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時間と共に、窓から軋んだ音が聞こえる頻度が高くなって来た。
ちらりと目をやれば、以前見た時よりも空の色は暗く、遠くの風景は幾重も重なる雨の軌跡で、ほとんど見えない。
庭の木は風が強いらしく、枝を大きく揺らしていた。
一言で外の天候を表すなら――暴風雨であろう。
(城は古い割に、造りがしっかりしているから大丈夫だろうが、城下では被害が出ている所も多いだろうな……)
アークは眉間に皺を寄せた。
今の政権は公共事業削減に躍起になっており、治水工事の中止等を早々に決めてしまったが、その付けが回って来ることになりそうだ。
被害が甚大であった場合、イルダーブ党の連中はどうするのだろうか?
次の選挙で当選することにしか関心がない者がほとんどであるため、被害者に義援金と言う名のばら撒きを行い、治水工事を中止したことに対する非難を封じ込め、支持率低下を防ごうとするだろう――と言うのが、アークの読みだ。
公共事業の一律削減には、アークは反対であった。
街道工事費用も既に三十年前の水準にまで削られているのにも関わらず、これ以上減らされては、十分な補修が出来なくなり、通れなくなる道が出て来るのは時間の問題だろう。
数年後には、耐用年数が経過した橋が三万基に達する。
人・モノの移動が制限されれば、その分、経済活動も縮小して行かざるを得ない。
また、この不景気には公共事業は、雇用対策の観点から見ても、徒に削るべきではない。
今回の削減で、いくつもの工事中止が決まった結果、建設業界は大打撃を受けている。
今回の天災が、そうしたことに多くの人々が気付くきっかけとなれば良いのだが、そうなるためには政権与党と新聞社の二つと、情報戦で戦わなければならない。
建設業界が公共事業の受注で、一部の国会議員と癒着していたことが一時期、大きく報道された結果、「公共事業悪玉論」がすっかり広まってしまったが、この件は突き詰めれば、その癒着構造が問題なのであり、公共事業を悪とするのは、論理のすり替えではないだろうか?
いつの間にか、「公共事業悪玉論」が話題の中心になり、それに絡んでいた議員のことは、忘れ去られてしまった。
ここで、巧みな世論誘導が行われていたことに、多くの国民は気が付いていない。
彼等は今も政界で暗躍している――ラスター・マッシュモールがその筆頭である。
政府が機密費から、一部の記者や評論家に金をばら撒いていることを、アークは知っている。
暗に口封じを迫られている彼等は、与党に批判的な言論を避けようとするだろう。
民主主義国家を標榜しているオズウェルドだが、裏では言論弾圧が行われている。
現政権は、民主主義の仮面を被りながら、全体主義国家への道をひた走っているのだ。
そこまで考えて、溜め息をついた。
教会の癒着問題で、不正献金を受け取っていたエテルナ・モルグローブを追い詰めはしたが、親玉のラスターは悠々と暮らしている。
彼等の繋がりを示す明確な証拠は、見付からなかったのだ。
(……だが、打ち込む矢はまだ何本もある)
ラスターは後ろ暗いことを数多く行い、権力を握った男である。
それは裏を返せば、叩けば、いくらでも埃が出ることを意味している。
そんな人物であれば、普通なら新聞の格好の餌食になりそうなものだが、金と暴力による脅しを受けて、ほとんどの者が口を閉ざしてしまうのだ。
(俺は、お前の脅しには決して屈しない)
アークは、暗殺者を差し向けられようが、ほとんど討ち取れるだろうと思える程には、自分の腕に自信がある。
そもそも、今の活動を始めた時点で、命など惜しくはなかったが。
ラスターの権力の源は金だ。
私兵を使って、力で人を脅せるのも、結局は金があるからだ。
彼の周囲からじわじわと追い詰めていき、その資金源を断つのが、アークの狙いである。
今の与党は自分達は不正に金を得ておきながら、赤字で財政が苦しいためと言う言い訳を使って、増税をしようとしている。
財政再建の名の下に、無駄な事業の削減を図っていると吹聴するが、自分達に擦り寄る団体の無駄には目を瞑っている有様だ。
一方で、選挙で票を得るために、補助金という名の税金をばら撒いている。
――現政権が長く続けば、この国は滅茶苦茶になってしまう。
この国を立て直すためには、実質的な権力者である幹事長のラスターを、引きずり下ろさねばならない。
何が何でも、それを成し遂げなければ、この国に未来はない。
(見てろよ。俺は絶対、あんたを追い詰めてやる)
心中でそう吐き捨てた後、アークは目の前の書類に意識を戻した。
現在は、城のとある一室で計画を練っている最中であったのだ。
書類は、ラスターに体する「第二の矢」に関わるものである。
憂えていても、現状は変わりはしない。
とにかく、考え得る限りのことを、一つ一つ実行に移すのみ。
頭を切り換え、思索に耽り始めたアークの耳には、窓の軋む音はもはや遠くなっていた。
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