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第一部《序章》
3.運命の日(四日前〜そして今)
(今日はいよいよバスターシュとの戦なんだな……リカルドさん何もしなければいいんだけど……)

 昨日見た夢を思い出し、心の中で呟く早夜。
 意識をリュウキに合わせてゆく―――
 

 **********


 一同戦場へ赴く中、ある問題が起きていた。
 リカルドが居なくなっていたのである。

「あぁーの馬鹿王子が!! どぉこいきやがったぁ!!」

 そう怒鳴る声があたりに空しく響き渡った。
 茶色とベージュの斑模様の髪を振り乱し、怒っている彼は、名をカートと言う。
 彼は部隊の隊長で、第一皇子ミヒャエル直々に、リカルドのお目付け役を受け賜っていた。そんな彼を前に、兵士たちも慌しく右往左往している。
 そんな中、リュウキは彼らに落ち着くように言った。
 
「安心しろ。こんな事もあろうかと、実はリカルドに首輪をかけておいた」

 リュウキは、あるものを取り出す。出てきたのは、金色のガラスで出来た玉だった。

「それって、きんた……っごぉふっ!!」
「下品な言葉はやめろ……」

 リュウキの剣の柄が、見事にカートの鳩尾にめり込んでいる。蹲るカートを無視して、リュウキはこの玉の説明を始める。

「これはルードに造ってもらったリカルドの探索装置だ。金色なのは、あいつの髪を利用した為で、別に髪の毛である必要は無いらしい。爪でも血液でも、とにかく体の一部分であったらいいみたいだな」
「それは分かったが、それでどうやって探すって言うんだ?」

 もう回復したのか、何事も無かったように、カートはリュウキの手元を覗き込む。
 そんなカートに、リュウキは二ヤッと笑って見せた。

「こうするんだ」

 言うが早いか、その玉を地面に叩きつける。
 パリンと音を立てて、ガラスで出来たその玉は簡単に砕け散った。
 すると、そこから金色の靄が現れたかと思うと、シュルシュルッと蛇のように細く長くなり移動し始める。
 
「ほら行くぞ、早くしないと見失う」

 リュウキはそう言って、金色の蛇を追う。

「ちょ、ちょっと待て、そうならそうと言えって。心の準備が無さ過ぎる!」

 カートも慌てて、リュウキの背を追い始めたのだった。

 

 暫く追ってゆくと、蛇がスピードを上げた。

「どうやら近いみたいだな……」         

 リュウキもまた走るスピードを上げる。気が付くと後ろには誰もいない。どうやらカート達は追いつけなかったようだ。目印になるように、すれ違う樹木に剣で傷をつけていった。

「いた……」

 目に映ったのは、リカルドと――そして黒服の男たち。

「っ!?」

 リカルドは黒服の男たちに囲まれ、剣を向けられていた。その時、金色の靄がリカルドに纏わりついたと思うと、ふわっと空中で溶けた。

「な、なんだ!?」

 驚くリカルドと黒服の男たち。
 次の瞬間、リカルドの後ろに立っていた黒服が、二人同時に倒れた。

「単独行動を取るからだ。馬鹿め」

 黒服の男達は、そこに立つ人物に驚きを隠せないでいた。
 リカルドは罰の悪そうに顔を背ける。

「わ、わるい……」
「謝るのは後だ。今はこいつらの事に集中しろ」

「こいつっ!! 魔眼使いのリュウキ!」

 途端に騒がしくなる黒服たち。
 リーダー格の男がリュウキに向かい剣を構えた。

「これはこれは……俺たちも運がいい。偶然にもアルフォレシアの要人に、同時に二人も会えるとは、此方から出向くまでも無かったな」
「それは、お前たちが刺客だと言う事か? 元々俺たちを狙っていたと……」
「そう言う事だ。あんた達には此処で死んでもらう」

 そう言い捨てると、まっすぐにリュウキに向かっていった。それに習うように、他の黒服の男たちも、一斉にリカルドとリュウキに襲い掛かる。

「クッ!!?」

 だが誰一人として、二人に近づけるものはいない。体が金縛りにあったように、ピクリとも動かないのである。

「リュウキ、お前魔眼使ったな?」
「ああ、これぐらいの人数だったら大丈夫だ」

 そう言ったリュウキの瞳は、普段の黒とは違い、血の様な紅に染まっていた。

「くくっ、異界の化け物め……」

 黒服のリーダーは、何故か笑っていた。
 動きが封じられているにも拘らず、その手を僅かに動かすと、手のひらを前に出した。見ると、その手のひらには、何か紋様が描かれている。
 そして男が何か口の中で呟くと、その手の中に赤い液体の入った小瓶が握られていた。
 リュウキもリカルドも、その訳の分からぬ行動に眉を顰める。

「別にあんたたちを剣で殺そうとしていた訳じゃないんだよ。本当の目的はこれさ……。
 予定通りならもっと大勢殺せたのにな……実に残念だよ」

 そう言うと男は、小瓶から手を離した。
 パリーンと、やけに高く澄んだ音を立てて小瓶が割れた。
 中身の液体がこぼれ出る。
 とろりとしたその液体は、やがて生き物のように動き出し、近くにいた男の足を這い上がっていった。

「バスターシュに栄光あれ!!!」

 そう叫ぶと、力ずくでリュウキの束縛を解き、自らの剣で腹を刺した。
 にやりと笑うその顔に、先程の赤い液体が覆われてゆく。
 完全に液体に包まれた男は、その場に倒れると煙を上げて燃え出した。
 リュウキは驚きのあまり、いつの間にか魔眼を解いてしまっていた。
 自由になった他の者達もまた、自らの命を絶ってゆく。

「リカルド逃げろっ!!」

 何か嫌な予感がしてリュウキはリカルドを突き飛ばした。思いのほか力が出て、かなり遠くまでリカルドは転がってゆく。

 次の瞬間地面が赤く輝いた――

 見ると、あの液体が先程と比べられぬ程に成長して、地面に何やら描きながら、他の死体にも覆い被さっていく所だった。
 輝いているものは、液体の描いた魔方陣。
 リュウキはその光景に薄ら寒さを覚えた。

「や、やっと追いついた。リュウキ、お前の目印分かりづらい――って、何なんだこれは……」

 そこに、漸く追いついたカートが、目の前に広がる光景に目を丸くする。

「分からん……恐らく何かの術を行おうとしているんだろうが、こんな術見たことが無い……」

 死体がひとつ燃える度に、あの液体はますます大きくなっていった。

「何かヤバイ感じだな……」



 **********



(何だろう、凄くいやな感じがする)

 リュウキの目を通してその光景を見ている早夜だったが、その術の禍々しさが早夜にも直接伝わってくるようだった。
 このままここにいてはいけない。早く逃げなければ取り返しのつかない事が起きる。
 そう直感的に思った早夜は、ほとんど無意識でリュウキに話しかけていた……。

(リュウキさん早く逃げて! ここにいちゃだめ!)

 その時、驚くべきことが起こる。
 リュウキが早夜の声に反応したのだ。

「……早夜?」

(っ!!?)

 リュウキは早夜の名を呼んだ――。
 とても驚いたが、考えてみればこれは夢なのだ、自分が望んだ事が起きたって何も不思議じゃない。
 そう思った早夜は、そのままリュウキに話しかけ始めた。



 **********



 リカルドはその光景を呆然とした様子で見ていた。
 全ては自分の蒔いた種なのだ。まさかリュウキが自分を庇って、この様な事になってしまうとは……。
 すべて自分の責任だ……。
 そう感じたリカルドは、意を決してリュウキのいる魔方陣へと足を踏み入れようとする。しかし、見えない壁のようなものが行く手を邪魔をしていて、立ち入る事が出来ない。

「無理だ、さっき俺も試してみたんだが、髪の毛一本も入らない……」

 リカルドは、自分の肩に手を置いた人物を見る。

「カート、俺は……」

 眉を下げ、辛そうにするリカルドに、カートは首を振る。

「今は何も言うな。俺だって聞きたい事は山ほどあるさ……。だが、今はリュウキを助ける事に専念しよう。間に合えば、ルードが何とかしてくれるだろう」

 その言葉に頷くと、リカルドはリュウキの方を見た。
 すると、リュウキは一人で何かをしゃべっている。

「リュウキッ!! お前、いよいよおかしくなっちまったのか!?」

 悲痛な声で叫ぶリカルドに、リュウキは振り向くと、苦笑して首を振った。

「こんな状況だ、おかしくなりたいのは山々だが……まぁ、今はそんな事より……お前たちは早く此処を離れたほうがいい。どうやらこの術、爆発するらしい……。しかもかなり大きなものだ」
「はっ!? 何言ってんだよ! そんな事、何で知ってんだ? それに、それが本当だとして、お前を置いて逃げるなんて出来る訳無いだろ?」

 リュウキはフッと笑うとリカルドを見た。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、この術は恐らくルードでも解除不可能だ。リカルド、少しでも自分が悪いと思っているのなら、お前は今回のこの戦に勝て。それが俺が望むお前の償いだ」

 リカルドはそれでも納得できないと言うように、目の前の見えない壁を叩き出した。

「俺の事は心配するな。自力で何とかして見せるさ、何せ俺には女神が付いてるからな……」

 そう言って、ニヤリと笑って見せると、リュウキはカートを見た。カートは頷くと、リカルドの腕を引っ張る。

「大丈夫だって言ってんだ。行くぞ!」
「本当に大丈夫なんだな?」

 確かめるように聞くリカルド。

「セレンと約束したんだ。必ず帰ると……だから俺は死なない」

 腰の辺りに手を置く。そこには、セレンから貰った御守りがぶら下がっていた。

「……分かった。お前を信じる」

 リカルドはリュウキを見て頷くと、カートを伴いその場を去っていった。




 その場に残るのはリュウキだけとなった。

「さて、と……自力で何とかすると言ったが、早夜の手を借りる事になるとは……」

 リュウキは周りを見る。もう既に、半分以上の死体は無くなっていた。
 あの赤い液体も、死体を食べる事と魔法陣を描く事で忙しそうだ。

「で、早夜。如何すればいい?」



 **********



 そう言われた早夜は戸惑う。
 如何すればいいのか分からないからではなく、その逆で何もかもが理解できたから――。
  
 この魔法は『(にえ)の魔法』と呼ばれるものだった。
 人の命を糧とし、発動する魔法で、贄が多ければ多い程、その威力は絶大なものとなる。
 力を蓄えたあの液体は、いずれ爆発する。
 そう、周りのもの全てを巻き込んで――…… 

(まずは、爆発を最小限にする為の結界を張ります)

「ああ、それから?」

 驚いた事に、リュウキは早夜が語りかけたにも拘らず、平然としていた。まるで以前から知っていたように親しげに話しかけてくる。
 
(それから、リュウキさんを移動させる術を発動させます)

「術といっても、魔法陣を作るスペースが無いぞ?」

 その言葉に地面を見てみれば、確かに見えない壁の中いっぱいに魔法陣が描かれている。

(地面に無いのなら、空中に描けばいいんです)

 早夜のその言葉に、にやっと笑うリュウキ。

「成る程、発想の転換というやつか……」

(で、でもそんな魔法リュウキさんは使えるんですか?)

 今まで見ていた夢の中で、リュウキがそんな魔法を使ったという記憶は無い。

「俺ではない。早夜、お前がやるんだ。お前には、この魔法が理解出来たのだろう? ならば、他の魔法も理解出来るはずだ。
 まずは集中してごらん? 自分の中にある魔力を感じるんだ。後は、お前の中の知識が全てやってくれるだろう……」

 なぜそんなにも自分の事を知っているのだろう? 自分でも知らない事を……。
 そう疑問に思ったが、周りの状況は悪くなる一方で質問なんてしている余裕はなさそうだった。
 早夜はリュウキに言われた通り、自分の中に意識を集中させた。

 まずは爆発を押さえる結界だ。
 そう考えながら探っていると、頭の中に浮かんでくるものがあった。
 これは知識だ――。
 さまざまな方法、さまざまな種類の結界が頭の中に浮かんでくる。早夜は嬉しくなった。  
 ――これならいける!

 数多くある知識中で、相応しいものを選び出すと、途端に自分の中から魔力が溢れ出すのを感じる。
 リュウキもそれを感じるのか、息を呑む音が聞こえた。

「……万物の力とは、これ程の物なのか……?」

(万物の力?)

 詳しく聞きたかったが、溢れ出す魔力は止められない。
 この『贄の魔法』を大きく取り囲むように、半月状の結界が姿を現した。

 次は移動する為の魔法だ。
 そうやって、さっきと同様に意識を集中させていく。
 慣れなのか先程よりも早く、それは頭に浮かんできた。
 だが困った問題が起きた。
 移動魔法は、自分が行った事のある場所でなくてはならない。または、正確な目標だ。
 それ以外の移動魔法は、ある事にはあるが、あまりお勧め出来るようなものではなかった。

「如何した? 早夜」

 早夜がぐずぐずしていると、リュウキが話しかけてくる。

(そ、それが、移動魔法なんですけど、自分の行った事がある場所か、正確な目標がなければなりません。それ以外にもある事にはあるんですが……)

「何だ?」

(えっと、どこに飛ぶか分かりません)

 一瞬動きの止まったリュウキだが、足元の魔法陣が、輝きを増した事で我に返った。

「考えている暇はない! それで頼む!」

(で、でも、もし崖の上や海の真ん中だったら……)

「大丈夫だ。俺は、早夜を信じるよ」

(……何でそこまで……)

「もし無事だったら全部話そう。俺が何故君を知っているのか、君が何故魔法を使えるのか……」

(……や、約束です)

 途端に溢れる魔力の渦。リュウキの上空で、その魔力が魔法陣を形成する。

「ああ、約束だ」

 リュウキが笑う気配を感じる。早夜は、魔法を発動した。



 **********



「あ、あれ?」

 気が付くと、早夜は自分の部屋の中だった。
 どうやらあのまま現実に戻ってきたらしい。
 体を起こすと、どこか頭が重いような気がする。

「……あれからどうなったんだろう……次の夢で分かるかな?」

 しかしそれから、早夜がリュウキの夢を見る事はなかった。




 ++++++++++




「と、いう訳なのよっ!!」

 握り拳を作りながら、熱弁する蒼。
 そして、その傍らにはぐったりとした様子で机に突っ伏した、亮太の姿があった。

「つ、疲れた……」

 蒼はあの後、長々と早夜の夢の話を聞かせたのである。
 その結果、今ホームルームが終わった所であった。

「蒼ちゃん凄いね。先生に気付かれないように話し続けるなんて」
「まぁね!」

 と、得意そうにしている蒼だったが、亮太は知っている。
 先生は気付いてなかったのではなく、気が弱いため蒼に注意出来なかったのだと……周りの人間も、いつもの事なのでただ気の毒そうに見ているだけだった。
(気の毒だと思うなら誰か止めてくれ……というか、桜花さんも何で気付かれない等と思うのか……まぁ、そうゆう所も可愛いのだが……)
 最後の所でへらっと笑い、いかんいかんと首を振る。そして、かばんを手に持つと席を立つ。

「あ、亮太これから部活?」

 蒼が尋ねると、亮太は頷いた。

「あっそ、じゃあ私たちは帰りましょ? 早夜」

 蒼達も帰り支度を済ませると、席を立つ。
 そうして教室を出る時、亮太が早夜に声をかけた。

「あの、大体の話は分かりましたけど、どうか元気出して下さいね……」

 そんな亮太に早夜は、にこりと笑うと、
 
「亮太君、ありがとう、大丈夫だよ。それよりあの話を真剣に聞いてくれて嬉しかったよ。普通、笑い飛ばされるか、思い切り引かれるかどっちかだもんね」
「大丈夫、私たちは絶対に笑わないから」

 蒼が、そう言って早夜を抱きしめる。
 
「そうですよ。それが例え、どんなバカバカしい話しだったとしても、俺達はちゃんと真剣に聞きますよ」

 思わず涙が出そうになる早夜だったが、我慢すると二人に改めてありがとうと言った。



 その後、亮太と別れ家路に付く二人。蒼が早夜に言った。

「早夜、今日よかったらうちに来ない? 蓮実ちゃんがどうぞって言ってたよ。今日はすき焼きパーティだって」
「え? ほんと? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「もう、早夜だったらいつでも甘えちゃって!!」

 そう言うと蒼は、キュウッと早夜を抱き締めたのだった。


 アルフォレシアの4兄弟、彼らは皆、美形ぞろいです。
 リュウキは見た目はどことなくサムライっぽいイメージで書いています。(年齢は二十二くらい)
 カートは、一番年上か、ミヒャエルとシェルの双子と同じくらいと思って下さい。(二十代後半位かな……)
 リカルドは二十才前後。 セレンは十八くらいです。 こうだという確かな設定はしていないので、皆様がお好きなように考えてもらって結構です。
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夢の逢瀬 ←番外編です。


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