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友情
作:出口 常葉


 放課後、高校二年生の二学期も終わりに近付き、終業式を三日後に控えたある日の帰り道。仲良し三人組の舞と紗枝と雪菜はいつものように一緒に帰り道を歩いていた。
「さみぃ」
 雪菜が両腕で自分を抱きしめるようにしながら一つ震えた。
「ほんとだね。寒くなったよねぇ」
 紗枝もはぁっと息を吐きながら同じく首を竦めた。
「はー、早く春にならないかなぁ」
 舞がぼやくと、残りの二人もうんうんと頷いた。
「でもさ、その前に冬休みだべ」
 雪菜が言うと、紗枝もぽんと手を叩いた。
「あー、そうだねぇ」
「二人とも、予定あるの?」
 舞の言葉に不敵な笑いを浮かべる二人。
「「裕介君、旅行に誘っちゃった」」
 同時に口から飛び出した言葉に時間が凍りつく。ただでさえ厳しい冬の寒さに加えて、さらに五度ほど空気が冷え切ったような気がした。
「ちょ、紗枝、今何つった?」
「雪ちゃんこそ、裕介君誘ったってどういうことよぉ」
 一触即発。火花の飛び散りそうな睨み合い。もともとちょっと蓮っ葉なところがある雪菜に対して、何時もぽやっとしている紗枝。戦いとしては雪菜に分がある。しかし、好きな人の話となれば話は別とばかりに、紗枝も及び腰ながら視線は外さない。
「まあまあ」
 慌てて割って入る舞。
「二人ともケンカはだめよ、ね?」
 何とか宥めようとする舞だが、二人は結局そっぽを向いてしまった。
「もう、せっかく冬休みも遊ぼうねって、この間言った所じゃない。それを裕介ぐらいで……」
「今、ぐらいっつった?」
「いくら幼馴染でも、それは酷いよぉ」
 一瞬で二人が睨みつけてくる窮地に立たされた舞。失言であった。舞は裕介のことを良く知っている。紗枝の言う通り、幼馴染だからだ。
「あああ、ゴメンゴメン、そうじゃなくてね」
「なんだよ?」
 よほど腹立たしかったらしく、雪菜は舞に絡みついた。紗枝もじっと舞を睨みつけている。
「二人とも、裕介のこと好きだっけ?」
「悪ぃかよ?」
「ううん、悪くないよ。誰を好きになるかなんて自由だもんね」
舞の言葉に二人同時に頷く。
「で?」
 詰め寄ってくる雪菜。
「えーと、何時ぐらいから?」
「ずっとだよぉ。舞ちゃんに紹介してもらったときから」
「え、あー、一年のときだ。幼馴染だよって」
 そう言えば、同じクラスだったので、ついでに紹介したことを、ふと舞は思い出した。
「そぉ。気付いてなかった?」
「うん、全然。あ、ゴメンね、ちょっとメールだ」
 ポケットから携帯を取り出し、二人よりちょっと離れたところで何事か操作する。一分もしないで舞は再び会話の列に復帰した。
「で?」
 早速話の続きを始める雪菜。
「いや、ほら、どっちかオッケー貰ったのかなって」
 そう言った途端、二人は黙り込んだ。
「……まだだよ」
「……私も」
 再び冷え込む空気。
「ほら、それじゃあまだ分からないじゃない」
「考えさせてくれって」
「……私も」
 しゅんと項垂れる雪菜と紗枝の姿を見て、まずい質問をしてしまったと反省する舞。
「ひょっとしたら、二人とも断られるかもしれないし、そうなったらケンカだけが残るよ?だから、ね?」
「断られるって……誰か好きな人がいるっての?裕介君に」
「何か知ってるの?舞ちゃん」
 再び地雷を踏み抜いたことを自覚する舞。
「違う、知らない。そうじゃなくて。もしもってこと」
「もしもでも、言って良い事と悪い事があんべ。な?」
 最後の「な?」は紗枝に向けて。それを受けてさえも頷く。じいっと両側から見つめられる舞。
「……えーと、あっ、またメールだ」
 携帯電話を再びポケットから取り出し、とんでもない指の速さでメールを打つ。一分もしないで再び舞は戻ってきた。
「うん、ゴメンね」
「誰だよ?」
「えーと、ママ……かな?」
「かな?」
 首を傾げる紗枝。
「何か怪しくね?」
「うん、ちょっと変かも」
「ううん、そんな事ないよ?」
 ふるふる、と首を左右に振り、携帯電話もすかさずポケットの中に押し込む。
「それにしても、ショックだなぁ。雪ちゃんも誘ってたなんて」
「こっちもだよ。紗枝は諦めたんだと思ってた」
「なんで私が諦めるのよぅ。雪ちゃん前に馬鹿は嫌いだって言ってたじゃない」
「紗枝こそ、頼りがいのない男は真っ平ゴメンって言ってたじゃんか」
 口論が再燃しそうな気配を感じて、再び舞は割って入った。
「まあまあまあまあ。二人とも落ち着いてよ」
 ふんっと再びそっぽを向く二人。
「馬鹿で頼りないって、二人とも言い過ぎよ?」
「じゃあ、舞ちゃんはどう思うの?」
「そりゃあ、頭は……良いとはいえないし、頼りがいも……まあ、あるとは言い切れないかな。でも、優しいし、気も利くし、話してて楽しいし……」
 何故か次第にトリップし始める舞。
「へぇ、随分と評価高いじゃんか」
 雪菜の言葉で、舞は現実に帰ってきた。
「いやいや、私は良いじゃない。今は二人でしょ?」
「あー、誤魔化した。ほんとは、好きなんじゃないの?」
「え、あ、いや、そんな」
「おお、照れてるー」
 二人に茶化され、見る間に顔が真っ赤になっていく舞。
「だから、違うってば」
「ほんとかなー」
「怪しいねぇ〜」
「ちーがーうー」
 最早近所のだだっこのように腕をばたばたとさせ、舞は必死で否定する。
「そうだね、違うよね」
 突然、雪菜がそっと舞の方を抱いてそう言った。
「ゴメンね、からかいすぎちゃった」
 紗枝も顔の前で両手を合わせて謝ってきた。
「へ?」
「実は、私知ってるの。裕介君が誰と付き合ってるか」
「ええっ?」
 ずい、舞は紗枝に身を近づけた。
「私見たんだ。大人っぽい綺麗な人と腕組んで歩いているの」
 紗枝の言葉に声を上げたは雪菜だった。
「え!?アタシは西高のバカ女と歩いているの見たよ」
「えええっ!?」
 舞が大声を上げる。
「あれぇ。裕介君て、もしかして二股?」
「嫌だぁ。私たちもそれの餌食に?」
 怖いねぇ、などと雪菜と紗枝がのんびり言い合う中、ぶるぶると身を震わせているのは舞だった。
「許せない!!」
 突然怒鳴り声を上げた舞。
「あれ?どしたの舞?」
「舞……ちゃん?」
 呼びかける二人の声にも気付かず、舞はポケットから携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。と、その携帯電話が横から掻っ攫われる。
「あっ!!」
 振り向くと、そこには携帯電話を手にニヤニヤしている雪菜。隣には同じような顔をした紗枝。
「へへー。誰にかけてんのー?」
 雪菜がそう言いながらディスプレイを覗き込む。紗枝も隣から同じように覗いた。
「あー、裕介君だねぇ」
「ちょっ、返してよぉ」
 慌てて雪菜に掴みかかる舞。しかし、その手をするりとすり抜けて、手の届かないところに移動する雪菜。携帯電話をぷちっと切り、それをぶらぶらと舞に見せつけるように揺らす雪菜。
「なんで舞が裕介君に電話すんの?」
「そりゃあ、……友達だからよ。友達の恋心を玩ぶなんて、許せない……よね?」
「えー、それだけぇ?」
 紗枝の言葉に、舞は口篭もった。
「ほんとは、舞も裕介君のこと、好きなんでしょ?」
「てゆーか、付き合ってるよねぇ」
 顔が真っ赤になる舞。さらに追い討ちをかけるように、雪菜が口を開いた。
「えーと……雪菜と紗枝が旅行に誘ったって言ってるけど、ほんと?私と行くんだよね?」
「あ、駄目だってば!!」
 メールを読み始めた雪菜に絶叫しながら駆け寄ろうとする舞。しかし、それより先に雪菜が走り出し、さらに次のメールを読み始める。
「ちょっと、二人ともに考えさせてくれってどういうことよ。私と行くっていったでしょ。とっとと断ってよ。あなたの彼女は誰ですか?だってさ」
「だれなのぉ」
 一緒になって走っている紗枝が後ろから追いすがってくる舞に訪ねた。
「私よ。わ・た・し!!」
 ついに泣きながら絶叫する舞。その場でしゃがみこんでしまう。
「あー、やりすぎたか」
「ごめぇん」
 途端に舞に駆け寄る二人。携帯電話を返し、涙を拭いてやる。
「だって、私らの間で秘密するんだもん。ちょっとむかついてさぁ」
「ちょっとだけお仕置き〜ってだけなの」
 謝る二人の間で、舞はしばらく泣いていた。

 泣いている舞を宥めながら、三人は近くの公園にやってきた。
「ほんとにごめんってばさぁ」
「許して〜」
 さっきから何度謝ったか知れないが、相変わらず舞は泣き腫らした目のままで膨れ面だった。
「私ら、何でも教えてくれると思ってたからさぁ」
「そうなのよぉ。どうして秘密なのって」
「アタシが考えてさ、一芝居打ったんだよ。悪ぃ……」
 少し沈黙が流れた。
「……それは、ゴメン」
 ポツリと舞が呟くように言った。雪菜と紗枝はセリフの中身よりも、口を開いてくれたことが嬉しくて、思わず顔を見合わせて笑う。
「裕介が、言ったの。噂になると恥ずかしいから、秘密にしてくれって」
「え?」
「あれ?」
 舞の言葉に二人は同時に首をかしげた。
「私ら、裕介君に聞いたべ?」
「そうよぉ。自慢してくれたよねぇ」
「は?」
 ぽかんとした顔で二人を見る舞。
「舞が恥ずかしがるけど、二人にだけはとかって」
「はぁっ!?」
 額に眉を寄せ、大変品のない顔になる舞。
「他でも結構喋ってるって、おんなじ部活の子が言ってた」
「あんのクソが……」
 拳を反対の掌に叩きつけ、怒りの表情を浮かべる舞。
「ま、舞ちゃん怖いよ」
「おお、ガン付けすげぇべ」
 二人の言う通り、目が赤いせいで、顔はまさに鬼女の如しだった。
「ちなみに、二人が裕介のこと、好きだってのは……?」
「ああ、んなわけないっしょ。バカ嫌いだし」
「裕介君は……ちょっと頼りがいに欠けるよね」
 二人の言葉に満足げに頷く舞。
「よし、女の友情破壊未遂の犯人として、今から殺しに行こう?」
「おおっ、チャゲアスだべ?」
「それは殴りにって、雪ちゃん古いね……。って殺しちゃ駄目だよぉ」
 目が座っている舞を慌てて宥めにかかる紗枝。
「そうだよ。殺しちゃったら、一緒に卒業式出られないってば」
 若干心配するポイントにズレがあるものの、取り合えず雪菜も宥めにかかる。
「あのクソ野郎、人に口止めしといてからに、自分でべらべらと……。挙句に私が照れるだと?私だってさぁ、自慢したいよ。彼氏で来たのーってさぁ」
「うんうん、そうだよね。分かるよ。でも、殺しちゃ駄目だよ」
 紗枝はよしよし、と舞の頭を撫でながら諭すような口調で宥めつづける。
「だって、ムカツクんだもん。あいつ、いっつもそう。自分勝手なの。我儘なの」
「ああ、馬鹿だからなぁ」
 と、吐き捨てるように雪菜。
「そうなのよぉ、何であんな馬鹿にほれちゃったのかなぁ、私」
「大丈夫、失敗は誰にだってあるからね」
「てゆーか、なんか酔っ払ったときの親父みたいになってきたな」
「うん、これはしばらくかかるね」
「しゃーねーな」
「うん、しょうがないね」
 べそべそと俯いて愚痴を吐きつづける舞の背中越しに、二人はそう呟き軽く笑いあった後で、同時にため息を付いたのだった。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「「は〜い、聞いてま〜す」」
 二人のやけくその声が、夕暮れの公園に空しく木霊した。

 
 


こんなものが出来上がってしまいましたとしか、言い様のない話です。
私の知る限りでこの頃の男の子だと「教えろよー」という力押ししか知らないので、小細工を弄するのは女の子なのでは?という思いつきから発生しました。
気が向いたら、感想などいただけますと幸いです。













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