早夜が目を覚ますと、すぐに蒼が声を掛けてきた。
「早夜! 目が覚めたのね!」
蒼が嬉しそうに自分を見ていた。ふと視線を移せば、そこにはホッとした表情の亮太の姿もある。
「蒼ちゃん? 亮太くん……あれ? 私……」
今はまだ、ボーとしている頭の中で思い出そうとする。
「えっと……確か蒼ちゃんの家にお呼ばれして……」
「えっ? そこからっ!? ちょっと早夜、いくらなんでも戻りすぎ!」
蒼のつっこみに、ようやく頭が覚醒する。
(――っ!! そうか、此処はアルフォレシアだ!)
そう思い、早夜はガバッと体を起こす。
だが、すぐにくたっと崩れた。
「早夜!?」
「桜花さん!大丈夫ですか?」
蒼と亮太が慌てて声をかける。
“く〜〜……”
そんな音と共に、早夜は真っ赤になってお腹を押さえた。
「お、お腹すいたよ〜」
そんな早夜にホッとする二人。
「そりゃあ当たり前よー。早夜、あなた一日は寝てたわ。それに朝起きて、朝食も取らずにこっちに来ちゃったんだもん、当然よね」
「ええ!? 一日寝てたの?」
それはお腹が空く筈だ、と早夜は思った。
「あ、そういえば、あの後どうなったの?」
「え? ああ、あの変態男なら無事よ。あの首輪が外れたと同時に、早夜は気を失っちゃったのよ。
その後あの男がどうしたのかは、私らも知らないわ。だって、直ぐに私たちあそこを出たから……」
そう言うと、ニヤッと意味有り気に蒼は笑い早夜を見る。
「早夜ってば、気絶して直ぐに運ばれたのよ。あのリカルドって言う王子様に、お姫様抱っこで……」
早夜は耳を疑った。
(い、今なんて言ったの? リカルド王子? 運ばれ――……お姫様抱っこ!?)
「えぇっ!!?」
亮太はその後ろで、不機嫌な顔をしていたのだが、早夜はまったく気が付かなかった。
そしてその時、ジャストなタイミングで、そのリカルド本人が入ってきた。
「お、目が覚めたんだな。おはよーさん、サヤ」
そう言って、爽やかに笑う。
途端にかーと顔が熱くなった。
「ふぇっ、お、おはようございます……」
ぎこちなく頭を下げる。
「腹減っただろ? メシ持って来させたから食え!」
すると、ぞろぞろと召使達が食事を運んでくる。
「それ食ったら、親父とお袋に会わせてやるよ。2人とも会いたいって言ってたゼ!」
その時リカルドは、早夜の顔が真っ赤なのに気付いた。
「ん? どうした? 顔が赤いぞ? もしかしてまだ具合が悪いのか?」
そう言ってベッドに腰掛け、早夜の前髪を上げると、自分の額を押し付けた。
「うおっ!!」
「あらあら……」
それを見た亮太は、ガーンとショックを受けた顔をし、蒼はニヤニヤと笑い、口に手を当てた。
(ひゃ〜っ!! 近いっ、顔が近いよぅ!)
金色の長い睫毛が目の前にあり、それが開くと、深い緑色の瞳が早夜を見つめる。
どきんと心臓が跳ね上がる。
「んー、熱はないみてーだな……メシ、食えるか?」
そして、召使が置いた膳からスープ皿を手に取り自分の膝に置くと、スプーンでスープを掬い、早夜に食べさせようとした。
「はっ、あ、あの、一人で食べれますからっ。だ、大丈夫です!」
そう言われ、自分の行動に気付いたリカルドは、ゴホンと咳払いをし、照れた顔でスープ皿を早夜に渡した。
「わ、わりー……」
そのリカルドの顔を見て、早夜は漸く思い出した。
確かに今までの笑顔や声の調子なんかは、いつも夢で見ているリカルドそのものである。
しかし、明らかに早夜の知っている彼ではない。
何故ならば彼は、女性が苦手だった筈。
こんな風に自然に女の自分に接してくるのは、俄かに信じられない。
(もしかして私、女として見られてないんじゃ……)
と、少々ショックを受けながらも、こういう風にも捉えた。
(私はリュウキさんの妹だからあるいは……リカルドさんは、私の事を妹として見てるのかも……)
そんな風に思ったら、なんだか先程までの気恥ずかしさが消えた。
そして、少し悲しいような残念なような気持ちに囚われる。
その気持ちを何処か不思議に感じながら、リカルドさんらしいな、と思いフッと笑った。
「あのリカルドさん。私が倒れた時、運んでくれたそうで……有難うございました。えぇっと……重くありませんでした?」
伺うように聞くと、リカルドは全然と言い首を振る。
「重いどころか、すっげー軽いぞお前。ちゃんとメシ食ってんのか? お前はもっと食った方が良いな。ほら、遠慮せず食え! リョウタもアオイも食えよ、冷めちまうぞ」
リカルドはそう言って、自分のスープ皿を取り、パンを片手に食べ始めた。
「えぇ!? 王子様もここで食べるんですか?」
蒼が驚いた風に言うと、リカルドはムスッと不機嫌そうにした。
「何だよ、俺にメシ食うなってーのか? それにその王子様は止せ。リカルドでいい」
「い、いや、そーゆー事を言ってるんじゃ無くてー……」
蒼が言いたいのは、リカルドのような身分の高い者が、自分等の様な庶民と一緒に食べても良いんだろうか、という事。
だが、目の前の王子様は、まったくそのような事は気にしない。寧ろそのような扱いをされる事を嫌っているようにも思える。
「ふふっ、蒼ちゃん早く食べよ? 皆で食べた方が楽しいよ」
早夜は、蒼のその様子に笑いながら、スープを口に運んだ。
「あ、おいしー! リカルドさん、このスープすごく美味しいです!」
「そうか! そりゃ良かった。このパンも食ってみろよ、うまいぞ!」
そう言って、パンの入った器を持ってくる。
そんな和気藹々とした雰囲気に、蒼はぽかんとした。
「どういう事かしら? 早夜ってば、さっきまで顔真っ赤にしてたのに……ねぇ? 亮太……」
蒼が亮太の方を見てみれば、彼はムムゥ……と悔しそうに2人を見ていた。
「はぁー、そんなに悔しいんなら、あの2人の間に割って入る位しなさいよ……。
まぁ、私は仲間に入れてもらうけど」
そう言うと、蒼もスープ皿を持って、早夜とリカルドの中に入ってゆく。
「蒼ちゃん! このパン、スープに付けて食べるともっとおいしーよ!」
「そう? あ、本当だ、おいしー!」
「そーだろ? それもうまいが、この肉挟んで食うともっとうまいんだっ!」
「えー!? 朝から肉ですかー……?」
蒼が呆れたように言うと、リカルドが立ち上がり言った。
「何だと? 朝だからこそ肉を食うんだ! 力でねーぞ!!」
その様子を見ていた亮太は、ぐーと腹が鳴る。
「お、俺も……」
そう言うと、おずおずとその輪の中に入って行ったのだった。
「ふふ、早夜ってばそのワンピース可愛い〜!!」
「蒼ちゃんもその服すっごく綺麗ー!」
あれから、朝食を食べ終えた早夜達は、用意された服に着替えていた。
早夜は淡いピンク色のワンピースで、フリルやリボンがついてる。だが、決して子供っぽくは無く、清楚な感じだ。
蒼は水色のワンピースで、こちらは早夜ほどフリルやリボンはついておらず、襟や袖スカートの裾などに、刺繍が施され、真っ青なチョーカーと腰に巻き付けた布がアクセントになっている。
キャイキャイとはしゃいでいる早夜達を亮太はボーと見ていた。
彼は茶色を基調とした服で、シャツには金糸で刺繍を施してある。
ある意味ホッとした、何かごてごてした派手な衣装だったらどうしようかと思ったが、結構落ち着いたものだった。
(はぁ〜、それにしても桜花さんはべらぼうに可愛いな。蒼もまぁ、ちゃんと女に見えるな……。しかし、蒼はあの話をしないが、諦めたのか?)
あの、日本へ帰る話を思い出しながら思った。
(諦めたのなら良しとしよう。でも、蒼の事だからな、油断は禁物だ……)
「用意できたか? じゃあ親父達が待ってるから行くぞ」
そうして、リカルドに連れられ、部屋を後にした。
「うわー、すごーい、ひろーい、大きいー、キレー!」
蒼が、口をあんぐりと開け、驚いている。
「これは、すごいな……」
「はー……ほんとだねー……」
亮太も早夜も周りを見渡し、呟いた。
城の中は白を基調とした大理石で壁や柱を造っており、その到る所に細かな彫刻が施されている。
そして天井を見上げれば、そこには美しい絵が描かれていた。
それらは決して悪趣味ではなく、洗練された美しさだった。
「ん? でも、早夜は夢の中で見てたんじゃないの?」
不思議そうに蒼が行った。
「そうだけど……目線が違うせいか、まったく別に見える……」
きょろきょろと辺りを見回す早夜。
確かに見覚えはあるのだが、いつもは目線の高さに在るものが今は、見上げなければ見る事が出来ない。
「ああ、そっか。そういえば、リュウキさんって背はどの位あるの?」
そう聞かれ、早夜はリカルドを見た。
「丁度、リカルドさんと同じ位だよ」
蒼はリカルドを見る。自分よりも背の高い彼を見て、蒼は納得した。
「なるほど……それは確かに違く見えるかもね……」
「頼むから、俺の前で身長の話はしないでくれ……なんか惨めになる……」
亮太がそう言って、ガクッと肩を落とした。
それから3人は、荘厳な雰囲気の扉の前に通される。
扉の前には、全身を鎧で包んだ見張りの者が微動だにせず立っており、ぱっと見、置物のようだった。
「あー、何かテレビで見た事あったけど、こーゆー人達って、動いたり、喋ったりしちゃ駄目なのよね……」
彼らをじーと見つめる蒼。
はっと亮太は気付き、蒼の肩をガシッと掴む。
「やめろ! ダメだぞ蒼、この人達の邪魔はすんな、なっ?」
半ば必死になって言われ、振り返った蒼は、何故か手をワキワキさせていた。
「あら? 何の事かしら……酷い言いがかりだわ」
「嘘付け! だったらなんだ? その手はっ!?」
「何って、ただの指の運動よ……」
「……蒼ちゃん、目が泳いでるよ」
「あー、ムリムリ。俺も今までいろいろ試してきたが、全部惨敗だ!」
(って、オイ! 王子がそんな事すんなよっ!)
心の中でつっこむ亮太。
それでもやっぱり、前を向いたまま微動だにしない彼らに、亮太は感心しつつ同情した。
「えっ、そうなんですか? リュウキさんとはたまに話してましたよ」
早夜がそう言うと、「はぁ!?」と、リカルドが早夜を見た。
「何だそれ、リュウキそんな事一言も言ってなかったぞ!」
(それは多分、この人に言ったら、彼等へのイタズラが増すからだ……)
亮太はそう思った。
「でも、そんな話すほどの事でもないんじゃ……」
「俺にとっては大問題だ! 今迄どれだけの事を試してきたか……」
ぐっと拳を握り締めるリカルドに、早夜はあたふたする。
「で、でも、本当に大した事じゃないんですよ。挨拶して、それに返す程度……」
するとリカルドは、その人達に向かって「おはよう!」と言った。
“……シーーーン……”
「なっんでだっ!? 何でリュウキには喋って、俺にはしゃべんねーんだ!」
悔しそうに拳を震わせていたが、やがて諦め「行くぞ」と言って、扉を開け一人で入っていった。
早夜は試しに、その人達に挨拶してみた。
「えっと……おはようございます。カインさんにオーガスタさんですよね。今日もご苦労様です」
「っ! 早夜? あなた名前まで知ってたの?」
「えっ!? ああ、うん。カインさんはね、一ヶ月前に結婚したばかりで、新婚でラブラブなんだって! オーガスタさんはこの前、初孫が産まれたって喜んでたよ!」
「あっ」
その時亮太は見た。
今までピクリともしなかったその二人が、驚き目を見開いたのを……。
だが、話に夢中な早夜達は気付かなかった。
「いや、あのね早夜、別にそこまで聞いてはいないんだけど……」
「あ、そっか、夢の中では何度も挨拶している所見てたから、顔も名前も覚えちゃった」
そして、早夜が照れたように笑ったその時、“ガシャン”と後ろで音がした。
そちらを見ると、なんと見張りの二人が持っていた剣を縦に構え、こちらに向かい礼をした。
「う、動いた!?」
蒼が驚きの声を上げる。
「王子には内緒ですよ?」
と、右側のカインと呼ばれた者が言った。
「何をされるか分かりませんからな……」
と、こちらはオーガスタと呼ばれた者。
「それにしても、リュウキ様の夢を見ていたと言う話は本当だったんですね」
「リュウキ様とは、ご兄妹であられるとか。なるほど、何処となく似ておられる……」
そう言うと、二人はまた前を向き、元の姿に戻る。
「我々はあなた方を歓迎いたします」
「ようこそ、アルフォレシアへ……」
そしてその場は、何事もなかったように静かになった。
呆然となる三人。
その時、扉が開いて、怒った顔のリカルドが出てきた。
「お前ら、何してんだよ!? 暫らく一人で気付かなかったろーが!」
「いっ、今うごっ、ムグッ!!」
蒼が「動いた」と言いそうになり、亮太は慌ててその口を塞ぐ。
「はっ!? 何だ?」
「い、いえ、何でもないっすよ! ですよね? 桜花さん」
「え? ああ、はい、何もないですよ……」
あははと乾いた笑いで誤魔化す2人。
「何でもねーなら早く来いよ。皆、待ってんぞ!」
そう言うと、今度は扉を開けたまま、三人が入ってくるのを待っている。
早夜はふと、見張りの2人に目を向けた。
すると、カインはパチッとウインクをし、オーガスタは僅かに口角を上げる。
早夜は嬉しくなり、ペコッと頭を下げると、扉の中へ入っていった。
「んっ?」
と、リカルドが不思議に思い彼らに目を向けるのだが、その時はもう彼らは生きた置き物と化しているのだった。
扉の中は、謁見の間となっている。
やはり白が基調となっており、赤い絨毯が目に鮮やかだ。
天井を見上げれば、丸い天窓があり、ステンドグラスがはってある。
奥にある玉座には国王のアルファードが座っていた。隣には銀色の髪を上品に結った王妃のシルフィーヌの姿もある。
そして、一段下がった所に、双子の王子のミヒャエルとシェル、王女のセレンティーナの姿があった。
こうして見ていて、早夜はふと思う。やはり夢の中とは違う。夢の中、つまりリュウキ本人は、あちら側に立つ人間なのだ。
このように、謁見の間で彼らと対峙するのは、早夜は初めてであった。
そう思ったら、何か緊張と不安で胸がいっぱいになった。
果たして自分は、この人達に受け入れてもらえるのだろうか、と。
その時、早夜はつんつんと蒼に袖を引っ張られる。
何かと思い、彼女を見ると、『あれ』とある方向を示した。
その方向に目を向けると、何故かカートとルードに挟まれた、リジャイの姿があり、早夜は目を丸くする。
こちらに目を向けられた事に気付いた彼は、嬉しそうに早夜に向かって手を振り、カートに注意されていた。
その姿に何処かホッとし、安堵した早夜は彼に笑顔を向ける。
その時、国王アルファードが口を開いた。
「そなたがサヤと申す者か?」
その声は静かだが、この広い部屋の中でよく響いた。
「は、はいっ! 桜花 早夜といいます!」
緊張で声が少し裏返ってしまった。真っ赤になりながら、早夜は頭を下げる。
「それで、その者達は?」
蒼と亮太を見て、アルファード王が聞いた。
「お友達の蒼ちゃんと亮太君です。此方に呼ばれた時、私の傍にいたんです」
「美名月 蒼です。初めまして」
「杉崎 亮太です」
2人とも前へ出て、頭を下げる。
「こちらの夢を見ていたと聞いたが、それは本当か?」
「はい、もうずっと前からです。気付いたら見ていたんです。リュウキさんの目を通して、此方の世界を見てきました」
「では、そなたがリュウキの妹と言うのは本当か?」
その質問に、早夜は目を伏せる。
「……それは、わかりません……」
王の眉がピクリと動いた。
「わからないとは?」
「あの、私……母一人子一人で育って、ずっと自分は一人っ子だと思っていたんです。
リュウキさんの事だって、私は本当に夢だと思っていました……。
でも今回、あの人が私のお兄さんだとわかって、すごく嬉しいんです。だって、ずっと憧れていたんですよ。兄弟とか、家族とか……本当に夢みたいです……」
そうして、本当に嬉しそうに微笑む早夜を見て、王は立ち上がった。
そして、早夜へと近づいてゆく。
アルファードが目の前までやってくると、
「お、大きい……」
と、思わず呟き、一歩下がってしまった。
そしてハッとして、今自分は失礼な事をしてしまったのでは、と真っ赤になって俯いてしまう。
王は確かリカルドと同じ位の背丈なのだが、王特有のオーラのせいなのか、その威圧感で更に大きく見えてしまったのだ。
(お、怒ってないかな?)
早夜はチラッとアルファードを見てみると、ギョッと目を見開いてしまった。
何故なら、彼のその目からは涙がボロボロと流れ出していたからだ。
「あ、あの、ええっ!!?」
いきなり泣き出され、どうしたらいいか分からない早夜。
蒼や亮太も呆気にとられた顔をしている。
「うう……ぐすっ、兄妹だというのに、離れ離れで暮らすとはっ……ぐすっ、しかも妹の方はそれを知らずに――……ううっ、リュウキは……リュウキはずっとそれを、心の中に留めていたというのか――……」
そう言って、早夜の肩を掴み、
「なんと不憫なっ!」
と言うと、ぎゅうっと抱き締め、声を上げて泣き出した。
「ふぇええっ!!?」
いきなりの事に目を白黒させる早夜。
もともと情に熱い王様ではあったが、こんな風に開けっぴろげに、人前で涙を見せる人だったろうか、と早夜は驚く。
(そ、それにしても苦しい……)
それはもう、力いっぱい抱き締めるものだから、早夜は息が出来なかった。
その時、ベリィッ! と形容してもいいくらい思いっきり引き剥がされる早夜。
そしてその腕は、庇うように早夜の肩を抱いた。早夜は真っ赤な顔で、ぜぇぜぇと息をし、無意識にその腕にしがみ付く。
「いい加減にしろよ親父! サヤが窒息しちまうだろーがっ!」
助けてくれたのは、リカルドだった。
「だってな……ぐすっ、ううっ……うおーーっ!!」
「大の大人が泣いてんじゃねーよ! ウザってーなっ!」
「そうですよ? 陛下、ちょっと見苦しいですわよ……」
そう言って、アルファードにハンカチを差し出すのは、王妃のシルフィーヌだった。
「おお、シル! だってな、あまりにも不憫で仕方ないのだよ! 家族は共に在らなければならない、そうだろ? シル」
差し出されたハンカチを受け取り、チーンと鼻をかんだ。
「それはそうですけど、事情だってありますでしょう?」
「それは余も分かってはおるよ? だがね、何より、リュウキは我々に何も話してはくれなかった、我々を信用してなかったのだよ? ……何よりもそれが悲しいのだ」
「そんな事ありません!」
早夜は思わず叫んでいた。皆が此方を見る。
「リュウキさんが、皆さんの事を信用してないなんてありえません!
皆さんの事が好きだから……大好きだから、一緒に居る事だけで幸せだから、自分の事で心配させたくない、煩わせたくないって思ったんじゃないでしょうか……」
(……だって私がそうだったから……)
早夜はぎゅっと手を握り締めた。
リカルドにそれが伝わり、「サヤ?」と心配そうに呟く。
「そうか、大好きか……そうだといいねぇ」
アルファードのその言葉に、早夜は頷く。
「そうです! 何より、リュウキさんはセレンさんを大切に思っています!
私が最後に見た夢の中でも、リュウキさんはセレンさんに貰ったお守りをずっと握り締めていました。
誰よりも皆さんと家族になりたいと思っているのは、リュウキさんだと思います!」
その言葉を聞いたセレンは、口に手を覆い、涙する。
ようやく涙が引っ込んだのか、アルファードは鼻をすすりながら此方を見た。
そして、首を傾げると、
「それにしても……いつの間にお前達はそれ程仲良くなったのだね?」
肩を抱くリカルドと、その腕にしがみ付く早夜を見て、そう言った。
『えっ?』とお互いを見る早夜とリカルド。
そうやって見つめ合う事数秒。
「おわっ! ワリー!」
「い、いえっ! こちらこそ……」
ようやく今の状態を理解した二人は、顔を真っ赤にして慌てて離れた。
そんな初々しい反応をする2人に、アルファードはにんまりとすると、隣にいるシルフィーヌに言った。
「シル、リカルドが……あのリカルドにも漸く春が訪れたようだ。これは盛大にお祝いしなければいけないよ」
「あらあら、そうですわねぇ……」
頬に手を当て、シルフィーヌも微笑ましげに、リカルドを見ている。
「な、何言ってんだ!? そんなんじゃねーって!」
「そ、そーですよ! 私とリカルドさんは、何でもありませんから! 寧ろ、リカルドさんをお兄さんのように思ってますから!」
必死に否定するリカルドに乗っかる形で、早夜も言った。
「……お兄さん?」
微妙な顔をして、早夜を見るリカルド。
(い、いや、嬉しい……嬉しいんだが……なんだ? このもやもや感は……)
「シル……息子が振られてしまったよ……」
悲しそうにアルファードが呟くと、ホホホとシルフィーヌが笑った。
「あら、陛下、寧ろ喜ばしい事ではないですか。兄として慕う感情が、やがて恋に発展するなんてざらですわ。リュウキとセレンだってそうだったでしょう?」
「はっ! そうだったな、喜べリカルド! お前にもまだチャンスはある!」
「だから、違うって!」
リカルドが否定するも、まったく聞く耳を持たないアルファード。早夜を優しく見つめると、胸に手を当て言った。
「異界より来られし客人よ。幸福なる遣いよ。我々はそなたらを心より歓迎し、もてなす事をここに誓おう。ようこそ、アルフォレシアへ!」
そう言うと、アルファード王は優雅に礼をする。
すると、他の者達も一成に、
『ようこそ、アルフォレシアへ』
そう言って頭を下げるのだった。
呆気にとられる早夜達3人。
早夜はふと、傍らにいるリカルドを見上げる。
彼は、フッと笑うと、胸に手を当て、
「ようこそ、アルフォレシアへ」
と、言うのだった。
何だか早夜は、胸がドキドキして止まらなかった。
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小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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