ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
《第三章》
1.暴走する力
(――だめ、止められない――)

 早夜は、自分から溢れ出る魔力を必死になって抑えようとした。
 だが、それでも抑え切れない魔力が、早夜の中から止め()なく流れ出た。
 頭の中には、先程から意味のない魔法の知識が頭の中を駆け巡っており、そして早夜の体は、その暴走に耐え切れず、次々に裂けて傷を作ってゆく。
 しかし、早夜の中の力が、自然にその傷を治してしまっていた。そしてまた、別の所に新しい傷を作っては治すを繰り返している。

『―――っ!!』

 声が聞こえた気がして顔を上げると、ぼやけた視界の中に蒼と亮太がいた。
 彼らは早夜に向かって、何か必死になって言っている。
 だが、早夜には何を言っているのか聞こえない。何故なら、さっきから耳鳴りが煩く、止まらないからだ。

 そして視線を移すと、あの夢の中の人物達がいた。
 そのぼやけた視界の中でも、誰だかハッキリ判るほど、早夜には馴染み深くなってしまっている。
 リカルドを始め、ミヒャエル、シェル、カート、ルードがいる。彼らは、必死になって早夜を助けようとしていた。
 しかし、早夜の魔力に当てられ、なかなか近づけない。
 その中でも、リカルドが一番、必死になって助けようと試みていた。

 そして、ふと気付く。

 彼らにとって、早夜は見ず知らずの人間。赤の他人なのだと。
 それなのにあんなに必死になってくれているのを見て、早夜は堪らなくなった。
(ああ――、なんて優しい人達なんだろう――……)
 早夜の体はそろそろ限界が近づいていた。
 体中が悲鳴を上げている。痛みでどうにかなりそうだった。
 さっきまで、すぐに治っていた傷も、徐々に治りが遅くなっている。

(もし限界が来たら? この目の前の優しい人達はどうなるの?)
 そうなればただでは済まないだろう、と早夜は思った。
 今の状態でも彼らはかなりきつそうだ。
 もし、今抑えているこの箍が外れてしまったら……?
 
 その行き場を失った魔力たちは、間違いなく周りの者達を襲うだろう。
 
 早夜は足に力が入らなくなり、ガクンと膝を付くと、また血を吐いた。



「早夜っ!!」
「桜花さん!!」

 蒼と亮太は、必死になって早夜に呼び掛けていた。
 近寄って、助け起こしてあげたいのに、何故か体が震えて、これ以上近づく事が出来なかった。

「お願い! 早夜を助けて!」

 蒼は近くにいた銀髪の青年に、震える手で縋り付いた。
 だが彼は、申し訳なさそうに目を瞑ると、首を横に振る。

「すみませんが、私達にはどうする事も出来ません。彼女の力は、あまりにも強大すぎる……」

 ルード自身も先程から、何度も早夜に対して術を試してはいるのだ。しかしその術は、彼女の強力な魔力の前に、全て打ち消されてしまっていた。

「そんな……」

(私が、魔法を試そうなんて言わなければ)
 蒼は、後悔の念でいっぱいだった。

「馬鹿やろう! 諦めんな、何とか方法を見つけ出すんだ!!」

 そう叫んだのはリカルドだった。
 彼は、何とか震える足を押さえつけ、じりじりと早夜に近づこうとしている。

「しかし……」
「ルード! お前、宮廷魔術師だろうがっ!!」
「……せめて、この部屋から出してあげられれば良いのですが……」

 そう、この部屋から出ればこの魔力は治まる……。
 そう思って、ルードはそのような事を呟いたのが――。

「この部屋から出してあげられないのなら、この部屋の方を如何にかしてあげればいいんだよ」

 そんな声と共に、ピシィッという音が響く。
 そして、それと同時に、あの凄まじい程の魔力が和らいだ。
 足元を見ると、床にひびが入っている。
 見れば、壁や天井いたる所にそのひびは見受けられた。

「この部屋ってば、魔力増幅の呪が施してあるよね。そこに、もうこれ以上無いって位、強い魔力を持った人間が入れば、暴走して当たり前だよね」

 そして皆がその人物を見た。
 それは、額に第三の目を持ち、右側の顔と腕に刺青をしている男。

「何者だ!」
「どこから忍び込んだ!?」

 ミヒャエルやカートが、きつい眼差しで言った。
 他の者達も、突然現われた男に驚きと不審の目を向ける。

「僕? 僕はリジャイ・クーって言うんだ。呼ぶ時はジャイジャイそれかクーちゃんでいいよ?」
「そんな事を聞いてるんじゃねー!」

 そう言って、リカルドがリジャイに向かって行こうとする。だがリジャイが彼に向かい手をかざした。
 すると、リカルドは力を無くした様に、ガクッと膝をついた。
 いや、リカルドだけではない。その場にいる者達全員だ。
 見れば、彼らの足元には、巨大な魔法陣が現われていた。

「テメー、何しやがった……」

 リカルドが苦しそうにリジャイを睨む。

「うーん、ごめんねー。僕がこれからする事を邪魔されたくないんだ。あんまり時間が無いからねー……」

 そう言って、スタスタとリカルドの前を通って、早夜に近づく。



 あの凄まじいほどの魔力が、スッと引っ込み、楽になったのを感じる早夜。
 ぼやけた視界も、あれほど五月蝿かった耳鳴りも、嘘の様に引いていた。ただ、体のダメージはそのままで、相変わらず血は流れているし、力も入らなかった。
 そして、胸の辺りに痛みを感じ、またケホッと血を吐いた。

「あー……、随分血を失ったみたいだねー……勿体無い……」

 早夜は、目の前に立つリジャイをぐったりした顔で見る。
 リジャイはしゃがみ込むと、早夜に目線を合わせた。
 早夜は、今だ頭の中がボーとしていたが、次にリジャイにされた事によって、早夜の意識は一気に覚醒した。

 リジャイは、早夜の服の襟元に両手を掛けると、それを左右に引き裂いたのだ。

 ブチブチとゆう音と共に、ボタンが弾け飛ぶ。早夜は、叫び声を上げようと口を開いた。

「っ!! イッ――」
「んキャー!! ちょっと、早夜に何してくれてんのよっ!!」

 叫んだのは、早夜では無く蒼だった。
 亮太も怒りを露わにして叫ぶ。

「てめっ!! それ以上桜花さんに何かしてみろ! ただじゃすまさねぇ!!」

 リジャイはそんな彼らに、フフンと笑って見せると、何処からとも無くナイフを取り出した。
 そしてそれを、自分の手に当てると、力を込め横に引く。途端に溢れる鮮血に、早夜は驚きの声をあげる。

「な、何をっ!?」
「シッ、黙って……」

 そしてリジャイは、その血に濡れた指を早夜の露わになった胸元に置くと、何やら書き始めた。

「キャーー!! この変態男! 早夜の柔肌にぃ!
 ……ハッ、ちょっと、あんた達! 何じっと見入ってんのよ! 見ちゃダメ、これ以上見たら金取るわよ!!」

 蒼に言われ、皆ぎこちなく顔を逸らせる。
 亮太とリカルド、ルードにいたっては、顔を真っ赤にしていた。

「別にそんな大した物でも……」

 そのカートの呟きに、

「はいっそこ!! 何言っちゃってくれてんのあんた!?
 早夜はね、ちっちゃくたって形のいいおっぱいしてんのよ! すッごく柔かくて、見てるとほんわかしてくる……そんな幸せになれるおっぱいを、大した事無いですって!?
 謝んなさい! 早夜のおっぱいに土下座して謝んなさい!!」

 床をバンバン叩いて、ビシィッ! とカートを指さす。
 さすがに、おっぱいを連呼され、赤面するカート。片手で頭を抱え、信じられないと言う風に首を振る。
 他の者達も、顔を赤くし俯いている。



「ウウ……蒼ちゃん、やめてー……」

 耳まで真っ赤にして、だーと涙を流す早夜。
(恥ずかしくて死んじゃいそう……)
 すると、リジャイがクスリと笑う。

「なかなか愉快な友達をもってるねー」

 そう言うリジャイは、先程からずっと手を動かし続けている。何か模様の様に見えた。

「これはねー、魔術ってゆーより呪術に近いかな」
「呪術? って呪いって事ですか?」

 服を破られるという乱暴な行為をされたにも拘らず、早夜は大人しくしていた。
 それは、自分を見る彼の目がどこか親しい者を見る様な、そんな眼差しをしていたからかもしれない。

「そう、でも近いって言うだけで、完璧に呪いって訳でもないんだけど……今の君には必要なものだよ」

 その時、胸に痛みを感じ、また血を吐きそうになった。
 リジャイはそれに気付くと、そのまま早夜の口を自分の口で塞いだ。

「――っ!!?」

 それがあまりにも自然な動きだったので、早夜は拒む事もできなかった。

「ぎゃーーー!!!」
 
 蒼の叫びがこだました。


「んんーっ!」

 早夜は、力の入らない腕をリジャイの胸に置き、突っ張らせるが、当然の事ながらびくともしない。
 そして早夜は、我慢できずに血を吐いてしまった。
 リジャイが空かさずそれを飲み込むと、合わさった唇の隙間からツーと血が滴り落ちる。彼の額の目が見開いた。そして、口から力が注ぎ込まれる。
 早夜は急に体が暖かくなるのを感じ、そして体の中から痛みがスーと消えてゆくのを感じた。体に無数にあった傷も、見る間に癒されてゆく。
 リジャイはそれを確認すると、唇を離した。そして、早夜の顎に付いた血に気付き、ペロッと舐め取る。
 あまりの事にショックで声も出ない早夜。
(こ、この人、私の吐いた血を飲んだ!? って言うか、これって私のファーストキスなんじゃ……)
 そんな事をぐるぐる考えていると、リジャイが満足そうに微笑んだ。

「うん、やっぱり体ん中の傷は、口からの方が早いね。
 ……それにしても、さすが万物の力……思ってた通り……いやそれ以上の味……」

 そう言って頬を上気させると、ほぉーと息をついた。
 だがその時、リジャイの後ろで物凄い殺気を出して立つ者がいた。

「――俺はさっき言ったよな? 何かしたらただじゃ済まないと……」

 持っていた竹刀を支えに、亮太が立っていた。

「死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」

 その声はやけに静かで、その顔には表情がない。そしてその茶色の瞳は、刃のように鋭く冷たかった。

「あはは、君すごいね! 立ち上がるのだってやっとの筈だよ? それって何? 根性? 根性で立っちゃったの? それともアレ? 愛?」

 愉快そうに笑うリジャイに、亮太の怒りが頂点に達する。
 亮太は、自分の足でその身を支えると、持っていた竹刀を構える。

「そんなもので、どうやって僕を殺すのか興味ある所だけど、今はこっちが先。
 よし、血の気の多そうな君に決定!」

 そう言って亮太の前に手をかざす。
 すると、彼の胸の辺りに光る魔法陣が現われ、そこからシュルルとリジャイの手に向かい何かが集まってくる。
 亮太は、体から何かが吸い出されるような感覚に陥り、「おわっ!?」とそのまま、力を失ったように膝をつき倒れた。

「亮太君!?」
「亮太っ!?」

 早夜と蒼の声が重なる。

「大丈夫、大丈夫。ただの貧血だよ」

 そう言って、リジャイが手のひらを開くと、そこには無骨な形ながらも美しく輝く、赤い石
があった。
 
「彼には、生命力と血を提供させてもらったよ。早夜が今、最も必要なもの……これはその結晶だね。じゃあ早夜、手を出して」

 早夜は言われるまま、リジャイに手を差し出した。

「あ……」

 だがそこには、この世界に飛ばされる前から握られたままになっていた、あのお守りがあった。

「それは……」

 リジャイはそう呟きながら、それを摘み上げる。
 そして変わりに、血と生命力の結晶を置いた。
 すると、その結晶がシュルルと解けるように、早夜の手に吸い込まれてゆく。
 早夜は先程まで、力の出なかった体に、力が湧いてくるのを感じていた。
 リジャイは、早夜の顔色が良くなるのを見ると、満足げに立ち上がり言った。

「早夜、その胸の呪印が完全に消えるまで、君は一切魔法を使っちゃダメだよ? もし使っちゃうと、その呪印が発動して、意識を強制的にシャットアウトしちゃうからね。
 今の君は、とても不安定でちょっとしたきっかけで、暴走し易くなってるから、これはその予防策だよ」

 そして、フーとため息をつくと、

「これで僕の役目は、ある程度終わりかな?」

 そう言って、他の者達を覆っていた魔法陣を解いた。
 体の自由を確認した蒼たちは、こちらに駆け寄ってくる。
 蒼は早夜へ、そしてリカルド達は謎の男を捕らえる為――。


cont_access.php?citi_cont_id=334008170&size=135
NewvelランキングWandering Network
恋愛ファンタジー小説サーチ 
小説家になろう 勝手にランキング

夢の逢瀬 ←番外編です。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。