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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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今からでも

《サイド:天城総魔》

あれは…3位の沙織だな。

息を切らせながら近づいてくる人物に気付いて足を止めてみた。

俺に会いに来たのだろうか?

単なる偶然ということもありえるがどちらが正解かはわからない。

沙織に関して知っていることはほとんど何もないからな。

名前と容姿。

そして魔力の波動くらいだ。

とはいえ、魔力が感じられるからこそ間違えることはないだろう。

魔力の波動は固有のものだからな。

人それぞれに異なるからこそ、
一度覚えてしまえば間違えることはない。

なにより、魔力の総量が他の生徒よりも圧倒的だからな。

翔子や北条を大幅に上回る魔力の持ち主を他には知らない。

何を思って近づいてきたのかは不明だが、
何か伝えたいことがあるようだな。

真剣な眼差しをこちらに向けている。

実際にどうかは知らないが、俺を探していたのだろうか?

その理由に興味はないが。

だからと言って、わざわざ追いかけてきた人物を無視するわけにはいかないだろう。

ここで逃げ出したところで追われなくなるわけではないからな。

面倒なことに巻き込まれるのはごめんだが、
話くらいは聞いておいたほうが無難だろう。

「俺に何か用か?」

手を伸ばせば届く距離にまで近づいてきた沙織に問い掛けてみると、
沙織は呼吸を整えながら一度だけ小さく頷いた。

「え、ええ。忙しいところごめんなさい。だけど、どうしてもあなたに会って直接話したい事があったの」

どうしても、か。

何の話かは知らないが、
真剣な表情を浮かべる沙織の瞳を見れば、
それなりに重要な話なのは感じられる。

ただ、現時点で共通の話題となりそうなことはそれほど多くないからな。

おそらく翔子に関する話だろう。

医務室に運ばれた翔子は死にかけていたからな。

かろうじて助かる範囲内だったことで治療が間に合ったが、
あと数分遅れていたら脳死が確定していただろう。

そうなれば俺の魔術でも治療は間に合わなかったと思う。

だからそこまで翔子を追い込んだことに関して愚痴の一つでも言いに来たのではないかと考えたのだが、どうやら沙織の目的はそうではないようだ。

「お礼を言わせて欲しいの」

お礼だと?

愚痴ではなく、礼がしたいと沙織は言った。

正直に言えば予想外の発言だったな。

沙織から礼を言われるようなことなど何もしていないからだ。

少なくとも身に覚えがない。

何の礼だろうか?

疑問を感じて怪げんな表情を浮かべると、
沙織は笑顔を見せてから深々と頭を下げた。

「翔子を助けてくれたでしょ?そのお礼が言いたかったの」

ああ、そのことか。

そういうことなら理解できる。

沙織の言葉を聞いたことで、
ようやく言いたい事が理解できた。

瀕死の翔子を治療したことで、礼を言いに来たらしい。

確かにそれが理由であれば沙織が頭を下げるのも分からなくはない。

親友の命が助かったんだからな。

感謝するのも当然だろう。

ただ、それ以前の問題として翔子を死の危機に追い込んだのも俺だ。

だからこそここで罵られても文句は言えないと思っていたのだが、
沙織としては感謝してくれているようだ。

「翔子を助けた礼か」

「ええ、そうよ」

頭を上げた沙織の表情に何らかの思惑があるようには見えない。

心の奥底でどう考えているのかはわからないが、表面上は喜びを表しているように見える。

「ありがとう。あなたのおかげよ」

俺の行動を喜んでくれる沙織だが、
この状況はどうなのだろうか?

俺としては感謝されたくて手を貸したつもりはない。

ただ単純に翔子には幾つかの借りがあるからな。

それに北条にも各会場での試合に関して手を貸してもらった恩がある。

それらを返すために自分に出来ることをしただけだ。

だから礼を言われるようなことをしたつもりはない。

「翔子には借りがあったからな。借りを返しただけだ」

「そうなの?」

ああ、そうだ。

結果がどうであれ、
無抵抗の翔子から魔力を奪っていたことは事実だからな。

翔子を助ける為に力を使ったことは事実だが、
それは朝の時点で翔子を意識不明の状態に追い込んだ責任を取るつもりで借りを返しただけに過ぎない。

少なくとも翔子の魔力を奪い取ったことで、その後の試合が有利に進められたことは事実だからな。

その恩を返すために瀕死の翔子の治療をしただけだ。

「翔子には世話になったからな。俺にできる範囲で恩を返しただけだ。だから礼を言われるほどのことはしていない」

俺としては礼は必要ないと伝えたことで沙織は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、
そのあとすぐに今までとは違う満足そうな笑顔を見せた。

「やっぱり…来てよかったわ」

どういう意味かはわからないが、沙織としては満足できたようだ。

喜びを笑顔で示してから、沙織は再び頭を下げた。

「翔子を助けてくれてありがとう」

先程よりも気持ちのこもったお礼に思えた。

礼はいらないと言ったんだがな。

さすがに何度も頭を下げられると、どうすればいいのかわからなくなってしまう。

俺としては誰かの為に行動したつもりなんてないからな。

結果的にそうなったとしても、
それは自分自身の考えで行った事だ。

感謝してもらいたくてしたわけではない。

だからこんなふうにお礼を言われると照れ臭い気がしてしまう。

「頭を上げろ。感謝される覚えはない」

周りがどう思うかに関係なく、恩を返しただけの事だ。

そこには善意も悪意も存在しない。

ただやりたいことをしただけだ。

はっきり言えば自己満足といってもいいだろう。

それなのに、沙織は自分の想いを変えようとはしなかった。

「いえ、あなたにそのつもりがなくても、私はあなたに感謝しているわ」

頑なに自らの想いを伝えてくる。

こうなるともう何を言っても無駄だろう。

沙織にとって俺の考えはどうでもいいようだからな。

翔子が助かったこと自体に意味があるのだろう。

俺には分からないが、
見ず知らずの他人に頭を下げるほどの特別な想いがあるのかもしれない。

「まあ、何にしても翔子が無事でよかったな」

「ええ、そうね。あなたのおかげよ」

「それはどうだろうな?」

翔子を死なせかけたのも俺だからな。

俺のおかげというのは違うだろう。

そう思って沙織の言葉を否定してみたのだが…。

「いいえ。思った通りの人で良かったわ」

沙織はまっすぐに俺を見つめて微笑んでいる。

本気で言っているのだろうか?

沙織の表情から悪意は感じられない。

だとすれば。

実際にどう思っているのかは知らないが、
翔子を助けたことで好感を持ってもらえたのかもしれないな。

それほど翔子が大事だということだろう。

二人の関係がどういうものなのかは知らないし、知りたいとも思わない。

そもそも気に入ってもらえるような行動をとったつもりもないのだが、
ここは聞き流しておくのが最善だろう。

わざわざ突き放すような発言をする必要はないが、
無理に仲良くなる必要もないからな。

沙織の目的が礼だというのならそれでいい。

その目的はすでに果たされた。

これ以上、話し合うことは何もないはずだ。

「用件はそれだけか?」

早々に話を切り上げて話題を変えようとすると沙織は素直に頷いた。

「ええ。会ってお礼が言いたかっただけだから、他には何もないわ」

正直に答えた沙織の表情は満足気だ。

本当にもう何もないのだろう。

その嬉しそうな笑顔を見つめながら改めて沙織と向き合うことにする。

ちょうどいい機会だからな。

今なら話を進められるだろう。

こちらから捜しに行く手間が省けたのも好都合だ。

「以前、言った事を覚えているか?」

「以前?」

小さく首をかしげながらも優しく微笑み続けている沙織だが、
次の一言によってその微笑みは凍りつく。

「次の相手は…おまえだ」

「!?」

次の対戦相手として指名した瞬間に、沙織の表情から笑顔が消え去った。

「…そう、そうだったわね。」

沙織は言葉を詰まらせているが、こちらは容赦なく言葉を続ける。

「おまえの都合にあわせる。好きな時間を指定しろ」

淡々と語ることで沙織の精神を追い詰めていく。

逃がすつもりはないという考えをはっきりと伝えるためだ。

「もちろん、お前の準備が整うまでは待ち続けるつもりだ」

「………。」

改めて宣戦布告したことで覚悟を決める瞬間がきた事を自覚したようだ。

「いつでもいいの?」

「ああ、今からでも構わない」

「っ!」

俺に準備は必要ないという意図が伝わったようだな。

沙織は悔しげに小さく唇を噛み締めていた。
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