(4)あぁ、今日は絶好の買い物日和……!
目の前には可愛らしくおめかしした光。今日もあたしはすっごく体調良かった。生理とかこないしこの点ではビバ男。最近では一人称を上辺だけは俺にすることにも慣れてきた。
ここは有名某商店街。
そして、頭上には晴天の青空。
あぁ、今日は絶好の買い物日和……!
……なんて思ってたんだけど。
「……俺はね、光と2人っきりだと思ってたんだけどね? どうして……」
どうして二人がいるのさっ!
光がどことなく戸惑いながら答えた。
「だ、だって緊張するから……初めに千代ちゃん誘ったの」
「はぁ?」
緊張ってね、女のときに何度も2人きりで外出くらいしたでしょうが。ショッピング然り、カラオケ然り、初詣然り。
それで、相良は? あたしの目にはしっかり千代子の隣で微笑んでる爽やか好青年の姿が見えるんですけど。
「相良クンわぁ、私が誘ったの。女の子2人なんだから男も2人いなきゃダメでしょー?」
そこまで言って、千代は私の傍まで近づいてくる。そして、
「(ちょっと、前に言ったこともう忘れたの?)」
前言ったこと…ああ、あれね。
「(いや、でもあれは相良の前ではってことでしょー? いいじゃん二人っきりなら)」
「(そういう軟派な態度が迷惑だっていってんのよー!)」
「何話してるの?」
小声で喋ってると光に怪訝な顔で問われた。千代はすまし顔、あたしは無理やり顔に笑みを作る。
「い、いやー、今日はいい天気だねって」
……いちおう光にも内緒らしいからね。
放課後、千代から言われたことはこうだった。初め光に近づくなってのはさすがにびびったけど、それも全部光のためらしい。千代がいうには光は相良のことが好きで、あたしがいたら邪魔なわけで……まぁそりゃ恋愛対象外でも男になっちゃったあたしが傍にいたら相良もあたしが彼氏だと思っちゃったりして、光も困っちゃうよね。あ、でもあたしにとって光はとってもとっても大事な親友なわけで、そこだけは譲れないって言ったら、話すのはいいけど絶対変なことしない、変な気にならないでって言われた。
……んなこと言われてもあたし元女なんですが。変な趣向はたぶんないんですが。女と喋っててもドキドキしないしなぁ……最近では男と喋ってても全くドキドキなんて皆無なんだけど。まさか、男になったせいで人を愛せなくなった? あたし。それじゃあ神社で買ったお守り、全然意味ないじゃん……あたしの少ないお小遣いを返せーっ!
あたしがちょっとブスっとした顔で考え込んでいると、自分たちが来たせいであたしの機嫌が悪くなったと思ったんだろう、相良が苦笑した。
「まぁまぁ、俺らがいたら何か不具合があるってわけじゃないだろ? 岬にその話しされたときデートじゃないからって聞いたよ」
だったらいいじゃないか、と相良。
んー……そだね。
「よく考えれば相良いたほうがいいか」
今日の買い物の目的は洋服を買うこと、だ。ざっとクローゼットの中を見たんだけど、もちろん女物の服はなくて(あっても用途に困るんだけど)、その代わりに入っていた男物の洋服も、驚くほどその数は少なかったから、今日は修学旅行にも持って行くだろうしってことで学校の近くの商店街まで買いに来たのだ。けど、よく考えればあたしには男物の洋服なんて正直全く分からないし、光にとってもそれは同じことだろう。そう考えたら長年男やってきた相良がいたほうが何かと好都合だろうね。
そもそも……千代はともかく相良にはせっかく休日にわざわざ出向いてくれたんだからあたしのほうが逆に感謝しなきゃなのかも。
「うんうん、そうと決まれば行きましょっ。で……あんた達今日はどこに行く予定だったの?」
元気いっぱいに岬がそう言う。
「おまっ、行き先も知らずについてきたの!? ……あいかわらずだね」
最後の部分は小さく言ったのだけど、千代は持ち前の地獄耳で聞き取った。
「あいかわらずって私、李緒クンとどこか遊びにいったことあったっけ?」
「えーと……」
しまった、と思ったがもう遅い。何て答えようか悩んでいると、
「私が千代ちゃんのこと話したことあったんだよ。この前こんなことあった、とかで」
「そうそう、そういうこと!」
光、ナイスフォロー!
あたしは視線で感謝を告げて、話を続けた。光が小さく苦笑する。
「行き場所は最近出来たあの大型デパートなんだけど」
そう言って遠くに見える新装開店と書いた看板を掲げた大きな建物を指差した。すると相良が言う。
「洋服なら後で買ったほうが良くないか? 荷物になるし」
「うん。だから先にお昼食べてから行こうかなって話しになってたんだ」
時計台に視線を移す。もうすぐお昼だ。身体がぽかぽか温かくて気持ちが良かった。
「そっか。じゃあみんなは何が食べたいの? 私は何でもいいわっ。甘いもの、苦いもの、辛いもの、どんと来い!」
微妙にテンションが高いのは気のせいか。
千代は大食漢。好き嫌いのないことはいいことだね。
「ん……俺は甘いものと辛いものはいけるけど苦いものはちょっとな」
私も、と相良に続いて光が言った。千代の視線があたしを捉える。
……ん? じゃああたしが決めてもいいってこと?
「ええと、それじゃあ……」
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今時の綺麗な飾りつけ。中には可愛らしいウェイトレスの格好をした女の子たち。店内は明るくいい雰囲気。
お洒落なカフェテリアの中には甘くて美味しそうな香りが全体を包んでいた。
「えっと、俺はこの宇治金時パフェと手作りパンってやつとコーヒー」
「私はー、抹茶ウェハースパフェとオレンジジュースお願い」
「私は…チョコクッキーパフェとオレンジジュース。李緒、一人でいける?」
「うん、いけるいける。じゃあ行ってくんね」
李子が代表してみんなの注文を集めてお金を受け取り、ウェイターさんに言いに行ってくれた。やっぱり千代ちゃん達が来てくれて良かったと思う。今のあたしじゃきっと彼を意識してしまうと思うから……。
「にしても、あいつがまさかこういう店行きたいって言うとは思わなかったな」
「うんうん、すっごい意外! 甘い物なんて嫌いな男の子って多いのにね。あ、もしかしたら私達(女の子)に合わせてくれたのかも?」
「んー、まぁあいつならやりそうなことだわな」
李子に好印象を持ったような千代ちゃんと相良クン。
けど二人ともそれは違うよ、絶対……。
注文所を見るとウェイターさんと笑顔で話しあっている李子の姿が見てとれた。今はお客さんも少ないみたいだし、たぶんパフェが出来るまでの暇つぶしに話しているんだろうと思う。李子は昔から女の子誰とでも仲良くなれる才能みたいなものがあるからなぁ……。ぱっと見て口説いてるように見えるけど、それはありえなくて、きっとまたあの話しでもしてるんだろうな。そんな風に思って、私は千代ちゃん達との雑談に戻った。
******
「それでですね、このブルーベリーとイチゴの産地だとすっごい美味しいケーキが出来るんですよーっ。あ、この産地もオススメかもです」
「へぇ、じゃあ今度ケーキ作るときにでも中入れて見ようかな。3層にして一番上にバナナクリームで、2番目にイチゴ、それで最後にブルーベリーっ」
「わぁ、それ美味しそうです! 上にラズベリーなんかも乗せてー。あっ、出来たみたいですよっ」
ありゃ、残念とあたしが名残惜しそうに言うと、トレイを2つ渡しながらまた次も絶対来てくださいねっ、と笑顔の可愛いウェイトレスさんが言ってくれた。
「うん、ここのパフェが美味しかったらね」
「絶対美味しいですからー」
くすくすと笑いながらウェイトレスさんが小さく手を振った。
お菓子作りはあたしの趣味。作っては家族と食べたり光の家に持ち込んでお裾分けしたり。祐次って男の癖にわりと甘い物好きなんだよねー。
あ、今頃気付いたけどこれって女の子っぽい趣味なんだよね。あたしにも女の子っぽいところがあったんだ、なんて思って、あたしはちょっと嬉しげに光達のところまでパフェののった盆を両手にバランスを保ちながら戻った。
「よいしょっ……」
ゆっくり慎重に片方のお盆をテーブルに置いた。パフェはまず見た目で味わう。だから形をくずしちゃいけないのだ。
ありがとう、李緒、と光の優しげな声が聞こえた。
それからもう一方のお盆を自分の席のところに置いて、席につくとあたしはフォークを掴む。
「さて、いっただきまーっ」
「ちょっと待て李緒」
「え」
相良が静止の合図をだした。あたしはあえなくフルーツの刺さったフォークを止める。
「李緒クンそのでっかいの……何?」
呆けたような千代の声。
何だよぅ、せっかくの至福のときをっ。
「何って……」
ちらっと手元にあるパフェを見る。
「ジャンボロイヤルマキシマムビッグ季節フルーツ盛りだくさんパフェだけど」
その名の通り季節別にいろんなフルーツをたんまり詰め込んだパフェだ。
……何の変哲もないすっごい美味しそうなパフェだけど。
「あ、食べたいの? ゴメン気付かなくってさぁ。はい、あーん」
「違うっ」
「違うわよっ」
う、ほとんどハモって否定された。一体何なんだよぅ。
「そのデカさ……」
「普通のパフェの5倍はありそうじゃない?」
うん、とっても食べがいがありそう。
それに千代は間違ってる。実際には5倍じゃなく6倍はあるね、これは。だからこのパフェ屋さんは雑誌に乗るほど有名なんだよねー。
「この前雑誌でお菓子の有名なところ見てたらちょうどここらへんにあってさ。食べてみたいな、って思って」
「……あたし、李緒クンのイメージ変わったわ」
俺も、とげんなりした顔で呟く相良。
「え、え?」
光があたしを苦笑いしながら見つめていた。
「それでさぁ、これ食ったら何すんだ? これ食ってもまだ時間しばらく余るだろうし」
しゃくしゃくと中のコーンをかき混ぜている相良が言った。
「そういえばまだ決めてなかったね、それ」
あたしはバニラアイスの上についているパイナップルの断片をひょいと口に入れた。
「それじゃ映画でも見てみる? 定番に」
「カラオケでもいーかもね。この人数だし」
そう順に光と千代が言った。
あたしはチョコレートバニラの山にスプーンを入れようとしてふと気付く。
あれ?
……あー、もうしょーがないなー。
「千代。ホッペにクリームついてるよ?」
千代のホッペには茶色の混じった白いバニラアイスの欠片がついていた。
「え、本当?」
「うん、ほら」
あたしは、ったく昔から食べ方荒っぽいんだからー、と心中で呟きながらいつものように頬からクリームを取ってあげた。
「あ、ありがとう」
ぱくり。
「ん、おいし」
んまーい。
あたしの口に抹茶のいい香りとバニラの甘い味がマッチしたものが広がる。
今度来た時はこれも頼もうかなぁ。あ、それとも店員さんオススメのデラックスプリンパフェ?
ん〜……やっぱり後悔しないようにどっちも食べよーっと。
「……っ」
味を堪能してからふと顔をあげると、光の呆れたような顔と相良の驚いたような顔。そして何故か顔をすっごく赤くした千代の綺麗なお顔。
……何?
「おい、李緒……それはさすがに」
「……バカ」
光が小さくため息をつく。
「へ……どうかしたの? あ、俺映画がいーと思う。見たいやつもあるし」
たぶんあたしの意見でも聞きたいのかな、なんて思ってあたしはそう答えた。
確かあたしの大好きな俳優が出てるんだよねー。
「あー! もうそれでいいわよ!!」
すると突然大声で千代にそう言われた。ぽとりとフォークについていた白桃がバニラの上に落ちる。
「ど、どうしたの。そんな急に大声だして……」
回りの人たち見てるよー。ただでさえお前とか相良とか光いるから目立つのに。
しょぼーん、何かあたし場違いじゃない?
「ししし、知らないっ!」
そう言ってそっぽを向いてしまう千代。
何故……あたし、何かしたっけ? |