病室のなかは、静まりかえっている。
かすかな、機械の音以外音という音が遮断されている。
「延命措置をいかがしますか?」
機械的な質問だ、この質問を何度聞いてきたことか、最初に聞いたのは何世紀前のことか
もう忘れてしまった。
昔は医師の肉声だったが、最近は脳髄に接続された、ワイヤレス端子によって信号として
受け取るだけだ。
何世紀にもわたって改造され、付け足された俺の体はいったいどこまでが、オリジナルなのか
いや、オリジナルの人間など、この宇宙にどれだけ残っているというのか?
レトロな機械人間のほうがましというものだ。
「先生はオリジナルですか?」
俺は唐突に質問してみた。
しばらく反応はなかった。
「その質問は法的に禁じられています。」
思ったとうりのガイドアナウンスだ。これまで何回聞いただろう。
わかっていたはずなのに・・・ばかな質問をしてしまった。
「延命措置をお願いします。」
何世紀にもわたってつづけてきた同じ信号を俺は送った・・・・つもりだった。
しかし以外なことが起きた。
「君は何年生きているのかね?」
俺の脳は混乱した。信号は混乱し、反響してひどい頭痛がした。
ありえない反応だった。
「先生はオリジナルなのですか?」
「そうだ、こういうやりとりは法律できんじられている。しかしわたしも疲れた、
君も多分そうなのだろう。」
「もういちど聞く、何年かね?」
「1万年を超えたあたりから、データを開く気にならなくて・・・」
「そうか・・・若いな」
しばらくの間何も反応しなかった。沈黙が流れた。
透明な壁のむこうには、衝突するふたつの銀河が美しくかがやいている。
永遠をいきる者に言葉はそれほど重要ではない。
お互いにわかりきった者同士、ごく簡単なやりとりがつづいた
「君は何を理解したかね」
「宇宙のすべてを見て回りましたが、何も理解できませんでした。」
「そうか、私は君の10倍生きているが、最近ようやく理解できた。宇宙の果てまで行って
みたが、若いころは理解できなかった。」
「君と同じだよ、答えは・・わからん・・・ということだ」
「そうですか、ここ何世紀かそんな気がしてはいたのですが・・」
またしばらく沈黙が続いた。
無限に流れる時間のなかで、この医師は惑星ほどの大きさのこの病院でひとりで勤務しているのだ。
訪れるものもほとんどなく100年に1人ぐらいだろう。
この様な病院が宇宙には無数に存在するが、たまたまこの病院に誘導されたのも
何かの縁かもしれない、めったにない宇宙船の事故に巻き込まれるという幸運のたまものだ。
オリジナルとの交信など夢のような話だ。
「どうするかね?」
「先生は、理解したのに、なぜ延命を・・・」
「じつは、延命措置に対する抗体を植え付けたばかりだ。このオリジナルが最後だ。
そうでなければ、こんな会話をするべくもないさ。」
「わかりました、先生・・・お願いします。」
「君も同じ気持ちというわけか・・・わかった」
会話はそれで終わりだった。
しかるべき処置をして、俺は退院した。
それから・・・100年くらいの時間が流れた。
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「先生、お久しぶりです。あのときはお世話になりました。」
「おお!君も来ていたのか?」
「どうだ?今の気分は・・・オリジナルのときと違うだろう。」
「はい!爽快です。肉体があれほどやっかいなものならもっと早くこうすればよかったです。」
「君のデータは完全だな、私は自分で処置をしたためにデータの一部が欠損したようだ。
もう医師としては、やれないが、いまさらオリジナルの補修など、する気もないがね」
「どうだ、外宇宙へ行ってみんか?面白い宇宙を見つけたぞ、そこはデータしかない宇宙だ」
「面白いですね」
我々の肉体としてのオリジナルは滅んだが、宇宙政府の管理下のもと、データとなってシステムのなかを行き来している。伝送され瞬時に外宇宙に飛ぶことも可能だ。
こんな面白い世界をひた隠しにするとは、宇宙政府も罪なものだ
もっともこれを公にすれば、物質世界を管理するものがいなくなるのだから無理もないことだ。
もっともたったひとつだけ、失ったものがある、それは
「心」
だ。
データとしての感情はもっているが、それは心と呼べるものではない。
宇宙船での孤独や、荒涼とした惑星での生活のみじめさ・・あの不思議な感情が心
だったのだろうか?
もっとも心というやっかいなもののおかげで、オリジナルはいくつの星間戦争という
無駄な行為を繰り返してきたのか?
物質と観念の狭間で揺れ動くのが、心というものだと、データになってはじめてわかった。
え!データの自分に飽きたらどうするかって?
それは単純なことだ、削除すればいい、そしてほんとうの意味で宇宙に帰るのだ。
ちなみに
この外宇宙では
我々のような存在は
有機・あるいは無機の
ウイルスというカテゴリーに属するらしい・・・ |