ねた、はち〜解剖強襲。
1月12日の活動報告で話題にした、二つ名をもとに創作。
世界中に、漫画や小説、アニメで見られる異能力を持つ人々が現れるようになって幾星霜。統計的には、世界中の人口、三人に一人は異能力を持っている……らしい。
「誰か! 患者が暴走した!! 封じが効かない!」
生まれ、育ち、十歳前後になれば突如“覚醒熱”を発症し、熱が下がればあら不思議――異能力は発現する。覚醒熱は、体を異能力にたえられる体に変化させる“過程”、移行のプロセスだ。
「この子は――大きいぞ! くそっ、該当患者の部屋を“隔離”!」
覚醒熱は、それ自体は死ぬ病ではない。しかし発現した異能力そのものに、幼い体がたえられないケースもある。それを、暴走という。発現したばかりの異能力を“覚醒後の体”が抑えきれずに、異能力が体外へ現出する。
「赤系統――火炎系異能力者だ! 青か色無し系統の異能力者はいないか?!」
赤は、火や炎など――赤色を連想する異能力。青は水や氷、そして色を連想できない異能力は色無しと言い表す。
「当直の管理官の中に、色無しがいます!」
覚醒熱を発症した子供を“患者”と見なし、発現後の“暴走”等の対応のために、各国に“所院”がある。それは病院であり、一時の学校である。患者は皆ここへ“入所”し、最低一ヶ月は“滞在”する。それは、異能力が暴走しなくなる――体への“異能力の定着”期間、そして簡単な使い方を学ぶ期間が、最短で一ヶ月はかかるからだ。
ここ、西日本の第十五所院でも、患者は多数入所している。
彼らが入所する所院は、一般的な病院のような“四人部屋”は存在せず、広めのゆったりした“個室”しかない。そして、個室を始めとした建物の各部屋の壁、天井、床には“封じ”が施された代物が使用されている。異能力が暴走した際の影響を考慮した結果である。暴走しかけた場合、すぐさまに封じが発動し、異能力の現出の無効に走る。
例えば、今回のように“火炎系”異能力者が暴走した場合、最悪大火災ではすまないのだ。大火災になれば、どんな悲劇が起こるか……想像に難くはない。だからこその封じであり、暴走に引き起こされた悲劇は滅多に起こらない。
しかし、どんなことにも例外がある。起こらない滅多な事も起きることがあるのだ!
その滅多な事が今現在、起きている。
「隔離、成功!」
建物内各部屋全てに施されている“対・暴走”は封じだけではない。各部屋を結界で覆い包む“隔離”も存在する。
「高位ランクに対し、いつまでもつか……あいつはまだか!!?」
所院に勤め働く大人、管理官。一般的な病院にいる看護婦や医師、そして一般的な学校にいる教師達が、昼夜交代制で勤務している。彼らは皆、異能力のトラブル対処のスペシャリストでもある。
そして彼らの中でもさらにスペシャルな――特異な異能力者が存在する。
「はぁ〜、待ったあ?」
気怠い口調とゆるゆるな態度、しかも欠伸混じり。緊急事態だというのに、なんとも“浮いた”、場違いな管理官がノロノロと登場した。
頭をぽりぽりかき、口には涎と食べかす。片頬には何かのあと――おそらく枕のあと――があり、服装も寝乱れが見られ……はっきりいってだらしない。身に付けている白衣は、絶対に食べ物だ! と断言できる汚れが付着しているし、スリッパにいたっては片方がない。ブラウスにいたっては――まあ、とにかくだらしない。まだ若い女性だというのに、情けない有り様であると締め括ろう。
「なっ、あんたというやつは……っ」
彼女を出迎えた年嵩の男性管理官は、湧いてくる怒りを抑えきれずに、口をひくひくとさせながら、どうにかこうにか発言を続けた。
「緊急事態だ。高位ランク保持者だ。すぐに対処せよ――敷折管理官」
だらしない管理官――敷折管理官は、らじゃあ〜と気の抜けきった返事をし……真剣な雰囲気を瞬時にまとった。
「管理官敷折はじめ、ただ今より高位ランク保持者・高尾リュディを“強襲”します」
「了解、敷折管理官、健闘を祈る」
年嵩の管理官と、敷折管理官は真面目な会話を交わし、頷きあう。そこにはもはや先ほどまでの空気はなかった。ピリッとした、緊迫感に溢れた空気しか存在しなかった。
敷折管理官は、引き戸の戸に触れた。彼女の手に、結界の感触が伝わる。硬いゼリーといった感じの結界は丈夫であった。しかし、ぴりぴりと亀裂が入り始めている。これも、結界内に隔離された子供が高位ランク保持者だからだ。
高位ランク――異能力者は皆全てランクを持つ。たいていは一般ランク、生活に支障のないランク。しかしその一般ランクを越えるものが時折いる。そのランクをもとに一般ランクの基準が作られたといっても過言ではない、とても危険なランク。
例えるならば、災害。人災でなく、天災。台風、水害、風害等といったものに比類するもの。高位ランクは全て、発現する際必ず暴走する。
たいていの暴走は高位ランク以外だが、発現すれば必ず暴走するのが高位ランク。
「しかも高位ランク、“皇帝”!!」
高位ランクは、その強さと大きさと危険度合いに応じて、さらに細分化される。少し例をあげれば――大名、将軍、皇帝等々。ちなみに一番高いランクのひとつが皇帝だ。運の悪いことに、今回は高位ランク・皇帝であった。
「――接触」
敷折管理官は、結界に触れる手に力を込めた。彼女の異能力を、一気に流す――これは強襲という異能力の使い方のひとつである。簡単にいえば、力を勢いで一気に捩じ伏せ、押し潰す感じか。例え格上であっても、通じる手段のひとつでもある。勢いが重要なのである。
「――行け、我が力」
敷折管理官は、ゆっくりと唱えた。彼女が唱えるのは、異能力をより発現しやすくするための言葉。
少量でも――例え一人でも、全てを勢いで押し流す“おばちゃん”をイメージして、彼女は力の流れを一気に結界に流し込む!
「――“ほどけ”力、“解剖”!!」
敷折管理官の異能力は、色無し。色をイメージできない異能力だ。彼女の異能力は、相手の異能力を無理やりほどいて分解する。つまり、解剖してバラしてしまうのだ。要するに強制分解である。
いまだって、結界と対象の高位ランク・皇帝の火炎系の異能力をバラして強制終了させてしまった。
彼女は強襲が得意であり、だからこう呼ばれる。
無色の解剖強襲、と。