〜日本・一時帰宅その後 最終日〜
「今日は、歓迎パーティーだよ!」
蓮実がいきなり言い出した。
「どうしたの、蓮実ちゃん。いきなりじゃない? それに、やるならお別れパーティーじゃないの?」
「お別れじゃ、何か悲しくなっちゃうからね。歓迎パーティーにしました!」
そして、驚く蒼をよそに、蓮実は花ちゃんと顔を見合わせて「ネー♪」と言い合った。
「えー!? 何々〜?」
「秘密ナノデツ!」
「そうそう秘密!」
花ちゃんと蓮実は、クスクスと笑い合っている。
首を傾げる蒼。
「花ちゃん、これ私たちから……」
そう言って、百合香と海里が、花ちゃんに綺麗にラッピングされた何かを差し出す。
「何デツカ?」
花ちゃんがそれを開けると、中には、花ちゃんを描いた絵と、花ちゃんが着れる位の小さい小さい服だった。
「ウワー! アリガトウナノデツ!」
そう言って、頬を染めながら、早速その服を着る。
マジックテープで止められるようになっており、花ちゃんでも着やすかった。
襟の部分に青色のリボンが付いていて、ビーズで出来た花ちゃんの顔をモチーフにした飾りがつけられている。
花ちゃんは、それを手に取ると、キラキラした目で百合香を見、二人して意味あり気に笑った。
そして、花ちゃんの頭の花の色に合わせたそのピンク色の服は、ポンチョ風になっており花ちゃんに良く似合っていた。何より、とても可愛らしい。
「海里モ、アリガトーナノデツ。トテモ上手ナノデツ!」
花ちゃんがそう言うと、海里は照れくさそうに笑った。
そして花ちゃんは、お礼にと言って、テーブルの真ん中に立ち、
「ロボットノ舞ナノデツ!」
そう言って、踊りを披露した。
やっぱりその顔は微妙で、皆、笑いを堪えるのに必死であった。
「何か、私達だけ何も無いわねー……」
楓のロボットの玩具や、翔太郎達の肥料などを見て、溜息を付く蒼。
「そうだな……」
亮太も呟いた。
すると、花ちゃんはキョトンとして言う。
「蒼ハモウ、僕二クレマツタヨ」
「え!? 何を?」
「一番素敵ナモノナノデツ!」
「えぇ!?」
首を傾げる蒼に、花ちゃんはクスクスと笑うと言った。
「僕二名前ヲクレマツタ。一番ノ贈リ物ナノデツ!」
ピトーッと花ちゃんは蒼に抱きついた。
「花ちゃん……」
そうして、蒼は花ちゃんをいい子いい子をするように撫でてやる。
「蒼ハ、僕ノモウ一人ノマザーナノデツ……」
亮太は一人、離れた場所でソファーに座り、項垂れていた。
「……俺だけ何もやれてない……」
その時、ツンツンとズボンの裾を引っ張られ、見てみると、花ちゃんが此方を見上げていた。
「ごめんな花。俺だけ何も用意して無くて……」
すると花ちゃんは、二パッと笑い、首を傾ける。
「ジャア、僕ノオ願イ、聞イテクレマツカ?」
「なんだ?」
亮太が身を乗り出すように尋ねると、花ちゃんはヨジヨジと亮太の足をよじ登り始める。
亮太は、それを手助けしてやると、
「秘密ノ話デツ」
と言って、耳元に連れて行くよう要求した。
そして、口元に手を添えると、こっそりと言った。
「蒼ヲ、護ッテアゲテ下サイデツ」
「は?」
亮太は、思わず花ちゃんをまじまじと見詰めてしまう。
花ちゃんは、そんな彼を静かに見据えた。
「蒼ハ、本当ハトッテモトッテモ弱イ女ノ子ナンデツヨ。ダカラ、亮太ガ蒼ヲ護ッテアゲテ欲シイデツ……」
そう言って、フフッと笑うと、亮太からピョンと降り、皆の元へと駆けて行く。
亮太は、そんな花ちゃんをポカンとした顔で見送るのだった。
「皆、写真とらない?」
蓮実がそう提案すると、皆、イイネーと言って、中央に集まる。
花ちゃんを抱いた蒼を真ん中に、亮太はその隣、と並んで立つ。
すると蒼は、亮太に小声で聞いてきた。
「そう言えばさっき、何を花ちゃんとコソコソ話してたの?」
その言葉にギクリとする亮太は、花ちゃんと顔を見合わせた。
花ちゃんは、口に手を持ってくると、シーと言う。亮太はそれを見ると、前を見て言った。
「それは……」
「それは?」
「……秘密だ!」
「ソウ、秘密ナノデツ!」
花ちゃんはニコニコと笑っている。
「もう! また秘密!?」
頬を膨らませる蒼だったが、シャッターが切れると、笑顔になる蒼であった。
あの後、蒼と亮太は制服に着替え、早夜のアパートへとやってきた。
パーティーが終わった後、美名月家と杉崎家の面々は、花ちゃんにお別れを言った。今日行って、アヤがいなかったら、そのままあちらへと戻るつもりだったからだ。
なので、今日は花ちゃんも一緒にいた。
中に入ると、やはりいつもと同じ、誰も帰ってきている様子は無い。
はぁーとため息を吐き、青と亮太は顔を見合わせ、頷きあった。
そして、部屋を出て行こうとした時、花ちゃんが何かに気付いた。
「アレハ何デツカ?」
花ちゃんは、テーブルの下を示している。
「これは呪符?」
蒼が手にとって見てみると、それは何処かリジャイやルードから渡された呪符によく似ていた。どちらかと言えば、リジャイの方により近かったが……。
花ちゃんはそれを見ると言った。
「コレハ移動スル為ノ呪符ナノデツ! モット正確二言ウト、指定サレタ場所二、強制的二移動スル物ナノデツ!」
「これみたいな?」
蒼は、リジャイから渡された呪符を、花ちゃんに見せる。
「ソノ通リナノデツ! トッテモヨク似テイルノデツ!」
「ちょっと待てよ。じゃあ、早夜さんのお母さんは、呪符でどっかに移動したって事か?」
「アイ、コレハ既二破カレテイマツカラ、術ガ執行サレテイマツ」
「って事はやっぱり、早夜も、早夜のお母さんも、異世界からやって来たって事?」
そうではないかと感じてはいたが、このようにその証拠を突きつけられると、やっぱりショックは大きい。
「これは、一刻も早く、早夜の元に戻らないとね……」
「ああ、そうだな……」
その時だった。
何か部屋の雰囲気が、ガラリと変わる。
何処かねっとりとして、身体に纏わりつく様なその感じに、蒼と亮太は辺りを見回す。
「な、何これ……?」
見た所、何も変った様子は無いのに、明らかに何かが変っていた。
亮太も念の為、アルフォレシアで渡された、護身用の剣を手に構える。
「……なにか、いる!?」
その時、何かがザワリと蒼の手を撫でた。
見ると、破れた呪符から、真っ黒い靄が染み出していた。
「いやぁっ!? 何これ!!」
思わず蒼は、その呪符を放り投げてしまう。
ヒラリヒラリと舞う中で、次の瞬間、その紙切れからブワッとその黒い靄が膨れ上がった。
亮太は、蒼を庇うように前に立つ。
そして、その黒い靄は、徐々に人の形を取り、亮太達の前に降り立った。
『――オミサヤ――』
その黒い人影は、言葉を喋った。その声は男性のものに聞こえる。
それからそれは、何かを探すように、手を伸ばした。
どうやら、此方の姿は見えていないらしい。
『――何処にいる? オミサヤ、近くにいるのだろう……?』
「……ねぇ、オミサヤって、確か、早夜の事じゃない……?」
蒼が声を潜めて亮太に言うと、亮太はその影から目を離さないまま頷いた。
「……ああ、恐らく――……」
『――此方へ来るがいい、オミサヤ……。お前の父も母も皆、お前を待っているぞ……?』
優しく囁くようにそれは言った。
「えっ!? それっておばさんの事!?」
思わず声を上げると、その影は此方に気付いたようだった。
「来る――!!?」
亮太は身構えるが、その影は亮太をすり抜け、蒼の前へと降り立つ。
「ひっ!!?」
思わず後ずさる蒼。だが、影は逃さまいと蒼の手を掴んだ。
「熱っ!!」
一瞬熱いのかと思っていたが、それはそう勘違いする位冷たかった。
『――お前がオミサヤか――……』
影がそう言う。
蒼は必死にその手を剥がそうと試みるが、此方からは触れる事が出来なかった。
「ち、違うわよ、バカ! ここには、そんな名前の人はいないわ!」
蒼がそう叫ぶと、その影は首を傾げたように見えた。
『――嘘をつくな……母親の髪を持っているだろう……』
影はそう言うと、蒼の手を引っ張る。
「いたっ!」
「こ、このっ!!」
亮太が影に向かい、剣を振り下ろすも、その剣はすり抜けてしまい、影に傷一つ付けられない。
「ダメデツ! コレ二ハ実態ガ無イノデツ!」
花ちゃんはそう叫ぶと、何かを取り出す。そして、「トウッ!」と飛び上がると、手に持つそれを、影に押し付ける。すると、それは“バチィッ!”と音を立てた。
花ちゃんが取り出した物、それはルードから渡された呪符であった。
「実体ノ無イモノニハ、魔法ガ一番効クノデツ!」
フンッと胸を張る花ちゃん。
影は人の形を取れなくなり、ただの黒い靄へと戻った。
『――……小賢しい真似をしてくれる……まぁいい……此方には、お前の家族がいる事を忘れるな……』
そう言い残すと、その靄は破れた呪符へと吸い込まれていった。
途端に、周りの空気が正常に戻った。
二人とも唖然とする中、蒼はポツリと呟く。
「……それって、早夜の家族を人質に取ってるって事……?」
その時、蒼に呼び掛けに気付いて見てみると、花ちゃんが此方を心配そうに見ていた。
「蒼、大丈夫デツカ? ソレ、痛クナイデツカ?」
蒼が自分の手を見てみると、今しがた、あの影に掴まれていた部分。そこが赤く腫れていた。軽い火傷みたいに、ヒリヒリと痛む。
しかし、蒼は花ちゃんを安心させるように笑うと、大丈夫だと言っておいた。
「亮太、こんな事になった以上、早くあちらに戻りましょう! 何にしても、まずはあのリジャイって人に相談すべきだと思うわ!」
蒼の言葉を聞き、亮太は頷いた。
「ああ、そうだな。あいつに頼るのは、何か気に食わないけど、背に腹は変えられないもんな……」
「そうと決まれば、はい、荷物宜しくね!」
そう言って、蒼は亮太に自分の荷物を渡した。
「……おい……」
「あら、か弱い女の子に、重たい荷物持たせる気?」
蒼はそう言いながら、手を後ろに組む。
本当は、手が痛い為だったのだが、それは言わずにおいた。
「か弱いって……ここに来るまでは、ちゃんと持ってただろう……。はぁ、まぁいいか」
そう言って蒼の荷物を持つと、思いの他、それはずっしりとしている。
「お、おもっ! 一体何入れてんだ、お前!?」
「えー? んーと、お菓子でしょ? お菓子に、お菓子に、お菓子――」
「お菓子ばっかじゃねーか!」
「だってー、早夜にお菓子、お土産に持っていくって、約束したんですもの」
「後、僕ノロボットモ入ッテイマツ!」
花ちゃんもそう言って手を上げるのを、亮太は溜息を吐きながら眺めた。
「はぁー……今までの緊迫した空気って一体……」
その後、アパートから出た蒼たちは、公園へとやって来た。
人気が無い事を確認すると、呪符を取り出し、蒼は花ちゃんを懐の中に入れる。
「じゃあ、準備はいい?」
呪符を手に、蒼は亮太を見る。
彼もまた、呪符を手に持ち、蒼に頷いて見せた。
「せーので破るわよ!」
「おう!」
「せーの――……」
“ビリィッ!”
呪符を破った途端、そこから光の帯があふれ出し、蒼たちを包むように取り囲んだ。
そしてその帯は、光の渦となって、蒼達もろとも消え去った。
蒼達が目を開けると、そこはあの巨大な樹の根元。
「マザー、タダイマナノデツ……」
花ちゃんは、蒼の懐から顔を出し、その樹を見上げると言ったのだった。
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小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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