(魔術があるって言うなら、RPGやファンタジー小説見たいに、人を召還するものはないのかな)
初めてアークにあった際、自分が異世界人だと知った彼がひどく驚いていたのを見ると、別の世界と行き来することは一般的ではないようなので、存在しない可能性の方が高い。
それでも、今ここに自分がいると言うのは厳然たる事実であり、何らかの現象によって異世界に飛ばされたのは間違いない。
知られていないだけで、禁呪のようなものがあったとしても、おかしくはないだろう。
(まあ、仮に、そう言う魔術の書かれた本が存在していたとしても、異世界人の私がすんなり読めるような代物ではないだろうけど)
しかし、魔術に焦点を絞っても、蔵書の半分もある――とても多すぎて探せない。
先程、グランツが「魔術関係の本のうち、半分が白魔術関係」と言っていたので、魔術はいくつかに分類されていることはわかっている。
何とかもう少し、範囲を狭められないものか。
(とりあえずは、この世界の魔術が一体どう言うものなのか、先にそれを理解した方が良さそう。魔術の入門書みたいなものはないかな……っと)
ぶらぶら見て回っていると、需要が多いのだろうか、『はじめての魔術』、『魔術の基礎理論』等と書かれた、それらしき本がゴロゴロ見つかった。
亜希はその中から、一番薄いハンディサイズの、『一から学ぶ魔術』と言う本を手に取った。
目次を開くと、著者の前書きの後に、「魔術の基礎知識」と書かれた章があったので、そこの一番最初のページを開く。
(ええっと、何々……)
魔術は、白魔術・黒魔術・精霊魔術・その他の魔術の四つに、大別される。
<白魔術>
女神エルアノーラ、それに連なる神々の持つ光の力が源になる。
神々への祈りを通じて、行使されるが、心清らかな者にしか使えない。
祈りの方法は、個人や宗派によって様々。
まれに純粋な者の中には、訓練なく使えるケースもあるが、大抵はある程度、修行を積まなければ使えない。
→主に、白魔術師や聖職者が使う。
<黒魔術>
深い嫉妬や憎悪など、自身の負の感情を元にして行使される。
呪文は、個人や宗派によって様々。
現在はどの国でも、使用が固く禁止されている。
→使用する者は、黒魔術師と呼ばれる。
<精霊魔術>
地・水・火・風、それぞれの要素を司る、八百万の精霊の力を借りて行使される。
発動方法には二つある。
①精霊たちが支配する空気中の元素に、人が想いの力で働きかけて、望む形に練り上げる。この際、体力を消耗する。
②精霊に直接頼んで、力を貸してもらう。純粋無垢な者ほど精霊に好かれやすく、強い力を行使出来るといわれている。
→使用する者は、精霊魔術師と呼ばれる。
<その他の魔術>
今は使用法が不明になった、古代の魔術。
召喚・転移などがある。
(今は使用法が不明……やっぱりそんなこったろうと思ったよ。でも、存在しているのは間違いない訳だ)
元の世界に帰れる可能性は、少ないが……確実に、ある。
その事実は亜希を、手探りで歩いている闇の中で、一本の明かりが灯った蝋燭を手に入れたような気分にさせた。
(まあ、これで大分、調べる範囲が絞り込めた。その他の魔術関係の本を集めた棚の中から、召喚・転移について書かれた本を探せば良いってことだよね。『古代魔法の研究』なんて題名の、学術論文みたいなのが中心かな? だったら読みにくそう……」
亜希は、大学の講義で使っていた論文のテキストを連想して、渋い顔をした。
向こうの世界では総じて、研究書の類は読みにくかったと言う記憶しかないのだ。
――わがままを言っても、仕方がないのだが。
(何だかんだ言っても、地道に一冊一冊、見ていく他ないんだ――頑張ろう。私は絶対に元の世界に帰るんだ)
ぱん、と両手で頬を叩いて気合いを入れる。
思いの外、大きな音がして、周囲にいた何人かがこちらを見たが、無視した。
(あ、さっき読んだ本、一応借りておこうかな。ページのデザインがすっきりしてて読みやすいし、何となくこれからも役立ちそうな気がする)
『一から学ぶ魔術』を片手に、亜希はその他の魔術関係の本を集めた棚を探して、再び歩き始めた。
「……はあ、つっかれたあ……」
あれから、体内時計の感覚を信じるなら、二時間は経っただろうか。
無事、その他の魔術関係の棚を見つけることが出来たものの、古代魔術に関する書籍は――オカルトの人気がこちらでもあるのだろうか――冊数が多く、ずっと細かい字を見ているうちに頭が痛くなって来た。
窓がない、汚れた空気の建物に、長時間立ちっぱなしであったことも、疲労の原因だろう。
――今の所、何の進展もない。
能率が落ちているのは自覚していたので、亜希は一旦、休憩のために外へ出た。
ちなみに、『一から学ぶ魔術』は、本の難しい部分にぶち当たる度に辞書代わりとして、なかなか頼りになったため、先に借りる手続きを済ませておいた。
期間は二週間。
今は、亜希の提げている鞄の中だ。
ぶらぶらと、教会の敷地を歩く。
新鮮な空気がおいしい。
思わず何度か深呼吸していると、礼拝堂の方から声が聞こえて来た。
朗々とした声音は、外までよく聞こえて来る。
(この声は……グランツさん?)
何となく興味を引かれて、亜希はこっそり扉の隙間から、中を覗き込んだ。
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