「うあーん! 早夜、大丈夫? どこも痛くない? ごめんねー!」
体の自由になった蒼が、真っ先に早夜に駆け寄り、ギュッと抱きしめる。
「あ、蒼ちゃん! 踏んでる! 亮太君踏んでるよ!」
見れば、蒼の足の下には亮太が横たわっている。
「ちょっとー、亮太ってば情けないわよ! 途中までやるじゃんって感心してたのに! あんなアッサリやられちゃうんだから!」
そう言って、亮太から降りる。
「うるせー! しょーがねーだろーが。あんなの反則だ!!」
苦しげに呻きながら、何とか上半身を起こす。そして早夜と目が合うと、俯いてしまった。
「すみません桜花さん。俺、何も出来なくて――って蒼っ! 何やってんだよ!?」
蒼は亮太の制服を脱がせていた。
「何って、早夜がこのままじゃかわいそーでしょーが! それとも何!? 他の男どもに早夜の柔肌見られてもいいっての?」
その言葉に、今の早夜の状態を思い出し、顔を赤くしながら素直に従った。
亮太の上着を着た早夜は、彼の隣に来て座ると、その手を取り握り締める。
「お、おうかさん!?」
ぶかぶかの自分の上着を着て、その袖からは指がちょっとしか出てなくて……そんな姿の早夜が今、自分の隣にちょこんと座り、しかも自分の手を握っている……。
亮太はその事に、顔を赤らめずにはいられなかった。
早夜は、そんな彼の気持ちを知ってか知らずか(いや、知らないのだが)手を握ったまま、じっと亮太を見つめた。
「亮太君、本当にありがとね。あの時、私の為に本気で怒ってくれたよね、その気持ち凄く嬉しかったよ」
そう言って、にっこりと微笑まれ、どきりとする亮太。
「それとね、亮太君のお陰で私は元気になれたんだよ? あの三つ目の男の人が、亮太君から血と生命力を取り出して私の中に入れたの。だから今、私の中には亮太君の血と生命力が流れてるんだよ」
そう言って、自分の胸に手を当て目を瞑る。まるで、自分の中で流れる物の音を聞こうとするように。
そして目を開けると、亮太を見て、華の様に笑った。
「――っ!!」
亮太は早夜のその笑顔に、もう自分の心臓の音しか聞こえない。
そんな彼を不思議に思ったのか、「亮太君?」と言って、上目遣いに小首を傾げる。
もう限界だった。
亮太は、想いのたけをぶつけようと、口を開いた。
「桜花さん! ス――」
「そうだ! 私、あの人にお礼言わなきゃ!!」
そう言って立ち上がると、気付いたように亮太を見る。
「あ、ごめんね? 亮太君、何か言いかけたよね?」
すまなそうに眉を下げる早夜に、亮太は力無く笑った。
「い、いいえ。何でもありませんから、気にしないで下さい……」
「そうなの?」
そう言って早夜が首を傾ける。
そんな早夜に亮太が頷いて見せると、
「じゃあ行ってくるね?」
と、言って駆けていってしまった。
「ちょっと早夜! あんな変態男にお礼なんて言う事無いわよ!」
蒼が早夜の後を追おうとしたが、ふと立ち止まり亮太を見る。彼はボーとして早夜の背を見ていた。
蒼はその肩にポンと手を置く。
「うん、まー……ドンマイ!」
亮太は虚ろな表情で蒼を見ると、ガックリと肩を落とすのだった。
「早夜ってば、天然の小悪魔ちゃんよね……」
「あれー? アルフォレシアって異界人に優しいって聞いたのになー……」
カートやリカルドに取り押さえられたリジャイが言った。その表情は、やはり何処かふざけて見える。
「それは時と場合による」
ミヒャエルがリジャイの前に立ち言った。
「それに、その格好はどう見てもクラジバールのものだ……」
そう冷たい声で言ったのはシェルだ。
「少しでも妙なまねをすれば、直ちに発動させますよ?」
ルードは、リジャイに向かい杖を向けている。
「何を企んでいやがる!」
そう言って、リジャイの首に剣を押し付けるリカルド。
「答えてもらおうか……」
リジャイの腕を掴み跪かせているカートが言った。
「やめて!! クーちゃんをいじめないで!」
その時、この場に似つかわしくない可愛い声が響く。
ミシュアが何処からか駆けて来て、リジャイの首にしがみ付いた。
「ミシュア? なぜここにっ!?」
ミヒャエルを始め、驚く一同。
「クーちゃんにつれてきてもらったの! クーちゃんはミシュアのお友達なんだからっ!」
ミヒャエルがリジャイを睨む。
「どう言う事だ!」
「えー? だって庭で一人で震えてたからさー。そのまま一人にするの、可哀想でしょ?」
そう言って、空いた手でミシュアを撫でる。そして、チラッと自分を拘束しているカートを見た。
カートは舌打ちすると、その手を外した。リカルドは、ミシュアが来た為、すでに剣は下ろしている。
「ミシュア! その男から離れなさい! こっちに来るんだ!!」
ミヒャエルがミシュアに向かい手を差し伸べた。しかしミシュアは、ますますもってリジャイにしがみつく手を強めた。
「イヤ! クーちゃんいじめないって言うまで、そっちにいかないモン!」
「だってさ、どうする?」
リジャイはミヒャエルを見る。
ミヒャエルは暫し、リジャイとミシェルを交互に見ると、諦めたように溜息をついた。
「分かった。お前に手出しはしないと約束しよう」
「だってさ。ミーちゃんお父さんああ言ってる事だし、僕は大丈夫だから、ね? 行ったげなよ」
「……でも……」
「ミーちゃんこの部屋に来て、ずっとお父さんの所に行きたかったのに、僕の言いつけ守ってずっと良い子で待っていてくれたよね? すっごく偉かったよ」
そう言って、ミシュアの目をじっと見つめる。
その紫色の眼差しは、今までのふざけた様な彼の印象とは違い、真剣で優しかった。
そして、抱きつくミシュアの腕をそっと外し、ミヒャエルに向かせると、軽くその背を押した。
「ほら、大好きなお父さんの所に行くんだ。今まで我慢した分いっぱい甘えるんだよ?」
ミシュアはリジャイを見ると、「わかった」と言って、一度ぎゅっと抱きしめた後、ミヒャエルのもとへと走ってゆく。
「お父さま!」
「ミシュア!」
ミヒャエルは、ミシュアを抱き締めた。
「うーん、感動的なシーンだねぇ……」
リジャイはその光景を見て呟いた。
だが、ミシュアが無事ミヒャエルの元へ行った事を確認したカートが、再びリジャイを取り押さえてしまう。
「約束したのは殿下であって、俺じゃないんでね」
リジャイを床に押し付けたカートは、そう言ってニヤッと笑った。
「クーちゃん!!」
それを見てみシュアが叫び、駆け寄ろうとするが、ミヒャエルはそれを抱き上げる事で阻止した。
「イタタ……まー予想はついたんだけど……」
「あんなくさい芝居見せやがって、俺達を丸め込もうって魂胆だったのか?」
「えー? 別に演技してた訳じゃないよ? 僕けっこう子供好きだしー……」
「ハッ! 嘘くせーな。もしそうだったら、テメーはロリコン野郎だ! その面なんか気に食わねーんだよ! ヘビみてーに笑いやがって」
「うわーひどいなぁ、僕はロリコンじゃないし、この顔は生まれつきだよ」
しかしその時、彼らの中に割り込んでくる者がいた。
「カートさん、止めて下さい!」
そう言って割り込んできたのは、黒髪の少女早夜だった。彼女はリジャイを取り押さえるカートの腕にしがみ付く。
「お願いです、離して下さい。この人は、私の命の恩人なんです」
そんな早夜を、まじまじと見つめるカート。
先程の恐怖さえ感じるような魔力。それをこの少女が出していたなどと、実際目にしていても信じられなかった。
それにこの少女……気付いたのは自分だけだろうか。先程、彼女の瞳は紅く染まってはいなかったか? それと、このリュウキと同じ、黒い髪と瞳のせいか、他人のような感じがしなかった。
「だがな、嬢ちゃん。例えそうだとしても、俺達はこいつを見過ごすわけにはいかねぇんだよ。こいつは、クラジバールの密偵かも知れねぇからな」
その言葉を聞いて、悲しげな顔をする早夜だったが、その時、誰かが肩を掴み、乱暴に振り向かせた。
「キャッ!?」
思わず声をあげる早夜。
「シェル!?」
「シェル兄貴!!」
ミヒャエルとリカルドも驚きの声をあげた。
「シェル殿下!? 女性相手にそんな乱暴な……」
ルードも慌てて止めようとする。
早夜の目の前には、怖い顔をしたシェルが立っていた。
「何故カートの名を知っている? それに先程の瞳、紅かったがあれは魔眼か!? お前は何かリュウキについて知っているのか!?」
掴まれた肩が痛くて、早夜は顔をしかめた。
「よせ! シェル!」
ミヒャエルが言ったが、シェルは止めようとしない。
その時、蒼が早夜とシェルの間に割り込んだ。
「ちょっと待って下さい! 早夜はずっと日本って国で、リュウキさんの目を通して、こちらの夢を見ていたんです」
そう言うと、蒼は話し始めた。
どうして早夜が、如何して此処に来るに至ったのかを――。
早夜の夢の話を聞いて、最初疑わしげだった彼らも、蒼の話を聞いている内に、その話が信用に足る話だと認めざるを得なかった。
何故なら、彼らにしか知りえない話も多くあった為だ。
「しかし、そんな事があるなんて……」
ルードが信じられないと呟いた。
「でも、髪もおめめも、リュウキさまといっしょだわ!」
可愛らしい声でミシュアが言った。しっかり話を聞いていたのだろう。その目は、興味津々といった風に、早夜を見ていた。
「それは当然だね。だって君等は兄妹なんだから」
そのリジャイの言葉に、一瞬固まる一同。
そして一拍おいて、
『ええ!?』
と、声が重なった。
だが、言われてみれば、とどこか納得している彼らもいる。
「んー、さっきの話聞いてて気付いたけど、早夜は知らなかったんだねぇ……言っちゃまずかったかな?」
「ちょっと待て、何でそれをお前が知ってるんだ!?」
カートが聞いた。思わずリジャイを押さえていた手に力が入ってしまう。
「イタタ! ちょっと話を聞きたいんならその手を離してくれないかな? このままじゃ話しづらいよ」
リジャイのその言葉に、カートはミヒャエルを見た。ミヒャエルが頷いた事を確認すると、カートはようやくリジャイを放す。
リジャイは肩をぐるぐると回すと、手首をさすりながら言った。
「あー、痛かった。まったく手加減しないんだもん」
そして、自分を見ている者達を見回す。
「これなーんだ?」
そう言うと、空中で何かを掴む仕草をした。
次の瞬間、その手には黒く、長く、真っ直ぐな束ねられた髪があった。
「それはっ!? まさか――」
リカルドが声をあげる。
そんな彼に、リジャイはニヤッと笑うと言った。
「そう、そのまさか。これはムエ……じゃなかった、リュウキの髪の毛だよ」
「どういう事だよ? 何で髪の毛が……まさかあいつに――」
顔を青くするリカルドに、リジャイは明るく否定した。
「あははー、元気元気ー。彼、今クラジバールにいるんで、正体隠す為に髪の毛切ったんだー。 あ、ちなみに切ったの僕」
「クラジバール!?」
「そう、彼は今そこで、ムエイって名乗ってるよ」
リジャイはそう言うと、クラジバールでの経緯を語った――。
それを聞いて、早夜とリカルドが殆ど同時に言った。
『じゃあ、リュウキ(さん)は、無事なんだな(ですね)?』
思わず顔を見合わせる早夜とリカルド。
2人は、リジャイに向き直ると、
「会えねーのか?」
「お願いします、会わせて下さい!」
リカルドは尋ね、早夜は懇願した。
早夜にはずっと焦がれていた願いだった。
それが、兄妹だと聞かされ、ますますその衝動が強くなった。
「うーん、それは無理だなぁ……」
リジャイは困ったように笑いながら言った。
リカルドがすかさず「何故だ?」と尋ねると、リジャイは自分の首を示し、そこにある枷について説明した。
「と言う訳で、今の僕は発動を抑えるための魔道具を使って、此処にこうしている訳だよ」
「じゃあ、こっちから行く事は?」
「それも難しいねー、結界の所為で、外からの進入は難しいと思うよ。それに、君等はリュウキを探すのに探索魔法を使ったみたいだけど、そういう魔法は跳ね返しちゃうからね」
早夜は枷の事を聞かされてから、ずっと彼の枷を見ていた。
そして、彼女の中の知識が、その構造を教えてくれる。どのような材料を使い、どの様に組み立てたのか、発動すればどうなるかまで事細かに解った。勿論、解除の方法も……。
「あの、私にその枷を外させて下さい」
するっと、そんな言葉が出てきた。
その言葉を聞き、リジャイは眉を上げる。
「はぁ!? 何言ってんの? 今までの僕の話、聞いてなかったの? この枷は外そうとすると発動するって……。それに君は、その胸の呪印が消えるまで魔法は禁止って言ったでしょ?」
ここに来て、初めて焦った様子のリジャイ。
「でも、何かお礼がしたいんです。それに……えーと、お名前は……」
そういえば、名乗ったのは彼女が暴走している間であった。
「リジャイだよ、リジャイ・クー! とにかく、お礼なんていーから大人しくしてて!」
「もし、リジャイさんの枷が外れれば、その結界も壊せるかもしれないじゃないですか!」
「もしって君、僕を実験台にする気!?」
「いいえ! 自信はあります! こうなったら無理矢理にでも外させてもらいます!」
そう言うと、カートをキッと見て言った。
「カートさん、リジャイさんを押さえてて下さい!」
それまでボーと2人の言い争いを見ていたカートは、面白そうにニヤッと笑うと、逃げようとするリジャイを羽交い絞めにする。
「さっきまで余裕ぶっこいてたのに、ずいぶんと様子が違うな? 何だ、あーゆー女に弱いのか?」
「ああ、弱いよ! あーゆー真っ直ぐな子は何を言っても通用しないんだから! それにしても、これで僕を掴まえたつもり?」
そう言うと、魔法を使おうと手をかざそうとする。
「おまっ! じゃあさっきまでのはワザと掴まってたのか?」
「さあ、どうでしょう?」
リジャイはニヤッと笑って手に光を纏わせる。
「リカルドさん! リジャイさんの額の目を覆ってください!」
「へっ!?」
一瞬情けない声をあげるリジャイ。
リカルドはいきなり声をかけられ驚いていたが、面白そうだと思ったのか、サッと近づくと、ベチンと音を立ててリジャイの額を手で覆った。
「イタッ! ちょっと、それされちゃったら僕、何も出来ないって!」
早夜には、額の目から魔力が溢れ出すのをしっかりと見ていた。そして、リジャイの前に立つと、怒ったように言った。
「お礼が駄目だと言うのなら、これは罰です! わ、私、ファーストキスだったんですよ!!」
耳まで真っ赤にする早夜をキョトンとした顔で見たリジャイは、次の瞬間さも可笑しそうに笑い出した。
「ブプー!! ちょっと、おも、おもしろいよ君。アハハ、だ、だめ、ツボかも、お腹イタイ!!」
「っ!? そんなっ、何で笑うんですか?」
「だめよ早夜、こんな変態男に乙女心なんて解らないわよ」
それまで、早夜の意外な一面を見て、
(大の男に指示を出す早夜、新たな萌え要素だわ)
等と思っていた蒼が、ショックを受けている早夜の肩を慰めるように、ポンポンと叩いた。
ひとしきり笑ったリジャイは、フーと息を吐くと、早夜をじっと見た。
「わかった降参、早夜の好きにすればいいよ。ただし、覚悟はいい? けっこう痛いかもよ? その呪印」
そう言って、にぃーと笑う。早夜には、ワザと怖がらせる笑みだと分かる。
「そんなの、望む所です!」
「フフ、勇ましいねぇ!」
そこで、リジャイは笑みを引っ込めると、隣のリカルドやカートに言った。
「もう逃げたりしないから、離してくんないかな」
「イーヤ、何かお前の言葉は信用できねーんだよな」
「俺も、それにこのサヤってのはリュウキの妹なんだろ? だったら断然こっちを応援するっ!」
カートとリカルドは言った。
「じゃあ、せめて座らせてよ。早夜の負担を減らす為にもさぁ……」
そうやって座り込んだ、早夜、リジャイ、リカルド、カートの四名。
周りの者も固唾を呑んで見守っている。
「じゃあ、やりますね……」
ちょこんと正座した早夜が、リジャイの枷に手を伸ばす。
「正直に言えば、そろそろ限界だったんだよね、この枷を抑える魔道具の効果」
そう言われて見てみれば、所々黒く変色して、ひびが入っているようだった。そして、今もピキッと音を立てて、新しいひびが入る。
早夜は急がなくてはと思い、枷に触れ指に魔力を纏わせる。
「―――っ!!」
途端に胸に走る痛み。
「ほらね? 魔法使わせないように、少しでも魔力を出せば痛みが走るようにしてある。君は本当に耐えられるのかな? 止めるなら今の内だよ」
そんな事を言うリジャイに早夜は気丈に笑って見せた。
「いいえ、止めません。こんなのさっきに比べたら何でもありません!」
その顔には、痛みによる汗が流れている。
そんな早夜に、リジャイは目を見開いた。
「君は強いね。……ああ、そっか。君はそういう子なんだね。誰かの為に何か出来ちゃうような……」
リジャイの目は優しく、どこか羨望の眼差しで見ていた。
早夜は、そんなリジャイに気恥ずかしさを覚え俯くと、そのまま目を瞑り意識を集中させる。
指に纏わせた魔力を枷に進入させた。
枷の中はさまざまな魔法が組み合わさり、複雑に入組んでまるで迷路のようだった。
少しでも違う場所に入ってしまったら、すぐにでもこの呪は発動してしまう。
だが早夜は、それを迷いなく進んでゆく。目指すはこの枷の中枢にある解除の呪だ。
痛みで自然と息が荒くなる。
使っていない方の手は、膝の上に置かれており、その手は白くなるくらいに握り締められ、手のひらには爪が食い込み、血が滲んでいた。
時々痛みで意識が遠のきそうになったが、ふと温もりを感じ、意識が覚醒する。
誰かが手を握ってくれている……。
ありがたいと思うと同時に、少しは気が紛れた。
手を握ったのはリカルドだった。
血の滲む手を見ていたら、どうしても見ていられず思わずといった感じだ。
ふと視線を感じ横を見れば、リジャイとカートが此方をじーと見ている。
声に出さず口だけを動かし、
『何だよ?』
と、そう言うと、カートとリジャイはニヤッと笑い、
『イーヤ、別にぃ』
『よく出来ました』
と彼らもまた、口パクで言った。
リカルドはそんな彼らを不機嫌そうに睨むと、ふいっと顔を逸らせるのだった。
彼らがそうしている間も、早夜は枷の中を探っていた。
そして入組んだ迷路を抜け、早夜はそれを見つける。
「ありました……」
そう言って目を開けた早夜に、リジャイ達は目を見張る。
何故なら、彼女の目は紅く染まっていたからだ。間近で見ると、よりいっそう鮮やかに見える。
その目を見たリジャイは、何故かその紫色の瞳を悲しく切なげに揺らし、そして口の中で何事かを呟いた。
だがそれは、あまりにも小さくて、誰の耳にも届かなかった。
「解除する為の呪を見つけました。後は、その呪に対して魔力を発動させるだけです」
そこでふと気が付いた。
リジャイとカートは手が塞がっている……と言う事は必然的に、早夜の手を握っているのが誰か判った。
「……リカルドさんが手を握っててくれたんですね。ありがとうございます。すごく助かりました。途中、何度か意識が飛びそうになっちゃって……」
そう言う早夜の顔には今も、痛みによる汗が流れている。こうしている間も、相当痛いのかもしれない。それでも笑っている早夜に、何処か畏敬の念を感じるリカルド。
「そうか、役に立てて何よりだ」
そう言うと、自然に笑顔を返していた。
その時、後ろの方で悶々としている者が一人。
亮太であった。
彼は不機嫌そうな顔をして早夜達を見ている。
蒼はそんな亮太を見て思う。
(あー……さっきまで自分の手を握ってくれていた早夜が、他の男と手を繋いでるんだから面白くないのは当たり前よねー……。
それに周りは良い男ばっかだし、こりゃ不安にもなるわ……。早夜は早夜で、自分の唇奪った相手を助けようとしてるし……ま、それが早夜の良い所って言えば良い所なんだけどね……)
そして一方では、苦しげな早夜に何もしてやれない苛立ちも感じるのである。
(私は早夜に何をしてあげられるんだろう……)
その時蒼は、ある決心をしていた。
「それじゃあ、一発勝負だね。覚悟は良い?」
「はい」と、頷く早夜を見て、今度はリカルドとカートを見る。
「君達、離れた方が良いかも。失敗すれば、とばっちり食うかもよ?」
ニィーと笑うリジャイに、2人はフンと笑う。
「ここまで来といて何言ってんだ。そこの嬢ちゃん置いて退けるかよ」
「そうだ。もしそんな事になったら、俺は身を挺してでもサヤを守るぞ」
早夜に対し、尊敬の念を抱いているリカルドは、そんな事を言った。
「それは……頼もしい事を言うねぇ」
「大丈夫ですよ。絶対に失敗しませんから!」
自信たっぷりに笑う早夜に、他の三人も笑う。
不思議な一体感が、ここに生まれていた。
「じゃあ、発動させますね」
その言葉に三人は頷き、それを確認した早夜は魔力を発動させた。
途端に視界が暗転する。
意識が完全に遠のく寸前に、早夜の耳にはパキンという枷の解除された音が響いた―――。
今回、魔法に関してちょっと説明。
まず種類ですが、魔法陣、呪符、呪文詠唱、呪印、などがあります。(大まかなものだけ)
リジャイは、魔法陣を使うのが得意です。でも他の魔法も使えます。
ロイは、呪符。彼の場合はリジャイ同様他の魔法も使えるのですが、呪符にある種のこだわりのようなものがあります。
イーシェは、呪文詠唱。彼女は、治癒魔法が得意です。
カンナは、呪印ですが、まだ詳しい方法とかは考え中です。
早夜は、あの力のおかげで全部使えます。でも、何分経験不足なので、迷いながら使っていくと思います。
ここで、今回の話の中のことでちょっと補足。
魔法を使う事と、魔力を使う事は別と考えて下さい。
魔力を使って、それを何だかの形にして、発動させるとそれが魔法となります。(解り辛くてすみません)
Newvelランキング・
Wandering Network恋愛ファンタジー小説サーチ
小説家になろう 勝手にランキング夢の逢瀬 ←番外編です。
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