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野良怪談百物語

神隠しの森

作者: 木下秋

『……はーい! みなさんこんにちはー! 今からですねー、ここっ! “沈樹ちんじゅの森”に入って行きますよぉー!』



『アハハッ! ユミ司会者ぶってる!』




 ――ねぇ、マイ。私やっぱり前髪切りすぎじゃない?



 ――えぇー。そんなことないってぇ。




『ハハッ! イイねぇー! さすがっ! アナウンサー志望!」



『ケン、うるせぇってぇー。おめぇらあんまギャーギャー騒ぐなよなぁ』



『ハハッ! イッチャンびびってるぅー』



『ビビってねぇしっ!』



『アッハッハッハッハ!』




     *




 俺たちの地元には、「沈樹の森」という場所がある。なんでも昔神様が祀られていた場所らしいのだが、地元の人間――特に年寄り達はあまり、そこに近寄りたがらない。


 なぜなら、そこは“神隠し”が起こると言われている場所らしいのだ。


 俺たちは小さな頃から「そこには入っちゃいけない」と言われて育った。だが――



 俺が十九になった夏。俺達は四人で、その森に入った。



 ――肝試しをするためだ。



「イッチャン。ビデオカメラ貸してっ!」


 夜の一時過ぎ。俺の家に来るなりそう言ったのは、お笹馴染みのユミだった。ユミは来年の春からアナウンサーになるために、東京に行くことが決まっていた。


「……わかった。ちょっと待ってろ」


 ユミにほのかな恋心を抱いていた俺は、ユミと地元で過ごせる最後の夏を思いっきり楽しもうと思っていた。――だから、信心深いばあちゃんには内緒で、森に肝試しに行くという誘いも受けた。……俺は本当は、そんなとこ行くべきではないと思っていたのだけれど……。


 ビデオカメラを持って外に出ると、外ではユミと同じく幼馴染のケンと、隣町に住むユミの親友、マイが居た。


 俺たちは車に乗り込むと、ケンの運転で森に向かった。


 海の底のような黒一色の暗がりを、ヘッドライトで照らして突き進んだ。


 目の前には――車内の喧騒とは裏腹に――静かにざわめく森が広がっていた。




     *




 ――森から帰って来ると、そこで撮ったビデオを俺の家で見た。テレビのレポーター風に森の様子を説明するユミ、そのユミにくっつき、時にはただの物音にビビって見せるマイ。一人突き進む俺と、その俺にちょっかいを出して笑うケンが映っていた。


 現地では、特に何も起こらなかった。ただ森を突き進みんで適当にぶらつくと、すぐに飽きて帰ってきた。また、ビデオにも何も映っていなかった。ただ暗がりでキャーキャー言ってはしゃぐ、四人の若者が映っていた。



 だが――映像が十分ほど続いた時のこと。




「……ちょっと待って!」




 そう声を発したのは、ユミだった。


 突然発せられた大きな声に、三人はビクッ、と肩を震わせる。




「ど、どうしたんだよ」




 ケンはそう言って、ビデオを止めた。


 ユミは大きく目を見開いて、画面を見つめている。




「……なんか、変なもんでも映ってたのか?」




「……違う」




 ユミは俺にそう返事をすると、画面を見つめたまま言った。




「……これは……誰が撮ったの……?」




 ……誰が……?




 ――!




 俺たちは気付き、画面を見つめた。――どうしてこんな単純なことに、すぐ気が付かなかったのか。



 画面には、俺たち四人が映っている。



 ――俺たちは、四人であの森に行ったはずだ。




 ――じゃあ、この映像を撮ったのは――ビデオカメラを持っているのは、誰だ――?




 その時俺は、ばあちゃんが言っていた言葉を思い出していた。




「“神隠し”にあうとなぁ。ただいなくなるだけじゃあない。“存在そのもの”が、消えてしまうんじゃよぉ」




 ――……あの日消えたのは、誰だったんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストいいですね! いやいや、最初に誰かが撮影してたんだから、途中から霊が撮影してるとかおかしいでしょ。何? 撮影者が霊に渡したの?とか思って評価2をつけようと思ってたら、五人いたんです…
[一言] あの、少し気になったのですが。 「沈樹の森」、正しい表記は「鎮守の森」ですよね。敢えて「沈樹」とされているのには、何か理由があるんでしょうか……?
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