私は子犬を拾った。
中学3年の春に。
家の近くの高架橋に迷子になっていた君と出合った。
小さい子犬で、色は茶色と白。
足が真っ白で靴下を履いたみたいだった。
ベルって名前をつけた。
悪戯が大好きで、すぐじゃれてきて。
ペンや鉛筆、部屋の壁、色んな所を噛んだり、
私の布団に間違えてトイレをしたり。
朝はほえて、近所の人が来てもほえて。
夜は誰かの部屋に入れてもらえないと寂しくて
部屋の前で入れてくれるまで鳴いた。
じゃれてしつこく噛んできた事もあったね。
しつけ教室にそれで通いだしたんだった。
ベルが来てから私の家族はベルに毎日振り回されてばかりだった。
綱が外れたら、一目散に逃げて行ったね。
私と家族皆で一生懸命さがして、
保健所まで電話して。
なのに1日たったらうちの前に座って待っていた。
お父さんは心配して損だったなんて言ったね。
お母さんは喜んでお菓子をベルにたくさんあげたね。
私が高校に入学して、はじめてバイトで買ったものは
ベルのオヤツだった。
高校の制服を悪戯して破いた事があったね。
服はボロボロで私や母さんがすごいベルを怒った。
靴もどこかに隠して、見つかると靴をくわえたまま走って逃げて。
ベルが来て沢山楽しかった。
でも君は私より歳を取っていくね。
予防接種、痛くて鳴いていたね、
家に帰ってもしょぼんとテーブルの下に隠れて。
大学に入って私は、あまりベルとあえない日が多くなったね。
バイトしたり、遊んだりして。
でも家に帰れば
走って出迎えてくれた。
誰より私が来る事を喜んでくれた。
私と家族が喧嘩を始めると一目散に出てきて
ほえてほえて喧嘩を止めたね。
いつの間にか、茶色が多かった顔に沢山白い毛が目立ったね。
いつの間にか私を越していくんだね
ねえ、まだ私は大学生だったね。
なのに君はもう、お年寄りになり始めていた。
大学を出て、家の近くの小さい会社に私は就職した。
就職祝いを家でやって、
ベル、君は私のそばに来てご馳走を分けてくれるのを待っていたね。
目を離したら私のお皿からおかずを取って逃げた。
ねえ、ベルにも真剣に付き合う恋人が出来たんだよって
夜に話したね。
君は聞かないフリをして、でも耳だけ私のほうに向けてた。
君はトイレを間違えたりして、心配になったお母さんが病院にいったんだった
そしたら歳だからって言われたね。
ねえ、ベル、私大人に成ったのに、君はもうお祖父さんなんだね。
でもゴハンだけは目ざとくて、走ってねだりに来たね。
散歩に行けば、走っていた君が冬には立てなくなった。
ねぇベル、私、君にまだ、恋人も紹介してないよ?
私は君にそういったね。
君はただ私を覗き込んで不思議そうにしているだけだった。
春になる少し前に、君は眠ったね。
ねえ、ベル、私まだ30歳にもなってないよ。
ねえ、まだ、まだ君とであってみじかい時間しかたってないよ。
なのに、君はもう玄関を開けたら迎えに来てはくれないんだね。
走って喧嘩を止めに来てもくれない。
ねえ、こんなに撫でているのに、君は起きないんだね
ベル、毎日楽しかった。
楽しかったね
なのに君はもう眠ってしまうんだね。
君に出会えた。
私やっと大人になったのに、
君はもう寝てしまうんだね。
ねえ、ベル
ベル
ベル、もう眠る時間だったんだね
おやすみ
ベル
でも、また
また君が目を覚ましたら
ねえ、また私の所に来て。
おやすみ ベル
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