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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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魔剣の名前

試合開始を宣言してからすぐに俺は後方に下がったんだが、
総魔達は誰一人として動かずに魔力を両手に集め出した。

何のためかは分かるよな?

それぞれにルーンを発動してるんだよ。

試合開始から数秒で、
総魔、岩永、大森それぞれのルーンがほぼ同時にその姿を現した。

総魔の手にあるのは妖しく光る魔剣。

岩永の手にあるのは激しく燃え盛る炎槍。

大森は青白く帯電する短剣だが、両手で二本握られている。

あいつにとっては研究所以来らしいが、
実物を目にしたのは二度目になる他人のルーンだな。

研究所で見たはずの『光剣』とは全く別の武器だが、
岩永と大森のルーンは一目見ただけで分かる属性を持っている。

岩永は『炎』で大森は『雷』だ。

どちらも並の魔術では生み出せないような強烈な威圧感を放っているが、
俺や翔子のルーンと比べればまだまだ格下だな。

あいつの魔剣と比べても遥かに下だ。

まともにぶつかり合えば魔剣にぶった切られる可能性があると思うが、
実際にどうなるかはやってみないことにはわからねえ。

轟々と燃える炎を宿す長槍とバチバチと放電する二本の短剣はどちらの属性も術者には害がない。

ルーンを握る岩永と大森の手に影響はねえ。

もちろん俺はそんなことはすでに知っているが、
あいつは感心していたようだな。

実際にルーン同士で戦うのは今回が初めになるあいつが魔剣でどの程度まで抵抗できるのか?

その結果に興味を引かれる部分はあるんだが、
その前に気になる事が一つあった。

あいつの視線が大森の両手に向いていることだ。

左右それぞれに握られた『二本』の短剣。

二つ同時に存在するルーンを眺めていたことで、
あいつが新たな知識を手に入れたのは一目瞭然だったぜ。

『複数のルーンを所持出来る』

その事実をあいつは知ったんだ。

ただ、この方法には重大な欠陥がある。

もちろんその欠点にあいつは気づいていると思うが、
ルーンの複数化は実はあまり意味がねえ。

ルーンは術者の能力を反映するっていう特性があるからな。

複数同時に所持したところでルーンの能力を変える事は出来ねえし。

複数同時に発動しても全て同じルーンしか作れないからな。

手数を増やす程度の意味はあっても攻撃力は上がらねえ。

攻撃力を上げるためにはルーンに大量の魔力を込めるしかねえんだ。

込めた魔力が多ければ多いほど能力が向上するからな。

つまり二つ作れば単純計算で全力の一本の半分の力しかない事になっちまう。

複数所持は手数が増える代わりに威力が低下するという致命的な欠点があるってことだ。

その欠点を考慮した上でどちらを優先するかが問題になるわけだ。

二刀流で手数を増やすのか?

それとも全力の一本を作り出すのか?

今のあいつの魔力なら力を分散したところで目の前のルーンに遅れをとるような事はねえだろう。

だがそれは実際に試してみない事には分からねえ。

やってみるのもいいとは思うんだが、
その考えはすぐに振り払ったようだな。

おそらく理由はただ一つ。

『必要がない』からだ。

あいつのルーンの特性は対象の魔力を切り裂く事にある。

そこを考えれば一本あれば十分だろ。

二本あっても効果が倍増するわけじゃねえんだ。

むしろ、攻撃力を低下させてまで二本にしても吸収の能力まで低下したら意味がねえ。

戦いで勝つことを考えるのなら確実に魔術を断ち切ることが最優先だろ?

そもそも二刀流にしたとしても上手く立ち回れる保証もねえんだ。

むしろ両手が塞がることで魔術の発動そのものが行いにくくなる可能性が高い。

臨機応変に行動するという意味ではあまり意味がないのは分かるよな?

おそらくあいつも同じ結論にたどり着いただろうぜ。

興味はありそうだったがルーンの複数化を行う様子はなかったからな。

現段階では『量よりも質』が優先なんだろう。

魔剣を右手で握りしめて左手を自由にしている。

今までと同じ構えになるが現時点では最も効率のいい構えなのは間違いねえ。

魔剣が主武装だからな。

状況に応じて魔術による攻撃と防御を使い分ける。

それがあいつの戦闘方法だろう。

これまで培ってきたそれらの技術を今ここで変える必要はないと俺も思う。

そこまで考えてから、俺は岩永と大森に視線を向けた。

あいつに対する岩永と大森はお互いに見慣れたルーンに関して思う事は何もないはずだ。

ただ未知の能力を持つあいつの魔剣をじっと見つめている。

とはいえ一目見ただけでどんな能力を秘めているのかなんて分かるはずもねえ。

単純な属性を持つ剣ではない事はすぐに理解出来るだろうが、
それがどんな力なのかまでは全く分からないだろうな。

明るくもあり、暗くもある。

妖しく揺らめく不気味な光を放つ長剣。

その見た目だけで判断はできねえが、おそらく闇の属性だろう。

俺から見てもそれだけが唯一の感想だ。

「まあ…考えるよりもまずは、やってみるべきかな」

黙って見ていても仕方がないと判断したんだろう。

小さな声で呟いた大森が両手の短剣を構え直した。

その動きを横目で眺める岩永が追撃の準備を始める隣で大森の必殺の一撃が放たれる。

「行くぜ!!雷王らいおう!!!」

その場からは一歩も動かない大森だが、
頭上で交差させた両腕を一気に振り下ろして全力で短剣を振り抜いた。

その瞬間。

交わった剣筋の軌道に沿って光が生まれて十字に広がる雷撃が一直線に放たれる。

「ほう」

予想していた以上の威力だったんだろうな。

これまで見てきたどの雷撃魔術よりも鋭く速く放たれた雷撃を見て、
あいつは素直に感心していたようだった。

もしも魔剣がまだなかったら?

あるいは霧の結界がなかったら?

大森の攻撃を防ぐことなんて到底できなかっただろうぜ。

だが、今のあいつにはどちらもある。

「これがルーンの力か」

研究所で見た光剣のような威力は感じられなかっただろう。

だがそれでも、あいつを一撃で倒せるだけの破壊力はある。

「良い攻撃だ。だが、どれほど威力が高くとも単発攻撃なら切り裂くのは簡単だ」

これまで戦ってきた各会場の試合場と比べて倍近い広さがあるこの試合場だからこそ、
あらゆる攻撃が相手に届くまでには当然倍の時間が必要になっちまう。

その距離を有効的に活用するために。

あいつは少しずつ後退しながら迫り来る雷撃を魔剣で一刀両断に切り捨てた。

「確かに速い。だが、それでもまだ対応できる範囲内だ」

はっきりと宣言しているが、
その発言そのものが異常だと大森は感じていたようだな。

「んな、馬鹿なっ!?雷撃の速度を見切れるわけがねえだろっ!?」

自然の雷のように音速を超えて、とは言えねえんだが、
それなりに近い性能は持ってるだろう。

光を感じた瞬間には既に標的は貫かれているはず。

そうなると思っていたようだ。

それなのに、現実はその結果を迎えなかった。

「ありえねえっ!」

目の前の出来事が信じられずに全力で叫んだ大森が再び魔力を込めて短剣を振り回す。

今度は手数を重視した雷撃の乱舞だ。

大森が短剣を一降りするごとに、
あいつ目掛けて高速の雷が放たれる。

その数は30秒ほどで百に迫る数になって、
強烈な光のせいであいつの姿が見えなくなるほどだったな。

「これならどうだっ!!」

徹底的な連続攻撃による数の暴力。

絶対的な勝利を確信しつつも動きを止める事なく放ち続ける雷は自然の法則を無視して縦ではなく真横に向かって飛んで術者の意のままにあいつを襲っていく。

大森の魔力が付きるまでの乱舞だ。

その攻撃が一分以上続き。

合計で300近い雷が放たれた。

そして疲れを見せた大森が動きを止めると同時に雷が発する光も消えさった。

攻撃のあとに残るのは試合場に倒れるあいつの姿だけだろう。

大森も岩永もそう思っていたはずだ。

だが、その予想はあっさりと覆される。

「この程度か?」

ルーンを構えたままであいつが平然と立ち続けていたからだ。

あれほどの攻撃を受けてもまだあいつが負傷した様子は見られない。

全くの無傷だ。

その姿を見た岩永と大森は共に驚愕の表情を浮かべていたな。

大森にしてみれば最強の一撃だ。

そして岩永にしてみれば散々自分を苦しめた恐るべき攻撃だったんだぜ?

それほどの攻撃をあいつは難無く受け止めて見せたんだ。

それも無傷で、だ。

300を越える大森の攻撃は、
たった一発すらも当たる事なく全て回避されてしまっていたようだな。

その理由は俺でもわからねえ。

だからこそ理解が追いつかないという事もあったんだろうが、
光であいつの姿が見えなかったという事の方が大きいだろう。

驚く大森を庇うように今度は岩永が前に進み出た。

「正直驚いた。今の一撃で勝てると思ったのに、それが無傷とはな」

岩永はあいつを真っすぐに見つめながら、手にしている槍を構える。

「次は俺だ。そのルーンにどんな力があるのか見せてもらう!」

次は自分の番だと宣言した岩永は槍を構えたままであいつに向かって駆け出した。

「燃えろっ!!(ほむら)!!」

突き出した槍の先端から炎の塊が生まれてあいつに向かって放たれる。

真っ赤に燃える紅蓮の炎だ。

最上級魔術に匹敵するほどの炎があいつに接近する。

そして放たれた炎のすぐ後ろからは岩永自身が突撃を続け、
槍の刃が迫って来ている。

「今度は二段攻撃か」

あいつは魔剣で紅蓮の炎を切り裂いてから返す刃で槍を横薙ぎに払った。

二段斬りってやつだ。

金属が打ち合うかのような甲高い音が会場中に響き渡ったその瞬間。

「なっ!?どうしてっ!?」

至近距離に接近していた岩永は、
真っ青な表情を浮かべながら前のめりに試合場に倒れ込んだ。

その姿は無様としか言いようがなかったな。

だがまあ、笑うに笑えない状況ではあったな。

「な、何がっ!?」

岩永が驚く理由。

それはただ一つ。

岩永の手にあったはずの槍が消失していたからだ。

驚きと共にぶざまに倒れた岩永だが、
そこで呆然とするほど馬鹿じゃなかったようだ。

何が起きたのかが分からなくても戦闘中だからな。

岩永は即座に体勢を整えてあいつとの距離をとって離れた。

ただ、後退して時間を稼いでも何が起きたのかは分からねえようだ。

岩永はじわじわとすり足であいつから離れていく。

その行動をあいつは黙って見逃している。

後方にいる大森が驚きを隠せないながらも、
虎視眈々とあいつの隙を窺っていたからだ。

不用意に動かずにあいつは静かに岩永の動きを目で追っていた。

その結果として岩永と大森の二人に挟まれる形になってしまったものの。

形勢は明らかにあいつが有利だ。

二人の攻撃を難なくさばきながら、
あいつはまだ開始線から一歩も動いていなかったからな。

一歩も動く事のないまま圧倒的な実力差を見せ付けたんだ。

あれは俺でも真似できねえな。

まあ、じっとしてるのが性にあわねえってのが本音だが、
あいつは余裕の態度で岩永を跳ね除けてたってことだ。

「俺の槍に何をしたんだっ!?」

怒鳴り散らす岩永に視線を向けていたが答える事なく静かに魔剣を構える。

ただそれだけで危険を感じたんだろうぜ。

「………。」

岩永と大森はどちらも冷や汗を流しているのが見える。

そして怯えとも言える表情を浮かべているようだった。

「もう少し楽しめるかと期待していたんだが、それほどでもないようだな」

期待していたほどではなかったらしい。

侮蔑の言葉を呟いたあいつが静かに宣告する。

「お前達に一つだけ教えておこう。このルーンの名を…」

この瞬間だけは岩永と大森だけじゃなく、
続くあいつの言葉に対して俺もしっかりと耳を傾けていたな。

「ルーンの名はソウルイーター。全てを喰らう魔剣だ」

その言葉をきっかけとして試合場を駆け出したあいつは、
力を失った岩永を容赦無く斬り捨てた。

回転斬りとでも呼ぶべき高速の一撃だったな。

左肩から右脇腹まで一直線に斬られた岩永の体から激しい血しぶきが飛び散る。

「ぐぁぁぁっ!!!」

物理、精神、魔力。

それら全てを斬られた岩永が試合場に崩れ落ちた直後に、
仲間が倒れたことで怯える大森に攻め込んだあいつは手加減する事なく魔剣を全力で振りかざした。

今度は上段から下段への垂直切りだ。

もしも物理的に斬っていたなら大森は即死していただろうぜ。

だが物理を無効化した魔剣の一撃は大森の体をすり抜けて魔力と精神だけをずたずたに切り裂いた。

「づぁぁぁっ!?」

魔剣の一撃を受けた大森も倒れた。

そして試合場に立っているのはあいつと俺だけになった。

「終わりだな」

岩永と大森の魔力を奪い取った『ソウルイーター』は、
微かに輝きを増しているようにさえ見える。

そこで俺は魔剣の輝きの意味を知った。

あいつが魔剣の名前を宣言したことで、
ようやくルーンの全貌が明らかになったからだ。

試合の全てを見届けたことで微笑みと共に試合終了を宣言する。

「間違いない。試合終了だ。勝者、天城総魔」

俺の予測通り、あいつの圧勝で試合は終了した。
+注意+
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