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《第二章》
5.感知する魔力
 王子に会って、三日程経っていた。

 今、ムエイは大きな樹木を見上げている。そこは、この国中央にある地下の研究施設。
 天井は吹き抜けとなっており、そこから太陽光が入ってくるようになっていた。よく見ると、樹の周りには、手のひらに乗るほどの小さな生き物が動き回っている。 
 それは、頭に花が咲いていたり、葉っぱが生えていたり、尻尾のように根っこが出ていたりした。
 見た目はとても可愛らしく、それがコマのような円盤型の乗り物に乗り、そこら辺をせわしなく飛び回っているのだ。
 それらは全て魔道生物であり、それも、あの巨大な樹から生まれ出たもの、あの巨大な樹でさえ魔道生物なのだという。

 そして、その魔道生物を創った者は、名をピトと言い、この国の魔学者であった。
 ピトもまた異界人であり、樹木人という種族だと言う。
 彼の容姿は変わっていた。髪は太く平べったく、黄色に近い黄緑色をして、毛先に行くにしたがって茶色く変色していた。
 そう、まるで植物の葉。それも、日に当てずに育てた葉の様だった。
 そして肌の色は白。
 彼は白衣を着ているのだが、その白衣よりも眩しいくらいに真っ白で、瞳の色は黒く、ガラス玉の様に澄んで、その白い肌の中で際立っている。
 それから彼は小さかった。と、言うより、まるで十歳くらいの子供のよう。だが、そんな見た目とは裏腹に、彼の年齢は五百を超えていると言う。
 最初、この首の枷を作った者として警戒していたが、その容姿と彼の気さくな性格で、今は大分打ち解けていた。

 そして今、ムエイは、そんな彼の研究につき合わされている所だった。

「フム、これでどうかの? ムエイ試してくれんか?」

 そう言って、腰ほどの高さの台の上に置かれた剣を示した。台の上には複雑な魔法陣が描かれている。何でも武器の強化を試したいらしい。言われた通り、ムエイはその剣を手に取った。

「……お、重いぞ……」

 これでは、振るう事など到底出来ない。

「フム、強化するのに、色々と付属したからのぅ。カムイなら、大丈夫なんジャが……。軽量化も考えんとダメかのぅ……?」

 そう言うと、台の上に手を置いて、聞いた事のない呪文を唱え始める。すると、描かれていた魔法陣が輝き、描き変えられてゆく。

「あ、ムエイ様! 来てらしたんですかー!」

 やけに高く、甘えたような声で、ミリアが入ってきた。その横には、真珠色の髪と瞳を持つ美少女イーシェもいる。

「ミリア、これはアタックするチャンスミョ! ガンガン行くミョ!」

 相変わらず、言葉遣いは変だった。

「フム、今度はどうジャ? ムエイ、剣を置いてみるのジャ。それとミリア、銃の調子はどうジャ? 魔力はちゃんと充てん出来とったかのぅ?」

 そうピトが聞くと、ミリアはにっこりと笑い、

「ええ、もうバッチリよ! 凄い威力だったわ!」

 そう言って、ピトの前に銃を二丁置いた。

「そこで提案なんだけど、いちいち魔力を充てんしなくちゃ、この銃使えないでしょ? それに私、魔法は使えないから、イーシェに頼まないといけないし……だから、自動で充てんできないかしら。例えば、対峙した相手の魔力を吸い取ったり、周りの自然の力を吸収したりとか……やっぱ無理?」

 そう、伺うように尋ねると、ピトは腕を組み考えた。

「ウゥム……無理ではないが……難しい注文ジャのぅ。
 でも面白い! やってみようかのぅ!!」

 そう言うと、ウキウキとその銃を別の台に置いた。

「あ、あのムエイ様? この後お暇でしたら、お茶でもどうですか?」

 もじもじしながら上目遣いでミリアは言う。その後ろで、イーシェが手を前にぐっと握り『ガンバルんだミョ!』と、応援していた。
 ムエイが、これをどう断ろうかと考えあぐねていると、後ろの方からあのお馴染の言い争いが聞こえてくる。

「まったく! キサマのせいで迷ってしまったではないか!!」
「えー!? ちゃんと着いたんだからいーじゃん」
「ははは! まあ、今まで見た事のない場所に出て、俺は結構、面白かったけどな!」

 途端に騒がしくなる室内。
 そして気付いたのだが、あのロイに対して嫌悪を向けていたミリアが大人しかった。見てみると、ロイを見るその表情は穏やかで、驚いた事に、その口は僅かに笑みまで作っていた。

「克服したのか?」

 そう尋ねてくるムエイに「えっ!?」と驚いた顔をするミリア。そういえば、こうして自分から話しかけた事がなかったな、と思い立った。

「ロイの事だ。表情が以前と違い穏やかだ。獣人嫌いは克服できたみたいだな……」

 そう言ってフッと笑うと、ミリアが真っ赤になって、ポーとしている。
(そういえば、笑いかけた事もなかった気がする……)
 ムエイがそう思っていると、またしてもイーシェが、

「やったミョ、ミリア! 一歩前進ミョ! ここでグッと2人の距離を縮めるミョ!」

 と、ガッツポーズをとりながら、イーシェが言う。
 その時、ロイ達三人が此方にやって来た。

「ムエイ、聞いてくれ! こ奴、自分から道案内を買って出た挙句、散々道に迷いおったのだ!!」

 そう言って怒りを露わにしていたが、ミリアを見るとその怒りを引っ込める。
 そして、ふにゃっと笑うと言った。

「ミリア、調子はどうなのだ?」

 すると、ロイを見たミリアは、一瞬ギクッとなったが、ばつの悪そうに視線を外す。

「私は元気よ。あんた……ロイは、どう?」

 そうミリアが言うと、パッと顔を輝かせる。

「我はとても元気なのだ!!」

 そして、嬉しそうに尻尾を振るのだった。


 恐らくこの数日の間に、2人の間で和解する何かがあったらしい。
(そういえば、ここのところロイの機嫌が、すこぶるよかった気がする……)
 そんな2人をどこか微笑ましく思っていたが、イーシェの言葉でこの穏やかな雰囲気は壊れていった。

「ミリア! ムエイが見てるミョ! これはきっとロイロイとの関係を疑ってるに違いないミョ! これはアレミョ、“ヤキモチ”ミョ!」

 そう断言するイーシェに、ミリアはハッとし、ムエイに向き直った。

「ムエイ様、違いますからね! 私はムエイ様一筋ですから! ロイとはなんっとも無いですから!!」

 必死になって言うミリアに、たじろぐムエイ。
 そして、ミリアの言葉に少し傷ついた顔を見せるロイだった。


「フム、じゃあ、カムイはこっちの台に斧を置くのジャ。
 ムエイ、今度の剣はどうジャ?
 ミリアはほれ、リジャイかロイに試させてもらうのジャ!」

 それぞれの事を同時に行うピト、流石は魔学者と言った所だろうか。

 そして、全ての作業が一段落付いた頃、それは起こった。

「っ!!」

 最初にそれに気付いたのはロイだった。
 続いてリジャイ、ピトと続いた。
 


「―――っ!! 早夜?」

 ムエイも感じた。
 それは、とても馴染み深い気配。
 そして、あの日、その身で体験した魔力―――。



「な、何なのよ!? これ?」
「これは魔力ミョ! 異常なほどでっかい魔力ミョ!!」
「ああ!? これが魔力? 俺、魔力なんて感じた事ねーぞ!?」

 そうなのだ、ミリアとカムイは魔法を使えず、魔力など感じえない。だが、彼らには今、それを感じる事が出来た。

「それ程、この魔力が尋常じゃないって事ミョ! まるで世界を覆い尽くす程の魔力ミョ!!」

 いや、実際覆い尽くしてしまうかもしれないと、イーシェは思った。


 一方、ロイ達はその魔力に驚くと共に、疑問を感じていた。その魔力には覚えがあったからだ。
 その時は、これほどの放出は見られなかったが、気配はまったく一緒だった。
 彼らはムエイを見る。何故ならその気配は、彼がクラジバールに飛ばされてきた時に感じた気配だったからだ。


 ++++++++++


 《クラジバール城 王の寝室》


「陛下、お呼びでしょうか?」

 ナイールは、目の前でシーツに包まり、震える男を見た。

 贅沢の限りを尽くし、醜く膨れたその体。
 周りには国中から集めた美女達をはべらせていた。
 女性達はナイールを見ると、その美しさにほーと溜息を吐く。
 そして、いかに目の前の男が醜いか、改めて認識してしまうのである。

「お、おおおお王子よ! こ、この膨大な量の魔力はい、いったい何なのだ!?」

 震えながらナイールに聞くその男は、このクラジバールの王、ムハンバードであった。
 そんな王を冷たい目で見つめ、ナイールは言った。

「先程、魔力感知装置が反応しました所、方向はアルフォレシアと分りました。恐らく、異界人であると思われます」
「っ!!! アルフォレシア! またアルフォレシアか!!
 おのれっ、わしの国はアルフォレシアに対抗して、多くの異界人を呼び寄せたと言うに、何故こうもアルフォレシアが先を行く。
 そうか! わしの国を乗っ取るつもりなのだな!? おのれっ、王子よ!!」

 シーツを剥ぎ取り、憎悪に醜く歪んだ顔で言った。

「その異界人をここに連れてくるのだ! ククク、これほどの魔力だ。手に入れて利用してやろうではないか。
 出来なければ殺してしまえ! これ以上、アルフォレシアが、わしの国より大きくなるのは我慢ならん!」
「わかりました。腕の立つ、異界人を送りましょう」

 そう言ってナイールは、王に深く一礼をする。
 伏せた顔のその奥で、その瞳は侮蔑の色に染まっていた。



 ++++++++++



「この方向は、おそらくアルフォレシアかな? あー、でもこれは暴走してるねー……」

 額の第三の目を見開き、リジャイが言った。
 どうやらその目は魔力を見るのに優れているらしい。

「暴走だと!?」

 ムエイが茫然とした様に呟いた。そして立ち上がると、部屋を出て行こうとする。

「待て! どこに行く!?」

 ロイが、ムエイの腕をとった。
 だが、彼はその手を乱暴に外すと、

「暴走を止める!!」

 そう言ってまた、出て行こうとする。

「だぁーら、待てって!」

 カムイがムエイを羽交い絞めにした。

「はなせっ!! このままでは早夜がっ!!」
「さや?」

 リジャイの眉がピクリと上がる。

「サヤ? ではやはり、この魔力の持ち主はお主の知っておる者なのか?」
「いくらムエイ様の知り合いだからって、無謀すぎます! わたしたち、国境を出ればただではすまないですよ?」
「そうミョ! 首が飛ぶミョ!」

 ロイ、ミリア、イーシェがそれぞれ言った。

 
「……ムエイ、正直に答えてね?」

 その時、リジャイがムエイの前に立ち、静かに、そして真っ直ぐにムエイを見た。

「その早夜って誰? 君の何?」

 ムエイもまた、リジャイを見据える。
 いつものふざけた雰囲気は無く、その紫の瞳は真剣だった。
 そんな彼の様子に、ムエイは意を決したように言った。

「……早夜は、俺の……妹だ……」

 その場にいる一同は驚き、彼を見た。

「本名は、オミサヤと言う。本当なら、異界の地で幸せに暮らしている筈だった」

 何故、と思いそして、それは自分のせいかと思い当たる。
 早夜は自分を探しにこの世界に来たのだ。
 リジャイは、そんなムエイをじっと見ると、ニコッと笑い、彼の頭を撫でた。
 思いもよらぬその行動に、目を見開くムエイ。

「わかった。僕が行ってあげる。君の妹の暴走を止めてあげる」

 ムエイは、その言葉に声をなくす。

「な、何を言っておる! 枷はどうなる!?」

 ロイが叫んだ。
 すると、今まで黙っていたピトが口を開く。

「フム、それなんジャが、一時的に発動を抑える事が可能ジャ……」

 それを聞いムエイが「じゃあ俺が……」と、言いそうになるとリジャイが止めた。

「今それが出来るのは、僕だけなんだよね。悪いけど……」
「そうジャ。今までちょくちょくリジャイの枷をいじくっとった。ジャから、発動を抑えると言ったのは、リジャイの枷の事ジャよ」
「だけどね、不完全だから何が起きるか分からないや」

 そう言って、リジャイは手をかざすと、自分の足元に魔法陣を出現させた。
 そして、ピトが懐から四角い箱のようなものを取り出し、リジャイに渡す。リジャイはそれを、自分の枷に触れさせる。すると、その箱が解け、枷を覆ってゆく。
 それを確認すると、リジャイは満足げに頷き、皆の方を振り返った。

「それじゃあ、行ってくるね」

 まるで、ちょっとそこまで出かけてくるかのように、軽い感じで言うリジャイにムエイは、声をかけたかったが、何も出てこなかった。
 そんな彼を見て、リジャイはくすりと笑う。

「帰ってきたら、君の血飲ませてね」
「わ、わかった! いくらでも飲ませてやる! だから……」

 だから無事に帰って来い、と言おうとする。リジャイはそれが分かったのか、こくんと頷いた。
 そして、足元の魔法陣を発動させる。 
 途端に輝きだす魔法陣の中で、最後にリジャイは、あの爬虫類を思わせる笑みで、いたずらっぽくこう言った。

「でも、今一番飲みたいのは、その早夜って娘の血かもねー。すんごくおいしそー」

 そして、「バイバーイ」と手を振りながら消えていったのである。

 後には、あんぐりと口をあけたムエイとロイ。

「結局そういう事かーーー!!」

 ロイの叫びが空しく響いていった。



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