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神憑
作:光風霽月



第十四話 龍神覚醒1


 夕日が沈みゆく河川敷、二人の男の子が一人の少年に武器を振るっていた。
 一人は優しそうな男の子、水の槍を正確に素早く突いている。
 一人は活発そうな男の子、炎の槍を力強く振り、払う。
 少年はそんな二人の攻撃を全て軽々と、あせりの色一つみせずに避けていた。
突然、脇に置いてあった目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。
「うっし、きゅーけー」
 少年の声で男の子二人の動きがピタリと止まり、思い出したように息切れをしてその場にへたれこむ。
「なんだぃ?もうへばったのかい?二人とも」
 呆れたように少年が尋ねる。
「……んな……こと……言ったって……うぷっ!?」
 活発そうな男の子は突然口を押さえ河に走り出す。
「んなこと言ったって……なに?」
 少年は活発そうな男の子を目だけで追って言った。
 しかし、聞かれた本人は胃に入っていた物が逆流してきてそれどころではない。
「地獄の柔軟三十分から始まって、走り込み10km、ダッシュ五十本、それから模擬戦一時間を三回なんて小学生の耐えれるレベルじゃないですよ……」
 息切れが治まった優しそうな男の子が活発そうな男の子の代わりに答えた。
「何を言うんだい戒君! 神憑の君達なら耐えれるギリギリのスケジュールを組んだんだよ!?」
「いや、実際耐えられないんですけど……」
 幼き戒は吐き捨てるように言って意識を切らした。


 時間は蕾のやられる数分前まで遡る。
(微妙にやな夢……)
 山の中、深い森の開けた場所で戒は目を覚ました。
(……血の味がする、それに息苦しい)
 戒は大きく咳き込み、器官に入った血を吐き出す。
(……えっと、確か攻撃しようとして、その時優が吹き飛ばされて、それに気をとられて――)
 状況を思い出しながら戒はうつ伏せになっている自身を起こそうとして力を入れる。入れるが体は動かず、耐えがたい激痛を感じるだけだった。
(……参ったなぁ、全然動かないや、頭もくらくらするし)
 仕方なく目線を動かし今の周りの状況を知ろうとする。
 真っ先に目に入ったのは発光する透明なドーム状のもの。
 透けて見える中には頭に角を生やし、身体中に緋い眼をつけた鬼が一体と無数の蕾。
(なんだろうあれ……? なんで蕾がいっぱいいるんだろう……)
 ぼんやりとした意識の中で戒がそう思った瞬間、蕾がドームを突き破り深い森の中に吹き飛ばされた。それと同時に戒は反射的に蕾の名前を呼ぼうとした。しかし、声は出なかった。


 目の前で起こった光景を見て、優は言葉が出なかった。信じらなかった。自分がまったく見えなかった速さを敵が反応した事に。
 優に頭にある疑念が生まれる。
(あんな奴に、一人残った俺は勝てるのか?)
 優はそんな思考をしながら歯を食いしばった。
(何を考えていやがる!! 簡単だ!! 早くあの鬼野郎を倒して、戒と蕾を助ける、それだけの事だ!!)
 優はそう自分に言い聞かせた。
 両手に大剣を握り締め、敵が中にいるドームを睨みつけた。
 主がいなくなったからなのか、そのドームは砂のように崩れていく。
 それと同時に強烈な殺気が優を襲った。
 崩れるドームの中には鬼がいた。本来ある目は閉じ、代わりに身体中に開かれた複数の瞳が緋く輝いている。
 その瞳が全て残った優に向けられた。
 優は背中が冷たくなるのを感じた。自然と体が震え、指すらも言うことを聞かない。優はその感覚に覚えがあった。
 優はそれらに気付き、右手をなんとか剣から離し、おもむろに自分の顔を殴った。
(ふざけんな!! 震えんな!! びびんな!! 俺の体だろ!!)
 優は鬼を見据える。それと同時に脳裏に蘇る思い出したくもない光景。
 血に染まってしまった懐かしき場所。動かない親しき者。そして、その中心に立つ黒く濁った狂気の瞳、残虐な笑顔。
(あいつに比べれば……)
 優は再び両手で剣を握りしめ、腰構えに構える。
「全開だ!!フレスベルク!!」
 その言葉と同時に風が吹き荒れ、優の大剣に集まっていき、刀身に竜巻を形成していく。


 同時刻。
 木々に囲まれた山の中、ボロボロの体で横たわる蕾の前に一組の男女が通りかかっていた。
 男女が蕾に気付くと、男の方が蕾に近付き顔を覗きこむ。
「あれ? 誰かと思えばさっきの」
 まるで町中で友人に偶然会ったかのように男は言った。
「知り合いですか?陽治」
「うん、さっき会った少年三人組の一人。大方酒天童子にやられちゃったようだね、忠告したのに」
 やれやれと、陽治は肩をすくめた。
「酒天童子?」
「うん、鳴海殺ったかもしんない奴らの一人」
 女は普段無表情を通している顔を少し歪めた。
「初耳ですよ?」
「うん、だって亜迦里ちゃんに言ってないもん」
 亜迦里は溜め息を吐き、すぐに表情を無に戻した。
「――で、今回はそのために出てきたと?」
「うん、まあ」
「……自分が決めた掟を覚えてますか?」
 少々言葉に棘をつけ、亜迦里は尋ねた。
「あ、か、勘違いしないでね!? 別に仇討ちとかじゃないよ!? ただどんな奴か見たかっただけ!! つか見るは見たし仇討ちなら速攻で消してるし!!」
 陽治はかなり動揺しながら答えた。
「……なら、いいです」
 亜迦里の許しに陽治は、ほっと胸を撫で下ろす。
「……しかし、」
 亜迦里は気を失っている蕾を見て言葉を続ける。
「鳴海を倒せる可能性があるという事は恐らく、」
「ああ、ゴッドクラスだったよ」
 陽治がそう頷いた。
「一応彼等にも言ったし、遠間から能力を見て、ランクも聞いて、それでは勝てないと言った、了承もしてた」
「……莫迦ですか?」
「さあ? なんか因縁でもあんのか、自信があったのか、またはそれらに流されたのか、まあ、勝ち目は元々――」
 言って、陽治はふと空を見上げ、何かに気付いた。
「――そういえばあの中に……」
「どうしました? 陽治」
「面白そうだ、見晴らしのいいとこ探そう」
 そう呟き陽治は歩き出す。
「陽治?」
「極限状態において、人は限界以上の力を出す、天すら味方にしたらそれは図りしれない、ってね」
 空は今にも降り出しそうな曇天だった。


 場所は戻り、再び戦いの場。
 優は対峙する鬼に鋭い眼差しで睨みつける。その手に持つ大剣は竜巻を纏い通常より二回り程大きく見えた。
 優は鬼に向け、一歩二歩と歩みを進め、やがて歩みを走りに変え、一気に間を詰めていく。
 間合いが三歩の距離になると優はそこで地面を強く蹴りその場で飛び、鬼に大剣を降り下ろす。
 鬼は両腕を交差させそれを受け止める。
鬼の両腕は剣が纏う竜巻により血しぶきとともに削られていく。
 それを気にするでもなく鬼は右腕を離し、優に突き出す。それに気付いた優は剣の切っ先から下に向け風を放出し、その勢いで後方に飛ぶ。
 地面に着地すると直ぐ様地面を蹴り、姿勢を低くしながら鬼に突っ込む。それに反応し、鬼は突き出した右腕をそのまま振り下ろす。
 それに対し優は体を回転させて紙一重で避け、さらにその勢いを使って鬼の脇腹に剣を振り上げる。
 必中を確信した優だったがその攻撃が途中で止まる。見ると、鬼の左手が優の大剣を止めていた。
 間髪入れず鬼は優に蹴りを繰り出す。咄嗟に優は大剣から先ほどより強い風を放出し後ろに逃げようとした。
 しかし、蹴りは優が逃げる前に優の脇腹に直撃しそうになる。
 優は瞬時に脇腹に風を集め防ごうとするが、蹴りは止まらず優の体を吹き飛ばした。吹き飛んだ優に鬼は追い撃ちをかけるために一足で詰め寄る。
 優はそれを待ってたかのように不敵に笑いながら大剣を鬼に向けた。
 刹那、剣の切っ先から竜巻が吹き出し、鬼に直撃する。
 竜巻は鬼の体をミキサーのように削りながら鬼を吹き飛ばす。
 優もその反動で鬼とは逆方向に吹き飛び、やがて進行方向にあった木にぶつかり、地面に倒れた。
 優は手を地面につき、酷く咳き込みながら血を吐き出すと、ゆっくりと起き上がり木に寄りかかる。
(……ちくしょう、ただの蹴りがなんて威力してやがる。風でガードしてなきゃそのまま死んでたぞ……)
 優は木と大剣を支えによろよろとダメージの残る体をなんとか立ち上げ、鬼が吹き飛んだ方向を見据える。 優はその光景に唖然とし、歯ぎしりをたてた。
「……化け物が」
 見据えた先では、鬼は平然と立っており、優の攻撃で傷付いた体は既に治りかけていた。
「……こっちはもうバテバテだってのによ!」
 そう言って優は剣を辛うじて構える。その優に鬼は淡々と近付いてくる。
「風切!!」
 重い体をなんとか動かして大剣を振り、真空の刃を鬼に放つ。しかし、鬼は腕の一振りでそれを打ち消す。
「……くそ」
 続け様に優は剣を振るい真空の刃を放つ。
それも同じように打ち消される。
「くっ、もう一発!!」
 そう言って三度剣を振るう。しかし、今度は大剣は何も放たなかった。
「!?」
(しまった、もうか!?)
 優はその事実を確かめるように剣を何度も振る。だが何度やっても真空の刃どころか一陣の風すらも大剣は放たなかった。
(やっぱり、ストック切れか……どうする? この場で風を集めて……いや、風が弱くてすぐに集まらない。剣をバラして風を作るか? ……駄目だ、武器を無くして闘える相手じゃない。他に、なにか……)
 焦りながらも必死に考えを巡らす優。そんな優に鬼は着実と近付いてくる。そして、
(なにか、なにか、なに……か)
 とうとう鬼は優の目の前に立った。
「……くそがっ……」
 闘う術が尽きた優は苛立ちと悔しさの混じった言葉を吐いた。そんな優に鬼は躊躇なく拳を撃つ。
 優は反射的に大剣を盾にするが、大剣は拳の威力に負けて砕け折れる。鬼は出した拳を一度引き、再度拳を撃つ体勢に入る。そして、拳か放たれる。
 それを見て優が諦めかけた。
 だが、優の眼前で鬼の拳が止まる。
(……なんだ? なにが起きた?)
 訳が分からない、優がそう思っていると、頭に冷たい何かが落ちてきた。
(……雨?)
 優が気付いたのが合図のように空からは次々と水滴が落ち、やがて豪雨になって辺りに降り注ぐ。
(これが奴の攻撃を止めた?)
 疑問に思いながら鬼を見ると鬼は振り返って何かを見つめているように見えた。
 優は首を曲げ鬼が見つめている方向を見て目を疑った。
「……良かった、これなら闘える」
 そこには鬼の一撃を喰らい、瀕死になっていた筈の男が上を、雨を降らす空を見上げながら立っていた。
「か……い?」
 戒は鬼の方に向き直る。
「動ける? 優」
 鬼からは目をそらさず、戒は優に問いかける。
「な、お前、だって、さっきまで」
「大丈夫そうだね、なら蕾のところに行ってあげて」
「ば!? お前一人でなんとかできる奴じゃないって解ってるだろ!!」
「今なら、なんとかなるんだ」
 一喝する優に対し、戒は微笑んでそう言った。
「お前冗談を言ってる場合じゃ……」
 優が言いかけた瞬間、鬼は戒に向かって走り出す。
(しまっ――!?)
「戒ー!!」
 気付いた優は叫ぶが時既に遅し。
 鬼は攻撃の当たる距離になると右腕を振り上げ戒に向けて突き出す。
 しかし、戒はそれに動じる事なく右手を広げ真っ向から受け止めようとする。
 すると、雨が急激に凝縮して水の固まりを作りだし、戒の右腕から手までを包みこむ。その事象の終わりを待たず鬼の拳が戒の掌に当たり、凄まじい破裂音が辺りに広がった。
「な……!」
 その光景に優は只々驚愕した。解放した後の鬼の攻撃は戒達にとっては全てが必殺で、一度でも直撃すれば戦闘不能、そう考えて蕾も優も鬼の攻撃を受けるのではなく避ける事で防いでいた。
 だが、その攻撃を真っ向から戒は受け止めている。
 そしてその攻撃を受け止めた右腕には蒼き鱗で造られた手甲が覆っていた。
「戒、お前……」
 問いかける優に対し戒はは柔らかな笑顔で答えた。
 優はその笑顔を見るとゆっくりと首肯し、蕾が吹き飛ばされた方角に走り出した。
「……さて」
 優の姿が森に消えるのを見計らって、戒は鬼に視線を戻した。
「ラッキーだ、タイミングを計ったみたいに雨が降ってきた」
 戒の言葉が終わると同時に鬼はもう一方の手を戒に向かって真っ直ぐ突き出す。
 戒は瞬時に反応し後ろに飛んで避ける。
「日頃の行いのおかげかな」
 皮肉ったように言うと雨が戒の周囲に集まり、戒の周りで天を衝くような高さの水柱を複数作っていく。
 戒は目を閉じ言葉を紡いだ。
「……解放……」


本当に久々の更新。もうぐっだぐたで自己嫌悪悪化です……。はぁ……。話も先伸ばし先伸ばし、とりあえず今の話は終わらせたい。











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