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  recall 作者:神﨑由宇
第1章
9「運命」
 エルアノーラのぶっ飛んだ台詞に、亜希はしばしの間、固まった。

「……何ですか、そのファンタジーな設定は……?」

「設定ではない。紛れもなく事実じゃ」

 真顔で淡々と言われるのを聞いているうちに、怒りがこみ上げて来た。
 
(――人のことを馬鹿にしてるのか)
 
 これがもし夢だったなら、怒るなんて馬鹿馬鹿しいと思うが、それでもこの感情に蓋をすることは出来そうにもない。
 今まで、元の世界に帰るために数え切れない程の本を読み漁って来たのだ。 
 来たいと思って来て等、いない。

「ふざけるのも大概にして下さい。自ら志願? 冗談じゃない――こちとら、帰りたくて堪りませんよ」

「少し、落ち着け――覚えていなくても、それが普通じゃろう。人は生まれる際、前世までの記憶を封印されることになっておるからの」

「前世……? 仮に貴方の話が本当であったとして、何故、こんなに重要な話を思い出せなくさせられたんですか?」

「例を挙げて考えてみれば良い――仮に、そなたが前世、本に載るような偉人だったとしよう。そのことを記憶したまま生まれて来て、のびのびと生活出来るのか? 前世の自分と今の自分を比較しながら、いつも、劣等感に苛まれる可能性がないと言えようか」

「それは……確かにそうですが」

「妾がこうして、そなたの記憶の一部を明かしているのは、例外措置じゃ。本来なら、思い出しても差し支えない境地にまで達するか、死ぬまで記憶は戻らない――が、今回そなたは他惑星へ渡ると言う、稀な人生を自ら計画して来たため、記憶がない故に精神に混乱を来すことがないよう、早めにこのことを明かすこととなったのじゃ」

「……私の精神面を気にするのなら、地球にいる時点で教えて下さった方が、ショックが幾分か少なかったと思いますが」

「妾や地球の神々も、当初はそうするつもりであったが、そなたの国は近年、人々の心が曇り、随分悪魔が幅を利かせておったのじゃ。まあ、それはこちらも同じじゃが……唯物論に支配されていないだけ、若干こちらの方がマシでな。神の力が振るいやすかったのじゃ」

「訊いておいて何ですけど、もう……話がぶっ飛びすぎてついていけませんね。これが夢だったら、自分の想像力の豊かさにびっくりです」

「夢ではないと言っておろうに――たとえ思い出せずとも、そなたの魂には、あの世にいた時のことがしっかりと刻まれておる」

 そこで言葉を切ると、エルアノーラはすうっと宙を滑るように移動し、亜希のすぐ前で止まり、胸にこつんと拳をあてがった。
 
「どうじゃ。まだこちらに来てわずかなのに、我が国の民に、情が湧いておるのではないか?」

「!……それは……」

「ないとは言わせぬぞ、亜希よ。そなたは向こうで、国のために活動しておったことを妾は知っておる。そのそなたが、母国そっくりの我が国を見て、心が揺れぬ筈がなかろう?」

 告げられた台詞にどきり、とした。
 ――エルアノーラの指摘は、図星だったのだ。
 
 昨今の不景気で就職に不安を覚え、情報収集のために新聞記事を読み始めたのがきっかけで、政治に関心を持った。
 ネットで色々と調べるうちに、選挙で勝つために、平気で日本を外国に売ろうとしている政治家が多数いることを知った。
 また、マスコミが売国政治家と裏で繋がっており、彼等に都合の悪い報道が流されず、多数の国民が、偏向報道で洗脳されてしまっていることも。

 少し前までは、何だかんだ言いつつも、日本は他国に比べれば平和な国だと思っていたのだが――とんでもない。
 国民が平和ボケしている裏で、実際は内戦状態にあったのだ。
 国のために何かしたいと思いながらも、ネットでのささやかな啓発活動しか出来ない自分に、辟易する日々を過ごしていた。
 
「我が国にそなたが来ると知った時、妾は本当にうれしかった」

「……私は……!」

 そんなに立派な人間ではない。
 大した特技もなく、一般の人よりは若干、情報を持っているだけのちっぽけな存在なのだ。

「そなたは些か、自己肯定感が低い。良い物を持っているのにな――――おっと、そろそろ時間じゃ」

 すっとエルアノーラが視線を下に向けたので、亜希も同じ方向を見ようとした瞬間、目を手で覆われた。
 
「ちょ……何を!」

「良いか。今はまだ納得出来んじゃろうが、そなたがここに来るのは運命であったのじゃ。そして、使命を果たせば元の世界に帰ることが出来る」

「え……?」

「お望みとあれば、元の時間軸に返すことも可能だから、安心するが良い。そなたの使命は『この国を立て直すこと』。それを成し遂げるまでは、自力で足掻いても、帰ることは適わぬ」

 何かに急かされるように、早口でエルアノーラは言葉を紡ぐ。
 
「では、また会おう――亜希」

 ――声が遠くなった。
 これは意識が途切れる、もしくは夢が終わる前兆なのだと、根拠もないのに本能でそう理解していた。 
 ――まだ、訊きたいことがあるのに……!

「待っ……!」

 待って、と言い終える前に、亜希の意識は途切れた。


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