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《第四章》
4.裏路地
 リカルドと共に城を出る時、何故かすれ違うものが皆、早夜たちに声を掛けてくる。

『リカルド様、ガンバッテ!』
『サヤ様、リカルド様をお願いします』
『いやー、めでたい、めでたい』

 中には、涙を流す者までいた。


「何だってんだ? あいつら……」

 何の事やら分らないリカルドが呟く。
 早夜は、リリアとセイラの言葉で何となく理由が分かり、顔を赤く染めていた。
(やっぱり皆、デートだと思ってるのかな……?)



「あれ? リカルドさん、そっちは違うんじゃ……」

 中央広場の方に行くのだとばかり思っていた早夜は、まったく別の方向へ向かうリカルドに戸惑う。
 中央広場には転送装置が設けられ、そこから町の至る所に行く事が出来るからだ。

「そっちはリュウキも行くから、大抵の所はサヤも知ってるだろ?
 だから、リュウキも知らない、俺だけが知ってる秘密の場所に連れてってやるよ!」

 そう言うと、裏通りの方へずんずんと歩いて行く。
 早夜はその彼の心遣いが嬉しく、胸が温かくなるのを覚えた。なので、何の疑いもなく素直に彼の後をついて行ったのだが……。

 表通りとは違い、そこは薄暗く、怪しい雰囲気のお店が立ち並ぶ通りだった。
 そして、店の前には露出度の高い服を着た女性や、目つきの悪い男性などが、客引きをしていた。
(こ、これは、いわゆる、歓楽街と呼ばれる場所なんじゃ……)
 「まさかここが目的地!?」とドキマギしていたのだが、リカルドはそれらを無視して、更に細い裏路地へと入っていってしまう。

「あ、待ってください!」

 辺りを見回していた早夜は、慌てて彼の後を追う。

 その裏路地は、幾つもの道が交差しており、まるで迷路だった。
 こんな所を迷ったら、絶対に抜け出す自信がない。
 逸れない様に、リカルドの後を必死でついて行くのだが、歩幅の違いでどんどん引き離される。

「リ、リカルドさんっ、歩くの早いです! も、もう少しだけ、ゆっくり歩いてくれませんか?」

 先程からずっと小走りで、息も絶え絶えな早夜。
 そして、その言葉に振り返ったリカルドは、大分距離が離れている事に気付き、驚いて立ち止まってくれた。

「わ、わりー……大丈夫か?」

 気付かなかった自分に恥じ、早夜を気遣うリカルド。
(そっか、女って歩くのおせーんだな……)
 息を弾ませ、此方には知ってくる早夜を見て、今更ながら気付く。

 漸く追いつき、早夜は息を整えると笑った。

「大丈夫です。それにしてもこんな入り組んだ所、よく迷わずに行けますね。リカルドさん凄いです!」

 素直に称賛の言葉を投げ掛けると、リカルドは驚いた顔をした後、フフンと笑って胸を張った。

「まーな! ガキの頃からよく来てるし、ここはもう俺の庭みたいなもんだなっ!」

 その得意そうな様子に、早夜は苦笑した。
(そうだった。そう言えばリカルドさんって、褒めると直ぐに調子に乗るんだった)
 夢の中でもよく、その事でリュウキに注意されていた事を思い出した。


「何言ってんだか。そのガキの頃はよく迷ってベソ掻いてたくせに。んで、その度にガマじぃに連れて来てもらってたよなぁ……」


 突然湧いた声に驚きそちらを見てみれば、ニット帽を被った男性が立っていた。
 その顔には火傷の跡があり、それは左の目元から頭の方へと続いている。首の後ろの方にもある事から、その帽子の下には、広い範囲でその傷跡が広がっていると思われる。

「ゲッ! マシューじゃねーか! 何時からそこにっていうか、バラすなっ!」

 早夜に恥ずかしい過去を知られてしまった事と、このマシューと言う男にまずい所を見られたという気持ちが同時に湧いた。

「いやさぁ、買い物帰りに声がすると思って見てみれば、見覚えある金髪だろ? そんで、このチビこいのがお前を褒めて、お前がえらそーに踏ん反り返ってる所に、丁度出てきたんだよな、俺は……」

(チ、チビこい……)
 確かにこの人の胸ぐらいまでしか身長は無いけれども、少々その呼び方にショックを受ける早夜。

「んで、誰? このチビこいの」

 早夜を見て、面白そうに尋ねる。
 するとリカルドは一瞬、早夜を見た後、言いよどむ様に言った。

「ああー、えぇーとだなー……。こいつはサヤと言ってー……リュウキの……弟だっ!」

 思わずバッとリカルドを見る早夜。
 リカルドはというと、汗を垂らし此方を見ようとしない。

「へぇー、リュウキ様の? そー言われて見れば、似てなくも無いよーな……でも、リュウキ様は異界人、幸福の遣いだろ? 
 弟も一緒に来たなんて……ハッ! まさか、この前のあの馬鹿でかい魔力! あん時かっ!?」
「そう、あれ、サヤの暴走だから」
「暴走って……城からは、新しい魔法の研究の為とか言ってたが……」
「違う違う。そっか、そーゆー事になってたんだな……。 
 あん時、俺らはリュウキを探す為に探索魔法と、ついでに召還も行ったんだが、代わりに呼び出されたのが、こいつ。んで、そのまま暴走……」

 マシューは、まじまじと早夜を見る。

「じゃあ、本当にこのチビこいのがあの魔力を出したのか……」

 どう反応したら良いのか分からず、リカルドとマシューを交互に見る。

「しっかし信じられないな……こんなチマいのが……。ああ、サヤだったな、俺はマシューだ。よろしくな」

 そう言って二ッと笑うと、左手を差し出す。
 その手のひらにも火傷の跡があり、皮膚が引きつれた様になっていた。

「えぇーと、チマくてスミマセン……早夜と言います。よろしくお願いします……」

 チビだのチマいだの言われ、ちょっと拗ねた様にそう言うと、マシューの手を握り返した。
 すると、マシューは驚いたような顔をする。

「へぇー、俺の手を何の躊躇いも無しに握り返したのは、あんたで二人目だよ。因みに一人目こいつな」

 そう言って、リカルドを指す。
 すると、早夜は心底不思議そうな顔をして、首を傾げた。

「え? 手を差し出されれば、普通は握手ですよね? ハッ! もしかして私、何か間違ってましたか? 何か失礼な事をっ?」
「いや、お前は何も間違ってねーって……」

 少々呆れた様にリカルドが言う。
 それでもまだ、おろおろとしている早夜を見て、マシューは「ブハッ!」と噴出した。

「やベー……こいつ、マジ天然じゃん。おもしれー」

 そして、ひとしきり笑った後、嬉しそうに早夜の頭を撫でた。

「別に何も可笑しな事はしてないから安心しろって。それより、さっきはチビだのチマいだの言って悪かったな……おー? 何かお前、髪サラサラだなー……女みてー」

 リカルドがギクリとして、間に割って入る。

「い、いや、こいつ、リュウキの弟だからっ! 女じゃねーからっ!」
「はっ? いや、分かってるし、みたいって言っただけだろ? 見た所、胸もねーし……」

 ガーンとショックを受ける早夜。
(ううっ胸が無いって……。リリアさん、セイラさん。私やっぱり女として見られてないみたいです……)
 自分の胸を押さえながら、そう心の中で涙を流すのだった。


 マシューが先頭に立ち、道を歩いて行く。
 2人とも早夜に歩幅を合わせてくれていた。

「小さい分、歩幅も小さいな」

 時折振り返りながら、マシューは早夜をからかう。そして、プクッと膨れる早夜を見て、マシューはさも可笑しそうに笑った。
 その時、早夜はリカルドと目が合う。

『あ、あのな、サヤ……』

 気まずそうに、リカルドが小さく声をかけたのだが、早夜は何故か、その顔を見れずにそっぽを向いてしまう。

『どうせ、私はチビだし胸も無いです。何処からどう見ても男の子です。あ、なら、私じゃなくて、僕って言わなきゃダメですね』

 唇を尖らせながら、そう言うと、チラッとリカルドの方を窺う。
(!?)
 思わず目を見開いた。
 何故なら、彼が傷付いたような顔をしていたからだ。
(何でリカルドさんが、傷付いた顔をするんですか!?)
 早夜は、何か自分が悪い事をしてしまったような気がして、リカルドの傍にいる事が出来ず、マシューの元へと駆けて行った。


「ん? 何かあったか? お前ら……」

 2人の様子を見て、異変を感じ取ったマシューが、早夜に尋ねる。

「い、いえ、大した事じゃありませんから……」

 無理して笑う早夜の頭を、マシューは撫でた。

「何があったか、知らねーけど。あいつの事、嫌いにならねーでやれよ? 
 あいつ、王子っぽくなくて、バカっぽくて、何も考えて無さそうだけどさ、結構スゲー事考えてたりすんだな、これが。
 それが、時々空回りして失敗すっ事もあるけどさ。例えば、今回のリュウキ様の事とか……でも、あいつはあいつなりに自分でケジメつけようとしてる。
 今日、サヤを俺達の街に連れてこうとしてんのも、それがあると思うぜ?」

「……ケジメ? 街?」
「何だ、何も言ってないんだな。これから行こうとしてるのは、俺が住んでる街、通称“ゴミための街”なんて呼ばれてる」
「ゴミため? そんな街、聞いた事がありません……」
「そりゃあ、そうだろ。俺達は、隠れて住んでる」
「隠れてって……何故ですか?」

 するとマシューは、少し悲しそうな顔をした。

「それは……行けば、自ずと分かるんじゃね?」
「マシューさん?」

 何故そんな顔をするのか分からずに、彼の名を呼んだ。
 しかしマシューは、そんな心配げな早夜の顔を見てニカッと笑ってみせる。

「まぁ、お前、天然だからなぁ……行っても分かんねぇかもなぁ……。
 んで? お前はどっちが悪いと思ってる訳?」
「はい?」
「だからさ、喧嘩したんだろ? 大分落ち込んでるぞ、あいつ」

 そう言ってリカルドを見る。
 彼は肩を落とし、どんよりとしていた。
 そして、早夜が此方を見ている事に気付くと、一瞬ぱっと顔を輝かせるが、直ぐにさっきの傷付いた様な顔をして、目を逸らしてしまう。

「な?」

 と、マシューが早夜に言った。

「け、喧嘩と言うほどのものではないです……ホントにつまらない事で……。
 それに、悪いのは、わ……僕です。勝手にリカルドさんに対して怒ってしまったんです……」

 自分が一方的に怒っているのだから、喧嘩とは言わないだろうと思い、そう言った。
 それに、今見たリカルドの様子に罪悪感が湧く。

「そっか、じゃあ謝んねーとな」

 そう言って、マシューは早夜の肩に手を置いた。

「…………」

 ふとマシューが無言になったので顔を上げると、彼は目を見開いて、まじまじと早夜を見ている事に気付いた。
 彼は改めて早夜の事を上から下までじっくりと眺めると、肩から手を離しハァッと息を吐いた。

「……細い肩……なんでバレないと思うかね、あのバカ王子は……」

 ぼそっと呟く。

「マシューさん?」
「サヤ、今言ったこと撤回な。お前は謝んなくていい。悪いのはあいつ。サヤは全然悪くない」
「へっ?」
 
 いきなり態度を変えたので、不思議そうに早夜は首を傾げた。

「まぁ、何でこんな事を言い出したのかは、大体分かるがなぁ……。ふっ、お望みどおり、後でたっぷりじっくりからかってやるとするか……」
「はい? マシューさん、何て言いましたか?」

 聞き取れずに、早夜がそう訊ねると、マシューは首を振って答える。

「イーヤ、こっちの話。それよりも、こっから先は屋根の上を歩かなきゃならないんだ……」
「え!? 屋根の上ですか?」
「そう、あれ」

 そう言って指を指した先は、行き止まりになっていた。

「あれ? 行き止まりです」
「違う、違う。梯子があるだろ?」

 そう言われて見れば、確かに梯子があった。
 出掛ける前のリカルドの言葉を思い出す。
(リカルドさんが言ってたのは、これの事か……)
 


「うわぁ、本当に屋根の上です……」

 梯子の最後の方で、マシューに引っ張り上げてもらいながら、屋根の上に降り立つ早夜。
 目の前には屋根と煙突が並んでいる。足場には、板が貼り付けてあり、歩き易くなっていた。

「あ、お城です!」

 振り返ると、早夜がやって来たアルフォレシア城の姿がある。
 その時である。ふと視線を感じ其方を見ると、一つ向うの屋根の上に人がいた。紫色の長い髪の女性だ。
 その女性は此方をじっと見ている。

「サヤ?」

 声を掛けられ、ハッとして我に返ると、リカルドが心配そうに見ていた。

「あん? どうしたんだ?」

 マシューもその様子に気付き早夜に近づく。

「あの、あそこに紫色の髪の女の人が……あれ?」

 そう言って指を指した先には、もう既に誰もいなかった。

「うーん、あんな所に道は作ってなかった筈なんだけどな……」

 マシューが顎に手を置き首を傾ける。

「気のせいなんじゃないのか?」
「そんな筈ありません! 私、この目で――あ……」

 そこまで言って、早夜は今、自分がリカルドと話している事に気付いた。
 途端に気まずくなる。
(ど、どうしよう……謝るべきだろうか……)
 そう思っていると、リカルドも同じなのか、何か言いたそうだった。
 そして、意を決して謝罪の言葉を言おうとした時、マシューに声を掛けられ、結局言えずじまいになってしまった。
 その代わり、

「そうですね、きっと気のせいです……」

 大分、可愛くない物言いになってしまったように思う。
 案の定、リカルドは落ち込んでいた。
(ああ〜〜〜、こんな事言いたいんじゃないのに〜〜〜っ)
 早夜はそう思うのだが、意識すればするほど、どツボに嵌って行くのだった。










 〜日本・一時帰宅その後 其の4〜


 花ちゃんに自己紹介を終えた、美名月家と杉崎家の面々。
 その後、蒼達の異世界の話が始まった。

「じゃあ、こういう事? 早夜さんの夢の中に出てくる、リュウキって言う名前の男性を探す為に、異世界へ行って、そこで早夜さんの中に眠る魔力が暴走して、そのリュウキと言う名の人物は、実は早夜さんのお兄さんで、それを早夜さんのお母さんに尋ねる為に戻ってきたと……?」

 蓮実が、聞いた話をまとめて言った。にわかに信じられない話である。
 しかし、現に蒼たちは何も無い場所から忽然と姿を現し、目の前には花ちゃんと言う魔道生物までいる……。

「それで、早夜チャンは? どうしたのさ、無事なの!?」
 
 楓が心配そうに尋ねる。

「うん、それはまぁ大丈夫。リジャイとか言う、美形だけど、三つ目で細目の変な男に助けてもらったから」

 蒼がそう言うと、亮太はムスッとした顔になる。

「そ、それは、本当に大丈夫なのかな……」

 タラリと汗を流す楓。

「それで、早夜のお母さんに話を聞きたいんだけど。あの後、お母さんには何て?」

 蒼がそう言うと、蓮実達は顔を見合わせた。

「それが……蒼達がいなくなって直ぐ、早夜さんのお母さんを呼んで、説明したんだけど……。話をした後、凄く動揺しててね、探しに行くと言って出て行ってしまったんだ。それっきり、何の音沙汰も無しだよ……」

 茜が深刻そうに言った。

「後、ちょっと気になる事も言ってたわ……。恐らく私達には、探すのは無理だって……何か知ってる風だったわね……」

 百合香も茜に続いて言った。

「一体、どうやって探すつもりだったんだろうね」

 マリアも眉を寄せる。

「じゃあ、直ぐにでも早夜のアパートに行ってみましょう! おばさん居るかもしれないわ! 早夜は無事だって知らせないと!」

 しかし、蒼は止められてしまう。

「とりあえず、今日はこのまま学校に行きなさい。休みの理由を適当に話して、休学を出すなら出す。
 早夜さんの事も、何か理由をつけてあげないと、ずっと無断欠席になっちゃうよ」

 お母さんの事はこっちで連絡するからと、蓮実が言った。
 すると、亮太が立ち上がり言った。

「でもっ! 早夜さんクラジバールに狙われてるんだ! 早く戻らないと――……」
「狙われてる? それは穏やかな話じゃないな……でも、当のお母さん本人が捉まらない限りは無理だろう? その間だけでも、君達はちゃんと、学生の本分を勤めなさい」

 茜が真面目な顔で言う。
 その時、ずっと黙っていた翔太郎が口を開いた。

「……亮太、男は時に、忍ばねばならない事もある。今は忍び、耐えろ……いずれそれがお前の力となるだろう……」
「親父……」

 父の思わぬ長台詞に、感動を覚える。
 亮太は席に座ると、

「分ったよ……」

 と、頷くのだった。


 海里はと言うと、その間もずっと花ちゃんを見続けていた。
 何故ならば、花ちゃんはずっと、彼らの会話に合わせて一人芝居をしていた為だ。
 後で聞いてみたら「コレハ訓練ナノデツ!」と、訳の分らない事を言うのであった。


 花ちゃんのこと。
 花ちゃんが訓練と言ったのは、第三章のナイールの命令の回で、魔道生物が見せた、録音機能の事です。 
 連絡係は、彼らの中で結構人気のお仕事。(大好きなピトの役に立てるし、外にも出れて、色んな人に出会えるからです)
 競争率も高いので、彼らでオーディション等も行われています。
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