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《第五章》
6.不穏な影
 〜日本・一時帰宅その後 最終日〜


「今日は、歓迎パーティーだよ!」

 蓮実がいきなり言い出した。

「どうしたの、蓮実ちゃん。いきなりじゃない? それに、やるならお別れパーティーじゃないの?」
「お別れじゃ、何か悲しくなっちゃうからね。歓迎パーティーにしました!」

 そして、驚く蒼をよそに、蓮実は花ちゃんと顔を見合わせて「ネー♪」と言い合った。

「えー!? 何々〜?」
「秘密ナノデツ!」
「そうそう秘密!」

 花ちゃんと蓮実は、クスクスと笑い合っている。
 首を傾げる蒼。

「花ちゃん、これ私たちから……」

 そう言って、百合香と海里が、花ちゃんに綺麗にラッピングされた何かを差し出す。

「何デツカ?」

 花ちゃんがそれを開けると、中には、花ちゃんを描いた絵と、花ちゃんが着れる位の小さい小さい服だった。

「ウワー! アリガトウナノデツ!」

 そう言って、頬を染めながら、早速その服を着る。
 マジックテープで止められるようになっており、花ちゃんでも着やすかった。
 襟の部分に青色のリボンが付いていて、ビーズで出来た花ちゃんの顔をモチーフにした飾りがつけられている。
 花ちゃんは、それを手に取ると、キラキラした目で百合香を見、二人して意味あり気に笑った。
 そして、花ちゃんの頭の花の色に合わせたそのピンク色の服は、ポンチョ風になっており花ちゃんに良く似合っていた。何より、とても可愛らしい。

「海里モ、アリガトーナノデツ。トテモ上手ナノデツ!」

 花ちゃんがそう言うと、海里は照れくさそうに笑った。
 そして花ちゃんは、お礼にと言って、テーブルの真ん中に立ち、

「ロボットノ舞ナノデツ!」

 そう言って、踊りを披露した。
 やっぱりその顔は微妙で、皆、笑いを堪えるのに必死であった。




「何か、私達だけ何も無いわねー……」

 楓のロボットの玩具や、翔太郎達の肥料などを見て、溜息を付く蒼。

「そうだな……」

 亮太も呟いた。
 すると、花ちゃんはキョトンとして言う。

「蒼ハモウ、僕二クレマツタヨ」
「え!? 何を?」
「一番素敵ナモノナノデツ!」
「えぇ!?」

 首を傾げる蒼に、花ちゃんはクスクスと笑うと言った。

「僕二名前ヲクレマツタ。一番ノ贈リ物ナノデツ!」

 ピトーッと花ちゃんは蒼に抱きついた。

「花ちゃん……」

 そうして、蒼は花ちゃんをいい子いい子をするように撫でてやる。

「蒼ハ、僕ノモウ一人ノマザーナノデツ……」




 亮太は一人、離れた場所でソファーに座り、項垂れていた。

「……俺だけ何もやれてない……」

 その時、ツンツンとズボンの裾を引っ張られ、見てみると、花ちゃんが此方を見上げていた。

「ごめんな花。俺だけ何も用意して無くて……」

 すると花ちゃんは、二パッと笑い、首を傾ける。

「ジャア、僕ノオ願イ、聞イテクレマツカ?」
「なんだ?」

 亮太が身を乗り出すように尋ねると、花ちゃんはヨジヨジと亮太の足をよじ登り始める。
 亮太は、それを手助けしてやると、

「秘密ノ話デツ」

 と言って、耳元に連れて行くよう要求した。
 そして、口元に手を添えると、こっそりと言った。

「蒼ヲ、護ッテアゲテ下サイデツ」
「は?」

 亮太は、思わず花ちゃんをまじまじと見詰めてしまう。
 花ちゃんは、そんな彼を静かに見据えた。

「蒼ハ、本当ハトッテモトッテモ弱イ女ノ子ナンデツヨ。ダカラ、亮太ガ蒼ヲ護ッテアゲテ欲シイデツ……」

 そう言って、フフッと笑うと、亮太からピョンと降り、皆の元へと駆けて行く。
 亮太は、そんな花ちゃんをポカンとした顔で見送るのだった。



「皆、写真とらない?」

 蓮実がそう提案すると、皆、イイネーと言って、中央に集まる。
 花ちゃんを抱いた蒼を真ん中に、亮太はその隣、と並んで立つ。
 すると蒼は、亮太に小声で聞いてきた。

「そう言えばさっき、何を花ちゃんとコソコソ話してたの?」

 その言葉にギクリとする亮太は、花ちゃんと顔を見合わせた。
 花ちゃんは、口に手を持ってくると、シーと言う。亮太はそれを見ると、前を見て言った。

「それは……」
「それは?」

「……秘密だ!」
「ソウ、秘密ナノデツ!」

 花ちゃんはニコニコと笑っている。

「もう! また秘密!?」

 頬を膨らませる蒼だったが、シャッターが切れると、笑顔になる蒼であった。



 あの後、蒼と亮太は制服に着替え、早夜のアパートへとやってきた。
 パーティーが終わった後、美名月家と杉崎家の面々は、花ちゃんにお別れを言った。今日行って、アヤがいなかったら、そのままあちらへと戻るつもりだったからだ。
 なので、今日は花ちゃんも一緒にいた。
 中に入ると、やはりいつもと同じ、誰も帰ってきている様子は無い。
 はぁーとため息を吐き、青と亮太は顔を見合わせ、頷きあった。
 そして、部屋を出て行こうとした時、花ちゃんが何かに気付いた。

「アレハ何デツカ?」

 花ちゃんは、テーブルの下を示している。
 
「これは呪符?」

 蒼が手にとって見てみると、それは何処かリジャイやルードから渡された呪符によく似ていた。どちらかと言えば、リジャイの方により近かったが……。
 花ちゃんはそれを見ると言った。

「コレハ移動スル為ノ呪符ナノデツ! モット正確二言ウト、指定サレタ場所二、強制的二移動スル物ナノデツ!」
「これみたいな?」

 蒼は、リジャイから渡された呪符を、花ちゃんに見せる。

「ソノ通リナノデツ! トッテモヨク似テイルノデツ!」
「ちょっと待てよ。じゃあ、早夜さんのお母さんは、呪符でどっかに移動したって事か?」
「アイ、コレハ既二破カレテイマツカラ、術ガ執行サレテイマツ」
「って事はやっぱり、早夜も、早夜のお母さんも、異世界からやって来たって事?」
 
 そうではないかと感じてはいたが、このようにその証拠を突きつけられると、やっぱりショックは大きい。

「これは、一刻も早く、早夜の元に戻らないとね……」
「ああ、そうだな……」

 その時だった。
 何か部屋の雰囲気が、ガラリと変わる。
 何処かねっとりとして、身体に纏わりつく様なその感じに、蒼と亮太は辺りを見回す。

「な、何これ……?」

 見た所、何も変った様子は無いのに、明らかに何かが変っていた。
 亮太も念の為、アルフォレシアで渡された、護身用の剣を手に構える。

「……なにか、いる!?」

 その時、何かがザワリと蒼の手を撫でた。
 見ると、破れた呪符から、真っ黒い靄が染み出していた。

「いやぁっ!? 何これ!!」

 思わず蒼は、その呪符を放り投げてしまう。
 ヒラリヒラリと舞う中で、次の瞬間、その紙切れからブワッとその黒い靄が膨れ上がった。
 亮太は、蒼を庇うように前に立つ。
 そして、その黒い靄は、徐々に人の形を取り、亮太達の前に降り立った。

『――オミサヤ――』

 その黒い人影は、言葉を喋った。その声は男性のものに聞こえる。
 それからそれは、何かを探すように、手を伸ばした。
 どうやら、此方の姿は見えていないらしい。

『――何処にいる? オミサヤ、近くにいるのだろう……?』

「……ねぇ、オミサヤって、確か、早夜の事じゃない……?」

 蒼が声を潜めて亮太に言うと、亮太はその影から目を離さないまま頷いた。

「……ああ、恐らく――……」

『――此方へ来るがいい、オミサヤ……。お前の父も母も皆、お前を待っているぞ……?』

 優しく囁くようにそれは言った。

「えっ!? それっておばさんの事!?」

 思わず声を上げると、その影は此方に気付いたようだった。

「来る――!!?」

 亮太は身構えるが、その影は亮太をすり抜け、蒼の前へと降り立つ。

「ひっ!!?」

 思わず後ずさる蒼。だが、影は逃さまいと蒼の手を掴んだ。

「熱っ!!」

 一瞬熱いのかと思っていたが、それはそう勘違いする位冷たかった。

『――お前がオミサヤか――……』

 影がそう言う。
 蒼は必死にその手を剥がそうと試みるが、此方からは触れる事が出来なかった。

「ち、違うわよ、バカ! ここには、そんな名前の人はいないわ!」

 蒼がそう叫ぶと、その影は首を傾げたように見えた。

『――嘘をつくな……母親の髪を持っているだろう……』

 影はそう言うと、蒼の手を引っ張る。

「いたっ!」
「こ、このっ!!」

 亮太が影に向かい、剣を振り下ろすも、その剣はすり抜けてしまい、影に傷一つ付けられない。

「ダメデツ! コレ二ハ実態ガ無イノデツ!」

 花ちゃんはそう叫ぶと、何かを取り出す。そして、「トウッ!」と飛び上がると、手に持つそれを、影に押し付ける。すると、それは“バチィッ!”と音を立てた。
 花ちゃんが取り出した物、それはルードから渡された呪符であった。

「実体ノ無イモノニハ、魔法ガ一番効クノデツ!」

 フンッと胸を張る花ちゃん。
 影は人の形を取れなくなり、ただの黒い靄へと戻った。

『――……小賢しい真似をしてくれる……まぁいい……此方には、お前の家族がいる事を忘れるな……』

 そう言い残すと、その靄は破れた呪符へと吸い込まれていった。
 途端に、周りの空気が正常に戻った。
 二人とも唖然とする中、蒼はポツリと呟く。

「……それって、早夜の家族を人質に取ってるって事……?」

 その時、蒼に呼び掛けに気付いて見てみると、花ちゃんが此方を心配そうに見ていた。

「蒼、大丈夫デツカ? ソレ、痛クナイデツカ?」

 蒼が自分の手を見てみると、今しがた、あの影に掴まれていた部分。そこが赤く腫れていた。軽い火傷みたいに、ヒリヒリと痛む。
 しかし、蒼は花ちゃんを安心させるように笑うと、大丈夫だと言っておいた。

「亮太、こんな事になった以上、早くあちらに戻りましょう! 何にしても、まずはあのリジャイって人に相談すべきだと思うわ!」

 蒼の言葉を聞き、亮太は頷いた。

「ああ、そうだな。あいつに頼るのは、何か気に食わないけど、背に腹は変えられないもんな……」
「そうと決まれば、はい、荷物宜しくね!」

 そう言って、蒼は亮太に自分の荷物を渡した。

「……おい……」
「あら、か弱い女の子に、重たい荷物持たせる気?」

 蒼はそう言いながら、手を後ろに組む。
 本当は、手が痛い為だったのだが、それは言わずにおいた。

「か弱いって……ここに来るまでは、ちゃんと持ってただろう……。はぁ、まぁいいか」

 そう言って蒼の荷物を持つと、思いの他、それはずっしりとしている。

「お、おもっ! 一体何入れてんだ、お前!?」
「えー? んーと、お菓子でしょ? お菓子に、お菓子に、お菓子――」
「お菓子ばっかじゃねーか!」
「だってー、早夜にお菓子、お土産に持っていくって、約束したんですもの」
「後、僕ノロボットモ入ッテイマツ!」

 花ちゃんもそう言って手を上げるのを、亮太は溜息を吐きながら眺めた。

「はぁー……今までの緊迫した空気って一体……」



 その後、アパートから出た蒼たちは、公園へとやって来た。
 人気が無い事を確認すると、呪符を取り出し、蒼は花ちゃんを懐の中に入れる。

「じゃあ、準備はいい?」

 呪符を手に、蒼は亮太を見る。
 彼もまた、呪符を手に持ち、蒼に頷いて見せた。

「せーので破るわよ!」
「おう!」

「せーの――……」

 “ビリィッ!”

 呪符を破った途端、そこから光の帯があふれ出し、蒼たちを包むように取り囲んだ。
 そしてその帯は、光の渦となって、蒼達もろとも消え去った。



 蒼達が目を開けると、そこはあの巨大な樹の根元。

「マザー、タダイマナノデツ……」

 花ちゃんは、蒼の懐から顔を出し、その樹を見上げると言ったのだった。



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夢の逢瀬 ←番外編です。


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