「ああ、サヤ様。もう少し細かな所も、想像なさった方が宜しいかもしれません……」
早夜は今ルードと共に、魔術師が練習の為に訪れるこの魔術練習所で、星見祭で披露する為の幻術の練習をしていた。
目の前には一本の桜の木。しかし、あまり現実味がなく曖昧なもので、ルードの指摘により、直ぐに歪んでしまった。
「ごめんなさい、ルードさん。何だか余計な事も考えてしまって、中々集中できないみたいです……」
「いえいえ、それでここまで表現できるというのは、やはりサヤ様は凄いです」
「そ、そんな、凄いだなんて。ルードさんも凄いですよ。こんなにスムーズに映像化できるなんて」
「いえいえ、そんな――」
「いえ、こちらこそ――」
そうやって2人で「いえいえ」と言い合っていると、部屋の隅のほうで、ブフッと吹き出す声がする。
それは、練習に付き合ってもらっていたカートであった。
「2人とも、そんな風に延々と謙遜し合ってるつもりかよ――……」
「そんな、笑う事ないじゃないですか」
ルードが講義する。
「それでカートさん、如何でしたか?」
早夜が術の出来をドキドキしながら尋ねると、カーとは漸く笑いを収め頷いた。
「ああ、いいんじゃないか? 俺は花とか別に興味とか湧かねーけど、これは――……何だっけ?」
「えと、桜です……」
「そう、サクラ! これは何つーか別物だな。確かに綺麗なんだが、荘厳さも感じる」
カートがそう言うと、早夜は頬を染め、嬉しそうに笑う。
「そう言われると、なんか誇らしいです」
そうして、三人で談笑していると、
「何だ、何だ? すっげー楽しそーじゃん。何かあったのか?」
突然聞こえてきた声に、早夜はドキンとする。
「あ、王子。ようこそ」
「何だリカルド、お前も来たのか」
「何だよカート、来たらダメなのかよ」
ムッとするリカルド。
しかし早夜を見ると、嬉しそうに笑う。
「よっ、サヤ、調子はどうだ?」
「へ!? あ、ああ、はい、全然元気、ですよ?」
あれ、と早夜は思った。あの夜の事があってからリカルドと会うのは初めてだ。けれど今のリカルドの様子は、全く何事もなかったかのように早夜に接している。
何だかずっとドキドキしていただけに、拍子抜けしてしまう。
それでもやはり、リカルドの顔をまともに見る事は出来なかったのだが……。
(あれ? でも、もしかして、あれは夢?)
しかし夢と考えるには、あの唇の感触や、腕の力強さなど、鮮明に思い出す事が出来る。こんな生々しい夢など、あるのだろうか?
早夜が顔を真っ赤にして俯いていると、目の前に何かが差し出される。
見るとそれは手のひらに乗る、小さなかごだった。
「ほら、サヤ。まだ持ってなかったよな?」
「え? あっ、そう言えば……。リュウキさんも毎年こんなかご持ってましたけど……星かごって言うんでしたっけ? 何に使うんですか? これ」
夢の中でも星見祭の頃になるとよく見かけた。
リュウキはよく、セレンにそのかごを作ってやっていたりしたのだが、何に使うのかは、さっぱり分らずに、ずっと気になっていた。
恥ずかしさも忘れ、早夜はかごを受け取りながら、リカルドに尋ねていた。
「そん中に、願い事を書いた紙を入れるんだ。運良く星が入れば、その願いが叶うんだとさ」
早夜が益々分らないという顔をすると、ルードが助け舟を出してきた。
「王子、それでは説明不足でしょう……。サヤ様、星見祭の夜には、空から星が降ってくるんですよ」
「ほ、星がですか?」
「ええ、実際は星とは違うんですけどね。光の粒が、雪のように降ってくるんです。
その正体は今だ解明されていないんですが、一説によれば、地上に集まった魔力のカスが、結晶となって降ってくるとか。後、一般的なのが、神様が人々に祝福を与える為に降らせるとか言われていますね」
早夜は、へぇーと感心したように、手元にあるその小さなかごを見つめる。
「それで、このかごに星が入るんですね……」
早夜がそう呟くと、カートが苦笑した。
「でもまぁ……俺は今だ、実際に願いを叶えた事はねーんだよな……」
「俺も、毎年願い事やってっけど、一度も入った試しがない……」
「不思議な事に、叶わない願い事とかの場合、絶対に星は入らないんですよ……。何も入れてないかごの中には入るんですけどね」
早夜は彼らの話を聞きながら、空から星が降ってくる様を思い浮かべ、頬を紅潮させるのだった。
「……それにしても、お前が星かごを贈る様になるとはなぁ」
感慨深げにカートが呟くのを、リカルドは怪訝そうに眉を顰める。
「は? 何がだよ?」
「何がって、お前……やっぱり知らなかったのか……。あのだな――……」
ハァッと溜息をついて、呆れた顔で、早夜にもまた聞こえるように説明し出した。
「大体、星かごを贈るって事は、相手の願いが叶うようにって祈って贈る事だろ? んでもって、これが異性となるとだな、相手の願いが自分と結ばれる事でありますようにって言う意図が含まれてくる訳だな……」
そこまで言われて、漸く合点がいき、リカルドの顔が赤く染まってくる。
(漸く気付いたか、鈍感め)
目を眇めてこの鈍感王子を見やり、そしてチラッと早夜にも目を配ると、彼女もまた頬を染めているのが見えた。
別に嫌がる様子はない。チラチラとリカルドの様子を窺いながら恥ずかしそうにしている。
(うーん、これは脈ありなのか?)
カーとは首を傾げた。
「あ、そう言えば……リュウキさんがセレンさんに作ってあげてたのって……」
ハッとして、早夜が顔を上げるとカートが頷いて肯定する。
「まぁ、そういう事になるわな……」
リュウキとセレンは婚約者同士なのだから、そうして当然であろう。
ふと、カートがルードを見ると、何故かこの銀髪の宮廷魔術師はブルブルと身体を震わせていた。
「そ、そんな……あれにはそんな意図があったなんて……」
「ど、どうしたルード!?」
皆が彼に注目する。
「毎年、やけに女の子からかごを渡されると思ったら……」
「なんだルード、お前も知らなかったのか……」
呆れたようにカートが呟く。
そして、それをどうしたのかルードに訊くと、彼はズーンと落ち込んだ。
「いえ、私てっきり星が入り易くして欲しいのだと思って……その場でおまじないをかけて返してたんです……」
「……それで、女の子達は……?」
「泣きながら帰って行きました……。私、ずっと泣くほど嬉しいのかと思っていたんです。ああ、私って何て最低な人間なんでしょう……」
更に落ち込んでゆくルードに、最早誰も何も言えずにいると、カートがポンとその肩を叩いた。
ルードが顔を上げると、カートは何とも生温かい眼差しでもって、彼を見下ろしている。
「まぁ、今年から頑張れ」
「ハァッ! そ、そうですすよ! 今年から私、どうすれば! 知ってしまった以上、無下に返す訳にもいきませんし……」
「うん、まぁ、だから頑張れ……」
「ああっ、そんなカートさん! 見捨てないで下さい!」
そんな彼らのやり取りを、一歩離れた位置でボーと眺めていた早夜。
ふと、リカルドの方を見ると、丁度彼も此方を見た所だった。
バッチリと目が会ってしまった所で、何とも気まずく感じ、お互いに目を逸らしてしまった。
「別にそのかごに深い意味とかねーからな。俺、知らなかったし!」
「は、はい、分っています……。あの、リカルドさん!」
「ん? なんだ?」
思わず声を掛けてしまった早夜。
何と言うべきなのだろうか。あの夜の事を、あの意味を、ちゃんと聞くべきだろうか……。
「あの、その……」
「どうした?」
「あの夜の事なんですけど……」
「あの夜?」
「塔に行った後、そこから帰るのにリカルドさんに送ってもらった時――」
するとリカルドは、見る間に顔を赤らめ、視線を逸らした。
「あー、あれはだな……そう! ただ、涙を止めようとしただけだ! だから深く考えんなよ? お前は何も気にする事ねーからな!」
「え?」
早夜はキョトンとしてしまう。
では、あの『振り向かせる』とか『誰にも渡さない』とか言ったセリフは何なのだろうと思って、早夜は唐突に気付いてしまった。
(も、もしかしてリカルドさん、自分があんな事言ったって気付いてないの? じゃあ、心の中で言った事が、表に出ちゃった?)
だとしたらやはり、彼は自分が好きだと言う事になるのだろうか。
早夜は顔を赤くし、そしてぷっと吹き出した。
恥ずかしいやら、可笑しいやら……しかし、実に彼らしいなと思った。
「な、何で笑うんだ? 俺、何か可笑しな事言ったのか?」
リカルドがそう言うので、さらに早夜は吹き出す。
(言った! 言いました! でも、全然可笑しな事じゃないです!)
早夜は久しぶりに、腹を抱えるほど笑った。
そしてリカルドは、それを戸惑った顔で見ている。
ルードやカートも、早夜の笑い声に気付き、此方にやって来た。
「どうしたリカルド、何かあったのか?」
「いや、それがさっぱり」
「王子の事ですから、きっと知らずに何か言ったのでしょう」
ルードがずばりと言った。
お陰で、漸く収まってきたのに、また吹き出してしまう。
「どうやら、そうみたいだぞ? リカルド……」
「は!? 俺、何か言ったのか? おいサヤ、一体俺は何を言ったんだよ!?」
そうして早夜は暫く笑ったままだったが、漸く笑いも収まり、深く深呼吸する。
「なぁ、サヤ……」
困った顔で、リカルドが声を掛けてくる。
そんな彼の様子に、早夜はクスリと笑うと人差し指を口に当てた。
「秘密です。教えません……と言うか、言えません」
「えぇ!? 何だよそれ?」
少々情けない声をあげるリカルドを見て、早夜はまたクスクスと笑う。
何だか思いっきり笑ったせいか、気分はすっきりしていた。
(でも、お腹は筋肉痛になりそう……)
ふっと苦笑しながら、腹をさすると顔を上げる。
「ルードさん、練習を再開させましょう!」
俄然張り切る早夜。
今なら上手くいきそうな気がする。
早夜はリカルドを見ると、にっこりと笑い掛けた。
「リカルドさん、見ていて下さいね、これが桜です」
それから早夜は、ルードを見る。
するとルードは頷き、杖をくるりと一回転させるとトンと地面を突いた。
杖による術の構成。ルードの得意とするものだった。
そして現われる魔法陣。その中に取り込まれる早夜。
早夜は目を瞑りイメージする。 自分の好きな桜の光景を。
大事な事に気付いたのだ。
ただ術を完成させようとするだけではダメだ。 見せたいと思う事……気持ちが大事。
それは子供の頃見た風景。 一番好きだった、懐かしく、涙が出そうになる光景――。
だから見て欲しい、見せたい……とその時、驚くリカルド達の声を聞いた。
早夜が目を開けると、そこには想像した通りの光景が広がっていた。
たった一本ではなく、無数に生える樹木。空を覆いつくさんばかりの淡いピンクの花。
先程のように曖昧さはなく、実際にそこに生えている様な存在感。
早夜は更にイメージする。 自分が最も美しいと思う光景――。
その時、ザァッと音がして、風が桜の花びらを散らせる。
「――っ!!」
「これはっ!」
「――すげぇ……」
止め処なく降る花びらの雪。
見る間にその足元は、桜の色で染まってゆく。
ルードは自分の肩に降り積もる花びらを見て瞠目する。
試しに摘んでみると、 難なくその手の中に納まった。
「っ!! そんな、触れるのですか? この幻術は――……」
信じられない思いで早夜を見た。
彼女は今、目を瞑り、口元には笑みを浮かべている。
ルードは早夜のその姿に、何処か神々しさを感じるのだった。
「もう、この位で良いでしょう。素晴らしかったですよ、サヤ様」
ルードが杖を降ろし満足げに頷くと、早夜は嬉しそうに笑った。
「どうでしたか? リカルドさん!」
頬を染めて、早夜はリカルドを振り返る。
「何ていうか、すっげーとしか言い様がねーな……」
今だ呆けた面持ちでリカルドが言うと、早夜はフフッと何処か誇らしげに笑った。
「リカルドさんのおかげです」
「は? 何がだ?」
「リカルドさんが、いっぱい笑わせてくれたおかげで、頭がすっきりして、大事な事に気付きました」
「……だから俺、何を笑わせたんだ……? まぁいーや、大事な事って?」
すると、早夜はにっこり笑って言った。
「術を完成させようとする事じゃなくて、見せたいと思う事が大事なんだって気付いたんです。要は気持ちです。
そうしたら、自然と見せたい映像が、頭に浮かんできたんですよ」
嬉しそうに笑う早夜を見て、リカルドも釣られて笑う。
「そっか、良かったな、サヤ」
「うーん、やっぱり脈ありなのか?」
笑い合う、早夜とリカルドを見て、カートは呟く。
するとそこにルードがやって来た。
「カートさんはどう思います?」
「やっぱり両想いなんじゃないか?」
「は? 何の事ですか?」
「へ? 何って、あの2人の事じゃないのか?」
「えぇっ!? あの2人って、そんな仲なんですか?」
少なからずショックを隠せないルード。
「……まさか、お前もあの嬢ちゃんの事……」
「……いえ、そう言う訳じゃないんです……ええ、ただちょっと、いーなーとは思ってま
したけど……」
ズーンと何処までも落ち込むルードを、何だか哀れに感じるカートであった。
「ま、新しい恋でも見つけろや。で? お前は何を訊こうとしてたんだ?」
「ああ、そうでした! あの幻術ですが、驚いた事に触れたんです!」
「……? 普通は触れないのか?」
「はい、通常であれば、すり抜けてしまう所、あの花びらは私達の肩に乗っていたでしょ?」
「あ? そうだったか?」
「そうなんです! あの花びらは、摘む事さえ出来たんですよ!?
全く凄いですよ、サヤ様はっ! ああ、本当に、宮廷魔術師になってくれないでしょうか……」
等と懲りない事をルードが思っていると、早夜とリカルドが此方にやってきた。
「どうしたんですか? ルードさん」
「ああ……サヤ様……」
首を傾げる早夜を前にし、拝むような仕草を見せたルードだったが、リカルドと一緒の姿を見て、またズーンと落ち込む。
「えぇ!? ルードさん!?」
慌てる早夜だったが、カートはその肩にポンと手を置く。
「うん、まぁ、気にするな嬢ちゃん。今は放っといてやれ……」
そしてカートは、早夜に顔を近づけると、ボソッと聞いてきた。
「なぁ嬢ちゃん。それでお前さん、リカルドの事、どう想ってるんだ?」
「えぇっ!? ど、どどどどうって!?」
早夜はめいっぱい動揺した。
「もし、リカルドに気があんなら、協力するぜ?」
ニッと笑うカートに、早夜は真っ赤な顔で首を振る。
「そ、そんな、いーです!」
「そうか?」
「何だ? 何の話だ?」
リカルドが眉を顰め、首を傾げている。
「な、何でもありません!」
「まぁ、嬢ちゃんがそう言うんなら、何でも無いわな」
「何だよそれ?」
真っ赤な顔の早夜と、意味ありげに笑うカートを見て、更に怪訝な顔をするリカルドであった。
その後、練習所を後にして、早夜は部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。
「星かごかぁ……ふふ、何か、かわいーかも……」
リカルドから貰った星かごを、手にちょこんと乗せ眺めていると、背後から声を掛けられた。
振り返ってみると、そこにはシェルが立っている。
早夜はシェルの姿を見止めると、彼に向かいにっこりと笑い掛け、彼の元に走りよっていった。
「シェルさん、見てください! 星かごを貰いました。
あ! 後、お祭りの日には、星が降るんだそうですね! 凄く楽しみです!」
「それはいいんだが、サヤ。それは誰から貰った?」
「はい、リカルドさんですよ」
素直にそう答えると、シェルは目を見開き、暫し早夜を見つめていたかと思うと、視線を逸らせ、チッと舌打ちをした。
「……先を越されたか……」
「はい?」
首を傾げる早夜に、シェルは此方を見据えながら言った。
「異性が星かごを贈る意味を知ってるか?」
「あ――……」
途端に顔を赤くする早夜を見て、シェルは胸がざわつくのを感じた。
「それならカートさんが教えてくれました。でも、リカルドさんは、その事知らなかったみたいで――……」
「なら、話は早いな……」
シェルは早夜の手を掴み、その手に別の星かごを乗せた。
目を見開き、早夜はシェルを見上げる。
彼はニッと笑うと言った。
「俺はちゃんと意味を知ってるぞ?」
そして、真剣な顔になると早夜の手を強く握る。
「どちらか選べ、サヤ。お前の好きな方を……。でも、もしリカルドを選ぶと言うのなら……」
一旦言葉を区切り、シェルは早夜の耳元に唇を寄せ言った。
「覚悟をしておけ、俺は全力でお前を奪いに行くぞ……。もう嫌なんだ、誰かに奪われるのを黙って見ているのは――……」
それだけ告げると、シェルは早夜の返答は待たずにその場を去って行く。
早夜は、手のひらに乗る、二つの星かごを見つめたまま、暫くその場を動けずにるのだった。
「あら? サヤさん? どうなさいましたの、そんな所で……」
ボーとして突っ立っていた所を、早夜は声を掛けられた。
見ると、首を傾げ優しげに笑う銀髪の美しい女性。
「セ、セレンさん……」
少々情けない声を出す早夜に、セレンティーナは不思議そうにするのだった。
「まぁ、そんな事が!? 中々やりますわね、お兄様方も……」
フフッと笑うセレン。
「そんなぁ、笑い事じゃありません……」
眉を下げ、情けない声で早夜は言った。
今、セレンの部屋に居る。
そして、リカルドの事と、先程のシェルの事を相談したのだった。
「それにしても、シェルお兄様がそんなに熱い人だったなんて……実の妹であるわたくしも知りませんでしたわ。それに、リカルドお兄様……」
そう言って、ププッと吹き出す。
「口にだけはしないキス……恋の駆け引きとしては、高度なテクニックですわ。でも、告白したのに、それに気付かないなんて……物凄くお兄様らしいですわね」
そう呟いて、セレンは顔を赤くして俯いている早夜を見た。
「同時に2人の男性に好かれるなんて、女冥利に尽きましてよ?」
セレンがそう言うと、早夜は少し困った顔になる。
「あら、どうなさったの?」
「いえ、あの実は――……」
そうして、亮太にも告白された事も言うと、セレンは頬を紅潮させて、興奮を隠さずにポンと手を叩いた。
「まぁ、と言う事は、同時に3人もっ!? ……いえ、4人かもしれませんわ」
「え?」
「ほら、あの三つ目の方ですわ。サヤさんにキスなさった……」
「あ、リジャイさん」
「そう、そのリジャイという方は、どうなんですの?」
「ど、どうと言われても……好かれているのは分りますけど、それが恋愛によるものかは分らなくて……」
そして早夜は、あの晩の事をセレンに語った。
「それはサヤさん! その方も間違いなく、サヤさんの事が好きですわっ! サヤさんを前に感情が高ぶるという発言もそうですけど。でも、抱き締めると壊してしまうなんてっ!! 一度は言われてみたい言葉ですわよ!」
興奮したように叫ぶセレンを前にして、早夜は顔を真っ赤にしてしまう。
そして手の中には、二つの星かご。
するとセレンは、何処からか星かごを持ってきた。それを早夜の前に置く。
「一つを選ぶ事が出来ないのなら、私が逃げ道を用意して差し上げますわ。実はこれは、わたくしがリュウキ様の為に作ったものなんですの。でも、渡せないものはどうしようもありませんし、サヤさんに使ってもらった方がいいですわ。
お兄様たちに聞かれたら、こう仰って? わたくしがどうしてもと言ったから、と」
「セレンさん……」
「フフッ、それにしても、嬉しいですわ。誰かにこんな風に恋の話をするなんて、しかもサヤさんはリュウキ様の妹……わたくしにとっても、サヤさんは妹みたいなものですものね。
そうですわ! これから、一緒にお風呂に入りましょう!」
「えぇ!?」
「あの時みたいに、また洗いっこいたしましょう? それに、お兄様達の事、もっと詳しく聞きたいですわ!」
そう言うと、セレンは嬉々として、早夜を浴場へと連れて行くのだった。
「う〜〜……のぼせちゃった……」
セレンは言っていた通り、リカルド達との事を、根掘り葉掘り聞いてきた。
お陰で、こうしてのぼせてしまった。
少々ふらふらしながら自室に入ると、ビクッとして数歩後退さった。
「やあ早夜、元気?」
「リジャイさん!」
「また、心臓の音聴かせて貰おうかな、と思って」
そう言いながら早夜に近づくと、はたと気付いて立ち止まった。
「ん? 髪濡れてるよ? お風呂入ってきたの?」
「え? あ、はい……」
「濡れたままじゃ、風邪引くよ。こっちにおいで」
リジャイは早夜の手を引き、椅子に座らせると、その後ろに立った。そして、彼女のの濡れた髪を手で梳いてゆく。
そうしていると、何だかぽかぽかと暖かい。
魔法で乾かしてくれているのだろう。
「……懐かしいな……」
「……はい?」
心地よさに目を瞑っていた早夜は、リジャイの呟きに目を開いた。
リジャイは不思議な笑みを浮かべ、何でもないと囁く。
早夜が首を傾げていると、リジャイは何かに気付いたようだった。
「あれ? 早夜、それって星かごでしょ? 何で三つも持ってるの?」
早夜はギクリとしてしまう。
そして、リジャイを横目で見ながら、一つ一つ手にとって説明した。
「えっと、これがリカルドさんで、これがシェルさん。そしてこれが、セレンさんから貰った物です……」
「……ふーん成る程……つまり告白されちゃった訳だね? それで、逃げ道としてセレンティーナ姫が、星かごをくれた、と……」
「えぇ!? 何で――……」
「それはね、星かごをプレゼントする意味を、リュウキに聞いたからでーす。
ほらこれ、リュウキがセレンティーナ姫に作った星かご。君から彼女に渡してくれる?」
リジャイは星かごを早夜に手渡した。
「……リュウキさんが、これを……?」
「うん、何か一人でこっそり作ってるから何だろうと思ったら、これ作ってて。渡す当ても無いのに……。それで、僕が渡してあげるって言って、持ってきたんだ」
すると早夜は、セレンから渡された星かごをリジャイに差し出す。
「じゃあ、これをリュウキさんに渡してくれませんか? 本当はこれ、セレンさんがリュウキさんに作ったものなんです」
「それはいいけど……それじゃ、逃げ道なくなっちゃうよ?」
「ううっ、それは――……」
「フフッ、じゃあ僕が、逃げ道第二段を提案しまーす!」
するとリジャイは、リカルドとシェルの星かごを手に取り、パッと消し去ってしまう。
「えぇ!?」
早夜が吃驚して戸惑う中、リジャイは別の星かごを出してきてそれを渡してきた。
「こうして、リカルド王子とシェル王子の星かごは、リジャイという男に盗まれてしまいましたとさ。そして、手元に何もなくなってしまった早夜姫は、仕方なく、そのリジャイという男が残した星かごを使うしかないのでした。めでたし、めでたし」
「えぇ!? でも、これって……」
「一応僕が作ったんだ。リュウキに教わりながらね。ただ君は、それを仕方なく使うんだ。意味なんか気にせずに……」
「……? リジャイさん?」
何だか、その言葉が寂しげに聞こえ、早夜はリジャイを振り返る。
リジャイは、優しげに早夜に微笑んでいる。
「乾いたよ、髪」
「え? ああ、ありがとうございます、リジャイさん……」
早夜は自分の髪に触れながら、リジャイに礼を言う。
「どういたしまして、じゃあ僕はもう行くよ」
「え?」
「心臓の音を聴くのはまた今度。早くリュウキに届けてあげなくちゃ!」
プラプラと星かごを振って見せる。
それからリジャイは、魔法陣を出現させると、早夜に聞こえぬようにポツリと囁いた。
『……それに、今君に触れたら、僕は何をするのか分らない……』
今、自分の中に嫉妬と呼ばれるものがある事を、リジャイは感じていたのだ。
早夜は、あっという間に消え去るリジャイを見送り、ボーとした面持ちで、手元の星かごを眺める。
「ど、如何しよう……」
誰もその呟きに答える者は居なかった。
えー、と言う訳で、やっぱりリカルドはリカルドでした。でも、前回が恥ずかしかったからとか言う理由じゃありませんよ、断じて!
書いていたら、いつの間にかこういう事になっていました……。
さて次回、「不穏な影」となります。
お楽しみに!
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