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黒姫の魔導書 作者:てんてん

第5章 祭りと騒ぎとその後と

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第18話 見えない刺客

 学院祭三日目。人の流れは完全に出来上がり、二度目の来場者も現れ始めていた。二度目になれば興味がないものには寄らなくなるのだが、レネの班は他では販売していない食品系店舗が大多数なので、新しい味の虜になった者が足繁く通う状況となっている。

 その奥で開催しているルトリスの魔法講義も満員御礼を続けており、今では天幕を増設して入場者を増やしていた。

 一方、フォーレイアも飲食店舗他多くの店を構えているのだが、どうしても他店やレネの店舗の二番煎じのようになってしまうので、三日目から一気に売り上げが落ち込んでいた。

 ルトリスに対抗するために魔法講義もあるのだが、元から評判が高く普段の講義でも指名されて教えているエルセリアと、前評判もなく講義の経験もない者では比べるだけ無駄であり、一度受けたものから内容が伝わると誰も行かなくなり、人がいないので他の客も素通りするという負の連鎖に陥っていた。

 全体の責任者のアイリスは班員の前では気丈に振る舞ってはいたが、内心では泣きたい気持ちである。見上げる先にはどこからでも見えるレネの宣伝看板があり、真似できない悔しさがこみ上げてくる。

 ルトリスが高級品を購入した様子がないのでどんな貧相ぶりだろうと見に行けば、手に入れること自体が困難な高級品にてもてなしが行われていた。そのため慌てて調べるとエルセリアが調達してきたことが判明し、フォーレイアの資金でルトリスの余りを買っていた事実も判明していた。

 もちろん商人達が黙っていたことも分かった。聞かれなかったことを言わなかっただけであり、原価や入手先を簡単に話す商人が居ないのは常識である。そのため報復すればフォーレイアの評判が完全に地に落ちることも理解した。

 このことは少し調べただけでルトリスが主導したと判明したため、ルトリスからの意趣返しであることは明白であった。そして経験上、これ以上騒がなければ何もせず、騒げば黙らせるために本気で動くと分かっている。対抗しようにももう資金が無く、結果として何もしないのが最善手となってしまったのであった。

 こうなってしまえば、これまでの策をどうして良いと思っていたのだろうと考えてしまうが、撤退できない以上店舗を続けるしかないと口を引き結んでいた。

 そんな悲壮感漂うアイリスを助けるために、何も言わずに動いた者達が屋外訓練場の客に混じっていたのだった。

「列は乱さずに並んでくださーい!」
「一つですね。はいどうぞ。次の方どうぞ!」

 混雑している会場にて、熱々のたこ焼きを買った平民の服を着た男性が、よそ見をしたところで貴族らしき身なりの良い男性と接触した。接触自体は良くあることだが、今回は服にべっとりとソースが付いてしまった。そのため貴族風男は怒気を乗せて、ぶつかった平民風男を睨み付ける。

「貴様! どうしてくれる!」

「も、申し訳ありません!」

 突然の怒声に観客の視線は集中し、その場から急いで離れ始める。それを横目で見た中心の二人は、狙い通りと視線を交わしあった。この二人は騒ぎを起こすことによって客離れを起こそうとしている者達であり、この騒ぎも芝居である。

 店舗に何か行えば嫌がらせと取られかねないが、客同士の騒ぎならばどこでも起き得ることである。そしてここは争いを嬉々として見る場所ではなく、騒ぎが起きれば巻き込まれないように逃げ出す場所である。地味であるが、客離れをさせるには効果がある方法なのだ。

 そのため更に騒動を拡大しようとしたとき、赤いはっぴを着たレネが端末石を浮かべながら飛び込んできた。

「どうかなさいましたか?」

「お前が責任者か! これが見えないのか! どうしてくれる!」

 当然芝居をしている二人は狙い通りと喜び、貴族風の男性は眉を吊り上げてレネに標的を変更した。

『……まあ良いか。一気に行け』

「お待ちください。……解析分離、浄滅光」

 杜人はレネを見ただけで責任者と断じた男性を怪しんだが、実害は無いとして通常処理とした。レネはというと、忙しく動いているので怒声も気にせずに笑顔のまま杜人の指示に従い、汚れ落としと臭い取り、ついでに回復の魔法を連続で使用した。

 端末石の前面に魔法陣が浮かび上がると、飛び出した光が男性を優しく包み込む。そして時間を置かずにすぐ消滅した。

「終わりました。汚れの確認をお願いいたします」

「なにを……、消えた?」

「確認ありがとうございます。念のため消臭と火傷の治療も行っております。それでは学院祭を引き続きお楽しみくださいませ」

 レネは呆然としている貴族風の男性の対処を切り上げると、ポーチから紙の束を取り出して記入し印を押す。それを一枚切りとって同じく呆然としていた平民の男性に渡した。

「これは本日限り有効のたこ焼き再購入券です。一人につき一度しか発行いたしませんのでご了承ください。それでは学院祭を引き続きお楽しみくださいませ。失礼します」

『次はあっちだな』

 レネは指示に従い急いで次の場所へと移動していった。落ちたたこ焼きは杜人がこっそりと回収済みである。その後ろ姿を騒ぎの元凶の二人は呆然としたまま見送り、見ていた野次馬はいかにも魔法使いらしい解決方法に感心しながらばらけていった。




「それでは本日の営業はこれで終了です。お疲れ様でした! また明日もよろしくお願いいたします」

「お疲れ様でした!」

 終了時間となって片付けも終わると、レネは班員を集めて挨拶を行った。そして帰っていくのを笑顔で見送ってから休憩場所の椅子に座り、ぱたりとテーブルに倒れ伏した。セリエナも座り、ほっと息をはいている。奥のルトリスの会場は一足早く終了しているため、残っているのはシャンティナとジンレイを加えた四人だけだ。

「……疲れた。今日はなんだか騒ぎばかり起きていたような気がする」

『そんな日もあるさ。だがレネの対処が良かったから大きな騒ぎにはならずに済んだ。それは誇って良いと思うぞ』

 杜人はテーブルに着地すると不可視念手でレネの頭を撫でる。レネは目を細めながらしばらくそのまま動かずにいて、頃合いを見て起き上がった。

「うーん、でも途中からはおざなりというか、定型文というか、冷たい対応になっちゃったから……。もう少しうまくやりたかったな」

「その方法は、対処できる人が多数いなければ破綻します。一番酷い対処は放置なのですから、一人当たりの時間を短くするのは当然の判断です」

『そうだな。個々に関しては最適ではなかったかもしれないが、全体で見ればうまくいっていた。これで少数が満足してその他が不満に思うような対処では全体が駄目になってしまう。このように、最適な対処が最高ではない場合もあるんだ。理想は大切だが、それだけを見ていると立ち行かなくなることのほうが多いな』

「難しいね……」

 セリエナと杜人の説明を聞いて、レネは取捨選択の難しさに小さくため息をつく。杜人が傍にいて指示を出してくれたので考えずに済んだ部分もあり、ひとりだけなら確実に最良を求めて破綻したのは間違いないと思った。

『ま、これも経験するしか対処法は無い。いくら言葉で聞いても……、ん?』

「どうしたの? ……あれ?」

「何の用でしょう?」

 杜人は途中で入口から広場に入ってきた人達が居ることに気が付き、レネとセリエナも顔を向けて首を傾げる。制服を着ているので学院生と思われるが、この時間に来る理由が思い浮かばなかった。その男女が混じりあった集団はレネが居る場所まで来ると立ち止まり、全員が緊張した面持ちであった。

『うむ、これはレネが恐れ多くて話しかけられないに違いない。……まあ、それは置いておくとして、もしかしてやり過ぎた苦情か?』

 立ち止まったまま話しかけることもない様子に、杜人は冗談を言ってから頬を掻いて推測を口にする。レネとセリエナは前半を冗談と分かっていたが、普段の状況からそうかもしれないと思わず納得しかけてしまった。そのためレネは一度咳払いをしてから気持ちを仕切り直し、笑みを浮かべて学院生に話しかけた。

「あのう、用件は何でしょうか」

「ひっ……」

『気にするな。間の悪さでどうしようもないこともある。おそらくレネにとって都合が悪いことを言いに来たか、彼らにとって虫が良いことをお願いにきたから後ろめたいのだろう』

 笑顔で話しかけたのに怯えられたため、そんなに怖いのだろうかとレネはちょっぴり傷ついた。杜人は苛立っていると取られたのだろうと推測しレネを慰める。そしてセリエナに目配せを行い、了解したセリエナが後を引き継いだ。

 そうしてようやく聞き出した内容は確かに虫が良いものだった。彼らは平民が集まった班の班長達で、去年までは手伝いで今年初めて班として参加したのだが、最初から悪い場所しか取ることができなかった。それでも初日は客が来ていたが、中央部の出し物や屋外訓練場に人が流れるために見向きもされなくなった。このままでは赤字なので、屋外訓練場に場所を分けて欲しいというものだった。

 聞き終えたセリエナは少し待ってもらい、小声で相談を始める。

「どうします? 私達には特に利益もない話ですが」

「う……ん、どうしよう」

 レネとしては場所があるのだから入れても良いとは思った。しかし、虫が良いことを言っているのも事実であり、そのまま受け入れるのは何かが違うと今までの経験から感じていた。迷いを見てとった杜人は良い傾向だと微笑みながら背中を押すことにした。

『俺は良いと思う。確かに虫が良い要望だが、少なくとも売るための手段として聞くだけはする行動を自ら取ったのだから、今回はそれだけで十分だろう。それに店が増えれば来場者も喜ぶ。何より、祭りはみんなで楽しまないとな!』

 杜人とて虫が良いとは思っているが、たとえ彼らがおこぼれだけを欲しがっていたとしても、レネが拒絶しなかったことを評価した。ここで断って他者と融和する気持ちを途切れさせるより、受け入れて育てたほうがレネのためになると判断した。

 うまくやるためには裏方である杜人やジンレイの忙しさが増すが、経験や想いは買えないのでそれだけならば安いものである。但し、もし彼らが味をしめてこれからも一方的にレネを利用しようとしたときは、きっちりと思い知らせるつもりであった。

 くるくると踊るように回る杜人にレネは微笑むとセリエナを見て小さく頷いた。そして鞄から会場の平面図を広げ、詳細な場所を決めていく。そしてその後に交渉役のセリエナが説明に向かった。

「こちらにも色々都合がありますので、この広場が入口接続点となってもよろしければこの位置を提供します。配置はこのように通路の両側に店舗を置く形です。奥は後で使いますので、通路を塞がないでください。どの店舗をどこに持ってくるかは自由にして構いませんが、不満が残る決め方はしないようにお願いします」

 提供する場所は、広場の左右にある空間に行くための通路である。広場内部には設置する場所はなく、広げて混ぜてしまうと混乱の元になるため明確に区画分けできる場所を提供することになった。そんな場所であったが不満を言うことも無く、むしろ喜んですぐに承諾し笑顔で浮かれ気味に帰っていった。

「ずいぶん嬉しそうだったね」

『虫が良いとは自覚しているだろうから、断られると思っていたのだろう。それなのに何故かあっさり許可が下りたものだから、これで何とかなるという安堵も伴ってああなったんじゃないか? きっと感謝しているだろう』

「そ、そうかな……」

 レネははにかみながら指をもじもじさせる。もちろん言ったことは杜人の推測にすぎないが、今は楽しさや嬉しさを体験させるのが重要なので、裏側まで教える気は無かった。

『さて、帰ろうか。明日は少し忙しくなるかもしれないから早く寝ることにしよう』

「うん!」

 レネは元気に返事をし、広場を結界で封鎖すると笑顔で自室へ帰ったのだった。




 そして四日目の朝、引っ越し作業を横目で見ながらレネ達も朝の準備をしていた。

『ほとんど全部魔法薬と生活用具系魔法具のようだな。研究発表は場違いだが、見られないと意味がないからある意味良い選択かもしれない』

「人任せにしている私が言うのもなんだけど、同じようなものばかりで大丈夫なのかな?」

「あれらは量産品ですから違うのはラベルや印だけで、中身は一緒なんですよ。しかし、外注でも値段が安く扱いやすいのです。それでも初期の持ち出しは発生しますから、売れなければ赤字になります。この時期は職人の稼ぎ時ですね」

 レネの呟きに、ちょうど通りかかったリュトナがからくりを説明する。魔法使いは誰もが魔法薬や魔法具を作れるわけではない。そのため毎年の売れ行きを資料から確認し、外注などを利用して参加するわけだが、魔法薬や魔法具の売り上げを押し上げているのが独自に作っているリーンラノスであることに気が付かない場合、今回のような惨状になるのである。

「それでも売れるんですか?」

「中身は市販品と同じですから、利益はほとんど出ませんが今から値段を市販品の七割程度にすれば大丈夫ですよ。最終日まで今の値段で販売していると、最後には投げ売りしても原価以下に買い叩かれて資金を回収できなくなります。毎年それ目当ての探索者がいるくらい有名なことなのですけどね」

 その説明にレネは変わり種にして良かったと本気で安堵し、助言しに行こうかと杜人をちらりと見る。

『商売のことを理解してれば聞き入れるだろうが、知らないと定価で売れたときの利益に目が眩んで聞かないかもしれない。こればかりは相手の性格だからな……、今回は本職にお願いしたほうが説得力がでるだろう』

「……リュトナさん、彼らに説明をお願いできますか?」

「良いですよ。彼らも損はしたくないでしょうから、きちんと説明すれば聞き入れてくれるでしょう。ダイル商会の名前を出しますが、よろしいですか?」

 レネは頷いて了承し、リュトナは気負うことなく歩いていった。

「大丈夫かな……」

『大丈夫だろ。……ほら』

 視線の先ではリュトナが代表者を集めて説明を行っていたわけだが、最初は反発するような表情だったのに徐々に顔を青ざめさせ、最後には涙を浮かべて感謝していた。もちろんリュトナの表情は見えない。

「……何を言ったんだろう」

『もちろん依頼されたことだろう。気にしてはいけない』

 レネは少しだけ身を引きながら笑みを固まらせ、杜人はそっと視線をそらした。

「お待たせいたしました。皆様こちらが提示した金額で売ることを、快く了承して頂けました」

 戻ってきたリュトナはいつも通り優しい表情で微笑んでいる。それを見たレネと杜人は、味方で良かったと本気で思ったのだった。




 そして準備も一段落する頃、店舗に居るクリンデルからレネに声がかかった。

「魔法具が起動しない?」

「はい。熱源の魔法具全部です」

 レネは店舗内部に入ると、鉄板が外された調理台を覗き込む。

「見た目に異常はないね。……んん? 魔石内部に魔力がほとんど無い。昨日は止めたよね?」

「はい。最後に回って確認しています」

 レネは首を傾げると他の店舗に移動していく。それについていきながら杜人はジンレイに魔導書を通じてこっそりと指示を出した。

(『ジンレイ。人払いと、打ち上げに使う予定だったあれの準備を頼む。細かいやり方は任せる』)

(「承知いたしました」)

 時間がないので細かいことは丸投げし、ジンレイは静かに班員の休憩場所がある裏側へと歩いていく。それを横目で見送った杜人は、何事もなかったようにレネへと視線を移した。

 レネは唇を引き結んで順に調査を行っている。責任者がうろたえてはならないと学んだので取り乱さないようにしているが、内心は不安が首をもたげ始めていて許されるなら泣きたいところであった。

 そして調べた結果、すべて故障ではなく魔力がないことが原因と分かった。そしてなぜ回復しなかったかは分からないが、その場に居た誰もが作為を疑った。一台だけならうっかりもあり得るが、全部となると偶然とはさすがに思えなかった。そして夜間はレネが結界にて閉じてしまう。そうなると、犯人は限定されるのである。

 そんな重い沈黙が蔓延しようとしたとき、ジンレイが近づいてきて唐突に頭を下げた。

「申し訳ありません。伝達を忘れていました。実は作成した職人から、念のため中日に魔力を抜いてから一日休ませてほしいと言われていまして、私が朝のうちに魔力を抜いたのです」

『あ……、こほん。そういえばそんなことを言っていたな。済まない、朝の騒ぎですっかり忘れていた。代わりのものは準備しているから安心してくれたまえ!』

 伝え忘れたことを踊って誤魔化そうとしていることが簡単に分かるくらい勢いが良い杜人を見て、レネは安堵の息をはいた。クリンデル達もジンレイの報告を聞くと、肩の力を抜いて笑みを浮かべる。

 もちろんこの理由は杜人とジンレイが示し合わせた嘘である。起動しないことを聞いた時点で仕掛けられたことを悟り、その疑惑が表に出る前に火消しを行ったのだ。現在はジンレイが指示を出したので周囲に手伝いの学院生は居ない。そのためなぜ嘘をついたのかと疑問を持たれることもない。

 後はこのまま対処すれば、予備が準備されていたから失敗したと思われるだけで済む。ついでにリュトナへも根回しを行い、口裏合わせを済ませていた。

「代替品は裏の休憩所に運んでおきました。どうぞこちらへ」

「うん。ありがとう」

 そうして案内された先にあったものは、杜人とジンレイがこっそりと作っていた魔食樹製の炭が入った木製の四足台座である。その姿に誰もが目を丸くして驚いていた。

「……これ、木製だけど大丈夫なの?」

「はい。魔食樹で作った炭と台座です。台座は普通に燃やしても焦げ目ひとつ付きません。炭も普通のものより火力がありますので距離の調整は必要ですが、交換は昼に一度する程度で大丈夫です。着火するときは発火の術式を封入して発動させてください」

 炭を入れる部分は側面が二重になっていて、足にある止め木をずらせば底が上下に動くようになっている。それで火力を調整するのである。あくまでも楽しむための物なので、高性能にはあえてしなかった。

『ぬふふ、見ただけで興味をそそるだろう? レネでさえそうなのだから、魔法に日常触れていない人には不思議な魔法具に見える。今日は店舗の横で作ることになるが、これは話題になるぞ』

 杜人はどうだと言わんばかりに胸を張る。レネは小さく笑うと普通の指で杜人を弾き、興味深げに台座を見ているクリンデル達に指示を出した。

「それでは調整もあると思いますので、急いで運んでしまいましょう」

「ええ、分かりました」

 クリンデル達も新しいおもちゃを手に入れたような、うきうきした表情で台座を運んでいく。その様子に何とかうまくいったと杜人はようやく肩の力を抜いた。

(『ありがとう。助かったよ。しかし、こうなると入り込んでいるのは確実だな。誰か分かるか?』)

(「さすがにそこまでは。ですが、手伝いの学院生は全員平民ですから買収された程度だと思われます。あぶりだしますか?」)

 杜人とジンレイは運んでいる後ろを付いていきながら今後について話し合う。

(『ああ。さすがに一日中すべてを警戒するのは無理だ。……今のところ、レネが解決しているような形になっているから、今度はレネが動けないように妨害してくる可能性が高いかもしれないな……。良し、疲れて倒れないように昼にひとりでゆっくりと休憩させることにしよう。それを知れば、そのときに騒ぎを起こすかレネの魔法具を盗もうと動くかもしれない。休憩中に近づかないようにと伝達してくれ』)

(「承知いたしました。それでは会場のほうはリュトナ様と打ち合わせをして動くことにいたします」)

 杜人は警戒範囲が広すぎるので、あえて隙を作ってそこに注目させる作戦を選択した。昨日一気に増えた騒動も嫌がらせの一環と考えれば、二度阻止されたことになる。そしてやり口が直接打撃を与えやすいものに変化したことを考慮し、次はもっと酷くなると予想した。だからこそ時間もなくなった今、目の前に餌を吊せば喜んで食いつくはずと考えた。

 魔法具は杜人の複製品なので壊されても支障なく、魔導書本体は壊されても今なら簡単に復活できる。そしてレネへ直接危害を加えようと考えれば、離れていてもシャンティナが事前に気が付き排除する。そのため被害を受けても最小限にできるのである。

『まったく、気にせずに祭りを楽しめば良いだろうに。面倒くさいな……』

 最後は疲れたようにぼそりと呟き、ジンレイは微笑みながら聞かなかったことにしたのであった。
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