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 第二部《第一章》開始です。
《第一章》
~再会~
『 小さなその手を握った時、

  この手を引いて、何処までも行こうと思った。

  つぶらなその瞳を見た時、

  その瞳が恐怖や悲しみによって濁らぬ様、見守ってゆこうと思った。

  その、天から降ってきたような、清らかな笑い声を聞いた時、

  この身の全てで、この小さな妹を守ってゆこうと思った 』


 〜クラジバール・ピトの研究所〜


「ここ数日、リジャイの奴は何処で何をしておるのだ! 全く、姿を現さず、もしや何かあったのか!?」

 金色の耳と尻尾を逆立てながら、イライラとしているロイ。

「そうだな。早夜の元に行っているんだろうが、何も連絡を寄こさないのはおかしい……」

 ムエイことリュウキも、心配そうに呟く。

「そうですよね。早夜の事、色々聞きたいのに……。それに、あの影の男の事も……」
「リュウキさんに聞いた話も合わせると、結構複雑な話になってくるしな……」

 蒼と亮太も、そんな事を呟く。
 彼の幼い頃の話を聞いたのだ。
 彼と早夜が、異界に渡る切欠、そして離れ離れとなってしまった理由。
 それによれば、あの影の男は、オルハリウムと言う名の仮面の男で、今まで早夜の母だと思っていたアヤは、実は早夜の本当の母親の侍女だった女性だと聞いた。
 そして恐らく、人質となっているのは、その本当の母親の方で、アヤがどうなってしまっているのかは、全く分からないとの事。
 そのオルハリウムという謎の男。
 狙いは、早夜の万物の力を手に入れる事。捕まれば十中八九、殺されるであろう事も聞いたのだ。

「でもまー、リジャイなら、その内ひょっこり顔を出すんじゃねーか? 今までだってそうだったし」

 カムイが、固い干し肉を齧りながら言った。
 干し肉は、腹が減ったと言って、何処からか持ってきたのだ。

「フム、そうジャな。リジャイの事は、気長に待つしかないかの。あの男はこの国に囚われていながらも、何処か自由な男ジャし。かといって、意味の無い事はせぬ男ジャ」

 カリカリと紙に何かを書きながら、魔学者ピトは言った。
 周りには魔道生物が飛び回り、先程から、甲斐甲斐しく皆にお茶を運んだりと忙しなく動き回っている。
 花ちゃんはというと、蒼の傍にいた。そして、その包帯と呪符で巻かれた腕を、献身的に擦っている。
 まるで、そうする事で、治るとでも言うように。

「でも、ただ待ってるのもなんジャし、ワシこんなの作ってみた」

 そう言ってピトは、今まで書いていた紙を皆に見せる。

「さっきから思ってたんだが、何を書いているんだ、それは?」
「ムフフ、これはの、新しく考えた探索陣ジャよ」

 紙には、複雑な魔法陣が描かれている。

「何だか、物凄くややこしいものではないか?」

 ロイが眉を顰めてその陣を眺める。
 色々な要素を付け加えているその魔法陣は、理解するだけで相当の年月がいりそうなほどだた。

「いいんじゃよ。ただの実験ジャし……。それに、相手の髪やら爪やらも必要ない、これはただ相手を念じるだけでいいんジャ」
「ほぅ、それは簡単だな」

 ロイやリュウキが感心する中、ピトは手をかざし、魔力を注ぎ始める。

「フーム、それでの、最終的には、今何をしているか、会話、思考なんかも読めるといいのぅ。
 おお、そうジャ! 相手が遠隔操作で操れたりなんかすると面白いのぅ!」

 フムフムと頷くピトに、他の者達は、どうか成功して、悪用されませんようにと祈るばかりであった。
 暫く様子を見ていたが、陣には何の変化も無い。

「なぁ、ピト。これって、相手が見つかると如何なんだ?」

 カムイが尋ねる。

「おかしいのぅ。魔法陣が作動すれば、直ぐにでも反応を見せる筈なんジャ……」
「で、誰を探してるって?」
「リジャイに決まってるジャろう。ウーム、試しにミリアを探してみるかの」

 ミリアと聞いて、ピクピクと耳を動かすロイ。
 すると直ぐに陣は反応し、赤い光が糸状となって、ある方向を指し示す。
 周りから、「おお!」と声が上がる中、ピトは更に首を傾げた。
 因みに、色は距離を表す。
 白い光が一番遠く、次に青い光、緑、黄、赤となってゆく。
 今この光は赤い為、ミリアはこの研究所内にいると思われる。

「ウーム、全くもっておかしいのぅ。ちゃんと機能はしとるらしいのに……。どれ、もう一度リジャイを……」

 しかし、やはり何の反応も示さなかった。

「まさか、あの男し――いや、何かあったんじゃあ……」

 最初死んだのではと言おうとして、リュウキとカムイに不機嫌そうに睨まれてしまい、慌てて亮太は言い直した。
 カムイは珍しくイラだたしげに、ブチッと干し肉を引き千切った。

「あいつがくたばる訳ねーじゃん」
「そうジャの。あの男に限っては、そういう事は考えられん。何せあの男は――」

「あ! いたいた! ムエイ様! 大変です!」

 その時、慌てたように、ミリアが入ってきた。

「おお、ちゃんとこの探索陣は合ってた様じゃ」

 先程の赤い光を思い出し、ピトは満足げに頷いた。

「ヌッ!? ミ、ミリア!?」

 フサフサの尻尾をピンと立て、耳をピクピクとさせるロイ。
 それからリュウキは、ミリアのその慌てた様子に、訝しく尋ねた。

「如何したんだ!? 何かあったのか!?」
「そーいや、イーシェがいねーな?」

 カムイが目線を走らせ探すが、その姿は見つけ出せなかった。

「い、いま、イーシェは治療魔法をしてて……異界人が怪我をしたって! 背中が血だらけでッ!」
「ちょ、ちょっと待つのだ! もう少し落ち着いて話をするのだ!」
「フム、まずは茶でも飲んで、一息ついてくれんかの。話はそれからジャ」

 ミリアの元に、魔道生物がお茶を運んでくると、それを一気に飲んでホッと息を吐き出した。
 そして、少し落ち着きを取り戻すと、

「えっと、まず、ナイール王子から連絡があって……。何でも、怪我をした異界人が居るから、治療をしてくれって。私も何か手伝えないかと思って、一緒についていったんだけど……」

 そこで一旦言葉を区切って、手を胸の前でギュッと握る。

「背中一面がズタズタで……王子は、ムハンバード王が鞭で打ったんだって言ってた……」
「フム……あの王は、よく奴隷をそうやって甚振るのぅ」
「……それでね、ここからが大事な事なんだけど……」

 ミリアは顔を上げると、リュウキの顔を見つめる。何処か気遣わしげだった。
 リュウキも何かを感じ取り、顔を険しくさせる。

「その異界人って言うのが、アルフォレシアから連れてきた、例の魔力の持ち主だって……」

 ガタンと席を立つ音が響く。
 リュウキだけではなく、蒼と亮太も立ち上がっている。

「そ、それってまさか……」
「早夜さん!?」
「ちょっと待て、リジャイは一緒じゃないのか!?」

 しかしミリアは首を振り、

「リジャイの事は分かりません。それにその異界人も意識が無くて確認は取れませんでしたけど……でも、ムエイ様と同じ、黒い髪の女の子でした……」

『ッ!!』



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