シェルと長い廊下を歩いて、星見の塔に行く道すがら、早夜は重要な事を思い出した。
夕食会が楽しかった事と、先程のシェルとの事で、すっかり頭の隅に追いやられていた。
(ご、ごめんなさい、リカルドさん〜!)
そう、リカルドの事である。
「あの、シェルさん。実は星見の塔には、リカルドさんも一緒なんですが――」
そう言って解き、シェルはピタリと止まり、ゆっくりと此方を振り返った。
「今、何と……?」
「う……」
思わずたじろいでしまう。その顔は笑顔ながらも、目は笑っていない……。
(こ、こわい……何で?)
「あ、あう、あのっ、昼間リカルドさんに、星見の塔へ行く話をしたら、リカルドさんも私を連れてってくれるそうで……その……」
「……それでリカルドも来ると……?」
シェルの笑みが深くなった。何やらシェルから、いい知れぬ圧力が掛かる。
「はうっ、ご、ごめんなさいっ!」
早夜は思わず謝っていた。
「何故、謝る?」
シェルの質問に、早夜は半分涙目になりながら、びくびくして答える。
「だ、だって……シェルさん怒ってますよね……」
するとシェルは、にっこりと笑って答えた。
「こんな事で怒るのは、大人気無いだろう?」
それは暗に怒っているとも取れる発言であったが、早夜は気付かず、ホッとしたように胸を撫で下ろす。
そして、嬉しそうにうふふと笑うと、頬を上気させて言った。
「はー、何やら楽しみになってきました……。凄くワクワクします」
「期待半分で行ったほうが良くないか? 今からそんなんじゃ、期待外れだった時、どうする」
シェルが呆れたように言うと、早夜がプクッと頬を膨らませる。
「ムムッ、シェルさん夢を壊すような事言っちゃ駄目です。見たいという事に意義があるんですっ!」
そう言うと、二パッと笑って、シェルの袖を引っ張り「早く行きましょう!」と促した。
シェルはそんな彼女に苦笑して見せると、袖を掴むその手を取る。
「う?」
と、顔を赤らめる早夜にシェルは言った。
「塔に行く為の渡り廊下には、灯りが無いんだ。こうして手を繋いでいた方が安心するだろう?」
そうして、渡り廊下の前までやって来たのだが、そこにはリカルドが待っていた。
そして、手を繋ぐ2人の姿を見て、物凄く面白く無さそうな顔をする。
「あの、あの、渡り廊下には、灯りが無いそうなので、シェルさんが手を引いてくれるそうです」
何故手を繋いでいるのかを、必死に説明する早夜。
するとリカルドは、ズンズンと二人に近づき、空いている早夜の手を取る。
「なら俺も早夜の手を引く」
そんなリカルドを、にこやかな顔で睨むと、シェルは言った。
「手を引いてやるのは、一人で十分だろう?」
だが、リカルドは決して放そうとはせず、兄の顔を睨み返す。一瞬、2人の間に火花が散るが、当の早夜本人は気付かない。そして何故か、クスクスと笑い出した。
怪訝そうな顔をする、リカルドとシェル。そんな2人を、早夜は交互に見て言った。
「こうして、誰かに手を引いて歩いて貰うのは、子供の頃以来です。何だか、懐かしくて、くすぐったいです」
そう言いながら、嬉しそうに頬を染め、握られた手を子供みたいに上下に揺らす。
シェルは、呆れたように早夜を見たあと苦笑し、リカルドは、しょうがねぇなーと言うように、頬を掻きながら笑った。
渡り廊下の扉を開けると、そこは真っ暗で、早夜は思わず尻込みしてしまう。
シェルは苦笑すると、魔法で灯りを作った。リカルドもまた、それに習うように灯りを作り出す。
(そういえば、この世界ではこれくらいの魔法は、初歩中の初歩だったよね……)
日本で見ていた夢は、いつも昼間の映像だったので、実際、こうして実用的に使っている所は見た事は無かったが、常識としては知っていた。
(でも、私もやろうと思えば、普通に使える魔法なんだよね……)
そういう風に改めて考えてみると、なんだか不思議な気持ちだ。
まだ此方に来て数日しか経ってないというのに、自分の中で色んな事が変わってしまったなと思った。
リュウキの事や自分の力の事、蒼と亮太の事。
(あ、そういえば、亮太君に告白されたんだ……忘れてた訳じゃないけど……ごめんね、亮太君)
目まぐるしく色々な事が起きるので、亮太の返事を考える暇が無い。
そして……と早夜は、ある事に思いを馳せる。リジャイが見せてくれた夢の事だ。
(あれが私の家族……)
そう考えていた時、リカルドが声をかけてきた。
「なぁサヤ、そういえばお前のお袋さんって、何で髪白いんだ? 元々ああいう色なのか?」
彼としては何気なく聞いてきたつもりだろうが、早夜としては衝撃が大きかった。
「なんで……?」
呆然とした呟きに気付いたシェルは、気遣わしげに言った。
「すまないサヤ。実はあの時、私たちもお前の記憶を見ていたんだ……」
それを聞いて、ああと納得した早夜は、ポツリと呟く。
「……やっぱり、2人とも、私の母があの人だと思いますか……?」
その言葉に、シェルがはっと息を呑むのが分った。
「え? 違うのか? だってサヤにそっくりだったぞ?」
それを聞いた早夜は、寂しげに微笑む。
「……私を育ててくれた人。私が今まで母親だと思っていた人は、あの夢の中に出てきたもう一人の女性の方です……」
今度はリカルドも息を呑んだ。シェルは黙って早夜を見ている。
「思えば、私はずっと、母とは似てないと言われ続けてましたから……。何か納得している自分もいるんです……」
早夜の手を握る2人の手に力がこもる。リカルドもシェルも自分を気遣ってくれている事が分った。
(やっぱり2人とも優しいな……ううん、この国の人たちは皆優しい……)
そう思うと胸が温かくなる。
(この国の人たちに、何かできる事はないかな……皆を幸せにしてあげたい……)
心からそう思い、早夜は2人を見上げる。
心配そうな二人に、早夜は笑って見せた。
「2人とも、私は大丈夫ですよ。たとえ血は繋がっていなくても、私にはあの人が母なんです。
それに……夢の中に出てきた人も、やっぱり私の母なんだと思います。あの人を見た時、私の心は喜びに満ちていくのを感じました。憶えていなくとも、心ではちゃんと絆を感じていたんです」
そこでいったん言葉を区切り、早夜はシェルを見上げる。
魔法の灯りに照らし出された彼の顔は、まだ気遣わしげだが、それでも早夜と目が合うと微笑んでくれた。
それを見て、早夜は嬉しそうに笑うと、今度はリカルドを見る。
彼は驚いた顔をするが、やがてふっと笑い、早夜の手を軽く揺すった。
早夜は前を向き、心からの笑顔で囁く。
「シェルさん、リカルドさん……。私には、二人のお母さんが居ます……。これって凄い事ですよね……」
「ああ、そうかもな……」
シェルはふっと笑って頷き、リカルドはハハッと笑って言った。
「やっぱスゲーや、サヤは!」
辺りは真っ暗でありながらも、シェルとリカルドの心は、この早夜という光によって明るく照らされるのだった。
塔の中に入ると、まず転送装置があり、最上階へ行ける様になっていた。そして、最上階にやってくると、その空間は広く、見上げれば一面の星空が広がっている。
しかし、天井が開いている訳ではなく、天井と壁が透けて見えているらしかった。
「うわぁ、凄い綺麗です……」
感嘆の声を上げる早夜に、シェルもリカルドも頬を緩めた。
「あれ? でも、月がありません……」
あれほど巨大な月が、何処にも見当たらなかった。
「月の明かりは星を見るのに邪魔になるからな。魔法で月だけを除外してあるんだ」
シェルがそう答え、床を照らした。そこには、何やら陣が書いてあり、これで月を除外したり、壁を透かしたりしているみたいだった。
「あのっ、あのっ、もっと奥の方まで行ってきてもいいですか?」
興奮したように早夜が言うと、2人とも苦笑した。
「別に、奥に行ったって変わんねーんじゃねーか?」
「それに、足元が見えないから、あまりで歩かない方がいいだろう?」
そんな事を言う2人に、早夜はふふっと笑って見せた。
「大丈夫ですよ! ちゃんと気を付けますから。それにそれに、見る角度によっては、感じ方が違うかもですよ!」
そう言うと、2人の手から、するりと離れてしまうのだった。
「……うわぁ、こうして見ると、建物の中なせいか、プラネタリウムみたいだな……」
2人から大分離れた位置で、そう呟く早夜。
真っ暗なこっちからだと、明かりを灯しているシェルとリカルドがよく見えた。試しに手を振ってみるが、何の反応もない事から、早夜の事はまったく見えていないらしい。
「ふふっ、何だか透明人間になったみたい……」
そうして、また足を踏み出した時、足に何か柔かい物がぶつかり、早夜はそのまま、思い切り躓いた。
「キャア!」
「うわぁ!」
早夜の悲鳴と男の声が響く。
「サヤ!?」
それを聞きつけた2人は、慌てて早夜を探そうとするが、暗くて中々見つからない。
早夜は、何か温かな物の上に居た。肩をしっかり掴まれている。
「だ、大丈夫ですか? サヤ様……」
頭の上で、優しげな男性の声がする。それは何処か、聞き覚えのある声だった。
「すみません。今灯りを点けますね!」
そう言うと同時に、呪文のようなものが聞こえ、眩い光が現れる。
いきなり光を見た為、目が眩む。
徐々に慣れてくると、目の前には男性の胸が……。そして、上に目を向けると、眼鏡越しに、温かみのあるハシバミ色の瞳と、少々冷たい感じのする銀髪が見えた。
「ル、ルードさん!?」
目の前にいる人物、それは、ルードことシルドレット。この国の宮廷魔術師であった。
彼は杖を片手に、その先端に灯りを灯している。その灯りはとても明るく、彼の魔力の高さが窺える。
「ルード!? 何故ここに?」
「ってゆーかお前、ここにずっと居たのか!?」
シェルとリカルドが、ルードの灯りを頼りに、駆け寄ってくる。
「ああ、殿下に王子! 考え事をしていたものですから、声を掛けるのが遅くなって申し訳ありません」
「考え事……ですか?」
早夜は首を傾げている。
「……そんな事より、2人ともいつまでくっ付いているんだ?」
シェルの低い声が響く。
そこで漸く、早夜は自分の状況に気付いた。ルードとは、体がぴったりと密着している状態である。
早夜が顔を上げると、ルードと目が合い、お互い頬を染めると、目を逸らした。
「す、すみません。今すぐどきますね!」
「いえいえ、此方こそすみませんでした!」
早夜とルードは、そうやってお互い、謝り合いながら身体を離した。
「本当にごめんなさいっ! 重かったですよね……」
「いいえ! そんな事ありませんっ、羽のように軽かったですよ!」
「え!?」
勢いよく言うルード。早夜は思わず赤面してしまう。
そんな早夜とルードを、面白くなさげに見つめる者が2人。シェルとリカルドである。
「……で? ルード、お前は一体、ここで何をしてたんだ?」
さり気無く早夜とルードの間に割り込みながら、シェルが尋ねる。
「え? ああ、あのですね、今度の星見祭の出し物について、構想を練っていたのですが……中々良い案が思い浮かばなくてですね……。
ここは静かですし、物を考えるには打ってつけの場所なんですよ」
「ほ、星見祭ですか!?」
シェルの背から、顔を覗かせた早夜が、興奮気味に言った。
「ルードさんが何かするんですか? それは楽しみです!!」
けれどルードは顔を曇らせた。
「サヤ様に期待して頂いてなんですが、こうして考えていても、まったく思い浮かばないのです……。
ああ、私は、何て無能なんでしょう……。この前のサヤ様の暴走も止められず、これでは宮廷魔術師失格ですっ!」
ルード酷く落ち込み、深く項垂れてしまう。
「そ、そんな事ありませんっ! ルードさんは立派な宮廷魔術師ですっ!」
早夜は、そんなルードの前にしゃがみ込むと、彼の手を取り励ました。
その時、後ろでシェルが、チッと舌打ちをしたのだが、幸い誰の耳にも届かなかった。
「見て下さい、ルードさんの魔法の灯りは、誰よりも明るいです。これは何よりも、その人の魔力の強さを表す物ではないですか?」
「……確かにそうなのですが……しかし、いくら魔力を持っていても、私は知識も経験もまだまだです。以前の宮廷魔術師の方が、早くに逝去なさり、急遽、私に就任されました。
その時はまだ、修行の身で……だから私は中途半端なのだと思います……」
「そんな事は……」
「はっ! そうだ、サヤ様! 貴女が宮廷魔術師になりませんか!? 貴女ならば、魔力も知識も申し分ない。何よりも適任です!」
「えぇ!? でも……あの……」
その時、今まで黙って聞いていたリカルドが、ルードの頭を強く小突いた。
「いたっ! 何するんですかっ、王子! いきなり酷いですよ!」
涙目で文句を言うルードに、リカルドは怒りを露わに言った。
「酷いのはどっちだ! お前、自分が出来ないからって、サヤに押しつけるな! 今のお前のそれは、ただの逃げだろーが!」
リカルドのその言葉を聞き、ルードはハッとなる。
「ああ……そう、ですね……。これはただの逃げですね……。
サヤ様、申し訳ありません。私は貴女に、大変失礼な事をしたんですね……」
自嘲気味に笑うルードに、早夜は静かな声で言った。
「ルードさん……この国の宮廷魔術師は、ルードさんですよ。
経験不足だっていいじゃないですか、その分きっと、周りの人が助けてくれます。ルードさんは、それだけの信用と信頼を、自分で築いて来たのではないですか?」
ハッと顔を上げ、早夜を見るルード。
早夜はそんな彼に頷いて見せると、にっこりと笑った。
「という訳で、私も助けさせて下さい。相談くらいなら、聞けると思いますよ」
ルードは身体を起こし、背筋を伸ばす。そして杖から手を離すと、不思議な事に、杖はそのまま立ったままだ。それから、ルードの手を握っている早夜の手に、今しがた杖から離した手を乗せる。
「ああ、あなたは本当に、幸せの遣いなんですね……。貴女の一言一言は今、私を幸福へと導いてくれているようです……」
何処か憧憬の念を持って、早夜を見つめるルード。
早夜はその視線を受け、くすぐったそうに首を竦めると、幸せそうに微笑んだのだった。
「―――実は、途中まで練っていた構想があったのですが――……」
「え? どういうものですか?」
「えー、夜空に竜でも飛ばそうかと考えたのですが――」
「えぇ? いいじゃないですか」
「いえ、よく考えてみたら、先代も同じような術を披露した事があって……。恐らくあれ以上のものは……」
「うーん……そうなんですか……」
今、早夜とルードは、星見祭の出し物について、相談し合っている。
しかも、そのまま塔の中で。
ルードは灯りを灯した杖を立たせたまま、その下で早夜と共にしゃがみ込んで、陣を描いた紙を見つめていた。
そして、シェルとリカルドはと言うと、彼らも早夜とルードの傍らで、同じ様にしゃがみ込んでいる。しかし、その話はあまりに高度な魔術の為、あまり話についてゆけずに、少々退屈そうだった。
その時早夜が、何かを思いついたように、パッと顔を輝かせて言った。
「あの、ルードさん! その幻術なんですが、それは、この世界の物じゃなくちゃ駄目ですか?」
「えー……どう言う事ですか?」
「私の世界の……日本の物を見せてはいけませんか?」
「サヤ様の……ですか?」
「はい! どうしても、皆さんに見てもらいたい物があるんです!」
早夜がそう言うと、シェルがハッとした様に、顔を向けて言った。
「それは、もしかして先程言っていた事か?」
すると、早夜は彼の方を見て、嬉しそうに笑った。
「はい! 皆さんに、日本の桜を見てもらいたいんです。如何でしょうか? インパクトに欠けますか?」
「……いや、大丈夫だろう。それに、何より私も、お前の言う、サクラ吹雪という物を見てみたいからな……」
シェルがフッと柔かく笑い、早夜に言った。
それを聞いて、ルードとリカルドは、
『サクラ吹雪……?』
と呟いて、同時に首を傾げるのであった。
早夜はその後、ルードに紙と筆を出してもらい、白い紙の前に正座すると、筆を手にする。
(なんだか習字でも始める気分…)
そんな事を思いながら、自分の中の知識に問い掛け、筆を走らせた。
ルードは勿論の事、シェルもリカルドも目を見張った。
その動きは、滑らかでいて機械的。驚く程の精密さで、陣を描いてゆく。
早夜自信もまた、驚いていた。
手が勝手に動く感じ、それは自動手記であった。
何も無い所に、定規もコンパスも無いのに、正確な線や円が描かれてゆき、見た事も無い文字や記号、そんな物が流れる様に書かれていった。
「………どうでしょうか?」
自分が書いた物とは思えない物を、ルードに見せる。
「私の記憶から取り出す物ですから、私もこの陣の中に構成されます。えと……ここの部分に私を立たせて下さい」
ルードは、今描かれたばかりの陣を眺め、感嘆の声を上げる。
「これは……見事ですね……」
「うん、さすがは万物の力といった所だね。まさに芸術的だ……」
「はい、その通りです……」
『…………』
『―――っ!!!』
皆が一斉に振り返った。そこに立つのは、言わずもがな、あの人物である。
「やあ、こんばんわ。呼ばれたみたいだから、来たよ」
「リジャイさん!!」
「……早夜、元気そうで何より……。ところで、僕に何か用? ハルルンが言うには、覚悟しとけって言われたんだけど……」
「ハルルンだぁ!? そりゃ、ハルの事か!?」
「うん、そう……」
「……? ハルとは誰だ?」
首を傾げるシェルをよそに、早夜はリジャイに詰め寄った。
リジャイは無意識に、一歩後ずさる。
「リジャイさん、大丈夫ですか? 熱は下がりましたか? 具合は如何ですか?」
「……ねぇ君達、早夜に言っちゃった?」
リジャイが、シェルとリカルドに尋ねる。すると、早夜が彼らの代わりに答えた。
「違います! 私の中の知識が、教えてくれたんです!」
「ああそっか! 僕とした事が……迂闊だったな……。でも、あれくらい、何でも無いから大丈夫。一晩寝たら治ったよ」
「大丈夫じゃありません! 何であんな事したんですか!? あれ位であれば、ほっといても自然に治ります! わざわざ、リジャイさんが自分にうつす事は、無かったんです!」
怒鳴られたリジャイは、目を見開く。以前、似たような事を言われた。その事を思い出し、思わず笑みがこぼれる。
「っ!? 何故笑うんですか? 私は真面目に言ってるんですよ!? ちょっとそこに座って下さい!」
顔を真っ赤にして怒る姿が、何とも愛らしい。口元に笑みを浮かべたまま、リジャイは素直に、そこに座った。
ちゃんと正座している事を確認した早夜は、頷くと左手を腰に、右手を前に突き出し、アレを言った。
「メッ! ですよ、リジャイさん!」
一瞬、しーんと静まり返った。
リカルドは知っていた為、何とも微妙な顔で、頬を掻いている。それ以外の者達は、ポカンと固まっていた。
「リジャイさん、前に私に言いましたよね? もっと自分を大切にして、と。言った本人が、それをしないで如何するんですか!?」
そして早夜は、ズイッとリジャイに顔を近づけると、じっとリジャイの目を見つめて言った。
「私分りました! リジャイさん、子供の頃、叱られた事がありませんね!?」
するとリジャイは、ハハッと乾いた声で困ったように笑う。
「えっと、怒られた事はあるよ……?」
しかし、早夜は首を振った。
「ただ、怒りにまかせて怒る事と、愛情を持って叱る事は違います!」
リジャイはハッとして、早夜を見る。もしかして、と思った。
(もしかして、君は本当は見てたのか? 僕の過去を……)
そう不安に駆られるリジャイだったが、早夜は更にいい募る。
「子供の頃に、ちゃんと愛情を持って叱られたのなら、分る筈です。自分という存在が、その人にとって、大切な存在なんだと。そうしたら、もっと自分を大事にするでしょう?」
そして、早夜はグッと拳を握り締める。
「だから、私決めました! リジャイさんが今後、自分を大切にしない行動をとったら、私がリジャイさんのお母さんに成り代わって、愛情を持ってリジャイさんを叱りますからね! “メッ!”て」
そう言って早夜は、満足気にニッコリと笑った。
「だからもう、あんな事しないで下さいね? リジャイさんという存在は、とても尊いですよ」
早夜は、自分が以前言われた事を、目の前に座るリジャイに言ったのだった。
ああ駄目だ、とリジャイは思った。目の前にいる子は、なんて綺麗なんだろう、と。
それに比べて、自分は……?
血に塗れた夜を思い出す。
自分の左手を見た。その小指には早夜の髪。魔術でコーティングされていた為、その髪自体は汚れる事は無かった。けれど……。
その時、目の前に、自分の手より小さな手が現れる。見上げれば、早夜が笑顔で此方に手を差し出していた。
一瞬、リジャイは幻視する。目の前の小さくて綺麗な手が、血に染まってしまう所を……。この輝くような笑顔が、恐怖に色取られるのを……。
――パンッ!――
リジャイは無意識の内に、早夜の手を振り払っていた。
「――あ……」
「……リジャイ……さん?」
驚愕に見開かれる、早夜の目を見た。その顔は、徐々に悲しげに歪められる。
「さ――」
早夜、と声をかけようとした時、グイッと胸倉を掴まれる。
シェルが冷たい瞳で、リジャイを睨みつけていた。そして、憎々しげに言う。
「今、オレはお前を、不法入国罪で、牢屋に入れる事も出来るんだがな……」
リジャイは、ある意味、ホッとしていた。
そう、この眼差しだ。この、怒りに色取られた、憎しみに満ちた眼差しの方が自分に合っている……。
リジャイは、ニィーと笑った。あの、独特の笑顔――……。
「不法入国罪かー、僕よりも今、牢屋に入れなくちゃならないのがいるでしょ?」
「それなら今、兵を使って、全力で探させて――」
「捕まえたよ」
笑みを深くして、リジャイは言う。
「一人、捕まえた……。どうする?」
目の前の冷たく、青い瞳が、徐々に見開かれていった。
と言う訳で、今回ルードが出てきました。
なんか凄いうじうじキャラですね。 最初、彼の設定は、もうちょっとクールな性格でした。
そして、早夜のメッが登場。
最後はなんか緊迫した感じで終わりましたね。
本当ならもうちょっとコミカルに終わらせたかったですが、リジャイがさせてくれませんでした。
さて次回、わたくし書いてて恥ずかしさで悶絶したお話です。
内容は読んで確かめてください。
お楽しみに!
Newvelランキング・
Wandering Network恋愛ファンタジー小説サーチ
小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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