間が停止するまで容赦なく追撃を行う。そして皆が驚いて見つめている視線の先で、空間が揺らぐと金色と白の毛並みを持つ天虎が現れてそのまま横倒しになった。

「……」

「えい」

 皆が呆然としている中でシャンティナは飛び降りると首をへし折って止めをさした。そして即座に戻ると、また同様に魔法弓を放ち始めた。この時点でようやくレネは我に返り、慌てて地図魔法を見て目を見開いた。

「あ、居た!」

『お、本当だ。ふふふ、やはり物事には遊び心が必要なのだ!』

 レネは待望の獲物が現れて喜び、杜人も得意げに胸を張った。エルセリアとセリエナは小さく拍手をしていた。

 そして二体目もあっさり倒され、シャンティナは三度目の射撃に移った。そのためレネは首を傾げて地図魔法を確認したとき、魔物を示す光点が増えたのを目撃した。

「……また来たよ?」

『うむ? ……良し、俺達も攻撃に参加しよう』

「結界を強化しておきますね」

「監視は私がします」

 そこに居た全員がそこはかとなく嫌な予感に襲われたため、万全の態勢を整えておく。三体目、四体目と倒した時点で、まだ出現は止まっていない。そして二十体を超えた時点で、全員本気になっていた。

「まだ増えています」

「攻撃力が思っていたより大きいですが、結界はまだ大丈夫です」

「ふえーん、モリヒトの馬鹿ー!」

『後でたっぷり聞いてやるから、とにかく攻撃だぁ!!』

 霊気系以外の魔法では魔法耐性が高くて霊気槍を叩き込むより倒すのに魔力を消費してしまう。そのためレネと杜人はとにかく全力で霊気槍を放ち続ける。

 気絶した天虎はタマから飛び出したシャンティナが攻撃を避けながら止めをさしている。そのリボンは楽しそうに揺れていたのであった。





 そして夕日が大平原を照らす中を、タマは出口に向けて移動していた。その上にいるレネ達は、シャンティナ以外疲れた顔で身を任せていた。

「モリヒトの馬鹿……」

『すまん。……もしかして情報が載っていない理由は、試した者が全員帰って来なかったからじゃないか? 抜け落ちるには酷過ぎる』

「あははは……」

「ありえます。というより、確実にそうでしょう」

 過去に同様の発想で試した者が居なかったとは考えにくく、使って全滅したから情報がないと考えたほうが自然である。

「紅白花の種を使うと、天虎の大量発生を誘発する。しかも、一気に来ないで延々と……。もう、嫌」

『本当にすまない。今夜のおやつは奮発しよう』

 他の大量発生同様に一気に来るのであれば殲滅も容易だが、倒しても倒しても追加され、いつ終わるか分からないでは全力を出すわけには行かない。そのためいつも以上に疲弊していた。魔法薬はたくさん在庫があるので継続戦闘は可能であったが、精神の疲労は取れないのである。

 そうしてようやく水晶柱の場所に到着すると、昼間は居なかった探索者の姿が見られた。

「……なんだか見られているね」

『タマが珍しいのか? 結構広まったと思ったが』

 見れば、その場にいる探索者全員が『ありえない』と言いたげな表情となっている。

「昼間は戻って来られないとかかな」

「ありえますが、ここまで驚かれることでしょうか」

 推測はできるが決定的なものがないため、一行は気にしないことにして手前でタマから降り、徒歩で水晶柱へと向かった。そして疲れたのでゆっくりと歩いていると、意を決したひとりの探索者が話しかけてきた。

「突然すまない。もしかして、昼間の天虎を狩ってきたのか?」

「そうですけど……」

 レネの返答にどよめきが生まれ、遠くから嘘だろうとの声も聞こえた。レネ達は学院の制服姿であり、防具や武器も持っていない。見た目も吹けば飛ぶような少女達である。そのため探索者の目には、この階層を探索できる力量を持っているように見えないのだ。

 その声にレネは眉根を寄せると、話しかけてきた探索者を無言で見つめ、説明を求めた。

「ああ、いやな、昼間の天虎はとにかく強いんだ。傷を負わせても、致命傷以外は見る間に回復してしまう。だから、普通は回復しなくなる夜に狩りをするんだが……」

「……」

 レネはまだ無言である。そこにエルセリアとセリエナも加わり無言の重圧を加える。気持ちはひとつ『それだけで嘘つき呼ばわりするのか?』である。一歩間違えば死んでいたかもしれず、その上疲れもあって不機嫌さはいつもの比ではない。

 そのため見つめられた探索者は、額に汗を掻き始めた。そしてこれはまずいと本能で理解し、ご機嫌とりのため昼間に狩りができる実力者なら知っても問題ない情報を教えることにした。地味に威圧されているため、口が滑りやすくなっていたりする。

「いや、天虎は昼間なかなか出会えないんだ。かといってまったく出会わないわけではないから、昼間に狩りに行って出会った場合、無事に帰ってこられるのは稀なんだ。夜なら異空間に隠れていても目が光るから遠くからでも見つけやすいが、昼間は無理だから……。よ、良ければ見せてくれないか?」

『なるほど、それでか。大切な情報を教えてもらえたわけだから、見せる程度は良いだろう』

 レネは小さく頷いて演出として指を鳴らす。それに合わせて杜人が収納していた天虎を一体出現させた。

 探索者は一部分を持ってきたのだろうと思っていたのだが、まさか丸ごととは誰も思っていなかった。そして毛皮は未だに淡い輝きを放っていて、傷一つ見えない。どうやって倒したのかは分からないが、目の前の現物を前にしては嘘とはもう言えない。そしてこの演出でようやくレネが誰なのかを悟ったため周囲はいっそう騒がしくなり、全員がそのまま食いつくような視線を向けていた。

「これはすごい……。もう使う先は決まっているのか?」

『レネ、教える前に紅白花の種について聞いて欲しい』

 ものほしそうな視線に、これなら口伝に近い情報でも教えるだろうと杜人は判断した。レネも知りたかったため、無表情で問いかけた。

「紅白花の種についての情報はありませんか?」

「……この階層で中身を出すと帰って来られないと言われている。詳細は知らない。もしかして、使ったのか?」

『酷い目に遭ったよ……。レネ、片付けよう』

 先にそれを知りたかったと杜人は乾いた笑いを浮かべながら力なく漂っている。何とかなったから良かったものの、調子に乗った上での大失態であることに変わりはないのだ。

 レネは質問には答えずに天虎のほうに顔を向けると指を鳴らし、杜人は天虎を収納した。そして探索者に向き直ると、静かに微笑を浮かべる。

「詳細は学院に提出しておきます。私からは、絶対に使うなとだけ。それと天虎は素材として使いますが、ダイル商会にも売却します。一月程度経ったら商品が売られ始めるかもしれません。ありがとうございました」

「ああ、呼び止めて悪かったな」

 レネは丁寧に頭を下げ、作り笑いを浮かべたまま水晶柱に近寄る。そして未だに背中に視線を感じているので、小さくため息をついた。

「またやっちゃったのかなぁ……」

「大丈夫だよ。ひとりじゃないし」

「これで私達も有名人ですね」

 また変な噂が駆け巡るかもと嘆くレネを、エルセリアとセリエナは仲間がいるよと慰めた。その様子を杜人は神妙な顔で見つめている。

『残念だが、噂というものは一番目立つ者に集中するのが常なのだ。強く生きろよ……』

 もちろん目立つ要件は外見ではなく、印象に残った記憶についてである。今回については昼間の天虎を殲滅の黒姫一行が倒してきたという部分であり、そのうち変質して一行がなくなるかもしれない。レネには常にシャンティナが付き従っているのに、レネだけが噂になるのがその証拠だ。人の記憶は実にいいかげんなものなのである。

 杜人は視線をそらすと、遠くを見つめながらそっと呟いたのだった。





 そして次の日。レネはダイル商会に行き、リュトナに天虎を引き渡した。冷蔵できる空倉庫いっぱいに置かれた丸ごとの天虎に、さすがのリュトナも微笑みがぎこちなくなっていた。

「毛皮以外にも用途があるようなので、加工はあえてしませんでした。冷蔵保存をしているので、悪くはなっていないと思います。数はこれで足りますか?」

「ええ、まあ、十分過ぎますね。それではこちらへどうぞ」

 リュトナは気を取り直してレネを応接室に案内すると急いで加工の人員を手配し、売買契約書を持って帰って来た。そしてレネに渡したのだが、その表情は申し訳なさそうである。

「買い取り金額についてですが、査定に時間がかかりますのでしばらくお待ちください。昼の天虎、それも丸ごとは滅多に入荷しませんので、どの程度の値がつくか分からないのです」

『あの巨体では運ぶだけで一苦労だから当然か。というか、もしかして昼と夜では品質が違うのか?』

「それは大丈夫です。昼と夜では品質が違うのですか? そういえば探索者の人達がものすごい目で見ていましたけど。こう、邪魔者を殺してでも欲しい、みたいな感じで」

 誰もが驚くので、レネも杜人と同様の疑問を持った。そのため契約書を返しながら普通に尋ねる。一人前の証と聞いていても詳細まで書かれた本がないため、違いがあまり分からないのである。

 リュトナはレネの質問に瞬きながら見つめ返したが、情報が広まっていないことを思い出してすぐにいつもの柔らかい微笑みに戻った。

「はい。夜に狩られる天虎の毛皮が一般に知られるものです。この場合は、以前説明した性能を持ちます」

『真銀より丈夫で、それでいてしなやかなのだったな』

 レネもそこまでは知っているので素直に頷いて続きを待つ。

「それに対して昼に狩られた天虎の毛皮は、それに加えて特性も失われずに持っているのです。つまり、魔法に対する特性も、即座に回復する特性もです。特殊な加工法が必要になるくらい厄介な素材なのですが、きちんと加工し特性を保持できれば……」

「ば?」
『ば?』

 ここでリュトナは言い淀む。レネと杜人は変なところで切られたため、揃って不思議そうに首を傾げる。リュトナは言って良いものか迷ったのだが、言わなければ酷いことになると判断を下し、話すことにした。

「その、あまり知られていませんが、知っている人には内容に関係なく売れますね。加工に失敗したものでも、滅多に出ない希少品というだけで買い占められる可能性が高いです。ですから、あれは今回の材料には使えません」

『な、んだと……』

 どんなものでも売れるのならば、勝負に使えるわけがない。そのためリュトナは苦労したであろうレネに申し訳なさそうな視線を向ける。レネは無言だが笑みを固まらせていて、杜人はぽてりとテーブルに突っ伏した。

 しかし、追撃はまだ終わっていなかった。

「それと、特殊加工は歩留まりが悪く、保持に成功した品は王族すら持っていないと言われるくらいの希少品です。知られると無茶を言う者が必ず出てくるので、詳細な情報はあえて伏せています。申し訳ありませんが、卸したことも含めて、他の方には内密にお願いします。ここに希少品があると知られると、大変なことになるかもしれません」

「……」

『そういえば、ここに売ると話したんだっけな……』

 リュトナは『もう言っちゃいましたか?』というようににっこりと微笑み、つられてレネもにっこりと微笑んだ。その背中には冷や汗が大量に流れている。そしてそっと視線を外し、言っていなかったことを伝える。

「えっと、見せた探索者の人に、ここに売るって言っちゃいました。ついでに一月程度経ったら商品が売られるかもって……」

 その答えにリュトナは気が遠くなりかける。言ったのはレネなので、ダイル商会としては知らぬ存ぜぬで通すという手はある。しかし、その場合はレネが嘘をついたことになり評判を落とすことになる。そのためレネ関連の商品を扱っているダイル商会としては、その事態は避けなければならない。

 そして認めた場合は既にレネの依頼で職人を勝負に使うために押さえているため、一月で商品を売り出すためには別の職人を探さなければならない。しかも、最上級ともいえる天虎を扱える一流の職人でなければならないのだ。原因はレネにあるとはいえ、ここで先約を反故にするようでは一流の商人と胸を張って言えなくなるので、どちらも守らなければならないのである

 普通の者ならこの時点で音を上げるのだが、商人としてダイルに鍛えあげられた精神のおかげで何とか耐える。それでもその微笑みには陰りが現れていた。

「……ええ、はい。了解しました。……少しばかり職人に無理をさせることになるかもしれませんが、何とかなるでしょう」

「ううっ、ごめんなさい」

『本当に、申し訳ない』

 もはやレネと杜人は、これからの苦労を思うと平謝りするしかなかった。

 ダイルであればたとえ困難であっても不安をみせず、あえて不敵に笑うところだ。腕利きのリュトナと言えど、まだまだダイルには遠く及ばないのであった。

 こうしてレネと杜人は再び狩りを行うことになり、リュトナに普通の天虎を納品した。そのときには既にいつも通りの微笑みを見せていたのだが、レネと杜人は神妙な表情でチョコシュークリームも一緒に納品した。

「これは良いものですね。……職人にも差し入れできれば喜ぶのですが、作り方が分からないのが残念です」

「どうぞ、レシピです!」

『お納めください!』

 優しげに微笑んでいるリュトナに、レネは迷わず準備していたレシピを差し出した。杜人もレネに付き合って平身低頭である。

「ふふふ、ありがとうございます。きっと、喜んで仕事に励んでくれることでしょう」

「よろしくお願いします!」

『……そろそろ気づいても良いと思うのだがな』

 もうリュトナは気にしていないし、杜人も笑いを堪えてる様子を見ているので分かっている。しかし、面白いから双方しばらく黙っていた。

 こうしてリュトナは状況を利用してしばらくレネをからかい、杜人は後でレネから盛大なお礼をもらうことになったのだった。
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