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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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食欲

《サイド:美袋翔子》

総魔と試合の約束をしてから別れたあと。

私と沙織は二人で食堂に向かったわ。

理由としては単純にお腹が空いたっていうこちもあるんだけど、
総魔との試合を目前に万全の状態で挑みたいという気持ちがあったからよ。

特に私は一部とは言え、総魔に魔力を奪われているしね。

眠っている間にかなり回復していたけれど、
それでもまだ全力とは言い切れない状態なのよ。

だからまずは食事をしっかりとって体調を整える事にしたの。

人ごみをかき分けて食堂にたどり着くとすでに食堂は大勢の生徒達が集まっていて
騒がしいほどの賑わいを見せていたわ。

時間的にはまだまだお昼時という事もあって各所でかなりの混雑が見られるわね。

「うあ~。いつも思うけど、面倒よね~」

あまりの人の多さにうんざりとした表情を浮かべると、
私を見ていた沙織が小さく微笑んで歩みを進めていく。

「ふふっ。翔子はいつものでいいんでしょう?私が取ってきてあげるわ」

「え~。いいわよ、そんな気を使わなくても」

「大丈夫よ。翔子は向こうで待ってて、ね?」

可愛らしい笑顔で背中を押されてしまい。

私はしぶしぶ空いている席に腰を下ろして沙織が帰ってくるのを待つ事になってしまったわ。




それから数分後。

食料を確保した沙織が帰ってきた。

「おかえり~」

「ただいま、翔子。はい、どうぞ」

沙織に差し出されたのはいつも食べている菓子パンよ。

大事な試合前に菓子パンを食べるっていうのはどうかな?って自分でも思うけれど日々の習慣だからあまり深く考えない事にしておくわ。

…というよりも混雑する列に並んでまで、
まともなご飯を食べようと思わなかっただけなんだけどね。

お手軽簡単に食べられるのなら余計なストレスを感じなくていいと思うのよ。

そんなふうに考え直したことで、
いつものように幸せ一杯の笑顔を浮かべながら菓子パンを手にとってみる。

うん。

今日も焼きたて熱々ね。

この出来たて感が良いのよね~。

「いっただきま~す!」

嬉しそうにパンをかじる私の姿を沙織は楽しそうに見つめてた。

「ふふっ、いただきます。」

行儀よく両手を合わせて挨拶をしてから食事を始める沙織も軽食だったわ。

今日は紅茶とサンドイッチみたい。

沙織の食事の仕草にはそこはかとなく優雅さが溢れ出ているわね。

まるでどこかの国のお姫様と思えるほど気品あふれているのよ。

そんな沙織の存在によって、
ごく普通にパンをかじる私の姿が周囲からは愛らしく見られているらしいわ。

う~ん。

謎よね?

なんで同じように食事をしてるはずなのに、
こうも違いが出るのかしら?

決して私の行動に問題があるわけじゃないはずなのよ。

私だけを見れば普通のはずなの。

むしろ他の女子生徒達よりも可愛らしく見える自信はあるわ。

だけど比較対象として沙織がいるせいで、
私の行動が無作法に見えてしまうみたい。

これはもう仕方のない部分なのかな?

沙織には勝てないのよ。

まあ、だからと言って沙織を真似ようとは思わないけどね。

自分には似合わないと思うし。

気品とか優雅とか、そういう言葉は不釣合だと思うのよね。

そんなことは誰よりも私自身が理解してるわ。

だから周りの視線なんて気にせずに堂々と自分らしく行動しているんだけど、
その前向きな姿勢が私の評価を上げてしまって逆に目立つようになってるみたい。

学園でも超がつくほど有名な私と沙織。

そんな私達が食堂にいることで数多くの生徒達が視線を向けてくるんだけど。

楽しそうに食事をしている私達に近づくような野暮な生徒はいなかったわ。

ただ一人を除いて…だけどね。

「よう!!」

何の迷いもなく私達に近付いて空いている席に座る男子生徒。

見慣れたその人物に私達は微笑みを返す。

「お疲れ様」

優しく声をかける沙織に続いて、私も笑顔を見せてみる。

「お疲れ~」

「はっ、ぶっ倒れてたお前ほどじゃねえけどな」

うわっ。

「その言い方はひどくない?」

「言ってろ。っていうか、俺達が何を言っても聞かねえくせに、あいつにはちゃんと話せるってどうなんだ?」

どうって言われてもね~。

ん~。

まあ、そこはほら。

「信頼関係ってやつ?」

「意味がわかんねえよ」

「だって、あんたはともかく、沙織には心配かけられないでしょ?」

「そこからしておかしいだろ?」

「え~?どうしてよ~」

「どうしてじゃねえだろっ。俺を部外者扱いするんじゃねえ!」

「だって、わりと本気でどうでもいいもん」

「くっ!相変わらずむかつくやつだな」

「ふっふ~ん。私は沙織さえいればいいの。部外者は黙ってなさい」

「ちっ!人が心配してやってるってのに、結局その態度かよ」

「頼んでませんよ~だ」

「ったく、お前はっ!」

テーブルを叩いて怒りを示そうとした真哉の手が
ぎゅっと握り締められたその瞬間に…。

「はいはい。そこまでにしてね」

のんびりと様子を見ていた沙織が仲裁に入る。

「仲がいいのは分かったから食事を済ませてしまいましょう。あまり騒ぐと他の人達の迷惑になってしまうわ」

自分を巻き込むだけならまだいいけれど、
他の生徒にまで迷惑をかけるべきじゃないっていう強い意思がはっきりと伝わる物言いだったわね。

「話は後で、ね?」

甘く優しい笑顔で二人の仲裁を行った沙織に周囲から羨望の眼差しが集まるけれど、
当の本人はそんな視線を気にもせずに気品あふれる仕草で紅茶に口をつけて一息ついてる。

そんな沙織のいつもと変わらない行動に対して、
真哉は笑顔を見せてから手にしていた昼食を食べ始めたわ。

「まあ、沙織の意見ももっともだな。飯が冷める前に食っちまうか」

私との口論をさらっと流して食事に視線を向ける真哉。

その視線の先にある料理は軽食で済ませる私達とは決定的な違いがあるわ。

真哉の運んできたご飯の量は私と沙織を足してから二倍してもまだ追いつかないくらいの量なのよ。

これって異常よね?

「いつ見ても胸焼けする量だと思わない?」

「え、ええ、そうね」

私と沙織からすればすでに見慣れた光景ではあるんだけどね。

だけど真哉のことを知らない周囲の生徒達からは次々と驚きの声が上がっているのが聞こえるわ。

「今日はまた一段と豪勢ね~」

何となく指摘してみると、
真哉は頭を掻きながら答えてくれた。

「ああ、まあな。朝は食う暇がなかったから腹が減ってんだ」

あ~、なるほど。

真哉の一言によって気付いてしまったわ。

朝一番に私が倒れた事によって急きょ呼び出された真哉は今の今まで食事の暇さえなかったみたい。

「ごめんね」

素直に謝る私に真哉は笑顔を返してくれる。

「いや、別に大した事じゃねえ。食い逃した分は今から食えばいいんだからな」

食べられなかった分も食べると言って笑う真哉につられて私も笑顔を浮かべてた。

「ほんと、バカなんだから」

「あ~?お前には言われたくねえな」

再び文句を言い合いながらも豪快に食事を続ける真哉。

そんな私達の会話を聞く沙織も微笑みを絶やさない。

「ふふっ。本当に仲がいいわね」

「え~?そうかな~?」

不本意なんだけど。

「私はそう思うわ」

う~ん。

「納得いかないんだけど?」

「そう?」

「うん。」

本気で納得できないと考えて全力で頷いてみると…。

「ふふっ」

何故か笑われてしまったわ。

「今のはちょっと感じ悪くない?」

「あら、そう?ごめんなさい」

指摘した瞬間に沙織は即座に頭を下げてしまった。

こうなるともう私が悪役になったみたいで、
どうしようもなくいたたまれない気持ちになってしまうわ。

「ぁぅ、ぅぅ…。」

謝ってもらうようなことは何もないのに
本気で謝られるとどうしていいかわからないわよね。

そんなふうに思って困ってしまった瞬間に前方から悪意が降り注ぐ。

「ははっ。親友に頭を下げさせるとか、怖えな」

「はあっ!?元はといえば、あんたが絡んできたからでしょっ!?」

「お前ほどじゃねえよ」

私の怒りを軽く交わしながら、真哉は食事を優先していく。

パンという軽食によってすぐに食事を終えた私達とは違って、
数々の定食をひたすらに食べ続ける真哉は10分ほどが過ぎてからようやく箸の手を止めたわ。

「はあ~。腹一杯」

「食べ過ぎよ」

「これくらい普通だろ?」

そんなわけないでしょ。

「胃に穴が開いてるんじゃない?」

「はあっ!?」

真哉は不満気だったけど。

「ふふっ」

沙織は微笑ましそうな雰囲気で率先して食器を片付けだす。

「少し待っててね。食器を片付けてしまうから」

「あ、だったら私も手伝うわよ」

「翔子はいいわ。ゆっくり休んでて」

3人分の食器を集めてから全て返却しようとする沙織に手伝いを申し出てみたけれど、
沙織はやんわりと手伝いを断って一人で全てを片付けてしまったわ。

そしてものの数分でテーブルの上からは何もなくなったわね。

「さて…と」

沙織が帰って来たのを見計らって、
休憩を終えた真哉が私達に話しかけてくる。

「これからどうするかだが、ひとまず俺の話を聞いてくれるか?」

真面目な表情で話す真哉の言葉を聞いて私達は無言で頷く。

さすがの私も真剣な表情を見せる真哉に余計な言葉は言わないわ。

そこまで自己中じゃないしね。

「まあ、ここじゃなんだ。いつもの場所でいいか?」

場所を変えようと提案しつつ真哉が席を立つと、
自然な流れで私達も席を立つことになった。

時刻はすでに午後2時を過ぎているけれど、
まだまだ食堂の混雑は終わりそうにないしね。

真剣な話をするのにこの騒々しさは耳障りだから、
私達は食堂を離れて場所を変える事にしたのよ。
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