「ただいまー!
「お邪魔します」
そう言って玄関に入る二人。
そうすると、すぐに蓮実が出迎えてくれた。
「おかえり、蒼。早夜さんもいらっしゃい」
そんな蓮実の格好は、相変わらずフリルのエプロンだ。
「ああ!! 早夜チャンおかえり! さあ、お兄ちゃんにただいまのハグを!!」
そう言って抱きつこうとする楓を、蒼がいつものように阻止する。その様子を早夜は、苦笑しながら見ていた。
(おかえりか……なんかいいな……)
母のアヤはいつも残業ばかりで、自宅にはお帰りを言ってくれる者は居ないからだ。
そんな事を考えながら、ボーっとしていると、蒼が早夜の手を引いた。
「ほら、早夜。馬鹿お兄なんかほっといて、早く行こう」
それから、テーブルに着くと、すでに先客が居た。
和服姿の男性が、音楽雑誌を読んでいる。亮太の父、翔太郎だった。
普段、彼はこうして着物姿で過ごしている。最初出会ったあの姿は、自宅ではほとんど無いものらしい。
早夜も最初、そのギャップに驚いたが、現在では此方の姿の方が馴染み深くなっていた。
その傍らには、相変わらずのマリアの姿もある。
「あの、翔さんマリアさん、お邪魔してます」
彼らの前でぺこりとお辞儀をする。
「んっ!」
「早夜チャンおかえりー! あーチャンも(蒼の事)おかえりー!」
マリアがにこやかに返事をする。
「あっ! 早夜お姉ちゃん、お帰りなさい」
そう言って出てきたのは、海里だった。それにピクッと反応する蒼。
「あ、こら! 私には挨拶無しなの?」
「ああ、あーちゃんもおかえりー」
「んん? 何かついでみたいな言い方ー……。ふーん……あのね早夜。この子実は、この前男の子にラブレターもらったのよ」
意地悪な顔で早夜に耳打ちする蒼。
「あー!! 言わないでよー!」
海里は頬を膨らませて言う。
「ただいま」
その時、玄関から茜の声が聞こえてきた。
蓮実はぱっと顔を輝かせる。
「茜さん、お帰りなさい」
そう言って、パタパタと掛けていく姿は、まさに夫の帰りを喜ぶ妻そのものだった。
耳を澄ますと、二人の声が……。
『蓮実、お帰りのキスはしてくれないのかな?』
『ええ!?』
『たまには、蓮実からしてもらいたいな……』
『えーと……』
……しーーーーん……
ガチャと、暫らくしてドアが開いて、満面の笑みの茜が出てくる。その後ろから、頬を赤らめた蓮実の姿。
「あーあ、まったくバカップルなんだから……」
蒼が、そんな様子の二人を見て、ぼそりと呟いたのだった。
その後、亮太の姉の百合香も帰ってきて、(今日は清楚な感じのワンピース姿)皆でテーブルに着き、すき焼きパーティーは、開催された。
「あれ? 亮太君は?」
「あいつは、部活で遅くなるから、先に食べちゃいましょ?」
何か悪いような気がしたが、皆は構わず食事を始めるので、早夜もそれに習った。
「そういえば、前から思ってたんですけど、百合香さんは何のお仕事をしているんですか?」
何とはなしに聞いてみる。何故かいつも違う格好なのだ。この前など、チャイナ服で現われた。
百合香は卵をかき混ぜる手を止め、少し考えるようにすると、爽やかな笑顔で唇に指を当てた。
「それは、な・い・しょ」
「そうなのよ! ユリ姉の職業だけは、ここに居る誰も知らないのよ」
蒼の言葉に百合香はフフッと笑った。
「でも、如何わしい仕事じゃない事だけは断言できるから、安心してね、パパ、ママ」
「そういえば、蒼ちゃんと亮太君って、許婚同士なんですよね? 何か素敵ですよね……」
そう言った早夜に、一同ピタリと動きを止めた。
マリアは嬉しそうに顔を輝かせる。
「そうだよ! 私たちが、学生時代のときに約束したんだ! 私たちが、将来結婚して子供が生まれたら、子供同士で結婚させようねって」
「ええ! 学生時代って、皆さん同級生なんですか?」
早夜が驚いて言った。
するとそんな早夜を見て、茜が苦笑する。
「いや、同級ではないよ……私たちは生徒会の仲間だったんだ。翔さんが会長で、私が副会長を勤めた。蓮実とマリアは、それぞれ書記と会計だったかな」
「それで、翔さんの卒業式の時に、この約束をしたんだよね」
「うん……まあ……かわいい約束だったよね……」
そう、遠い目をする茜。
それを聞いて、マリアはぷぅっと頬を膨らませる。
「もうっ! かわいい約束じゃなくて、素敵な約束でしょ? 最初は、ユリちゃんと楓君も許婚同士だったんだよ。それから、亮チャンとあーチャンが産まれて、年も同じだし丁度いいねって」
「でも、一番大事なのは、本人の意思だからね……」
と、蓮実。
「そうよねぇ、本人の意思が大事よね……」
と、これは百合香。
「そうだよね、だって亮兄ちゃんは……」
そう言って、チラッと早夜を見る海里。
そこでハッと気付くマリア。
「あ、そっか、亮チャンって……」
皆、一様に早夜を見る。
早夜は何故自分が見られているのか分からずに首を傾げた。
「ただいま」
そこへ丁度、亮太が帰ってくる。
一歩部屋に足を踏み入れ、「うっ」と、立ち止まった。
皆が此方を生温かい目で此方を見ていたからだ。そして、彼らがそろって『おかえりー』と、ニヤニヤしながら言ってくる。
(な、何なんだ!? この空気は!?)
「お帰りなさい、亮太君」
その時、早夜に挨拶をされた亮太は思わず口に手を当て、赤面してしまった。
早夜が家に居る事にも驚いたが、それ以上に、早夜にお帰りと言われた事が嬉しかったからである。
そんな亮太の様子を見て、一同が『ねー』と顔を見合わせていた。
食事も終わり、一同まったりとした空間の中、蒼が早夜に訊ねる。
「ねえ早夜、今日このまま泊まってかない?」
すると早夜はニッコリと笑ってに頷く。丁度、お願いしようと思っていた所だった。あの夢を見なくなって、朝起きた時のあの感覚は、相当堪えるのだ。
それを聞いた蓮実は、
「あ、そういえば……この前、買っておいたんだった」
そう言って、部屋を出て行く。
暫くすると、紙袋を持って戻ってきた。
「パジャマ買ってきたんだ。勿論、早夜さんの分も」
嬉しそうな蓮実に「えっ!?」と、驚く早夜。わざわざ、買ってくれるなんて、悪いなと思った。
そして、蓮実は、袋をゴソゴソと漁ると、
「はい、早夜さんのはこれ! ウサちゃんフード付きパジャマ!」
ぴらっと、そのパジャマを見せる。
“ブーー!!”
その時、水を飲んでいた亮太は、盛大に吹き出した。
「ちょっ! もー、汚いなー、やるならあっち行ってやってくれる?」
そう蒼が怒った。
早夜はビミョーな顔で、そのパジャマを受け取ると礼を言う。
「あ、ありがとうございます……」
「はい、蒼と楓にも」
そう言うと、二人に手渡す。
蒼はネコ、楓にいたっては、ペンギンだった。
「で、私のは何だい?」
茜が尋ねると、蓮実は残りのパジャマを出した。
「茜さんは、ライオンと羊、どっちがいい?」
その質問に、茜はふっと笑うと、
「何? 蓮実、それってもしかして願望?」
「えっ?」
首を傾げる蓮実に、茜は詰め寄った。
「ライオンみたいに襲いたいの? それとも、子羊みたいに襲われたいの?」
「ち、違います!! 残りがたまたまこれしかなかったんですっ!!」
慌てて力いっぱい否定する蓮実。すると茜は、つまらなそうに羊のパジャマを取った。
「しょうがないな、今日は、羊にしとくよ」
そう言ってから二ヤッと笑うと、頬杖を着いて蓮実を見た。
「今夜は楽しみだな、どう私を襲ってくれるのかな?」
「もうっ! 子供達が居るんだから、そういう話は禁止です!!」
そんな様子を見ていた杉崎家母のマリア。
「ねぇ、翔さん。私達もアニマルパジャマ買おうよ」
正太郎の腕をゆすりながら、マリアは言った。
それを聞いた亮太は、やめてくれと思った。
「ねぇ、翔さんはどんな動物がいい?」
そう尋ねるマリア。
亮太は心の中で懇願する。
(親父! 頼むから断ってくれ!)
その時、翔太郎が口を開いた。
「……パンダ……」
シーーーンと静まり返る室内。
温度が、一気に下がったかのようだった。
「へー、パンダかー、翔さんってパンダ好きだったんだ」
そう言って笑うマリアに、翔太郎はまた口を開いた。
「……色が潔い……」
「色? うん、白と黒だもんね、いさぎいいよね!」
そう言って、納得するマリアだったが、そのほかの面々は一同心の中で(訳分からん!!)と、はもっていた。
その時、百合香が、この場の空気を変える、ある提案をした。
「ねぇ、早速だからお披露目しましょうよ」
「いやー、翔さんが二言以上しゃべったのには驚いたわ……よっぽど好きなのね、パンダ」
今、早夜と蒼は、二階の蒼の部屋に居る。そして、二人であのパジャマに着替えていた。
百合香の提案は通ったのである。
「あれ? 早夜、その首にぶら下げてるのは何?」
下着姿になった早夜に蒼が尋ねた。
見れば紐が首に掛けられ、その先には小さな袋のようなものが着いていた。
「ああ、これ? お守りだよ。お母さんが肌身離さず持ってなさいって」
そう言って早夜は、それを手に取る。
蒼は、それをまじまじと見ると、
「中には何が入ってるの?」
「んー……私にもよく分からないんだけど……。もし、離れ離れになっても、また出会えるおまじないって、お母さんは言ってたな……」
「ふーん、どんなおまじないなんだろ? 後で聞いてみようかな……」
その時、一階リビングでは――。
「楽しみだねー!」
「ん!」
はしゃぐマリアに、うなずく翔太郎。
「私は早夜ちゃんさえ見れればいいわ……ねぇ、亮太?」
百合香が、亮太に同意を求める。
亮太は、顔を赤くして怒鳴る。
「俺に同意を求めるな!」
「え? 亮兄ちゃん、楽しみじゃないの? 早夜お姉ちゃんの、ウサ耳フード姿」
海里が、ニヤニヤとした顔で亮太に言う。
そんな弟に、動揺したようにあわてて否定する。
「バッ! んなっ、そんなんじゃない! 俺はただ蒼と、楓兄を笑ってやろうと……」
その時、「お待たせー」と言う蒼の声に、亮太はビクッと体を震わせた。
「まずは私達から……。お楽しみは後に取っておくものだろう……?」
そう言って、出てきたのは、茜と蓮実だった。
そのあまりのファンシーさに、亮太はうっとうなった。
フード部分に、動物の顔が描かれており、頭の上には動物の耳が付いている。それは、大の大人が着るには、あまりにも可愛過ぎないか? と亮太は思ったが、意外と二人は似合っていた。
「わー! 二人とも可愛いー!! 手と足の部分は、ちゃんと動物の手足なってるんだね!」
マリアが、はしゃいだ。翔太郎は、無言で手を叩いている。
「茜さん可愛い……」
ポーとした様子の蓮実。そんな蓮実に、くすっと笑う茜。
「じゃあ、今夜は襲われちゃうのかな?」
そう言う茜に、蓮実はポーとしたまま、
「……うん、襲っちゃう……」
(おい!さっきそういう話、禁止って言ってなかったか?)
と、心の中でつっこむ亮太。
「じゃあ次、蒼行きます!」
そう言って腰に手を当て、モデル歩きで出てくる蒼。その手には、お尻部分に付いた長い尻尾をつかみ、くるくると回している。
中央まで来ると、モデル立ちできめた。
「うわー! ニャンコも可愛い。長い尻尾も可愛いねー。あ、ニャンコには、鈴も付いてるんだね!」
蒼の首元には、いわれた通り大きな鈴が付いている。
翔太郎は、やはり無言で手を叩いている。
「はーい、じゃあ続いては、お待ちかねの早夜っち登場!」
と言う蒼だったが、早夜はなかなか出てこない。
その時、扉が少し開いてピンク色の動物の手が出てきた。
そしてひょこっと顔を出すウサギの耳、早夜の顔も一瞬出てくるが、すぐに引っ込んでしまった。
「ううっ、蒼ちゃん、恥ずかしいよぅー……」
そんな声に、何とも言えない空気が漂う室内。
皆、一様に微笑んでいる。
「ほら、早夜。あんたすんごく可愛いから出てきなって、買ってくれた蓮見ちゃんにもちゃんと見せてあげなくちゃ」
その言葉に、漸くそろそろと出てくる早夜。
そして、全身が出てきたと思うと、タタッと蒼の後ろに隠れてしまう。その時、お尻の部分が見えたのだが、可愛い丸いウサギの尻尾が付いていた。
「かわいいー!! 早夜チャンすごく可愛い!」
マリアの声に、翔太郎も今までで、一番拍手の音が大きかった。
そして皆、何気に亮太に目を向ける。
亮太は、ぽかんと口をあけたまま顔を赤くして、早夜に魅入っていた。
そんな亮太の姿に皆、無言で顔を見合すと、『ねー』と声を出さずに首を傾けるのだった。
「僕、忘れられてないか?」
楓が、寂しそうに、廊下から部屋の様子を伺う。
青いペンギンのパジャマを着ている楓。
彼は完全に忘れ去られていた。
「それにしても……早夜チャン……良い……。蓮実ちゃん、グッジョブ!」
彼の顔は、だらしなくゆるんでいたのだった。
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Wandering Network恋愛ファンタジー小説サーチ
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