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《第四章》
12.目覚めの朝に……
 明るく暖かな日差しに起こされ、早夜は目覚める。

 目頭が熱い。
 早夜は、自分が泣いていた事に気付いた。
 懐かしい夢を見ていた気がする。悲しく、切ない夢を……。
(何か、おじぃちゃん先生の夢だった気がする……あの最期の日の……)
 そして、涙を拭こうとして可笑しな事に気付いた。

「あれ?」

 その手は、誰かの手によって握り締められている。

「あれあれ?」

 反対の手も上げようとして、其方もまた、誰かの手が握り締められていた。
 見れば、リカルドとシェルがそれぞれ早夜の手を握っており、そのままベッドに突っ伏した状態で眠っていた。

「そっか、2人とも心配して付いててくれたんだ……」

 夕べの事を思い出しながら呟く。
 熱も完全に引いて、体調もすっかり良くなっており、そうしてくれた人物に御礼を言おうとその姿を探した。

「あれ? リジャイさんは……」
「何だ……一晩中ついていた私達より、あいつの事が気になるのか……」

 不意に声を掛けられ、ビクッとしてしまう。見れば、彼は目を開き、目線を投げかけていた。

「シェルさん!? 起きてたんですか?」
「と言うか、お前の声で目覚めたんだが……」

 そして、シェルは上体を起こし軽く欠伸をすると、前髪を後ろにかき上げ、気が付いたように早夜を見てフッと笑って言った。

「おはよう、サヤ」

 そんな彼に、どこか色気を感じてしまい、早夜は思わず赤面してしまう。

「うっ、お、おはようございます……。あ、あのシェルさん。そろそろ手を放してくれませんか?」
「ああ、これか……」

 そう言って、早夜の手を握ったまま腕を上げ、そして、早夜を見てにっこりと笑う。

「放して欲しいのか?」

 その笑顔にギクリとしながら、早夜は頷いた。
 するとシェルは、ズイッと顔を近づけてくる。

「駄目だ、放してやらない……」
「えぇっ!?」
「熱を出して心配させた罰だ」
「そ、そんなぁ……」

 そんな早夜の様子に、クスリと笑うシェルだったが、その目元が濡れている事に気付き、眉を顰める。

「……どうした? 泣いていたのか?」

 シェルがもう一方の手で、涙を拭ってやる。

「え、あ、あの……これは夢を見て……」
「夢?」
「悲しい夢です……多分日本での……。あの、その……は、離れてください」

 息が掛かる位顔を近づけられ、思わずその口元に目をやってしまう。
 シェルはそれに気付き、ニヤッと笑った。

「言っただろう? 罰だと……。何なら、目覚めのキスでもするか……?」

 そう言ってさらに顔を近づけてくる。

「キ――……!!?」
「しー……リカルドが起きる……」

 早夜の手を握るシェルの手に力が入り、今まで茶化すようだった目つきも、熱を帯びたものに変わった。
 早夜は、彼の本気を感じ取り戸惑う。
(だってシェルさんは、アイーシャさんが――……)
 その時、鼻先がかすめ早夜はギュッと目を瞑り身体を硬くする。

「安心しろ、もうあんな乱暴な口付けはしない――……」

 そう掠れた声で言い、いよいよ唇が触れそうになった時――。

「うわぁっ!!」

 リカルドが突然、大声を上げて飛び起きた。

「っ!!」
「チッ――」

 早夜は驚いて目を開き、シェルは素早くその身を離すと同時にその手も放した。
(た、助かったー。でも、シェルさん今、チッて言った。チッて)

「びびったー! 今、すっげー怖い夢見た……」
「あ、あの、リカルドさん、おはようございます」

 リカルドはその声に振り向き、早夜を見ると嬉しそうに笑った。

「ああサヤ、おはよう。もう大丈夫みたいだな、良かった。あー、シェル兄貴……も、おはよう……?」

 何やら、シェルの方から不穏なものを感じ、汗を流すリカルド。

「……ああ、おはようリカルド。実にタイミングの良い目覚めだな……」

 にっこりと笑顔を張り付かせ、シェルは言った。

「……? タイミングって……兄貴、なんか怒ってる?」
「ははっ、私が怒っている? リカルド、まだ寝ぼけてるんじゃないのか?
 それより……いつまで手を握っているつもりなんだ。それじゃサヤが起きれないだろう?」

(〜〜〜っ!! シェ、シェルさん、他人の事言えませんよっ!!)
 そう心の中で叫ぶが、まるでそれが聞こえたかのように、シェルが此方を向く。

「ん? 何か言ったか?」

 そうにこやかに聞いてきたので、早夜は思い切り首を振る。

「ああそっか。ごめんな、サヤ」

 リカルドは一度、名残惜しそうにギュッと握り締めてから、その手を離した。
 そして早夜が起き上がると、リカルドもまた早夜の目が赤い事に気付き、心配そうに覗き込む。

「何だサヤ、目が赤いな。もしかして、まだどっか、おかしいのか?」
「イ、イエ、これはその、悲しい夢を見て……。でも、内容は覚えてません……」

 少し寂しそうに言う早夜。

「そっか……実を言うと、俺も今見たすっげー怖い夢全然覚えてなかったりする」

 リカルドはそう言って、腕を組み思い出そうとウーンと唸って見せた。
 それが何だか可笑しくて、早夜はフフッと笑うと、首を傾ける。

「じゃあ、一緒ですね」
「ああ、一緒だ」

 リカルドはその表情を一瞬眩しげに見つめてから照れくさそうに笑った。
 そしてシェルはというと、そんな2人の様子を、面白く無さ気に見ているのだった。



 〜クラジバール・ロイの屋敷〜

 まだ、熱でボーとする中、リジャイは目を覚ます。
 首を動かすと、ポトリと額から濡れた布が落ちた。

「何だ、起きたのか……」

 リュウキは落ちた布を手に取ると、傍らに置いてある盥の中の水に浸し、ギュッと絞った。そして、それをリジャイの額に置いてやる。

「あははー、これじゃ僕、魔法使えないねー」

 完全に、額の目が隠れてしまっている。
 リジャイの言葉に、リュウキはピクンと眉を上げる。

「今は使う必要は無いだろ?」
「あれ? そういえば、ロイロイとムイムイ(カムイ)は?」
「あいつらなら、別の部屋で寝ている。一応、交代でお前の看病をする事になったんだが……あいつら起きない……」
「あはは、それはお気の毒様。……でもそっか……リュウキが看病してくれてたんだ。
 一応、お礼言わなくちゃね、ありがとー」
「一応って何だ、一応って……」

 今はここに二人しか居ないので、リジャイは普通に彼の事をリュウキと呼んでいる。
 そして、2人の間に沈黙が下り、静かな時間が流れる。それが何だか落ち着かなくなったのか、リジャイが何かを思い付き、ニヤッと笑った。

「そうだー、僕、リュウキに言っとかなきゃいけない事があったんだよねー」
「……何だ?」

 その笑顔に何となく嫌な予感を覚え、リュウキは身構えると訊いた。
 すると、リジャイはますます笑みを深くして、

「実はねー、早夜にチューしちゃった。しかも3回も……」
「…………」

 たっぷり沈黙があった後、リュウキは黙ってリジャイの額の布を取り替えた。
 てっきり怒られるか、殴られるかすると思っていたリジャイは、予想に反した行動に、ポカンとしている。

「……怒らないの?」
「怒って欲しいのか?」
「うん、出来れば……」
「何だ? それは……」

 眉を上げるリュウキに、リジャイはフフッと意味ありげに笑う。

「……怒っているさ。だが、病人に手を出す訳にはいかないだろ。お前が治ったら、思いっきり殴らせてもらう。きっかり3回な」
「うわー、それは今から怖いなー。でも、殴られるって言えば、リカルド王子にも殴られたよ、グーで」

 するとリュウキは、クッと笑った。

「それは……後で良くやったと褒めてやらなくてはな」

 リュウキがそう言うのを、リジャイはニヤニヤして聞いていた。

「あー……そんな事、言ってていーのかなー? リカルド王子のあの様子、あれは完全に、早夜に惚れてるね……」
「………は?」

 今度はリュウキがポカンとする番だった。

「あの早夜を見る目つきといい、それに僕にとった行動、あれは間違い無く嫉妬だねぇ」
「い、いや、ちょっと待て! あいつは……リカルドは、女が苦手だった筈――」
「えー? そーなの? 早夜に対しては、最初からそんな感じは全然無かったよ。手とか握ってたし……」
「て、手を握って――……?」
「あー、後、シェル王子様も何か怪しかったなー、昨夜は廊下で2人で居たし……何かいい雰囲気だったような……」
「はぁ!?」
「そん時早夜、熱があったみたいなんだけど、熱を測ろうとしたシェル王子様が、早夜の額に自分の額を押し付けた所を丁度リカルド王子が見て、それをキスと勘違いしたリカルド王子は――……」
「ま、まて! ちょっと待ってくれっ! 何かつっこみ所が沢山あるんだが……ちょっと頭を整理させてくれ……早夜が、熱……? それは大丈夫なのか!?」

 するとリジャイは、何とも不思議な笑みを作り言った。

「うん、大丈夫。僕が治しといたから……」
「そうか、よかっ――……はっ、まさか、今のお前の熱は!?」

 リュウキがそう言うのを、リジャイは驚き、目を見開いた。

「うわっ、凄い勘の良さ。ははっ、そのまさかだったりして?」
「っ!! ……なぁ、リジャイ、前から思っていたんだが、何でそこまで……?
 その……早夜を好きなのか……?」

 リュウキがそう尋ねると、どこか透き通った笑みを浮かた。

「さて、何故でしょう?」

 それを聞いたリュウキは、怒ったように顔を顰める。

「俺は真面目に聞いてるんだが……?」
「フフッ……それよりも、実は早夜を狙って、他国から侵入して来た奴らが居たんだ……」
「っ!! 何? どういう事だ?」
「一人は捕らえてあるよ。ある場所に閉じ込めてる。後で尋問するつもり」
「じゃあ、もしかして、あの血はその時の――」
「もう一人は、思わず殺しちゃった。君の事を化け物って言ったから……」

 そう呟くリジャイに、リュウキは何も言えなくなってしまう。

「あれだけは如何しても許せなかった……紅い瞳の化け物なんて言葉……」
「……リジャイ……」



 その時、この部屋の扉の外には、ロイが立っていた。
 少し前からいたのだが、何となく、入るタイミングがつかめなくなってしまっていた。
(ウーム、どうしたものか……。お早うと陽気に挨拶して入るべきか? いや、そんな雰囲気じゃないだろう。ノックして……は不自然か、ここは我の屋敷だし、いつもはノックなどしないから、盗み聞きしていたのがバレてしまう……)

「お? ロイロイじゃねーか! んな所に突っ立って何してんだ?」
「っ!!!」

 ばっと振り返ると、爽やかな笑みを浮かべ、カムイが立っていた。

『しー、バカッ! 声が大きい!!』

 ロイは声を潜めて、慌ててカムイに言った。

「あん? 何だって?」

 だが、カムイはさらに大きな声で聞いてきた。

「〜〜〜っ!!」
 
 ロイは尻尾を逆立てるが、その時“ガチャリ”と音がして、振り返ると扉を開けて、リュウキが呆れたように立っていた。

「何してるんだ? こんな所で……」
「おお、ムエイ! おはよーさん! いい朝だな!」

 そうカムイが爽やかに挨拶をする中、ロイは必死に言い訳する。

「ちっ、違うのだ! 決して盗み聞きしていた訳じゃないのだ! ただ、タイミングがつかめなかっただけなのだぁっ!!」
「何だ、ロイロイ盗み聞きしてたのか」
「違うのだー!」
「……何でもいいが、ロイもカムイも、交代で看病する事忘れてただろう……」

 低く静かに言うムエイに、2人とも『あっ』と声をはもらせ、暫く無言で顔を見合わせた。



「いやー、悪かったなムエイ。ここの寝床、あんまり気持ちがいーもんだから、熟睡しちまったゼ」
「うおー、すまぬ、ムエイ! お詫びに何でもするのだ!」

 一気に部屋の中が騒がしくなる。
 そんな中でリジャイは、顔を顰めていた。

「うーん、頭に響くー」

 そんな彼らにリュウキは溜息を付く。

「お前達、いい加減にしてくれないか? 悪いと思うなら看病を変わってくれ。俺は昨夜から一睡もしていない」

 その言葉に2人とも慌ててリジャイのベッドの脇に座った。

「わかった! しっかり看病するから、安心するのだ!」
「おう、ゆっくり寝てくれ!」
「……だから、もうちょっと静かに喋ってー……」

 リュウキは彼らを少々心配そうに見やってから短く息を吐く。

「じゃあ、俺は寝るから、何かあったら起こしてくれ」
「多分何も無いから安心するのだ」
「そうだゼ、心配すんな!」

 そして部屋を出ようと扉に手を掛けた時、リュウキが開けるより先に、その扉は開いた。

「おはよーございます! 私、ムエイ様の看病のお手伝いに来ましたー! て、あれ?」

 ミリアだった。
 彼女は目の前に愛しいい人物が立ってる事に気付き、顔を赤らめる。

「やだっ、ムエイ様が私を迎えてくれるなんてっ!!」
「やったミョ、ミリア! まずは、おはよーのチューから始めるミョ!」
「えぇっ!? やだー、そんなっ、ミリアはずかしー!」

 そう言いながらも、ミリアは手を組んで、目を瞑り、顔を突き出す。
 リュウキはそんなミリアに、顔を引きつらせながら、彼女を横にずらす。

「悪いが俺は昨夜一睡もしてないんだ。だからこれから寝かせてもらう。あの2人に、看病の仕方を教えてくれると助かる……」

 リュウキはそのまま部屋を出る。
 そんな彼を残念そうに見ながら、ミリアは頷いた。 

「はい、ムエイ様の頼みなら、私なんでもします! おやすみなさい!」

 断然張り切るミリアは、中にいる二人に色々と指示しだしたのだった。


 
「何だか、どっと疲れが増した気がする……」

 そう呟いていると、イーシェが話しかけてきた。

「もう少し辛抱するミョ。ミリアが真実の恋に気付くまでは、もう少し時間がいるミョ」

 リュウキは目を見開き、イーシェを見る。

「ミリアはムエイに、父親の姿を重ねてるんだミョ。両親が死んでから、ミリアは弟や妹達をたった一人で面倒見てきたんだミョ。頼れる存在に憧れているんだミョ。
 だけどそれは、自分自身で気付かないといけないんだミョ」

 リュウキはまじまじとイーシェを見やると、呆然として言った。

「じゃあ、今までの言動は……」
「ミリアはイーシェと違って純粋で真っ直ぐミョ。イーシェはそれを壊したくないんだミョ。
 だからムエイも、もう暫くは我慢するんだミョ。 
 ミリアもムエイの本名と婚約者を知ったら、きっと諦めがいくミョ……だけどそれは、もう暫くはヒミツだミョ」

 イーシェはにっこりと笑いムエイの元を去っていった。
 その場に残されたリュウキは、首を振りどっと疲れて呟く。

「俺の本名と婚約者だと? 俺の正体に気付いてたのか? ……まったく、今回は驚く事が多すぎる……。何だか、俺も熱が出そうだな……」

 そうして留意は自分の部屋へと入っていったのだった。









 〜日本・一時帰宅その後 其の十二〜


「ほ〜れ花ちゃん、七段階変形だ〜♪」

 楓が花ちゃんに何やらプレゼントした。
 それは、花ちゃんよりも大きな、ロボットのおもちゃだった。

「オオ〜!! スゴイノデツ〜〜!」
「ちゃ〜んと、合体もするぞ〜、そ〜れ♪」

 ガシーンと口で言いながら、それを見せる。
 花ちゃんは頬に手を当て、訳のわからない奇声を上げている。

「コレハモウ、“ロボットノ舞”ヲ踊ルシカナイノデツ!」
「んん? ロボットの舞って、翔さんが大笑いしていたやつか?」
「僕ハ、アレカラ修行ヲシタノデツ! 格段二、パワーアップシテイルノデツ!!」

 フフフと不適に笑う花ちゃん。

 そして始まる“ロボットの舞”。
 確かに踊りが数段パワーアップしていた。
 しかし、その顔はやはり、何か微妙で、先程奇声を上げた顔で踊っている。
 ただ、常にその顔で……。
 そう、パワーアップしたのは踊りだけではなかったのだ。


「……マタ笑ワレテシマイマツタ……マダマダ修行ガ足ラナイノデツ……」

 楓から貰った、ロボットのおもちゃに寄り掛かりながら、夕日を眺め、たそがれている花ちゃんであった。


 =今回のお話=
 今回はちょっとほのぼのしてみました。ホッとしたくて。
 シェルはやっぱりなんかエロいです。一応本気モード入れてみました。まだ軽い本気モードですが……。
 リカルドはなんか、本能で感じ取ったんでしょうかね、夢という形で……。
 クラジバールの面々ですが、カムイがいると楽です。一気に場面が明るくなるような気がします。彼の存在もちょっとホッとします。
 イーシェですが、普段のあれはフリだったんですね。中身は結構シビアだったりします。
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夢の逢瀬 ←番外編です。


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