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《第五章》
1.風に感謝……?
 早夜が、ゴミための街にやって来ると、ニット帽を被った見覚えある人物を見つけた。

「こんにちわ、マシューさん!」

 早夜がにこやかに挨拶をすると、マシューもまた、満面の笑みで返してくれた。

「おー、サヤ! 早速それ使ったのか」

 そう言われ、早夜は胸に付けたブローチを見ると、にっこりと笑った。

「はい! 凄く便利ですね、あっと言う間です!」

 マシューはそんな早夜の頭をぐりぐりと撫でてやる。
 マシューにとって、早夜は本当に妹が出来たみたいで可愛くて仕方がない。
 早夜もまた、嬉しそうにしている。

「あ、マシューさん。サニアさんは何処ですか? お借りしていた服を返しに来ました」
「あー、何を大事に抱えてるかと思ったら、それかー」
「あら、その服はサヤにあげたものよ。アリサもきっと、サヤが着てくれる方が、喜ぶわ」
「サニアさん!」

 振り返れば、にこやかに笑う隻眼の女性、サニアの姿があった。アリサというのは、サニアの妹の名前だ。

「でもでも――」
「フフッ、あの時サヤは、私の事をお姉さんみたいって言わなかった?」
「あ……はい、でも……」
「じゃあ、素直にお姉さんに甘えて頂戴?」

 そう言って、サニアは早夜をキュウッと抱きしめた。そして、パッと放すと、早夜の顔を嬉しそうに見る。

「サヤに似合いそうな服、まだ他にもあるのよ。着てくれると、嬉しいわ」

 早夜を見るサニアの目は、まるで本当に肉親を見る様な眼差しだった。その眼差しにハッとして、早夜は微笑むと頷いた。

「じゃあ、お言葉に甘えちゃいます」


 そうして早夜は、サニアが選んだ服に着替えた。今度の服は、前の時みたいに背中は開いてはいなかったが、スカートがやっぱり短かった。
 そして、早夜はハッと思い出したようにマシューに言った。

「そうでした! マシューさん。私、他にも用があったんです!」
「ん? 何だ、サヤ?」

 首を傾けて尋ねるマシュー。

「あの、あの、リジャイさんを呼び出すベルって、何処にありますか?」

 そう聞いてきた早夜の言葉に、マシューは眉を顰めた。

「用事って……あの男にか……?」

 早夜にキスしたと言う話を聞き、あの男にはあまり好い印象を持っていない。

「はい、お礼をしたいんです」
「お礼? 何かサヤに、感謝されるような事したのか? あいつ」
「実は……一昨日、ここに来た日の夜、私、熱を出して倒れちゃったんです」
「っ!! 本当かっ!? 大丈夫なのか!?」
「はい、その時治してくれたのが、リジャイさんなんです。それに……私に家族の思い出を見せてくれました……」

 そう言って、少し寂しそうに笑う早夜。
 その様子に、マシューは首を傾げるも、頷いて言った。

「そっか、そりゃあ一言お礼位言わなきゃな。あのベルなら、集会所に置いたままだ。行くか?」
「はい!」

 早夜はその言葉を聞くと、パッと顔を輝かせて返事をした。



 集会所に行くと、相変わらずガマじぃが扉の横に座っており、早夜を見つけるとにっこりと笑って立ち上がり恭しく礼をする。
 そして、その行為にくすぐったそうにしている早夜を見て、茶目っ気たっぷりに片目を瞑ると、また何事も無かったかのように椅子に座り、パイプをふかした。
(ふわぁ、何かかっこいいです……)
 そんなガマじぃを見て、若い頃はもてただろうなぁと、何となく思ってしまう早夜であった。

 
「ほら、やっぱり早夜ッスよ!」
「おー、やっぱり凄いな、お前の嗅覚」
「えっへんッス!」

 ドアを開けて入ってゆくと、そんな会話が聞こえてきた。
 聞けば、ハルは早夜達が集会所の訪れる前から、早夜の存在に気付いていたそうで、何でも早夜の匂いがしたのだそうだ。

「わ、私の匂い、ですか……?」

(えぇっと……夕べもちゃんとお風呂に入ったよね……)
 そんな事を思いながら、何となく自分の匂いを嗅いでしまう。
 マシューは苦笑すると早夜に言った。

「サヤ、ハルはな、目が見えない分、それ以外の感覚が鋭いんだ」
「そうッスよ。サヤの匂いは、何か花みたいに甘くて、春の風みたいッス!」

 そんな事を言われ、思わず早夜は赤面してしまう。
 その時、赤いバンダナをつけたデュマが寄ってきて、早夜に顔を近づけた。

「へぇー、どれどれ?」

 “ゴツン!”

「あだっ!!」

 そして水色の髪の男性セインに頭を殴られ、その場にうずくまった。

「セイン、痛い……」
「……自業自得だな、いい加減懲りろよ……」
「ウウッ……無理……」

 呆れたようにデュマに言うのは、隻腕の男性キースだ。


 早夜が、彼らにベルの事を聞くと、何故かハルが持っていた。そして、ハルはそれを、早夜に差し出す。

「オイラ、何度か押してみたッスけど、うんともすんとも言わないッス」
「え? じゃあ、私が押しても駄目かな……」

 ベルを見つめる早夜。
 マシューは早夜の頭に、ポンと手を置くと、ニッと笑って言う。

「まぁ、ダメ元で押してみたらいいんじゃね?」

 その笑みに励まされ、早夜は頷くとエイヤッと押してみた。
 ……全然鳴らない。

「……手が離せない用事でもあるんでしょうか?」
「さぁな……」

 マシューも首を傾げる。その時、ハルが早夜に訊ねた。

「サヤはどうして、クーちゃんに用があるッスか?」
「ク、クーちゃん!?」

 思わず訊き返してしまう。

「え? だって、ジャイジャイかクーちゃんって呼んでくれって言ってたッスよ?」
「いや、それはそーなんだけどな……」

 マシューが頭を抱える。他の者も微妙な顔をしていた。

「で? 何でなんスか?」

 ハルがもう一度早夜に訊ねる。すると、早夜は困ったように笑い、理由を言う。

「えぇーとね。リジャイさんが、熱で倒れた私を治してくれたから、それでお礼が言いたくて……」
「サヤ、熱で倒れたんスか!? それは大変だったっスねー。でも、熱って治せるもんなんスか?」
「そーだな……熱って事は風邪だろ? 風邪を治せる魔法なんて、見た事も聞いた事も無いな……。凄い魔法使いだったんだな、あの三つ目って……」

 キースが感心したように言う。

「え? でも、凄く簡単そうに――……」

 その時、早夜の中の知識が早夜に教えてくれる。
 徐々に顔を険しくさせる早夜は、パッとベルを見ると、何度も何度も押した。

「お、おい。サヤ、急にどうしたんだ?」

 マシューが戸惑うように早夜の肩を掴んだ。早夜は、マシューに振り向くと、泣きそうになりながらも怒ったように言った。

「今、私の中の魔法の知識が教えてくれました。リジャイさんは治してくれたんじゃありません。私の熱をそっくりそのまま、自分に移したんです!」

 早夜は怒っていた。
 そんな事をしたリジャイに対しても、そして、その事に気付けなかった自分に対しても。
 あの時、確かに不自然さを感じたのだ。
 何故あの時にもっとちゃんと知ろうとしなかったんだろう……。
 早夜の中に後悔の念が広がる。

 その時、“バタン”と部屋のドアが開いた。

「ああー! やっぱりここに居やがった!」

 見れば、汗をびっしょりと掻き、肩で息をするリカルドだった。その様子から、彼は裏路地の迷路と屋根の上を、全力疾走してきたようだ。

「お前なぁ、いくら治ったって言っても、一応病み上がりなんだからなっ! 下手に出歩くと、また熱出してぶっ倒れるぞ!」

 早夜はリカルドの姿を見るなり彼にしがみ付いた。

「リカルドさん! あの時、リジャイさんが私を治してくれた時、リジャイさんはどんな様子でしたか!? 辛そうじゃありませんでしたか? 熱とかありそうじゃなかったですか?」

 早夜にしがみ付かれ、一瞬顔を赤らめたリカルドであったが、リジャイという名前を聞いて、一気に熱が冷める。 
 そして、早夜から目を逸らすと、拗ねたように言った。

「別に、何も無かった……」
「ウソです! ちゃんと目を見て言ってください!」

 強い口調で言われ、気まずそうに早夜の顔を見る。だが、その真っ直ぐな瞳に見つめられ、また目を逸らしてしまう。

「私は小さい時から、リュウキさんの目を通して、リカルドさんの事をずっと見てきたんですよ!? ウソかホントかくらいわかります!」

 すると、リカルドは観念したようにボソリと言った。

「あいつ……サヤの熱、自分に移したんだって言ってた……後、サヤには内緒とか――……」

 早夜はそれを聞くと俯いた。 

 早夜は他人に迷惑をかける事が嫌だった。それは、小さい頃から思っていた事だったし、習慣であったからだ。
 最近になって、漸く人に甘える事を覚えてきた。それは、蒼のお蔭でもあったし、リジャイが掛けてくれた言葉もまた、早夜の心に響いた。

 でも、彼は前に自分に言ったではないか。もっと自分を大切にして、と……。それなのに、言った本人が、自分自身を大切にしてないような気が早夜にはした。

「……サヤ?」

 急に黙り込んでしまった早夜に戸惑うリカルド。俯いていて、その顔を窺い知る事が出来ない。
 泣いているのかと思って慌てた。

「で、でもな、サヤ。お前が気に病む事なんて、全然無いからな! あいつが勝手にやった事だし……なっ!」

 何とか励まそうと試みるリカルドであったが、ここで早夜がパッと顔を上げた。 
 その表情は泣いても落ち込んでもいなかった。口をキュッと引き結び、凄く怒った顔をしていたのである。

「あの……サヤ?」

 恐る恐る声を掛けるリカルド。
 早夜はそんなリカルドを無視してマシューに言った。

「マシューさん!」
「なっ、何だ!?」

 今までずっと見守っていたマシューだったが、早夜のその様子に、思わずたじろぐ。

「そのベルでずっと呼び出してて下さい。それでもし、呼び出せたら私の所に来る様に言って下さい」
「えぇーっと……お礼を――……?」

 そーっと窺うように訊ねると、早夜はキッとマシューを見て言ったのだ。

「いいえ、叱り付けてあげます! “メッ!”って!!」

 右手の人差し指を突き出し、左手は腰に当て、叱り付ける仕草をする。
 一同、その姿にポカンとしてしまった。

「じゃあ私は、これで失礼します!」

 そう言って、早夜はズンズンと歩き去ってしまう。
 シーンと静まり返る室内。
 マシューが乾いた声でポツリと言った。

「ははっ、“メッ”か……そりゃーこえーなー……」

 殆ど棒読みである。

「でも俺、あれだったら叱って欲しーかも……」

 デュマがボソリと言うのを、キースとセインがじと目で見やる。

「おい、リカルド。追わないでいーのか?」

 マシューが、今だボーとしているリカルドにそう言うと、リカルドはハッとして、慌てて追い掛けて行った。

「じゃあオイラ、ベルを押してるッス!」

 そう言って、嬉々としてベルを押し続けるハル。それはもう、楽しそうに……。

「クーちゃん、どんな反応するッスかねー? 楽しみッス!」



「お、おいサヤ! 待てって!」

 後から集会所を出てきたリカルドが早夜に追いついた。
 早夜は前を向いたまま、ズンズンと歩いてゆく。

「なぁ……オレは別に異論はする気はねぇよ? 寧ろ、そうしてくれって言いたい……でも、何でそんなに怒ってんだ?」

 てっきりお礼でも言いたいのかと思っていた。
 すると、早夜は歩く速度をゆるめ呟く。

「リジャイさんは私に、自分を大切にと言いました。でも、リジャイさんのした行為は、自分を大切にしている行為ですか? そうじゃないですよね……」

 だから今度は此方から言いたいと早夜は思った。もっと自分を大切にしてという言葉を……。
 そしてふと、早夜はあの夢の中の幼いリジャイの姿を思い出す。あの、血だらけで傷付いた表情の少年を。あれが、彼の心だとしたら……。
 早夜はギュッと拳を握る。
 リカルドはその様子を、複雑な表情で見ているのだった。



「今日も付き合ってくれて、ありがとうございます。リカルドさん」
「いいや、俺もまた来たいと思ってたし……」

 今、二人はあの丘にいる。
 相変わらず風は強く、二人は柔かい草の上に腰を下ろし、眼前のアルフォレシアの街並みを見下ろしていた。
 リカルドは、風で乱れる髪を手で押さえ撫で付けている早夜を見つめる。
 そして、前を向くとポツリと言った。

「なぁ、サヤ……一つ聞いていいか?」
「……? 何ですか? リカルドさん」

 早夜はリカルドの方を見ると首を傾げた。彼は其方を見ずにそのまま続ける。

「何で、あいつの事そんなに気にしてんだ? あいつは、お前の、その……唇を奪った男だぞ? なのにお前は、平然とあいつに笑顔を向けたりしてる……」

 リカルドが早夜を見ると、顔を俯けて頬を赤く染めている。その姿に、苛立ちと不安を覚えながら、リカルドは搾り出すように言葉を紡いだ。

「……お前、あいつの事どう思ってるんだ……?」
「はい?」

 早夜は顔を上げ、リカルドを見る。リカルドは、その顔をまともに見れずにさらに聞いた。

「もしかして、あいつの事……好き、なのか……?」

 一瞬何を言われているのかわからず、早夜はポカンとしてしまう。
 しかし、理解すると共に早夜は顔を真っ赤にして、大きな声で叫んでいた。

「えぇっ!!?」

 思っても無い事を言われた事と、まさかリカルドがこんな事を訊いてくるとは思わず、仰天してしまったのだ。

「なっ、ななな何を言ってるんですか!? す、好きって……ちっ、違いますよぅ!!」

 どもりながら否定する早夜に顔を向け、ムスッとしながらリカルドは訊ねる。

「じゃあ、何でだよ……」
「な、何でって――……その……リジャイさんは何となく――……おじぃちゃん先生?
 そう! おじぃちゃん先生っぽいんです!」
「は!?」

 リカルドに何とも可笑しな顔をされながらも、早夜は更に言い募る。

「全然似ては無いんですけど……時々雰囲気が……その、私を見る眼差しとか、優しい手とか……何か、おじぃちゃん先生を思い出して落ち着くんです……」
「おじいちゃん先生ってあの幸せになれっつった?」
「はい! ……でも、リジャイさんそれ以上に子供みたいと言うか何と言うか……放っとけない? 放っておくとなんか落っこちてしまいそうで――……」
「落っこちる?」
「はい……何かそんな風に感じるんです……。ごめんなさい、訳分んないですよね……。言ってる私も訳分んないです……」

 しょんぼりと早夜は俯く。
 リカルドは、正直早夜の言っている事は全く分らなかったが、取り敢えず好きとは違うのだと分りホッとした。
 そして、今だ考え込んでいる早夜に、別の話題を切り出す事にする。

「そーいやさ、ミヒャエル兄貴に食事に誘われてんだろ? あれどうなったんだ?」

 そんなリカルドに戸惑いながらも、早夜は答える。

「それなら今夜です。昨日は病み上がりだからと、ずっと部屋に居ましたからね。別にもう元気なのに……。 
 さっきだってリカルドさん、出歩くなとかそんな事言ってましたよね……。私、そんな体弱くないですよ」

 ちょっとばかり拗ねて見せる早夜。

「いや、だってな? お前、体小さいし……」

 “小さい”という言葉に、早夜はプクッと頬を膨らませた。

「もう、小さいのは関係ありませんよぅ! 皆さん過保護すぎます! そんなんじゃ、逆に病気になっちゃいますよ。病は気からと言うじゃないですか!」
「いや、その言葉は俺しらねー……」

 聞き慣れない言葉にリカルドは呟くのだが、早夜はぷいとソッポを向いている。
 早夜は昨日の事を思い出していた。
 とにかく皆には壊れ物を扱うように、それはもう大事に扱われた。王様を始め、皆が見舞いに来た。
 そして、少し出歩くにも使用人のりリアとセイラがくっ付きまわり、少しうんざりした。
 今日も大丈夫だからと、何とか言い聞かせて出てきたのだ。
 ふとリカルドを見ると、彼は気まずそうに此方を窺っていて早夜はクスリと笑った。
 何だか怒られてビクビクしている子供そのものだ。

「そういえば、リカルドさんは星見の塔には勿論行った事があるんですよね?」

 突然の話の転換に、リカルドは戸惑った表情を見せたが、早夜が怒っていない事が分りホッと胸を撫で下ろす。

「ああ、あるけど……それが一体――」
「どんな感じなんですか? 実は今夜、夕食の後シェルさんが連れてってくれるんです」
「は? シェル兄貴と!?」
「はい! 本当なら、一昨日の夜に連れてってくれる筈だったんですけど……あの通り熱で倒れちゃいましたからね……。
 ウフフ、夜の塔はどんな風に変わるんでしょう? 凄く楽しみです」

(星見の塔? シェル兄貴と2人? しかも夜……)
 リカルドは頭を振ると叫んだ。

「それならっ、俺が連れてってやる!」

 リカルドとしては憤りを感じて叫んだのだが、当の早夜はビックリした顔をした後、パッと笑ってこう言ったのである。

「じゃあ、リカルドさんとシェルさんと3人で行くんですね? シェルさんには私から言っておきます」
「い、いや、だからその……」

 出来る事なら二人でと言いたかったが、早夜が無邪気に首を傾げるものだから、何も言えなくなってしまう。
(まぁ、シェル兄貴と2人ってのは阻止出来たからよしとするか?)

「じゃあそろそろ戻りましょう。過保護な皆さんの事ですし、心配してるでしょうから……」

 立ち上がり、リカルドに向かってそう言った時、今までで一番強い風が吹いて早夜の髪を巻き上げた。

「ふにゃあ!?」

 髪がぺったりと顔に張り付き、視界が遮られる。
 何とか剥がそうにも、早夜の細い髪は、風に押し付けられ、綺麗に張り付いてしまっていて、中々剥がせない。
 漸く風が収まり、乱れてしまった髪を整え、リカルドの方を見ると、彼はあんぐりと口を開いて、此方を凝視していた。
 何だか恥ずかしくなり、頬を掻きながら照れた様に言う。

「す、凄い風でしたね……」

 すると彼は、ハッとした様に早夜を見ると、頬を赤らめ呟いた。

「そ、そうだな……」

 何だか様子がおかしく、此方に視線を合わしてくれない。

「どうしたんですか? リカルドさん」

 首を傾げてそう尋ねてくる早夜を、横目でチラチラと見ながらリカルドは言った。

「何でも無い……」

 それでも不思議そうにする早夜に、頬を染め、口元を押さえながらボソリと言う。

「強いて言うなら……風に感謝……?」
「はい?」

 訳の分らない事を言うリカルドに、早夜は頭を混乱させた。

「早く行こうぜ? 戻るんだろ?」

 リカルドは立ち上がり、早夜を促す。

「え? あ、はい!」

 早夜はリカルドの隣に立つが、彼は此方を見ずに、ズンズンと歩いてゆく。

「ああ、待って下さいよぅ!」

 早夜は慌てて追いかけた。



 あの時……あの強い風が吹いた時。
 その風は、早夜の髪だけでなくその短いスカートをも巻き上げていた。
 そして、それはしゃがみ込んでいたリカルドの丁度目線の高さに……。可愛く、リボンとレースがあしらわれたそれは、もうばっちりしっかりリカルドの脳裏に焼き付けられたのである。

「……白……」

 グッと小さく拳を握りながら呟き、思わずにやけてしまうのを止められないリカルドであった。



 このお話を思いついた時、それは春一番が吹いた時でした。
 道行く女子高生達。 はい、物ともせずに歩いてましたよ。 なんと逞しい……。
 しかし、ふと思い出してみると、自分もまた、そうであったような……。 一々気にしてられるかい!と自転車通学していた覚えがあります、はい……。
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