リカルドと共に城を出る時、何故かすれ違うものが皆、早夜たちに声を掛けてくる。
『リカルド様、ガンバッテ!』
『サヤ様、リカルド様をお願いします』
『いやー、めでたい、めでたい』
中には、涙を流す者までいた。
「何だってんだ? あいつら……」
何の事やら分らないリカルドが呟く。
早夜は、リリアとセイラの言葉で何となく理由が分かり、顔を赤く染めていた。
(やっぱり皆、デートだと思ってるのかな……?)
「あれ? リカルドさん、そっちは違うんじゃ……」
中央広場の方に行くのだとばかり思っていた早夜は、まったく別の方向へ向かうリカルドに戸惑う。
中央広場には転送装置が設けられ、そこから町の至る所に行く事が出来るからだ。
「そっちはリュウキも行くから、大抵の所はサヤも知ってるだろ?
だから、リュウキも知らない、俺だけが知ってる秘密の場所に連れてってやるよ!」
そう言うと、裏通りの方へずんずんと歩いて行く。
早夜はその彼の心遣いが嬉しく、胸が温かくなるのを覚えた。なので、何の疑いもなく素直に彼の後をついて行ったのだが……。
表通りとは違い、そこは薄暗く、怪しい雰囲気のお店が立ち並ぶ通りだった。
そして、店の前には露出度の高い服を着た女性や、目つきの悪い男性などが、客引きをしていた。
(こ、これは、いわゆる、歓楽街と呼ばれる場所なんじゃ……)
「まさかここが目的地!?」とドキマギしていたのだが、リカルドはそれらを無視して、更に細い裏路地へと入っていってしまう。
「あ、待ってください!」
辺りを見回していた早夜は、慌てて彼の後を追う。
その裏路地は、幾つもの道が交差しており、まるで迷路だった。
こんな所を迷ったら、絶対に抜け出す自信がない。
逸れない様に、リカルドの後を必死でついて行くのだが、歩幅の違いでどんどん引き離される。
「リ、リカルドさんっ、歩くの早いです! も、もう少しだけ、ゆっくり歩いてくれませんか?」
先程からずっと小走りで、息も絶え絶えな早夜。
そして、その言葉に振り返ったリカルドは、大分距離が離れている事に気付き、驚いて立ち止まってくれた。
「わ、わりー……大丈夫か?」
気付かなかった自分に恥じ、早夜を気遣うリカルド。
(そっか、女って歩くのおせーんだな……)
息を弾ませ、此方には知ってくる早夜を見て、今更ながら気付く。
漸く追いつき、早夜は息を整えると笑った。
「大丈夫です。それにしてもこんな入り組んだ所、よく迷わずに行けますね。リカルドさん凄いです!」
素直に称賛の言葉を投げ掛けると、リカルドは驚いた顔をした後、フフンと笑って胸を張った。
「まーな! ガキの頃からよく来てるし、ここはもう俺の庭みたいなもんだなっ!」
その得意そうな様子に、早夜は苦笑した。
(そうだった。そう言えばリカルドさんって、褒めると直ぐに調子に乗るんだった)
夢の中でもよく、その事でリュウキに注意されていた事を思い出した。
「何言ってんだか。そのガキの頃はよく迷ってベソ掻いてたくせに。んで、その度にガマじぃに連れて来てもらってたよなぁ……」
突然湧いた声に驚きそちらを見てみれば、ニット帽を被った男性が立っていた。
その顔には火傷の跡があり、それは左の目元から頭の方へと続いている。首の後ろの方にもある事から、その帽子の下には、広い範囲でその傷跡が広がっていると思われる。
「ゲッ! マシューじゃねーか! 何時からそこにっていうか、バラすなっ!」
早夜に恥ずかしい過去を知られてしまった事と、このマシューと言う男にまずい所を見られたという気持ちが同時に湧いた。
「いやさぁ、買い物帰りに声がすると思って見てみれば、見覚えある金髪だろ? そんで、このチビこいのがお前を褒めて、お前がえらそーに踏ん反り返ってる所に、丁度出てきたんだよな、俺は……」
(チ、チビこい……)
確かにこの人の胸ぐらいまでしか身長は無いけれども、少々その呼び方にショックを受ける早夜。
「んで、誰? このチビこいの」
早夜を見て、面白そうに尋ねる。
するとリカルドは一瞬、早夜を見た後、言いよどむ様に言った。
「ああー、えぇーとだなー……。こいつはサヤと言ってー……リュウキの……弟だっ!」
思わずバッとリカルドを見る早夜。
リカルドはというと、汗を垂らし此方を見ようとしない。
「へぇー、リュウキ様の? そー言われて見れば、似てなくも無いよーな……でも、リュウキ様は異界人、幸福の遣いだろ?
弟も一緒に来たなんて……ハッ! まさか、この前のあの馬鹿でかい魔力! あん時かっ!?」
「そう、あれ、サヤの暴走だから」
「暴走って……城からは、新しい魔法の研究の為とか言ってたが……」
「違う違う。そっか、そーゆー事になってたんだな……。
あん時、俺らはリュウキを探す為に探索魔法と、ついでに召還も行ったんだが、代わりに呼び出されたのが、こいつ。んで、そのまま暴走……」
マシューは、まじまじと早夜を見る。
「じゃあ、本当にこのチビこいのがあの魔力を出したのか……」
どう反応したら良いのか分からず、リカルドとマシューを交互に見る。
「しっかし信じられないな……こんなチマいのが……。ああ、サヤだったな、俺はマシューだ。よろしくな」
そう言って二ッと笑うと、左手を差し出す。
その手のひらにも火傷の跡があり、皮膚が引きつれた様になっていた。
「えぇーと、チマくてスミマセン……早夜と言います。よろしくお願いします……」
チビだのチマいだの言われ、ちょっと拗ねた様にそう言うと、マシューの手を握り返した。
すると、マシューは驚いたような顔をする。
「へぇー、俺の手を何の躊躇いも無しに握り返したのは、あんたで二人目だよ。因みに一人目こいつな」
そう言って、リカルドを指す。
すると、早夜は心底不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「え? 手を差し出されれば、普通は握手ですよね? ハッ! もしかして私、何か間違ってましたか? 何か失礼な事をっ?」
「いや、お前は何も間違ってねーって……」
少々呆れた様にリカルドが言う。
それでもまだ、おろおろとしている早夜を見て、マシューは「ブハッ!」と噴出した。
「やベー……こいつ、マジ天然じゃん。おもしれー」
そして、ひとしきり笑った後、嬉しそうに早夜の頭を撫でた。
「別に何も可笑しな事はしてないから安心しろって。それより、さっきはチビだのチマいだの言って悪かったな……おー? 何かお前、髪サラサラだなー……女みてー」
リカルドがギクリとして、間に割って入る。
「い、いや、こいつ、リュウキの弟だからっ! 女じゃねーからっ!」
「はっ? いや、分かってるし、みたいって言っただけだろ? 見た所、胸もねーし……」
ガーンとショックを受ける早夜。
(ううっ胸が無いって……。リリアさん、セイラさん。私やっぱり女として見られてないみたいです……)
自分の胸を押さえながら、そう心の中で涙を流すのだった。
マシューが先頭に立ち、道を歩いて行く。
2人とも早夜に歩幅を合わせてくれていた。
「小さい分、歩幅も小さいな」
時折振り返りながら、マシューは早夜をからかう。そして、プクッと膨れる早夜を見て、マシューはさも可笑しそうに笑った。
その時、早夜はリカルドと目が合う。
『あ、あのな、サヤ……』
気まずそうに、リカルドが小さく声をかけたのだが、早夜は何故か、その顔を見れずにそっぽを向いてしまう。
『どうせ、私はチビだし胸も無いです。何処からどう見ても男の子です。あ、なら、私じゃなくて、僕って言わなきゃダメですね』
唇を尖らせながら、そう言うと、チラッとリカルドの方を窺う。
(!?)
思わず目を見開いた。
何故なら、彼が傷付いたような顔をしていたからだ。
(何でリカルドさんが、傷付いた顔をするんですか!?)
早夜は、何か自分が悪い事をしてしまったような気がして、リカルドの傍にいる事が出来ず、マシューの元へと駆けて行った。
「ん? 何かあったか? お前ら……」
2人の様子を見て、異変を感じ取ったマシューが、早夜に尋ねる。
「い、いえ、大した事じゃありませんから……」
無理して笑う早夜の頭を、マシューは撫でた。
「何があったか、知らねーけど。あいつの事、嫌いにならねーでやれよ?
あいつ、王子っぽくなくて、バカっぽくて、何も考えて無さそうだけどさ、結構スゲー事考えてたりすんだな、これが。
それが、時々空回りして失敗すっ事もあるけどさ。例えば、今回のリュウキ様の事とか……でも、あいつはあいつなりに自分でケジメつけようとしてる。
今日、サヤを俺達の街に連れてこうとしてんのも、それがあると思うぜ?」
「……ケジメ? 街?」
「何だ、何も言ってないんだな。これから行こうとしてるのは、俺が住んでる街、通称“ゴミための街”なんて呼ばれてる」
「ゴミため? そんな街、聞いた事がありません……」
「そりゃあ、そうだろ。俺達は、隠れて住んでる」
「隠れてって……何故ですか?」
するとマシューは、少し悲しそうな顔をした。
「それは……行けば、自ずと分かるんじゃね?」
「マシューさん?」
何故そんな顔をするのか分からずに、彼の名を呼んだ。
しかしマシューは、そんな心配げな早夜の顔を見てニカッと笑ってみせる。
「まぁ、お前、天然だからなぁ……行っても分かんねぇかもなぁ……。
んで? お前はどっちが悪いと思ってる訳?」
「はい?」
「だからさ、喧嘩したんだろ? 大分落ち込んでるぞ、あいつ」
そう言ってリカルドを見る。
彼は肩を落とし、どんよりとしていた。
そして、早夜が此方を見ている事に気付くと、一瞬ぱっと顔を輝かせるが、直ぐにさっきの傷付いた様な顔をして、目を逸らしてしまう。
「な?」
と、マシューが早夜に言った。
「け、喧嘩と言うほどのものではないです……ホントにつまらない事で……。
それに、悪いのは、わ……僕です。勝手にリカルドさんに対して怒ってしまったんです……」
自分が一方的に怒っているのだから、喧嘩とは言わないだろうと思い、そう言った。
それに、今見たリカルドの様子に罪悪感が湧く。
「そっか、じゃあ謝んねーとな」
そう言って、マシューは早夜の肩に手を置いた。
「…………」
ふとマシューが無言になったので顔を上げると、彼は目を見開いて、まじまじと早夜を見ている事に気付いた。
彼は改めて早夜の事を上から下までじっくりと眺めると、肩から手を離しハァッと息を吐いた。
「……細い肩……なんでバレないと思うかね、あのバカ王子は……」
ぼそっと呟く。
「マシューさん?」
「サヤ、今言ったこと撤回な。お前は謝んなくていい。悪いのはあいつ。サヤは全然悪くない」
「へっ?」
いきなり態度を変えたので、不思議そうに早夜は首を傾げた。
「まぁ、何でこんな事を言い出したのかは、大体分かるがなぁ……。ふっ、お望みどおり、後でたっぷりじっくりからかってやるとするか……」
「はい? マシューさん、何て言いましたか?」
聞き取れずに、早夜がそう訊ねると、マシューは首を振って答える。
「イーヤ、こっちの話。それよりも、こっから先は屋根の上を歩かなきゃならないんだ……」
「え!? 屋根の上ですか?」
「そう、あれ」
そう言って指を指した先は、行き止まりになっていた。
「あれ? 行き止まりです」
「違う、違う。梯子があるだろ?」
そう言われて見れば、確かに梯子があった。
出掛ける前のリカルドの言葉を思い出す。
(リカルドさんが言ってたのは、これの事か……)
「うわぁ、本当に屋根の上です……」
梯子の最後の方で、マシューに引っ張り上げてもらいながら、屋根の上に降り立つ早夜。
目の前には屋根と煙突が並んでいる。足場には、板が貼り付けてあり、歩き易くなっていた。
「あ、お城です!」
振り返ると、早夜がやって来たアルフォレシア城の姿がある。
その時である。ふと視線を感じ其方を見ると、一つ向うの屋根の上に人がいた。紫色の長い髪の女性だ。
その女性は此方をじっと見ている。
「サヤ?」
声を掛けられ、ハッとして我に返ると、リカルドが心配そうに見ていた。
「あん? どうしたんだ?」
マシューもその様子に気付き早夜に近づく。
「あの、あそこに紫色の髪の女の人が……あれ?」
そう言って指を指した先には、もう既に誰もいなかった。
「うーん、あんな所に道は作ってなかった筈なんだけどな……」
マシューが顎に手を置き首を傾ける。
「気のせいなんじゃないのか?」
「そんな筈ありません! 私、この目で――あ……」
そこまで言って、早夜は今、自分がリカルドと話している事に気付いた。
途端に気まずくなる。
(ど、どうしよう……謝るべきだろうか……)
そう思っていると、リカルドも同じなのか、何か言いたそうだった。
そして、意を決して謝罪の言葉を言おうとした時、マシューに声を掛けられ、結局言えずじまいになってしまった。
その代わり、
「そうですね、きっと気のせいです……」
大分、可愛くない物言いになってしまったように思う。
案の定、リカルドは落ち込んでいた。
(ああ〜〜〜、こんな事言いたいんじゃないのに〜〜〜っ)
早夜はそう思うのだが、意識すればするほど、どツボに嵌って行くのだった。
〜日本・一時帰宅その後 其の4〜
花ちゃんに自己紹介を終えた、美名月家と杉崎家の面々。
その後、蒼達の異世界の話が始まった。
「じゃあ、こういう事? 早夜さんの夢の中に出てくる、リュウキって言う名前の男性を探す為に、異世界へ行って、そこで早夜さんの中に眠る魔力が暴走して、そのリュウキと言う名の人物は、実は早夜さんのお兄さんで、それを早夜さんのお母さんに尋ねる為に戻ってきたと……?」
蓮実が、聞いた話をまとめて言った。にわかに信じられない話である。
しかし、現に蒼たちは何も無い場所から忽然と姿を現し、目の前には花ちゃんと言う魔道生物までいる……。
「それで、早夜チャンは? どうしたのさ、無事なの!?」
楓が心配そうに尋ねる。
「うん、それはまぁ大丈夫。リジャイとか言う、美形だけど、三つ目で細目の変な男に助けてもらったから」
蒼がそう言うと、亮太はムスッとした顔になる。
「そ、それは、本当に大丈夫なのかな……」
タラリと汗を流す楓。
「それで、早夜のお母さんに話を聞きたいんだけど。あの後、お母さんには何て?」
蒼がそう言うと、蓮実達は顔を見合わせた。
「それが……蒼達がいなくなって直ぐ、早夜さんのお母さんを呼んで、説明したんだけど……。話をした後、凄く動揺しててね、探しに行くと言って出て行ってしまったんだ。それっきり、何の音沙汰も無しだよ……」
茜が深刻そうに言った。
「後、ちょっと気になる事も言ってたわ……。恐らく私達には、探すのは無理だって……何か知ってる風だったわね……」
百合香も茜に続いて言った。
「一体、どうやって探すつもりだったんだろうね」
マリアも眉を寄せる。
「じゃあ、直ぐにでも早夜のアパートに行ってみましょう! おばさん居るかもしれないわ! 早夜は無事だって知らせないと!」
しかし、蒼は止められてしまう。
「とりあえず、今日はこのまま学校に行きなさい。休みの理由を適当に話して、休学を出すなら出す。
早夜さんの事も、何か理由をつけてあげないと、ずっと無断欠席になっちゃうよ」
お母さんの事はこっちで連絡するからと、蓮実が言った。
すると、亮太が立ち上がり言った。
「でもっ! 早夜さんクラジバールに狙われてるんだ! 早く戻らないと――……」
「狙われてる? それは穏やかな話じゃないな……でも、当のお母さん本人が捉まらない限りは無理だろう? その間だけでも、君達はちゃんと、学生の本分を勤めなさい」
茜が真面目な顔で言う。
その時、ずっと黙っていた翔太郎が口を開いた。
「……亮太、男は時に、忍ばねばならない事もある。今は忍び、耐えろ……いずれそれがお前の力となるだろう……」
「親父……」
父の思わぬ長台詞に、感動を覚える。
亮太は席に座ると、
「分ったよ……」
と、頷くのだった。
海里はと言うと、その間もずっと花ちゃんを見続けていた。
何故ならば、花ちゃんはずっと、彼らの会話に合わせて一人芝居をしていた為だ。
後で聞いてみたら「コレハ訓練ナノデツ!」と、訳の分らない事を言うのであった。
花ちゃんのこと。
花ちゃんが訓練と言ったのは、第三章のナイールの命令の回で、魔道生物が見せた、録音機能の事です。
連絡係は、彼らの中で結構人気のお仕事。(大好きなピトの役に立てるし、外にも出れて、色んな人に出会えるからです)
競争率も高いので、彼らでオーディション等も行われています。
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小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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