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 今回お送りするお話は、クラジバールが舞台となります。
 
《第三章》
4.ナイールの命令
「ムムム……遅い、遅すぎる! 魔力の放出が治まって、暫らく経つと言うのに、何故あやつは帰ってこぬのだ!」

 テーブルをバン!と叩きロイが叫ぶ。

「フム、そろそろ枷を抑える魔道具も限界じゃのぅ……」
「っ!! それは大変ではないかっ!!」
「………」

 そんな中、ムエイことリュウキは無言であった。微動だにしない。
 その時、小さい頭に花を咲かせた手の平サイズの魔道生物が、円盤に乗って飛んできた。
 そして、ピトのもとまでやってくると、ビシッと敬礼をする。

「ゴ主人タマ、ナイール王子カラ伝言ナノデツ!」
 
 何事かと、その場にいる一同は緊張し、その生物を見た。

「フム、何かのぅ? 言ってみるのジャ」
「アイ! 王子カラノ伝言ヲ再生シマツ! ポチットナ」

 すると、その魔道生物は何か押す仕草をし、それと同時にその小さな体に青白い光を纏わせた。

『そちらにリジャイは来ていないかな? もしいるのならすぐに来て欲しい。では、また何かあれば連絡するよ』

「以上、再生終ワリマツタ!」

 その小さい生き物は、どういう仕組みなのか、王子そのままの声で喋ったのである。
 一同が驚く中、ピトは考え込むように腕を組んだ。

「ウーム、どう伝えるべきかのぅ……フム、じゃあこう伝えてくれんかの?」

 ピトがそう言うと、その生物は嬉しそうに一回転した。

「ゴ主人タマノオ役二立テルノデツ! ソレデハ。マタマタ、ポチットナ」

 そう言ってまた、先程のように光を纏わせた。
 ピトはそれを確認すると、ゴホンと一つ咳払いをし、それに向かい喋り始める。

「ナイール王子、魔学者のピトじゃ。リジャイなんジャが先程までいたんジャがの、また何処かへ出掛けてしまったんジャ。まぁ、いつもの事ジャから、またふらっと現れるかもしれん。そん時は、ワシの方から言っておくでの」

 言い終わると、光が消え、またビシッと敬礼する。

「デハ、王子ニ伝エテ来ルノデツ!」

 そう言うと、その魔道生物は飛んでいってしまった。

「あの円盤にはの、飛行能力の他にも録音機能が備わっておるのジャ。ワシの自信作の一つジャ」

 その小さい生き物を愛情たっぷりに見送って、満足気なピト。


「はっ! それってムエイ様の声も録音できるって事!?」

 話を聞いていたミリアは、目を輝かせる。
 そして、すかさずイーシェも、

「ミョミョ! これは、ムエイに愛の言葉でも囁いてもらうミョ! ついでにミリアも愛の言葉を送るミョ! きっと感動に咽び泣くに違いないミョ!!」

 と、いつものように、見当違いのことを言った。


「それにしても、ナイール王子はリジャイに何の用なんだ?」

 カムイが疑問を口にすると、ロイがフンと面白くなさげに言う。

「そんなの決まっておろう? 先程の魔力の放出についての事に違いないのだ!」

 その言葉に、ムエイはピクンと反応した。

「まさか、アルフォレシアに何か仕掛けるつもりか?」
「ウーム……それはわからんが……。あのクラジバール王の事ジャ。何分、あの男は被害妄想の気が強くてのぅ……。何かしら王子に命じたのかも知れん……」

 ピトがそう言って、考え込むようにあごに手を置いた時、突如魔法陣が現れ、リジャイが現れた。


『リジャイ!!』


 皆が一斉に声を上げる。
 彼の周りには、魔法の名残である、光の粒が舞っていた。

「ヤッホー、ただいまー、皆ゲンキ?」

 そんな気の抜ける挨拶をするリジャイに、ロイが吼える。

「キサマ! 何なのだ、その軽さは! 我らがどれだけ心配したと思っておるのだ!」

 ロイのその言葉に、リジャイは眉を上げ、大げさに驚いて見せた。 

「へー! ロイロイが僕の心配するなんてめっずらしー……これは槍でも振るのかなー……」

 そのリジャイのいつもの調子に、皆は呆れると同時にホッと胸を撫で下ろした。そんな中、ムエイがリジャイに詰め寄る。

「リジャイ! それで如何だったんだ? 早夜は無事なのか?」
「……うん、大丈夫、無事だよ。暴走のせいで体は傷付いていたけど、それはちゃんと治したし、また暴走しない為の処置もしといたよ」

 それを聞いて、ようやく安心したのか、はーとため息をついて肩の力を抜いた。
 あの、恐ろしいまでの魔力を感じなくなってからも、ムエイは心配で仕方なかったのだ。

「そうか無事か……良かった……。ありがとう、リジャイ。お前も無事で良かった」

 ムエイが漸く笑顔になり、そう感謝を述べると、リジャイは少しくすぐったそうにする。

「早夜はとても良い娘だったよ。なかなか面白いし、それにすごく頑固だったよ」

 そう言って困ったように笑ったのだった。



「再会を喜んでる所悪いんジャが……。リジャイ、お前さんにナイール王子から伝言があったぞ。何でも、すぐに会えないかという事ジャった」
「えー、帰って来ていきなりかぁ……」

 リジャイが何かを考えあぐねていると、ピトが近付き、リジャイにだけ聞こえる様に言った。

「お前さん、その首輪は如何した? 見た所、枷ではないの?」

 今、リジャイがつけている物、それは枷に良く似たフェイクであった。

「あはは、さすが作った本人。やっぱり分かるー?」
「フム、術がまったく感じんの。もっと上手く作らねばバレるぞ?」
「あ、そっか、忘れてた。後でなんか術掛けとくよ。それよりもこの事は、今はまだ皆には内緒ね」
「わかっとるよ。皆が混乱するだけジャからの。それよりも、如何して外れた?」

 そう言うピトの目は何処か怖い。
 おそらく自分の作った物を外され、少なからずプライドが傷付いているのかも知れない。

「うん、それがね、ムエイの妹が外したんだ。さすが万物の力だね」

 その言葉に目を見開くピト。

「何!? やっぱりあれはそうジャったのか……」
「そういえば、ピトの世界にも万物の力はあったんだったね……」
「フム、我ら樹木人の王であり母。始まりの樹。我らの創造主。我らが世界樹と崇めておる。
 ……そして、ワシが目指すもの……」

 そう言って、焦がれる様にこの部屋のあの巨大な樹を見上げる。

「ワシはいつか世界樹を創る……。そう、ジャからのぅ……会ってみたいのぅ、そのムエイの妹に……」

 会いたいのぅと言って、体を前後に揺らす様は、まるで本当の十歳児のようだった。

「あはは、いったい会って何をする気? 実験? 研究? ……でもだめだよ……」

 スッとピトを見るリジャイの顔は、笑っているようだったが、その紫色の瞳は冷たく底が無い。

「あの娘を傷付ける事は、僕が許さない……」

 さすがのピトもゾクリと背筋が凍った。

「ジャ、ジャったら、ちょっと会って話すだけでも! 世界樹と同じ力を持った者が、どんな考えを持っておるのか知りたいのジャ!」
 
 リジャイの冷たい目に晒されても、めげずに食い下がるピトに、冷たさを引っ込め困ったようにリジャイは笑った。

「僕に言われてもねぇ……枷やあの結界がある限り無理でしょ?」
「ムムゥ、そうジャった。解除したくとも、もうワシの手からは離れておるからのぅ……」

 そしてピトは、その場に座り込み、ムムムと考え出した。
 リジャイはそんなピトを横目で見ると、その場を離れてゆく。

「さーてと、じゃあ、王子様の所へ行きますか」

 そう言ってその場を去ろうとするリジャイを、ムエイは引き止めた。その顔は、不安に染まり、心配そうだった。

「……もしかしたら早夜の事かもしれない、もしそうなら――」
「大丈夫。僕はね、君達兄妹が気に入ってるんだ。下手な事はさせないよ」

 そう言ってリジャイは、ポンポンとムエイの頭を軽く叩くのだった。




「ミョミョ? ミリア、何羨ましそうに見てるミョ?」
「えぇ!? べ、別に羨ましくなんて……わ、私もムエイ様の頭をポンポンしたいだなんて思ってないわよ!」
「それは……思っていると捉えて良いのではないか?」
「な、何でロイがここに!? あっちの方にいたんじゃ……」
「……我はさっきから此処に居たのだ……ミリアはずっとムエイを見てて、気付かなかったのだ。我はちょっと寂しかった……」

 そう言って、しょぼんと耳を垂れるロイに、ミリアは真っ赤になって、

「うひゃ〜!!」

 と、奇声を発し、ロイの頭をポンポンと叩き出した。

「うおっ!? イタタ、ミ、ミリア? いきなり何をするのだ!?」
「ミョ〜! ミリア、ムエイの頭をポンポン出来ないからって、代わりにロイの頭をポンポンし出したミョ〜!」
「〜〜っ!!」

(その顔は、その顔はダメなのよー!!)

 “ポンポンポンポン!”

「い、いたい、痛いのだ! 代わりだと言うなら、もっと優しく叩いてくれぬか!?」
「……なんか楽しそうミョ! イーシェもやるミョ!」

 “ポンポンポンポン!!(W)”

「イタタタ!」
「お、何か楽しそうだな!」
「〜〜っ!! カ、カムイ!! ダメだ、お主だけはやってはならぬ! 死ぬ! 死んでしまうのだ!!」
「何だよ、つれねーな、ロイロイ」


「……何をやってるんだ? お前ら……」


 リジャイを見送り、ロイ達を見たムエイは呆れたように呟くのだった。






 扉をノックする音がして、ナイールは「入れ」と言った。
 そして扉を開けて入って来た者に驚く。

「リジャイ!? これは驚いたな……君が其処から……扉から入ってくるなんて珍しいね……」

 いつもは神出鬼没。何処から現れるか分からないからだ。

「うん、まぁ、たまには気分転換も兼ねてね、それで? 用って何?」
「ああ、その事なんだけど、アルフォレシアに行って来て欲しいんだ」

 ナイールがそう言うと、僅かだが、リジャイの表情に変化があった。

「ふーん、やっぱりさっきのあれの事?」

 そう尋ねるリジャイの瞳の色が濃くなる。

「ああ、そうだよ。君にはアルフォレシアに行って、先程の魔力の主を連れて来て欲しい」
「……連れて来てどうするの……?」

 リジャイの瞳の色が、さらに深く濃くなってゆく。

「さあ? あの男は力を利用すると言っていた。実際には何時ものように、ただの思いつきで言ったに過ぎないと思う。利用出来なければ殺せとも言っていた――」

 その時、ゾクリと背中に冷たいものが走った。
 殺気の様なものを感じ、ナイールはリジャイを見る。
 だが、リジャイは何も変わった様子はなく、普段通りだった。

「リジャイ? 今――」
「王子様? 悪いけど、今回は僕その命令は聞けないよ。他にやらなきゃいけない事があってさ……」
「――っ!! なっ!?」

 まさか断られるとは思っていなかった彼は、呆然とし、リジャイを見る。
 リジャイは笑っていた。

「ナイール王子……僕は基本的には自分の意思じゃないと動かない男なんだよ。今まで君に付き合ってきたのは、君の考えに賛同したからであって、決して君の身分が高いからとか、枷が怖かったからとかじゃないんだ。
 今回の命令はまず君の意志じゃないし、僕の賛同し得ない話。だから、今回の君の命令、聞くことは出来ないな……」
「リジャイ……君は今、何を言っているのか解っているのか? 命令に背くと言う事が、どういう事なのか……」

 リジャイの笑みが濃くなる。それは肯定という事。

 その時、ノックの音がした。
 ナイールはハッとして、扉を見る。そして一度リジャイを見ると、「入れ」と言った。

「失礼いたします」

 そう言って、入ってきた人物にリジャイは目を見張る。
 そこに居たのは紫の髪の女性、カンナ・ハマだった。

「リジャイ、君の言い分はわかった。さっきの事は聞かなかった事にする。
 それと、彼女は君がつかまらないと思って、呼んでおいたんだ。今回の件、彼女に頼む事にするよ。
 それから、君は此処には来なかったし、僕は君に命令もしなかった。よって、命令違反も無かった。
 そういう事にしておくから、早く此処を出て行くといい……」

 リジャイはフッと笑う。
 それは何処か自嘲めいた笑みに見えた。

「……君のそういう所は、僕もけっこー気に入ってるんだけどねぇ……」

 そう言って、リジャイは部屋を出て行った。

 ナイールはフーと息を吐くと、カンナを見る。
 何を考えているのか、何処を見ているのか判らない様な暗く虚ろな目をしている。
 そんな彼女にナイールは命令した。

「カンナ・ハマ、今からお前に命じる。心して聞け」

 すると、今まで虚ろだった瞳に光が宿り、恍惚とした表情を見せる。
 
「はい、ナイール様、何なりとお命じ下さい」

 そしてナイールはカンナに命じた。

「これより、アルフォレシアへと行き、先程感知された魔力の主を探し出し、連れて来るのだ」

 言葉はこれだけで良い、この女は馬鹿じゃない、命令されれば後は自分で全てやる。

「そのご命令、承りました」

 カンナはそう言って、深く一礼する。
 ナイールはカンナに近づき、枷を解除した。




「うーん、思わず命令断っちゃったな……殺気まで出しちゃったよ。こんなんじゃ、スパイとしては失格だな……」
 
 そして、空を仰ぎ見て溜息をついた。
 空には星がちらほらと輝いている。今は夜だった。
 だが、城の周りは魔道の明かりで昼間のように明るかった。此処では本当に、星が数えるほどしか見えない。
 
「あー、それにしても、あそこでカンナが出てくるとはなぁ。彼女の存在、すっかり忘れてたよ。あれはちょっと厄介かな……」

 リジャイはカンナの能力を思い出し、舌打ちした。

「これは、早夜に忠告しておかないとね……。あ、そーいえば……」

 何かを思い出し、ふと手を開く。
 すると、その手のひらにある物が出現した。
 それは、紐のついた小さな袋。
 早夜の持っていたお守りだった。

 そして、その袋を開け、中身を取り出す。
 中には紙の包みと、小さく折りたたまれた呪符が入っていた。
 紙の包みを開くと、そこには3cm幅の髪の束があった。それも2つ。
 
 1つは黒い髪の毛。細く、子供の毛のようだった。

「……これは恐らくリュウキの髪の毛かな。これのせいで、探索魔法に引っかかっちゃったんだろうね」
 
 そしてもう1つ、それは白く艶やかな髪の毛。
 リジャイはそれを暫く無言で見つめると、そっと愛しげに撫でた。

「いったい何があったのかな……」

 そう呟くと、元通りに紙に包み、袋に戻す。
 でも、呪符だけはその手に持ったままだった。

「この呪符は貰っとくね、後で使わせてもらうよ……。さてと、どうしよっかな? このままアルフォレシアに行くか、カンナの邪魔をするか……」

 暫く悩み、リジャイはアルフォレシアに行く事にした。

「カンナのあの能力がある限り、僕には彼女の邪魔をするのは無理だからね」
 
 そう呟くと、リジャイは魔法陣を出現させた。

「うーん、早夜はまだ寝てるかな……?」

 そして、意識をアルフォレシアに向けた。



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