和@ひばごん さんの日記
『妖怪事情と排反事象』というタイトルはなんとなくこの話をイメージしながらつけました。
グダグダしてたり説明が入ったりとちょっと面倒な話かもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです……><
「あちー……」
とある夏の日。
九月に入ったってのにみんみんじーじーとけたたましく響くセミの大合唱を耳にしつつ、俺と友人はダラダラとアイスを食べていた。
狭いアパートは雪男である俺、和と、弟で雪童子の修の家だ。
今修は不在で、代わりにふらりと遊びに来たのが俺の友人である犬鳳凰の奏。ふだん人間として暮らしているときは隠している朱色の翼を広げ、冷たくて甘い部分が一切残っていないアイスの棒をくわえたまま机の上に顎を乗せている。
捨てろよ。食べ終わったガリガリ君の棒捨てろよ。
「ねぇかーずとー、アイス食べ終わっちゃったー、かき氷出して~」
「無茶言うなよねーよ。あったら俺が食う」
「えーお前雪男だろ? 氷くらいケチらず作れよー」
「それ暑さでへばってるペンギンに『寒いとこ出身なんだから氷持ってんだろ』って言うくらい無茶ぶりだから……つかこのやりとり毎年やってねぇか……?」
ため息を吐きつつアイスをかじる。シャリシャリと涼しげな音を耳にしながら、目の前で机に突っ伏す友人を眺めた。
亜麻色のふわふわした髪がいかにも暑そうだ。
どんなに炎天下に外出しようと不気味なくらい真っ白な俺の肌とは違い、微かに日焼けしている顔や腕が少し羨ましい。
まぁなんというか、全体的にゆるゆるとした雰囲気を纏っている。
それはいつもの事なんだがなんか、なんか……今日はずいぶんとダレてないか?
「うー」とか呻いてるし。どうした奏。正直キモいぞ。
雪男の俺や雪童子の俺の弟ならともかく犬鳳凰は炎を司る妖、暑さでここまでへばるだろうか?
家でゴロゴロされるのは付き合いの長い友達だし別に構わないんだが悩みがあるならば放っておくわけにはいかない。
聞いてみよう。
「奏」
「なぁにー?」
「なんかあったか?」
あにあにと棒アイスの棒部分を噛みつつ、奏はだるい返事をする。
「別にー。そんなふうに見えた?」
こくり。首を縦に振る。
少し真面目な顔を作って、こう言ってやった。
「なんかあんなら言えよ。そんなウジウジして、お前らしくな…………くもないか……別に……。まぁとにかく、悩むくらいなら俺に相談しろよ。話くらい聞く」
「……美しい気遣いとさり気ない悪口どうもありがとうマイフレンド」
あー悪い悪いと誠意のない謝罪をのべる。いいからさっさと話せと言わんばかりの口調になってしまったがまぁ気にしない。
奏は視線を泳がせごにょごにょとなにやら言葉を濁したのち、こううち明けた。
「大したことじゃないんだけどさぁ、その、俺……mixiやりたいんだよねえ」
「……」
「……」
「……」
「えっ聞いといてシカト?」
「……想像以上のくだらなさに絶句してんだよッ!!」
思わず机を叩く。だんっと大きな音がしたが、奏をビビらせるほどの威力はなかった。ケロッとして「えー」と不満げな声をあげている。
「だってさー。バイト仲間の人たちがみんなマイミク同士なんだぜ? 俺さぁ高校生にって事になってんじゃん? 余裕でmixiやっててもいい歳じゃん」
「いや……じゃあやればいいだろ」
俺が馬鹿だった。
奏がアホなのを忘れていた。
ネットぐらい好きにやればいいじゃないか我が友よ……
そう念を込めて奏の肩を叩くと何やら神妙な顔をされた。
「何その顔」
俺が首を傾げると奏は赤茶色の丸い目を細め、恨めしげにつぶやいた。
「和はさぁ。自分の出身小学校と中学校と、在学中の高校とあとクラス言える?」
「はぁ? 言えねーよ。つーかねーよ」
俺たち妖怪には基本的に戸籍がない。
だから学校なんか通えない。
バイト先に提出する履歴書だってかなり工作してるし、バレないのはとある男の術のお陰……って、ああ、そういう事か。
「そういう入力項目があるから、登録できないってことな?」
「……そうだよ。そうなんだよ! うわーん!!」
ちょっ、おま、泣くなよ。
仮にも『鳳凰』の名を持つ男が声あげて泣くなよ。
泣くなオイ! お隣さんに聞こえるじゃねーか!
「俺だって知らないお友達欲しいよ、みんなと同じことしたいよっ、なんで俺は犬鳳凰なんだあああーっ」
「そ……え、自分の存在否定するくらいやりたいのか?」
「やりたいよッ! 和はいいよ、可愛い弟くんもいるしさっ、雪女ちゃんとかつらら女さんとか親戚っぽい妖怪もいるしさっ、犬鳳凰なんか万年ぼっちだっつーの! つーか知名度ねーし! なんなの? 俺って結局なんなの? 犬なの鳥なの? やだー、もうやだあー!」
体操座りの状態で顔を膝にうずめて喚く奏。
朱色の翼が彼の体を両側から包み、完全に心閉ざしてますモードになってしまった。こうなるともう自虐しか出てこないため非常に困る。
友人の悪口など聞いていて楽しい訳がない。
「泣くなって奏、ほら、えーと……アイス買ってやるよ。食べるだろ?」
「えっ、アイス? 食べる」
……浮上の仕方が小学生以下だがまぁ良しとしよう。
機嫌を損ねないうちに話を進める。
「コンビニ買いに行くけどいいよな? お前も来るか?」
「やった! 行くー!」
「……やっぱお前って馬鹿だよな。奏のバーカ」
「和くん酷っ」
ニコニコと立ち上がる奏の目の端には、太陽光を受けて微かに光る涙の跡があった。
マジで泣いてたのかよこいつ……本当にアホだ。
でも、奏は馬鹿でアホだが、一応友人だから泣いてんだったら慰めてやらなきゃならない。
面倒くさいけど。
つーかそもそも泣かないで欲しい。
慰めんのめんどいから。あくまで慰めんのめんどいから。
……あー、俺が奏の悪口を言うのは、その……アレだ。
例外だから、いいんだ。
◆
鬱陶しいほどに暑く眩しい夏の陽射しが照る。
炎天下の路の上、しゃりしょりと涼しげな音を立て冷たくて甘い氷菓は消えていった。
主に俺と奏の腹の中に、稀に鉄板みたいに熱されたアスファルトの上に。
「別にさー。登録できない訳じゃないんだよね」
「mixiに?」
「うん」
こくり、と首を縦に揺らす。その拍子に汗が頬を伝って垂れた。
「twitterとか他のサイトでもいいしさ、結局俺が意地張ってるだけなんだよなぁ」
「……ふーん?」
外の暑さとアイスの冷たさで熱が冷めたのだろう、大人しく奏は話し始めた。
「なんかさー。今の時期って高校の文化祭がいっぱいあるんだよ。それでさ、『犬飼は文化祭○○日だよな? クラスと店番してる時間教えろよ、みんなで行くから』って言われて」
犬飼というのは奏の名字だ。
俺にも幸村という名字が一応はあるが、和という名前と比べてほとんど使わない。
使うのは『人間として』過ごしている時間だけだ。
「それでさ、困ったからとりあえずテキトーに時間とか答えてさ。当日ホントに行ったみたいなんだけど、当然俺はいないじゃん? でもなんか妖術で『いる』的な雰囲気だけは出してごまかすじゃん? そーするとなんかあやふやになんじゃん」
「……ストップ」
「ん?」
「訳がわからん。整理して説明してくれ」
奏の話を遮りそう言うと、「信じらんねー」とでもいいたげな視線を向けられた。
えっ。
「おま……え、マジで? え? 嘘だろ」
くわえていたアイスを片手に持ちおろおろと俺の肩を揺さぶる。
そんな友人の反応を見て不安にならない訳がなかった。
何かやらかしてしまったんだろうか俺。
「なんかまずかったか……?」
「いやまずいっつーかなんつーか……いや、えええー? それナシでよくバレずにバイトしてんなぁ和」
「はぁ?」
もはや呆れたような目で、奏は言った。
「石燕に頼むんだよ。ある程度の嘘ならごまかしてくれるから」
石燕。
あの男は背景が複雑――というか立ち位置の説明がめんどくさい奴だ。
まず、妖怪である俺達には戸籍が存在しない。
ここから説明しなきゃいけない。
バイトとか家借りたりとかする時、ごまかすために実在の企業やら学校やらに所属してることにする。
例えば、俺は「●●県立▲▲高等学校」「×年×組」の「幸村 和」、という事になっている。奏も多分、「犬飼 奏」としてどこかの学校に所属している事にしているのだろう。
架空の「幸村 和」や「犬飼 奏」の存在を、実在するかしないかあやふやにして人間にはごまかしている。
すぐにバレてしまうような口先の嘘でも、妖術を付加すれば不可能ではない――らしい。さっきチラッと俺が口にした『ある男』とは石燕のことだ。
この工作ができるのは日本広しと言えども石燕だけ、その方法とか詳細は俺たちはよく知らない、何故なら石燕の専売特許で企業秘密だから。
まぁあの男については追々誰かが語るだろう――例えば新米妖怪とか都市伝説とかに石燕の存在を説明するために。
最近、ずっと引きこもってた『トイレの花子さん』が出てきたってエルティ言ってたしな。
話を戻そう。
「ふーん……石燕ってそんな細かい事までカバーしてんのか……」
「細かい事ってゆーな! 大問題なんだよっ」
いや知らねーけど。
けど、奏がさっき言いたかったことはようやく解った気がする。
「文化祭にお前が『在た』かどうか石燕にごまかしてもらったって事だよな?」
「そうそう。ある人は『店番してた』って、ある人は『廊下で偶然会った』って、またある人は『会えなかった』って記憶してる、みたいな」
「……正直に言おう。それ絶対ごまかせてねーだろ」
「そうなんだよなー」
奏はため息混じりに呟くと、食べ終わったアイスの棒に力を入れた。
湿ったそれはみしっと軋んで折れ曲がった。
「俺みんなと同じようになりたくてさ、すげーいっぱい嘘ついたんだ。『普通の学生』って思われたくて。そのたびに石燕にごまかしてもらってたんだけど……もう、無理みたいなんだよ。『嘘』はつきすぎるとだんだんバレてくよって石燕にもずっと忠告されてたのに、俺……」
奏は続ける。
「『犬飼の学校の文化祭に行くよ』って言われた時、俺ホントに嬉しかったんだよ。実際は一緒に店をまわるとか案内するとかそんなこと出来ないけど、せめてそういう記憶さえあればいいな、楽しかったよなって話だけでもできたらいいなって思って。でも――みんな、とっくに俺のこと疑ってたんだ。みんなで文化祭の時のこと話してて、そんとき、やっぱり犬飼怪しいよね、って……話してるのが……聞こえて……」
そこで奏の独白は途切れ、代わりに消え入りそうな嗚咽がこぼれ落ちた。
あぁ、鎌かけられちゃったのか。
それでまんまと引っかかっちゃったと。
それは非道いな。
せっかく誘われて嬉しかったのに、騙されてただけだなんて、つらすぎるよな。
そうは思う。
奏は悪くないとまではいかなくとも、十二分に可哀想だ。
だけど――――俺には解らない。
なぁ奏、なんで泣くわけ?
平成の世は妖に、いや、妖を含む戸籍のない全ての何かにすごくすごく厳しい。
そんなこと俺より何百年も多く生きてるお前なら分かるだろ?
だって、俺にも分かるんだから。
それなのにどうしてわざわざ人間と仲良くしたがるんだ?
この国の歴史の中で現代が一番生きていくのが辛い時代なの、知ってんだろ?
じゃあなんで。
なんで、傷つくのが目に見えてるのに。
奏はぐずぐずと情けなく鼻をすすりながら、ぼそりと呟いた。
「俺、なんで妖怪に生まれてきちゃったのかなぁ」
「……さーな」
「そっけないなぁ……」
「んなこと言われても」
奏はぐしゃぐしゃと目をこすりながら、ははっと小さく笑う。こんな風に笑うのは困った時の奏の癖だ。
悪いな、気のきいた慰め文句が思いつかなくて。
でも本当になんて言えばいいのか解らないんだ。
俺は灰から生まれたお前と違って、もとは人間だった。
ずっと昔、俺が『子供』だったころ、母親だったはずの女に殴り殺されて雪の中に埋められた。
どれくらいの年月そのまま放置されていたかはよくわからない。けど、ずっと苦しくて悲しくて仕方がなかった。
その重い冷たい雪の呪縛から解放してくれたのは紛れもなく奏なのだ。
奏が妖怪で犬鳳凰だったから、あの痛いほどに冷たかった雪を溶かしてくれたから、だから俺は今ここにいられる。
「俺は……俺もお前も妖怪で、俺は楽しいけど」
ぼそっとこぼしたその呟きがあいつに届いたかどうか、俺にはわからない。
慰めになったかどうかもわからない。
でも、本当のことだ。
◆
「あーうんうんオッケーオッケー、まかせといてー。和は今まで全然そーゆーのしてこなかったからねぇ、なんて言うのかなーストック? がいっぱいあるから大丈夫だよー。ていうか和もネットとかするんだねー?」
「ほっとけよ。あー、その……ありがとな」
「あーい。まーた来ーてねー」
雑な挨拶とともにふらふら手を振る石燕に一応頭を下げ、背を向け歩き出す。
携帯を取り出し検索をかけ、目当てのページを開く。このためにわざわざ「ぱけほ」にしたのだ。
「登録完了……っと」
メニューやらトピックスやらリンクの貼られまくっていて、かつシンプルにまとめられているページが表示される。
トップページのデザインは変えられるらしいが、正直よくわからないからしばらく放っておこう。
――確か、『友人を招待』できる機能があると石燕が言っていた。
「どれだよわっかんねーよ……」
カチカチとボタンをいじりつつリンクを探す。普段ネットなんか全くしないからこういう時に時間がかかって仕方がない。あー、めんどい。
十数分後にようやく『招待』を送ることに成功し、ふうっと息をつく。
正直疲れた。が、謎の達成感もあり、まぁ悪い気分ではない。
あいつどんな反応するかなーなんて考えていたら、ものの数秒で電話がかかってきた。
『和! これ、何これ!』
おーおー驚いてる驚いてる。
いい反応じゃないか。
嬉しそうにはしゃぐあいつの顔を想像したら自然と口の端が緩む。
そんな気持ち悪い自分のリアクションが悟られないよう、いつも通りの口調を装って返事をした。
「別にー。お前が言ってたのが気になったから、登録してみただけ」
無論そんな訳はない。
もしちゃんと『存在』している者が友人登録されていればあいつへの疑いも少しくらい晴れるのではないか、そうしたらあいつのやりたい事がちょっとは出来るようになるのではないか。そう考えてのことだ。
石燕もいい考えだと言ってくれた。
さあなんて返してくる?
今回ばかりは俺に感謝するんじゃないか?
期待なんて柄じゃない事をしながら返事を待つ。
が。
『いやそうじゃなくておま、ミクネが本名フルネームって堅すぎだろ! 絡みづらいわ!!』
「……は?」
『確かにまあ和っぽいことこの上ないけどフルネームって……フルネームっておま……! ぶふっ』
「……」
……ちょっと待て、俺今笑われてる?
携帯電話の向こう側で震えながら笑いをこらえている奏を想像してみたところ、そこにいるかのように鮮明に映像が浮かび、そして俺の中で何かがプツンと切れた。
ついでに電話も切ってやった。
もうこの携帯逆パカしてやろうか。
そんでもってスマートフォンに切り替えて、アプリで楽しく遊んでやろうか。
「あのやろおおおおおおおおお」
やり場のない憤りと恥ずかしさにより地鳴りの如く唸っていると、着信音が鳴った。
メールだ。
……内容次第でアドレス帳から奴を抹殺することを決意しつつ、本文を開く。
けど、メールの最後の二文を読んだ瞬間、その決意はどうでもよくなってしまった。
『frm:奏
sb:ごめーん
――――――――
怒るなって(´∀`)
頭の堅い和と一緒に俺がミクネ考えてやんよ!
だから遊びに行っていい? いい?ω・)
あと、この前俺は万年ぼっちだー的なこと言ったけど、なんか勘違いだったっぽいや
幸せ者だね俺!』
◆雪男
ぶっちゃけ妖怪ではなくUMA。
『和』に関しては、雪女さんに「わたしは雪女だから、わたしと似たような過去をもっている君は雪男だ!」と命名されたのでそう名乗ってます。彼はUMAじゃないです。
『ヒバゴン』は広島県の比婆山連峰で目撃された類人猿型未確認生物の名前です(´ω`)
◆犬鳳凰
伊予(現在の愛媛県)に伝わる怪鳥。(Wikiより引用)
炎吹けます。狐火に似たもので熱さは伴わないとされていますが、この話では温度調節できる親切設計になっております(・ω・)
波山、婆娑婆娑とも呼ばれるので、彼のミクネは『奏@ばさばさ』です。
◆おまけ
これ以来妖怪同士の間でmixi流行ります(笑)
エルティ(メリーさん)→「える茶@羊」
勝太郎(件)→「しょーたろ@九段坂」
みたいな感じにみんな「名前@ちょっとひねった妖怪名」。
後書き長くてすみませんでした!