リカルドが気分転換に早夜を外へと連れ出そうとしますが……。
「おわっと、あれ? 兄貴……?」
リカルドが早夜の部屋の前までやって来た時、丁度早夜の部屋から、双子の兄の片割れが出てきた。正直ぱっと見、どちらかわからない。
「リカルド、いい加減その呼び方は止めたらどうだ。お前は、一国の王子なのだぞ?」
その口調で、リカルドは彼がシェルだと確認する。ミヒャエルであったなら、呼び方など気にしないからだ。
「何だ、シェル兄貴か……。何で、サヤの部屋から出てくんだ?」
シェルは、ハァーと諦めたように溜息を吐き、それで、しょうがないかと言う様に顔を上げると言った。
「腰が抜けたと言うので、部屋まで送ってやったまでだが?」
「はぁ!? 何で?」
腰が抜けたと言うセリフに、首を傾げるリカルド。
「さぁな……よほど驚くような事でもあったのだろう? 後で、本人に聞いてみたらどうだ?」
にっこりと笑ってそう言う。
内心、可笑しくて仕方がないのだろうが、そんな事は面には出さず、リカルドを見た。
「リカルドこそ、どうしたんだ? 彼女に用事でも?」
するとリカルドは、バツの悪そうな顔をして頭を掻く。
「いや、さ、サヤが友達行っちまって、落ち込んでんじゃねーかと思って……。気分転換に街に誘ってやろーかなと……」
「……デートか?」
ボソリとシェルが言う。
途端にリカルドは真っ赤になり、ぶんぶんと首を振った。
「っな、ちがっ、ぜ、全然違う!! もっと大事な――ハッ! な、何でもない!!」
何かを言い掛けようとして、直ぐに口を噤んだ。
訝しげにリカルドを見やるシェル。リカルドが、手に持つ物に気付いた。
「それは何だ? お前には前科があるからな、何か変な事にサヤを巻き込むようなら、外出は許可出来ないぞ?」
リュウキの一件を思い出し、そう言った。
「うっ! べ、別に変な事じゃねーよ……。それにほら、これはサヤが少しでも動き易いよーに持って来たんだ。あんなひらひらした服じゃ、自由に動き回れないだろ?」
そう言って見せられた物に、シェルはぴくんと眉を上げる。
「……一体何処に行かせようとしてるんだ、お前は……」
「いやさ、サヤはリュウキの目を通して、ずっとこっちの夢を見てきたって言ってたろ? だからさ、リュウキも知らない所に連れてってやろうと思って」
シェルは眉間に手を当て、はぁーと溜息を吐いた。
僅かにその肩が揺れている様に見えるのは、リカルドの気のせいであろうか。
「……まぁ、良いだろう。あまり無茶はさせないようにな……。
それから、行くのならサヤの腰がちゃんと立ってからだぞ……」
最後のセリフで、ちょっと顔が引きつって見えたのも気のせいか……。
リカルドは、不思議そうに首を傾げた後、シェルに向かい頷く。
それを見届けるとシェルは去っていった。
去ってゆくシェルは必死に笑いを堪えていた。
(さて、サヤはあの服を見せられてどんな反応をするのやら……それに、腰が抜けた事をリカルドに聞かれたら、さぞかし面白い顔をするのだろうな……)
その光景を思い浮かべ、クックッと笑うのだった。
リカルドは、改めて早夜の部屋の前に立つと、扉をノックした。
暫く間があり、「はい、どうぞ」と返事があった。
早夜の声を聞き、一瞬ドキリとして、手を止めてしまった。
そんな自分の行動に首を傾げるリカルドだったが、気を取り直すと扉を開けた。
「あ、リカルドさんでしたか。出迎えられずにごめんなさい……」
リカルドの姿を見た早夜は、長いすに座ったまま、すまなそうに言った。
「いや、腰が抜けたんだろ? しょーがねーって」
「なっ! ななな何で知ってるんですかぁ!!?」
思いっきり動揺する早夜に、キョトンとした顔でリカルドは答えた。
「ああ、さっきシェル兄貴から聞いたんだよ。一体何があったんだ?」
(シェルさん〜〜〜っ! イジワルです! やっぱりシェルさんはイジワルなんですっ!)
「い、いっ、いえっ! た、大した事じゃないのでっ、お気遣いなくぅ!!」
真っ赤な顔で、しどろもどろに答える。
「そーか? たいした事じゃねーんなら良いんだけどさ……。それより、立てるようになったらコレに着替えろよ! 街にいこーゼ!」
そう言って、服を差し出された。
「…………こ、これは男性の服ですよね?」
たっぷり10秒ほどの沈黙があり、早夜は尋ねた。
「おう! そうだ!」
嬉しそうに頷くリカルド。
早夜はショックを受けていた。
(や、やっぱり女性として見られていなかった……)
「この方が動きやすいだろ? それにこれ、昔リュウキが着てたやつなんだゼ!」
「えっ?」
そう言われて改めて見てみれば……見た事あるよーな、無いよーなと、微妙な顔をする早夜。
そして、意を決したように頷く。
「わかりました! 街に行きましょう。実は、ずっと行ってみたかったんです!」
リュウキの目を通してずっと見てきた街並み、実際にこの目で見てみたいと思っていた。
「そうか! そうこなくっちゃな!!」
そう言うと、リカルドは二ッと笑った。
「あの、ところでリカルドさん。ちょっと手を貸してもらえませんか? もう少しで立てそうな気がするんですが……」
「ああ、そうか。わかった」
そう言って、リカルドは早夜の手を取る。
そして、改めて気付く。その手が、あまりにも小さくて柔かい事に……。
男のものでは、決してあり得ないその感触に、途端に緊張するリカルド。
「あ、何とかいけそうです! ちょっと引っ張りあげてみて下さい」
「お、おう!」
早夜の言葉に、リカルドは腕に力を込めた。
思わず必要以上の力が入ってしまい、早夜が「キャア!」と言って、リカルドの胸に飛び込んで来た。
その羽のような軽さと柔かさ、そして花の様な香りに、頭がくらくらした。
「リ、リカルドさんっ!? あ、あの、もう大丈夫ですよ?」
ハッとして見てみれば、早夜が自分の腕の中で顔を赤らめ、此方を見上げている。
そこで、漸く自分が早夜を抱きしめている事に気付いた。
「うおっ!? ワリー!」
リカルドが慌てて手を離すと、頬を染めながらも早夜はにっこりと笑った。
「あの、支えて下さって有難うございます」
「え? あ、ああ……」
どうやら純粋に、リカルドが支えてくれたと思ったようだった。
その事に、ホッとしながらも、何処か釈然としないリカルド。
(何か、俺だけ緊張してんだな……)
なんだか、胸のムカつきを覚えたが、ふと早夜を見て気付く。
「おい、サヤ。お前普通に立ってんぞ」
その言葉にびっくりして、早夜は自分の足を見る。
「ああ! 本当です! やりましたよリカルドさん! これで街に行けそうです!!」
そう言って嬉しそうに笑う早夜を見て、フッと笑うリカルド。
胸のムカつきも無くなっていた。
(まあ、こいつか楽しそうならいっか……)
「そっか、やったな! サヤ!」
そう言うと、リカルドは早夜の頭を優しく撫でるのだった。
「まあ、サヤ様! まるでリュウキ様の子供の頃のようですわ!」
「ええ、なんだかリュウキ様の弟君って感じですわね」
「そ、それは褒めてもらってるのかな……」
キャイキャイとはしゃいでいるのは、使用人のリリアとセイラだ。
実は、早夜付きのメイドだったりする。
最初はメイドなどいらないと思っていたのだが、いかんせん、いつも着る服は背中にボタンやらリボンがいっぱい付いている為、一人ではどうしても着られず、彼女達がついた。
今回は男物なので、一人でも大丈夫かなと思ったのだが、細かなものが結構あって、着る順番が分らない。
なので、今回もこうして、彼女達に手伝ってもらっていた。
「どうせなら、髪型もリュウキ様の様にしましょう」
「そうね、その方がしっくりきますわね」
そう言って、彼女達は早夜の髪をポニーテールより、少し低めの位置に束ねていった。
その時、リリアが嬉しそうに聞いてきた。
「それにしても、サヤ様? 一体どちらが本命ですの?」
「え?」
「あら、それは私も聞きたいですわ」
セイラも話に乗っかってきた。
何の話やらわからない早夜は、首を傾げ、キョトンとしている。
その様子に、リリアがくすくすと笑った。
「いやですわサヤ様。リカルド様とシェル様の事ですわよ。私たち、見ていましたわよ? さっきサヤ様が、シェル様に抱き抱えられて部屋の入っていかれるのを」
「ええっ!?」
「あのように楽しそうにしているシェル様を見たのは初めてですわ」
「ち、ちがっ! あ、あれはただ、こ、転んでしまって、それでっ、運んでもらっただけで……」
「じゃあ、やっぱりリカルド様が?」
「リカルド様も、女性に対して、あのように積極的なのは初めてですわね」
「そ、それは、ただ、私の事を女として見ていないだけなんじゃ……」
早夜のその言葉に目をむく2人。
「まあ、サヤ様、何て事言いますの!? そんな事ありえませんわ!」
「ええ、リカルド様はちゃんとサヤ様を女性として見ておられますよ」
「ええっ!?そ、そうかなぁ……」
まだ信じられないと言う顔をする早夜に、2人は力強く頷いた。
『そうですとも!!』
部屋の外で待っていたリカルドは、扉が開き、メイドに入るよう促された。
言われた通りに中に入ると、早夜が照れたように笑って立っていた。
「あ、あの、リカルドさん。どうですか? やっぱりリュウキさんに似てますか?」
「…………」
リカルドは暫く微動だにせず、見つめている。
確かに昔のリュウキに何処と無く似ている……似ているのだが、それが余計に早夜が女である事をリカルドに意識させていた。
髪を少し上の方で束ねている為、その白いうなじと細い首はむき出しだし。そして、男物の幅広の帯は、彼女の腰の細さをさらに際立たせていた。
全体的にも線が細く、リュウキと比べる事でその差は一目瞭然である。
「リカルドさん……?」
彼が黙ったままなので、首を傾げる早夜。
「……ッ、お前、細すぎ!!」
「へぁっ!?」
「何だよその腰の細さはっ! ちゃんと飯食えって言っただろ!!」
漸く口を開いたかと思ったらいきなり怒られ、戸惑う早夜は、近くにいたリリアとセイラを見やるのだが、二人はくすくすと笑うのみ。
「では、私達はこれで……」
「ごゆっくりどうぞ……」
そう言って、部屋を出て行く。
早夜とすれ違いざま、二人は早夜に囁いていった。
『サヤ様、後で話を聞かせて下さいませね?』
『デートかんばって下さい』
「っ!! デー――っ!!?」
「何だ?」
思わず叫んでしまいそうになり、慌てて口を押さえる。
「な、何でもありません……」
リカルドは「そうか?」と言って首を傾げるが、気を取り直し二ッと笑う。
「それじゃ、行くか!」
「はい!」
リカルドのその言葉に、早夜は元気に返事をした。
「ちゃんと俺について来いよ? 逸れたら、見付けて貰えるまで迷う事になっからな。後、途中、梯子とかもあっから気を付けろよ?」
「へっ!?」
一体何処に連れて行かれるんだろうと、少々不安になる早夜だった。
〜日本・一時帰宅その後 其の3〜
「えーと、じゃあまず、自己紹介からしよう!」
「アイ!」
蒼の言葉に、片手をあげて返事をする花ちゃん。
「じゃあ、蓮実ちゃんからどうぞ!」
「うーん、なんだか変な気分……。ええっと、僕は、蒼の父の蓮実と言います。 よろしく……」
そう言うと、蓮実は握手のつもりで人差し指を出す。
「アイ! 僕、花チャン!」
すると花ちゃんはそう言って、蓮実の指をちまっと掴むと、ペコリとお辞儀をした。
「ど、どうしよう茜さん! この子カワイすぎるよ!」
頬を染め、蓮実が茜に言った。
ファンシー好きの彼としては、たまらないものがあるらしい。
「ああ、ハイハイ、私もそう思うよ。じゃ、次は私、蒼母の茜。よろしく」
蓮実と同じように人差し指を出す。
「アイ! 僕、花チャン!」
やはり同じようにちまっと掴む。
「オッス オラ楓! 蒼の兄ちゃんだ!」
「アイ! 僕、花チャン!」
「……楓、それ、某キャラクターのセリフ……。じゃあ次は私……初めまして花ちゃん、私は亮太の姉の、百合香よ。よろしく……」
「アイ! 僕、花チャン!」
「……亮太父、翔太郎……(スチャ!)」
「アイ! 僕、花チャン! コレハ何デツカ?」
「それは、翔さんのライブのチケットだよ。フフフ、花ちゃん、翔さんに気に入られたね
ー! 私は、亮ちゃんのママ、マリアだよ!」
「アイ! 僕、花チャン!」
「ハイハイ! 次、僕! 花ちゃん、僕は亮兄ちゃんの弟で海里って言うんだ! よろしくね!」
「アイ!僕、花チャン! ヨロシクナノデツ!」
「ウフフ、仲良くなれそーね」
それらの様子を微笑ましく見ていた蒼。
「おい! 本当の目的、忘れんなよ? 早夜さんのお、お母さんに会って、真実を聞くんだろ!?」
「もー、お母さんの所でどもんないでよー。
ふふん、ちゃんと分ってるわよ。早いとこ、早夜の所に戻らないとね。
亮太も気が気じゃないもんねー、リカルド王子様でしょ、あのリジャイって三つ目の人でしょ……それと、思わぬ所で伏兵が出てきたりしてー……」
「な、何だよ、伏兵って!?」
「例えば、カートさんとか、ルードさんとか……後、意外な所で、第二王子のシェルさんとかー……」
「ううっ……」
だらだらと汗をたらす亮太。
「ほーらほーら、心配でしょー? 今すぐ早夜に会いたくなったでしょー? 会って、抱きしめて、チューしてー……」
「蒼! やめてくれっ! 本当にシャレになんねーからっ……」
そう言って、切なそうに胸を押さえた。
蒼はそれを、少し寂しそうに見つめる。
そして目を瞑り、はーと息を吐くと、バンッ!と亮太の背を強く叩いた。
「だから! 早く済ませて、早く戻りましょ!」
「って! ……蒼、お前……緊張感とか、本当、皆無なんだなー……」
背中を押さえながら、亮太はため息混じりに呟くのだった。
Newvelランキング・
Wandering Network恋愛ファンタジー小説サーチ
小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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