今回お送りするお話は、クラジバールが舞台となります。
「ムムム……遅い、遅すぎる! 魔力の放出が治まって、暫らく経つと言うのに、何故あやつは帰ってこぬのだ!」
テーブルをバン!と叩きロイが叫ぶ。
「フム、そろそろ枷を抑える魔道具も限界じゃのぅ……」
「っ!! それは大変ではないかっ!!」
「………」
そんな中、ムエイことリュウキは無言であった。微動だにしない。
その時、小さい頭に花を咲かせた手の平サイズの魔道生物が、円盤に乗って飛んできた。
そして、ピトのもとまでやってくると、ビシッと敬礼をする。
「ゴ主人タマ、ナイール王子カラ伝言ナノデツ!」
何事かと、その場にいる一同は緊張し、その生物を見た。
「フム、何かのぅ? 言ってみるのジャ」
「アイ! 王子カラノ伝言ヲ再生シマツ! ポチットナ」
すると、その魔道生物は何か押す仕草をし、それと同時にその小さな体に青白い光を纏わせた。
『そちらにリジャイは来ていないかな? もしいるのならすぐに来て欲しい。では、また何かあれば連絡するよ』
「以上、再生終ワリマツタ!」
その小さい生き物は、どういう仕組みなのか、王子そのままの声で喋ったのである。
一同が驚く中、ピトは考え込むように腕を組んだ。
「ウーム、どう伝えるべきかのぅ……フム、じゃあこう伝えてくれんかの?」
ピトがそう言うと、その生物は嬉しそうに一回転した。
「ゴ主人タマノオ役二立テルノデツ! ソレデハ。マタマタ、ポチットナ」
そう言ってまた、先程のように光を纏わせた。
ピトはそれを確認すると、ゴホンと一つ咳払いをし、それに向かい喋り始める。
「ナイール王子、魔学者のピトじゃ。リジャイなんジャが先程までいたんジャがの、また何処かへ出掛けてしまったんジャ。まぁ、いつもの事ジャから、またふらっと現れるかもしれん。そん時は、ワシの方から言っておくでの」
言い終わると、光が消え、またビシッと敬礼する。
「デハ、王子ニ伝エテ来ルノデツ!」
そう言うと、その魔道生物は飛んでいってしまった。
「あの円盤にはの、飛行能力の他にも録音機能が備わっておるのジャ。ワシの自信作の一つジャ」
その小さい生き物を愛情たっぷりに見送って、満足気なピト。
「はっ! それってムエイ様の声も録音できるって事!?」
話を聞いていたミリアは、目を輝かせる。
そして、すかさずイーシェも、
「ミョミョ! これは、ムエイに愛の言葉でも囁いてもらうミョ! ついでにミリアも愛の言葉を送るミョ! きっと感動に咽び泣くに違いないミョ!!」
と、いつものように、見当違いのことを言った。
「それにしても、ナイール王子はリジャイに何の用なんだ?」
カムイが疑問を口にすると、ロイがフンと面白くなさげに言う。
「そんなの決まっておろう? 先程の魔力の放出についての事に違いないのだ!」
その言葉に、ムエイはピクンと反応した。
「まさか、アルフォレシアに何か仕掛けるつもりか?」
「ウーム……それはわからんが……。あのクラジバール王の事ジャ。何分、あの男は被害妄想の気が強くてのぅ……。何かしら王子に命じたのかも知れん……」
ピトがそう言って、考え込むようにあごに手を置いた時、突如魔法陣が現れ、リジャイが現れた。
『リジャイ!!』
皆が一斉に声を上げる。
彼の周りには、魔法の名残である、光の粒が舞っていた。
「ヤッホー、ただいまー、皆ゲンキ?」
そんな気の抜ける挨拶をするリジャイに、ロイが吼える。
「キサマ! 何なのだ、その軽さは! 我らがどれだけ心配したと思っておるのだ!」
ロイのその言葉に、リジャイは眉を上げ、大げさに驚いて見せた。
「へー! ロイロイが僕の心配するなんてめっずらしー……これは槍でも振るのかなー……」
そのリジャイのいつもの調子に、皆は呆れると同時にホッと胸を撫で下ろした。そんな中、ムエイがリジャイに詰め寄る。
「リジャイ! それで如何だったんだ? 早夜は無事なのか?」
「……うん、大丈夫、無事だよ。暴走のせいで体は傷付いていたけど、それはちゃんと治したし、また暴走しない為の処置もしといたよ」
それを聞いて、ようやく安心したのか、はーとため息をついて肩の力を抜いた。
あの、恐ろしいまでの魔力を感じなくなってからも、ムエイは心配で仕方なかったのだ。
「そうか無事か……良かった……。ありがとう、リジャイ。お前も無事で良かった」
ムエイが漸く笑顔になり、そう感謝を述べると、リジャイは少しくすぐったそうにする。
「早夜はとても良い娘だったよ。なかなか面白いし、それにすごく頑固だったよ」
そう言って困ったように笑ったのだった。
「再会を喜んでる所悪いんジャが……。リジャイ、お前さんにナイール王子から伝言があったぞ。何でも、すぐに会えないかという事ジャった」
「えー、帰って来ていきなりかぁ……」
リジャイが何かを考えあぐねていると、ピトが近付き、リジャイにだけ聞こえる様に言った。
「お前さん、その首輪は如何した? 見た所、枷ではないの?」
今、リジャイがつけている物、それは枷に良く似たフェイクであった。
「あはは、さすが作った本人。やっぱり分かるー?」
「フム、術がまったく感じんの。もっと上手く作らねばバレるぞ?」
「あ、そっか、忘れてた。後でなんか術掛けとくよ。それよりもこの事は、今はまだ皆には内緒ね」
「わかっとるよ。皆が混乱するだけジャからの。それよりも、如何して外れた?」
そう言うピトの目は何処か怖い。
おそらく自分の作った物を外され、少なからずプライドが傷付いているのかも知れない。
「うん、それがね、ムエイの妹が外したんだ。さすが万物の力だね」
その言葉に目を見開くピト。
「何!? やっぱりあれはそうジャったのか……」
「そういえば、ピトの世界にも万物の力はあったんだったね……」
「フム、我ら樹木人の王であり母。始まりの樹。我らの創造主。我らが世界樹と崇めておる。
……そして、ワシが目指すもの……」
そう言って、焦がれる様にこの部屋のあの巨大な樹を見上げる。
「ワシはいつか世界樹を創る……。そう、ジャからのぅ……会ってみたいのぅ、そのムエイの妹に……」
会いたいのぅと言って、体を前後に揺らす様は、まるで本当の十歳児のようだった。
「あはは、いったい会って何をする気? 実験? 研究? ……でもだめだよ……」
スッとピトを見るリジャイの顔は、笑っているようだったが、その紫色の瞳は冷たく底が無い。
「あの娘を傷付ける事は、僕が許さない……」
さすがのピトもゾクリと背筋が凍った。
「ジャ、ジャったら、ちょっと会って話すだけでも! 世界樹と同じ力を持った者が、どんな考えを持っておるのか知りたいのジャ!」
リジャイの冷たい目に晒されても、めげずに食い下がるピトに、冷たさを引っ込め困ったようにリジャイは笑った。
「僕に言われてもねぇ……枷やあの結界がある限り無理でしょ?」
「ムムゥ、そうジャった。解除したくとも、もうワシの手からは離れておるからのぅ……」
そしてピトは、その場に座り込み、ムムムと考え出した。
リジャイはそんなピトを横目で見ると、その場を離れてゆく。
「さーてと、じゃあ、王子様の所へ行きますか」
そう言ってその場を去ろうとするリジャイを、ムエイは引き止めた。その顔は、不安に染まり、心配そうだった。
「……もしかしたら早夜の事かもしれない、もしそうなら――」
「大丈夫。僕はね、君達兄妹が気に入ってるんだ。下手な事はさせないよ」
そう言ってリジャイは、ポンポンとムエイの頭を軽く叩くのだった。
「ミョミョ? ミリア、何羨ましそうに見てるミョ?」
「えぇ!? べ、別に羨ましくなんて……わ、私もムエイ様の頭をポンポンしたいだなんて思ってないわよ!」
「それは……思っていると捉えて良いのではないか?」
「な、何でロイがここに!? あっちの方にいたんじゃ……」
「……我はさっきから此処に居たのだ……ミリアはずっとムエイを見てて、気付かなかったのだ。我はちょっと寂しかった……」
そう言って、しょぼんと耳を垂れるロイに、ミリアは真っ赤になって、
「うひゃ〜!!」
と、奇声を発し、ロイの頭をポンポンと叩き出した。
「うおっ!? イタタ、ミ、ミリア? いきなり何をするのだ!?」
「ミョ〜! ミリア、ムエイの頭をポンポン出来ないからって、代わりにロイの頭をポンポンし出したミョ〜!」
「〜〜っ!!」
(その顔は、その顔はダメなのよー!!)
“ポンポンポンポン!”
「い、いたい、痛いのだ! 代わりだと言うなら、もっと優しく叩いてくれぬか!?」
「……なんか楽しそうミョ! イーシェもやるミョ!」
“ポンポンポンポン!!(W)”
「イタタタ!」
「お、何か楽しそうだな!」
「〜〜っ!! カ、カムイ!! ダメだ、お主だけはやってはならぬ! 死ぬ! 死んでしまうのだ!!」
「何だよ、つれねーな、ロイロイ」
「……何をやってるんだ? お前ら……」
リジャイを見送り、ロイ達を見たムエイは呆れたように呟くのだった。
扉をノックする音がして、ナイールは「入れ」と言った。
そして扉を開けて入って来た者に驚く。
「リジャイ!? これは驚いたな……君が其処から……扉から入ってくるなんて珍しいね……」
いつもは神出鬼没。何処から現れるか分からないからだ。
「うん、まぁ、たまには気分転換も兼ねてね、それで? 用って何?」
「ああ、その事なんだけど、アルフォレシアに行って来て欲しいんだ」
ナイールがそう言うと、僅かだが、リジャイの表情に変化があった。
「ふーん、やっぱりさっきのあれの事?」
そう尋ねるリジャイの瞳の色が濃くなる。
「ああ、そうだよ。君にはアルフォレシアに行って、先程の魔力の主を連れて来て欲しい」
「……連れて来てどうするの……?」
リジャイの瞳の色が、さらに深く濃くなってゆく。
「さあ? あの男は力を利用すると言っていた。実際には何時ものように、ただの思いつきで言ったに過ぎないと思う。利用出来なければ殺せとも言っていた――」
その時、ゾクリと背中に冷たいものが走った。
殺気の様なものを感じ、ナイールはリジャイを見る。
だが、リジャイは何も変わった様子はなく、普段通りだった。
「リジャイ? 今――」
「王子様? 悪いけど、今回は僕その命令は聞けないよ。他にやらなきゃいけない事があってさ……」
「――っ!! なっ!?」
まさか断られるとは思っていなかった彼は、呆然とし、リジャイを見る。
リジャイは笑っていた。
「ナイール王子……僕は基本的には自分の意思じゃないと動かない男なんだよ。今まで君に付き合ってきたのは、君の考えに賛同したからであって、決して君の身分が高いからとか、枷が怖かったからとかじゃないんだ。
今回の命令はまず君の意志じゃないし、僕の賛同し得ない話。だから、今回の君の命令、聞くことは出来ないな……」
「リジャイ……君は今、何を言っているのか解っているのか? 命令に背くと言う事が、どういう事なのか……」
リジャイの笑みが濃くなる。それは肯定という事。
その時、ノックの音がした。
ナイールはハッとして、扉を見る。そして一度リジャイを見ると、「入れ」と言った。
「失礼いたします」
そう言って、入ってきた人物にリジャイは目を見張る。
そこに居たのは紫の髪の女性、カンナ・ハマだった。
「リジャイ、君の言い分はわかった。さっきの事は聞かなかった事にする。
それと、彼女は君がつかまらないと思って、呼んでおいたんだ。今回の件、彼女に頼む事にするよ。
それから、君は此処には来なかったし、僕は君に命令もしなかった。よって、命令違反も無かった。
そういう事にしておくから、早く此処を出て行くといい……」
リジャイはフッと笑う。
それは何処か自嘲めいた笑みに見えた。
「……君のそういう所は、僕もけっこー気に入ってるんだけどねぇ……」
そう言って、リジャイは部屋を出て行った。
ナイールはフーと息を吐くと、カンナを見る。
何を考えているのか、何処を見ているのか判らない様な暗く虚ろな目をしている。
そんな彼女にナイールは命令した。
「カンナ・ハマ、今からお前に命じる。心して聞け」
すると、今まで虚ろだった瞳に光が宿り、恍惚とした表情を見せる。
「はい、ナイール様、何なりとお命じ下さい」
そしてナイールはカンナに命じた。
「これより、アルフォレシアへと行き、先程感知された魔力の主を探し出し、連れて来るのだ」
言葉はこれだけで良い、この女は馬鹿じゃない、命令されれば後は自分で全てやる。
「そのご命令、承りました」
カンナはそう言って、深く一礼する。
ナイールはカンナに近づき、枷を解除した。
「うーん、思わず命令断っちゃったな……殺気まで出しちゃったよ。こんなんじゃ、スパイとしては失格だな……」
そして、空を仰ぎ見て溜息をついた。
空には星がちらほらと輝いている。今は夜だった。
だが、城の周りは魔道の明かりで昼間のように明るかった。此処では本当に、星が数えるほどしか見えない。
「あー、それにしても、あそこでカンナが出てくるとはなぁ。彼女の存在、すっかり忘れてたよ。あれはちょっと厄介かな……」
リジャイはカンナの能力を思い出し、舌打ちした。
「これは、早夜に忠告しておかないとね……。あ、そーいえば……」
何かを思い出し、ふと手を開く。
すると、その手のひらにある物が出現した。
それは、紐のついた小さな袋。
早夜の持っていたお守りだった。
そして、その袋を開け、中身を取り出す。
中には紙の包みと、小さく折りたたまれた呪符が入っていた。
紙の包みを開くと、そこには3cm幅の髪の束があった。それも2つ。
1つは黒い髪の毛。細く、子供の毛のようだった。
「……これは恐らくリュウキの髪の毛かな。これのせいで、探索魔法に引っかかっちゃったんだろうね」
そしてもう1つ、それは白く艶やかな髪の毛。
リジャイはそれを暫く無言で見つめると、そっと愛しげに撫でた。
「いったい何があったのかな……」
そう呟くと、元通りに紙に包み、袋に戻す。
でも、呪符だけはその手に持ったままだった。
「この呪符は貰っとくね、後で使わせてもらうよ……。さてと、どうしよっかな? このままアルフォレシアに行くか、カンナの邪魔をするか……」
暫く悩み、リジャイはアルフォレシアに行く事にした。
「カンナのあの能力がある限り、僕には彼女の邪魔をするのは無理だからね」
そう呟くと、リジャイは魔法陣を出現させた。
「うーん、早夜はまだ寝てるかな……?」
そして、意識をアルフォレシアに向けた。
Newvelランキング・
Wandering Network恋愛ファンタジー小説サーチ
小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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