―――……ウ……キ……―――
――……リュ……ウ……キ……――
自分を呼ぶ、温かく懐かしい声。
ぼんやりと目を開くと、リュウキの目の前に、白髪の美しくも儚げな女性が立っている。
その瞳の色は、血のように紅かった。
リュウキが女性を見止めると、その女性はふわりと嬉しそうに笑った。
だが次の瞬間、女性の額からは、つうっと紅い筋が流れてゆく。
そして、それはそのまま、ぼたぼたと滴り落ち足元に血だまりを作っていった―――。
見る間に女性は、血に塗れていった。
そして、まるで助けを求めるように、手を伸ばしてくる。
リュウキも必死に手を伸ばすが、触れようとした瞬間、バシャリと地に落ちた。
―――そこには、血だまりしかなかった。
ふと気配を感じる。
後ろを振り返ると、そこには男が立っていた。
仮面で顔半分を隠している。
男は嬉しそうに、その仮面から覗く口元を、引きつらせるように笑みの形に歪めた。
男はその腕に、黒髪の少女を抱いている。
少女の目は虚ろで、何ものも映してはいなかった。
そして男は手を差し出してくる。
その手に握られていた物は―――。
「―――っ!!」
声にならない声を上げて、リュウキは目を覚ました。
見知らぬ天井がそこにあった。
心臓の音がうるさく、じっとりと汗をかいている。
「随分と、うなされていたようだな……」
突然声を掛けられ、慌てて起き上がる。
そこには、浅黒い肌に、金色の髪と瞳を持った男が壁に寄りかかっていた。
男のリュウキでさえ、ハッとするような美しい男だ。
奇妙な事に、その男には、獣の耳と尻尾が生えている。
まさか、自分はまた、異世界へと来てしまったのだろうか?
いくらどこに飛ぶか分からないとはいえ……それ程、早夜の力が強いという事なのか?
「言っておくが、ここはクラジバールだ。お主がいたアルフォレシアより南の国だな……」
「っ!!?」
(何だって? クラジバールだと!?)
どうやら早夜の魔法は、とんでもない場所へとリュウキを運んでしまったらしかった。
―――クラジバール―――
砂漠の国と呼ばれており、魔法が発達した国である。
そして、アルフォレシアとは敵対していた。
噂では、異世界から異界人を呼び寄せ、兵としているらしい。
異界人を大切にするアルフォレシアと違い、異界人を使い捨ての駒の様に扱うという。
もし自分が、アルフォレシアから来て、しかも異界人だと知れたら、恐らく……いや、間違いなく殺される。
だがこの男は今『お主がいたアルフォレシア』と言った。
どうやらこの男は、自分がアルフォレシアの人間だと知っているようだった……。
「少し前に魔力を感知してな……行ってみたら、お主が砂漠の真ん中で倒れておったのだ」
そう言う金髪の獣人を、リュウキは険しい顔で見ている。
彼はそんなリュウキに、少し耳を倒し、尻尾も項垂れた様にする。
「我はお主の敵ではない。今はこの国に囚われているだけなのだ……。本当なら、お主をアルフォレシアへ送ってやりたかった……。だが、途中で邪魔が入ってしまったのだ……スマン」
そんな彼に、毒気が抜かれたようになるリュウキ。見た所、自分と同じ位か、少し年上に見える。
だが、今の彼は、まるで悪い事をして怒られている時のような、幼い表情をしていた。
「邪魔だなんて酷いな。僕は逆に君を救ったんだよ? 褒めて欲しい位だよ」
そう言って出てきたのは、これもまた、奇妙な出で立ちをした男だった。
右側の顔と腕に、不思議な模様の刺青を入れ、その目は細く笑みの形をしているため、色は確認できない。
耳は尖っており、髪はグレーで頭の後ろで一本の三つ編にしていて、腰まで垂れていた。
そして、一番変わっていたのは、その男の額にある第三の目であった。
その色はどこか不思議でまるで、何もかも見通しているかのようだった。
彼もまた、整った顔をしているのだが、ニィ……と笑うその笑顔は、どこか爬虫類を思わせた。
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