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《第四章》
11.月夜の晩に・後編
「あれ、ここ何処かなー……?」

 ボーッとしながら、辺りを見回すリジャイ。
 後ろの方にに、アルフォレシア城が見える事から、ここがまだアルフォレシア国内だと分る。
 
「あー……目測誤っちゃったなー……」

 煉瓦で出来た煙突がある事から、ここは何処かの屋根の上のようだった。
 ふと空を見上げると、巨大な月が自分を見下ろしている。

「久しぶりだったけど、結構きついや……」

 ポツリと呟くと、リジャイの脳裏にある少女の声が思い浮かんだ。

『まったく! また熱をお引き受けになったのですか!? その度に、倒れるリジャイ様を介抱する私の身にもなって下さい!』

 懐かしいその声に目を瞑れば、怒ったような少女の顔が思い出され、リジャイはクスリと笑う。

「……だって、凄く辛そうだったんだよ……」

 リジャイは、頭の中の声に答える様に呟くと、その表情は困ったものに変わった。

『お気持ちは分りますが、子供というものは熱を出すものなんです。自らの力で治させた方が、丈夫に育つんですよ』

 そう言って彼女は、リジャイから目を逸らすと、ポツリと呟くのだ。

『どうか、私の前で、そんな風に弱らないで下さい……』

 そう呟く彼女に、自分は何と言ったのだろうか……確か――。

「殺したくなるから……?」

 そう、確かこう言った……。すると少女は、ハッと目を見張るように此方を見、そしてキッと睨むと言ったのだ。

『はい……そうですね……。凄く、殺したくなります……』

 そう搾り出すように、彼女は言ったのだ。

 そうして、暫くボーと月を眺めていたのだが、ふと人の気配を感じ、屋根の上から下を覗き込む。

「バーズ先輩。いくら探した所で、あの魔力の主は見つかりませんよ。ありとあらゆる方法を試したんですよ!? 諦めて国に帰りましょうよ……」
「何を言うキム! お前は努力が足りないのだ! アルフォレシアは、きっと隠しているに違いない。異界人等と言う寄生虫を、野放しになどできるかっ!
 この世界は、我々のものなのだぞ! 見つけ出して駆除せねばっ!」

 屋根の上からその会話を聞いていたリジャイは、困ったように笑った。

「ウーン……もしかして、これってあれかな? 他国の侵入者? 今の僕の状態でこれって、ラッキーなのかそうでないのか……」



 キムは、目の前のバーズという男の言う事が、理解できなかった。 
(異界人だから、どうだというんだ?)
 そんな事を考えるのは、自分が田舎者だからだろうかと、キムは考える。
(こんな事なら大人しく、田舎で畑でも耕してれば良かったかなぁ……)
 都会に憧れ、田舎を出て、魔術の才能を見込まれ、国のお抱え魔術師になった。
 そこまでは良かったのだ。それなりにお金も貰え、将来も明るくなってきた矢先、先日の強大な魔力……。
 国から直々に、その魔力を探れと通達があった。

 キムは、そんな者は適当に探せばいいと思っていた。見付かれば良し、見付からなくても、別にいいやと考えていたのである。さっさとやって、さっさと終わらせて、さっさと帰りたかった。
 だが、キムのパートナーとなった者は、都会生まれの都会育ち、代々魔術師の家系でプライドも高く、国に忠誠を誓っている人物であった。
 キムもそれなりに忠誠心はある方ではあるが、このバーズという男は、それが異常な程であった。
 国が異界人を認めないと言えば、今のように寄生虫呼ばわりするバーズ。飛躍しすぎではと、キムは思った。
 恐らく、見付かるまで帰るつもりは無いのだろう。キムは溜息混じりに、目の前を歩くバーズの背を、恨めしげに見つめるのだった。

「何をしている、キム。さっさと探索魔法を行うのだ!」
「あ……」

 キムは何かに気付き、立ち止まった。
 バーズもそのキムの様子に、前に向き直る。すると目の前に、月を背に立つ何者かの姿があった。

「やぁ、君達って他国の侵入者だよね? 何処の国なのか、何をするつもりなのか、他にも仲間は居るのか……ちゃっちゃと教えてくれるかな……」

 腕を組み、気だるそうに此方を見ている人物は、長い髪を後ろで三つ編みにし、右頬と右腕に刺青のある男だった。そして、一番異様なのは、その額にある瞳。

「い、異界人!?」

 明らかにそうだと認識できるその容姿に、バーズはギクリとして立ち止まった。彼は、慌てて懐からタクト状の魔法の杖を取り出すと、リジャイに向ける。その先端は、細かく震えていた。

「い、異界人の化け物め! 今、駆除してくれるっ!!」

 その時、キムは月の明かりが強くなったのかと錯覚した。何故なら、目の前に立つ三つ目の男の影が、濃くなった気がしたからだ。

「……もう一度聞くよ……。何処の国から来て、何をするつもりで、仲間はいるのか……」

 するとバーズは、震えながらも馬鹿にしたように笑った。

「だ、誰が教えるか、化け物! 我らは国の為なら、命を捨てる覚悟だ! 死んだってこの口はわらんぞっ! お、お前こそ、先日の魔力の主か!?」
「……だったら、どうするつもり……?」

 さらに濃くなる影の中で、その三つの瞳だけは、爛々と輝いていた。

「殺すに決まっているだろう、化け物! この世界は我らのものだ。異界の者に穢されてなるものかっ! 
 あれ程の穢れた魔力を撒き散らし、この世界を喰らうつもりだったんだな? 見ろ、思った通りの化け物だ!!」
「……じゃあ、お望み通り、化け物になってあげようか……?」

 そう言った途端、三つ目の男から、一気に何かが膨れ上がるのを感じた。

「何を言っているんだ? 化け物になるも何も、既に化け物ではないか!」

 何処か、バカにするように言う目の前の男を、キムは信じられない思いで見ていた。
 何故そんなにも相手を刺激するような事を言うのか、この恐ろしいまでの禍々しいものを、この男は感じていないのだろうか……。
 現に、三つ目の男からは、バーズが化け物と言う度に、その禍々しいものが膨れ上がっている様に感じる。

「な、何言ってるんですか先輩! ここは、早く逃げましょうよ!」

 頼むからもう刺激しないでくれと祈るように、キムはそう言った。しかし、この男は――……。

「お前こそ何を言ってるんだキム。お前には国の意図が見えないのか? 
 国の望み。それは、この世界から異界人を全て消し去る事だ! 異界人など寄生虫だ、蛆虫だ!」

 キムは頭を振った。
(駄目だこの人――……)
 きっと何を言っても話は通じないだろうと思った。キムはゆっくりと後ずさる。
 バーズはまだ、目の前の三つ目の男を罵っている。
 しかし、三歩ほど後ずさった所で、キムは何かに阻まれている事に気付いた。

「えっ?」

 キムは後ろを振り向き、何もない空間に手を這わせてみる。そこには見えない壁があった。
(け、結界!?)
 それは、キムを取り囲むようにして存在した。

「逃げられないよ……」

 ボソリと呟く男の声が聞こえる。
 後ろを振り向くと、バーズの肩越しに、三つ目の男が此方を見ていた。

「ひぃっ!」

 心臓を鷲掴みにされたような恐怖が湧く。

「逃げる? 何を言ってるんだ化け物! 私が逃げる訳がないだろう!」

 バーズは、キムが逃げようとした事に気付かないようだった。
 そんなおめでたいバーズを、バカにしたようにリジャイが見やる。が、その時、バーズは言ってはいけない事を言った。

「フン、確かこの国にはもう一体、化け物が居たな。魔眼とか言う紅い瞳の化け物が――」

 “バシュッ!”そんな音と共に、キムの目の前に紅い花が咲いた。
 ソレが結界に飛び散った血だと認識するのに、少しの時間がいった。それ位唐突だった。
 キムはその場にへたり込む。

「ああ、ごめんごめん。今、熱があってさ、手加減するつもりが……殺しちゃった……」

 そんな声と共に、何かを引き抜く音と、何かが吹き出る音、そして、目の前の紅い物はますます広がっていく。
 “ドサッ”と音がして、キムの足の先の滴り落ちる血と血の隙間から、虚ろな目が此方を覗き込んだ。

「ひぃぃっ!!」

 それがバーズの目だと解ると同時に、キムの全身に、今まで感じた事の無い様な恐怖が走り抜けてゆく。
 股間に生暖かい物が流れていくが、それに気付かぬほど、キムはいま恐れ戦いていた。

 ピチャリピチャリと音がして、何かが此方に近づいてくるのが分った。
 そして“バシャン”と目の前の紅い花が散った。
 背に感じていた壁が無くなり、キムは後ろへと倒れそうになった。
 目の前には、月を背に立つ男が立っている。

「やあ、お待たせ」

 ニィと笑うその男は、いつの間にか三つ編みが解け、長い髪を波打たせている。全身からは、禍々しいものが立ち上がり、まるで羽のように広がっている。
 そして、その身は返り血で紅く染まっていた。キムは思った。その姿はまるで――。

「あ、悪魔……」

 キムの口からポロリと言葉が零れ落ちる。
 それを聞きつけた三つ目の悪魔は、笑みを深くして言った。

「君の先輩は、僕に化け物を望んだけれど……そう、君は僕に、悪魔を望むんだね?」

 そう言って、ピチャリと血だまりの中を、一歩前に進んだ。
 キムは、自分が失言してしまった事に気付き、目に涙を浮かべると、そのままじりじりと後ろへ後ずさる。

「うわあっ! いやだぁ!!」

 そう叫ぶと、踵を返して逃げようとする。しかし――……。

「何処に行くの?」

 目の前に、三つ目の悪魔が立っていた。
(駄目だ、この悪魔からは逃げられない――……)
 そう実感すると共に、絶望が胸を支配する。

「あ……ああ――……」

 キムはガクンと膝をついた。

「さぁ、望みどおり悪魔になってあげる……」

 そう言って笑う三つ目の悪魔は、月の光を浴び灰色の髪は銀色に輝いて、飛び散る血に鮮やかに彩られている。
 恐れ戦きながらもキムは、目の前の悪魔に目を奪われている自分に気付いた。

「もうこれ以上無いって位、君を甚振ってあげるよ。どうか殺して下さいって、泣いて縋る位ね……」

 そして、血にまみれた手を、ゆっくりとキムに近づけていった。

「君の先輩の血は、凄く不味かったけど、君の血はどんな味がするのかな……?」

 そんな言葉を聞きながら、キムの脳裏には、故郷の景色と懐かしい母の顔が浮かんだ。
(ああ……こんな事なら、本当に魔術師になんかならないで、故郷で畑を耕してれば良かった――)



「母さん……」

 涙をボロボロと流しながら、そう呟く若い魔術師を、リジャイは何処かへと消し去った。それと同時に、リジャイから溢れ出す、禍々しいものも消え去る。
 目の前が歪むのを感じ、リジャイは壁に寄り掛かった。そして、ズルズルとしゃがみ込むと、はーと長く息を吐く。
 目線を、血だまりの中に倒れる物言わぬ死体に投げかけると、肩で息をしながら月を見上げ呟いた。

「ああ、またやっちゃった……」

 頬と腕の刺青が、チリチリと痛んだ。恐らく、前よりも大きくなってるだろうなぁと刺青に指を這わせながら思った。
 これは、リジャイが自分自身に掛けた戒めの呪だった。

「もう、悪魔にも化け物にもならないって決めたのに……」

 自分の中に、まだ黒いものが燻っているのを感じた。
 いくら熱で朦朧としていたにしろ、こうも簡単に自分の中の悪魔は表に出てきてしまう。
 リジャイは自嘲気味に笑い、呟いた。

「……これはもう、認めろって事かな……」

 そしてふと、自分の手を見つめる。血に塗れたその手を――……。

「あ……」

 リジャイは慌ててその手を擦る。正確には、その左手の小指。
 そこには、早夜の髪が巻きつけられている。
 だが、拭こうとするその手にも、血はべったりと付いており、その手を拭こうと服を触るも、そこも血で濡れていた。
 そして改めて、今の自分の姿を認識すると、リジャイは引きつったように笑い出し、やがてそれは、啜り泣きへと変わってゆく。
 これは象徴なのかもしれない、自分が傍にいたら早夜もこうなってしまうという……。

「早夜――……」

 そう呟くと、彼女の顔が鮮やかに脳裏に浮かぶ。

 大丈夫だよと言って微笑む早夜を見て、何故かホッとしている自分が居た。頭を撫でられて、子供みたいに縋り付いて、泣きたい気持ちになった。
 リジャイは、うわ言の様に早夜の名を呟くと、膝を抱えて顔を埋める。

「助けて――……早夜……」

 そう呟き、縮こまるその姿は、さながら、早夜が夢の中で見た少年そのものであった。






「大分、遅くなってしまったな……」

 月を見上げながら、そう呟くムエイことリュウキ。

「まったくだ。ピトも研究熱心なのはいいが、それにつき合わされる此方の身にもなって欲しいものだ!」

 ロイが、金色の尻尾を不機嫌そうに振りながらそう言う。
 そんな彼とは反対に、カムイが愉快そうに笑った。

「俺は別に、楽しいからいいけどなっ!」
「それはカムイだけなのだ。そんなに楽しいなら、ピトの助手にでもなればいいではないか」

 皮肉っぽく言ったつもりだったのに、カムイには通じず、逆に喜ばせる結果になった。

「おお、そりゃ良い考えだ!」

 そんなカムイを呆れたように見るロイであったが、その時、道の脇にある草むらから、何かがガサッと飛び出し、ロイに覆い被さった。

「うぉわっ!?」

 ロイはそのまま、支えきれずに倒れてしまう。
 咄嗟に剣の柄に手をやったムエイであったが、その正体に気付くと目を見張った。

「リ、リジャイ!?」

 ロイに倒れ掛かってきたのは、何故か血に塗れたリジャイであった。

「な、何だと? リジャイ!? お、おい、どうしたのだリジャイ。返事をせぬかっ! 何があったのだ!?」

 倒れた状態のまま、リジャイを見やるロイ。その血の臭いに顔を顰めた。

「リジャイ? お主、何処か怪我をしておるのか?」
「あー……違うー、返り血だよー……」

 その時、酷くダルそうなリジャイの声が響く。

「返り血? 一体何があったんだ?」

 ムエイは顔を顰めて尋ねるが、返事が無い。

「な、何でもいいから、早く退かしてくれ!」

 ロイは退かそうともがくが、リジャイからはまったく力が抜けていてビクともしない。
 それが不意にヒョイッと軽くなる。
 見れば、カムイがリジャイを片手で抱え上げていた。

「うわっ、ひでーなそれ」
「ぬわっ! なんだこれはっ!!」

 カムイが眉を顰めて言うので見てみれば、思わずロイは叫んでいた。
 彼の服には、血がべっとりと付いていたからだ。
 そして、改めてリジャイの姿を見ると、彼の髪は解け、ばさりと垂れ下がっており、上半身は血だらけで、一目ではそれがリジャイだとは気付けない。

「やっぱり何処か怪我をしておるのか? とりあえず、我の屋敷に運んでくれぬか?」
「おう! 分った!」

 ロイの言葉にカムイは頷き、ロイはムエイを見ると言った。

「では、後はよろしく頼む。我はイーシェを呼んでくる!」

 そう言って、そのまま駆けて行ってしまった。

「……? 何でイーシェ?」

 ムエイが呟くと、カムイがその疑問に答える。

「イーシェは、治癒魔法が得意なんだよ」

 そう言うと、片手で抱えたままのリジャイを、横抱きに抱え直す。さすがに苦しいかなと思った為だ。

「ウーン……男に男がお姫様抱っこって……かなりビミョー……」

 そう呟くリジャイに、ムエイは驚く。

「リジャイ!? お前、意識が無かったんじゃ……」
「ただ、喋るのが億劫だっただけだよ……。それより……どうせなら僕、ムエイにおんぶして貰いたいなー……」

 殆ど冗談のつもりだった。なのにムエイは何も言わず、当たり前のように背を向け、しゃがみ込んだ。それを見て、リジャイは苦笑する。
(ホント、君達兄妹って――……)
 リジャイは少し泣きたくなった。


「あはは、生まれて初めてのおんぶだー。へぇ、人の背中ってあったかいんだねぇ……」

 ムエイの背に負ぶわれながら、リジャイがそう呟くと、ムエイが視線だけ寄越して訊ねた。

「親にしてもらわなかったのか?」

 するとリジャイは、何とも微妙な顔する。

「ウーン、親かぁ……」

 そう口ごもり、そして、驚くべき事を口にする。

「実を言うと、僕って子供の頃、幽閉されてたんだよねー……」

 ムエイもカムイも目を向く。

「何故……?」
「それはね……僕が、悪魔で化け物だったからだよ。僕の生まれた世界にはね、僕みたいな三つ目は一人もいなかったんだよね、実は……。
 だから、生まれてきた僕を、親は恥だと思ったし、怖がっていた――……」

 リジャイはムエイを窺う。
 彼は何も言わず、何故か不機嫌そうに、そして何処か怒っているような顔をしていた。

「……君らも、僕を化け物だと思うかい……?」

 何と無しにそう聞くと、ムエイはぎろりとリジャイを睨んだ。

「怒るぞ……」
「い、いたっ!」

 グイッと耳を引っ張られ、見るとカムイもムスッとして、リジャイを見ていた。

「何で、んな事俺らに聞くんだよ。何かそれって、俺らにそう思って欲しいみてーじゃねーか」
「……そうだな。でも、お前が自分自身をどう思ってようと、俺たちにとってはお前はただの異界人の一人だ。それに……これでも一応、俺はお前を友と思っているのだがな……」

 リジャイが目を見開く中、カムイも豪快に笑った。

「そうだゼ! 俺たちは、ダチで仲間だろうがっ!」

 そして、バンバンとリジャイの背を叩く。

「イタッ、痛いよ……まったく、君は手加減ってものを知らないんだから……本当に痛い……」

 カムイに叩かれ、その痛みに(かこつ)けて、リジャイは涙を流す。
 ムエイは、それに気付かぬふりをし、カムイは気付いているのかいないのか、笑いながらリジャイの背を叩き続けるのだった。



「まったく、人騒がせにも程があるミョ! 血だらけと言うから、どんな大怪我だと思って来てみれば、これはただの返り血ミョ!」
「し、しかし、凄くぐったりとしてだな……」
「こんなの、ただの風邪による発熱ミョ! 頭冷やして、温かくして寝れば、大概治るミョ。
 本当に迷惑極まりないミョ! 夜更かしは女の敵ミョ! お肌の大敵なんだミョ!
 そうと分れば、イーシェは帰って寝るミョ」

 そう言って、出て行こうとするイーシェを、ロイは慌てて止める。

「ま、待てイーシェ。この後どうすれば――……」

 ロイは言葉をとぎらせる。何故なら、イーシェが無言で睨んできたからだ。

「そんなの自分で考えるミョ。何でも人に頼るんじゃないミョ! ……そんなんだから、ミリアを任せられないんだミョ……」
「は?」
「強いて言うなら、まず、あの血だらけなのを如何にかするミョ。子供が見たら、絶対泣くミョ!」

 眉を顰めてリジャイを見やるイーシェ。
 
「何故ここで子供が出てくるんだ……?」

 そう呟きながら、出て行くイーシェを、見送るムエイであった。









 〜日本・一時帰宅その後 其の十一〜


「やっぱり、帰ってないみたいね。本当に、一体どうしちゃったのかしら……?」

 ポツリと呟く蒼。
 蒼と亮太はその後、また早夜のアパートを訪ねるが、昨日訪れた時のまま、帰ってきている様子が無い。暫く待ってみたが、やはりアヤは帰ってこない。

「また来てみて、それでも駄目だったらその時は――」
「そうね、諦めてあちらに戻るしかないわね……」

 そう言って蒼たちは表に出る。しかしその時、蒼たちは気付かなかった。
 テーブルの下に破れた呪符がある事を……。

 そして、蒼たちが出て行った後、そこからはチリリッと黒いものが滲み出し、まるで何かを探すように、それは靄となって、辺りを漂う。しかし、誰も居ない事を確認したのか、その靄は、また呪符の中へと消えていったのだった。


 =今回の事=
 ウーン、今回はちょっとホラーっぽくなりましたかねぇ……まぁ、スプラッタな内容ではないので、そこまでホラーではないと思いますが、如何でしょう?
 リジャイの心の弱さなどが出せたらと思って、今回書いたんですけどね、皆様感想などございましたらお願いします。
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