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THE WORLD 作者:SEASONS

4月17日

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ナイトメア

《サイド:米倉美由紀》

ふう…。

みんな限界ね。

だけどここまで戦えれば十分よ。

「あとは私に任せなさい」

翔子達を後退させることにして、
単独でアストリア軍に歩みを進めていく。

アストリア軍の総数は残り5千といったところかしら?

この数ならもう私一人でも押さえ込めるわ。

まあ、殲滅させるほどの攻撃力はないけどね。

足止めくらいなら楽勝よ。

「全軍後退!!龍馬と真哉も下がりなさいっ!!」

大声で叫ぶ私の指示に従って、
龍馬と真哉を含む共和国軍の全部隊が後退し始めたわ。

その瞬間に追撃を開始するアストリア軍だけど。

ここまできたらもう手遅れなのよ。

「私が単なるお飾りなんて思わないでよ?」

戦闘を継続しようとするアストリア軍に向けて両手を突き出す。

「真偽はともかく、共和国最強の魔術師と呼ばれた私の力を見せてあげるわ!」

これまで温存していた魔力を一斉に開放してルーンを発動させる。

煌く光と共に生まれるルーンは漆黒の杖。

ルーン名は『ナイトメア』

悪夢を意味するこの杖は、
まがまがしい闇の色を帯びているわ。

「これが力よ!!」

漆黒の杖から広がるのは暗黒の霧。

「ドリーム・オブ・デス!!!」

死に至る夢。

戦場に広がる霧を浴びたアストリア軍は、
次々と地面に倒れ込んでいったわ。

「ううぅっ…!!」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ああ!!!あああああああぁぁぁぁぁ!!!」

「助け…っ!」

「苦しい…っ!」

「づぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

霧に飲み込まれて苦しむアストリアの兵士達。

その瞳に移りるのは絶望。

そしてその心に流れ込むのは死の恐怖。

「最後に見る夢は…どんな悪夢かしらね?」

地面にはいつくばりながら苦しむアストリア軍に向けて、淡々と終わりを告げてあげる。

精神に影響を与える私の魔術は肉体的な破壊力が皆無だけど。

超広範囲に悪夢という名の絶望を与えることで
精神的に弱り始めているアストリア軍の気力を削ぐには十分な効果があったはずよ。

本来なら足止め程度の魔術だけれど。

今のアストリア兵達の精神状態なら、
意識が破壊されて植物状態になっていてもおかしくないわね。

だけどそれだけだと殲滅には足りないから攻撃も必要にはなるわ。

「さあ、今のうちよ!!龍馬!!翔子!!沙織!!ありったけの魔力を込めて攻撃しなさい!!」

アストリア軍の足止めに成功した私の指示によって、
3人は残る魔力の全てを込めて魔術を発動させてくれたわ。

「中心を狙うよ!!」

「おっけ~!」

「援護するわ!」

今の3人に放てる最高の一撃が動きを止めたアストリア軍に襲い掛かるのよ。

「セイント・クロス!!!」

「ダイアモンド・ダスト!!!」

「マスター・オブ・エレメント!」

3人の極大魔術によってとんでもない爆発が生まれたわね。

響き渡る轟音。

揺れる大地。

一斉に炸裂した3種の魔術によって、
東門を守っていたアストリア軍のほぼ全てが壊滅したようね。

運良く即死をまぬがれた兵士達もいるようだけど。

残数は100にも満たないと思うわ。

「逃げろっ!撤退だーーっ!!」

「退却ー!!退却しろーーー!!!」

かろうじて生き延びたアストリア軍が退却するのを今は見逃してあげる。

本当なら全滅させたいところだけどね。

今は深追いできるほど余裕のある状況じゃないわ。

前線の主力と言える御堂君達はすでに魔力を使い果たしかけているし。

共和国軍の魔術師達もかなりの疲労を蓄積させているからよ。

この状況で砦の内部になだれ込んで、
どこに潜んでいるかもわからないアストリア軍を殲滅していく余裕なんてないわよね。

それこそ場合によってはこちらが反撃を受けて壊滅する可能性もあるわけだし。

無理に残党刈りを行うよりも、
今は魔力の回復を優先させるべきなのよ。

「ふう。疲れたわね」

ルーンを解除して魔力の温存を優先しておく。

たった一度の魔術だけどね。

それでも私の場合。

魔力の消費量は並の魔術師の数倍に匹敵するわ。

「大魔術は魔力の消費が大きすぎて使い所に困るわよね」

魔力の消費だけを見れば翔子のメテオストライク級なのよ。

物理的な破壊力はないけれど。

その代わりに精神攻撃としては最高位に位置しているわ。

「さあさあ!!これでひとまず東門は越えられるわ!あとは残党の殲滅を行いながら他の部隊の援護に向かうわよっ!!」

気合いを入れて宣言してみる。

とは言え。

すでにほとんどの魔術師が戦闘を行える状況じゃないから今すぐにというわけには行かないわね。

「でも今はその前に…」

疲労困憊の仲間達を眺めながら限界ギリギリの猶予を計算してみる。

疲れ果てた表情を浮かべる仲間達の顔を見れば魔力の低下は明らかよ。

ここはひとまず休息をとるべきでしょうね。

「休憩が必要ね…。」

まだまだ無理はできないわ。

戦えない戦力で進軍しても意味がないのよ。

「砦に攻め込む前に少し休憩をとるわよ!ある程度まで魔力が戻り次第。他の門への援護に向かうから、周囲の警戒は継続しつつ魔力の回復を優先するように!!」

ひとまず休憩を指示を出した瞬間に。

「はあ…。やっと終わった~」

翔子がため息を吐きながらその場に座り込んでいたわ。

「もうしんどい…。」

ええ、そうね。

本気で辛そうに見えるわ。

だけどまあ、その気持ちは理解できるわね。

肉体的な疲れ以上に精神的にきついからよ。

私もそうだけど。

一生徒でしかない翔子達は特に辛いでしょうね。

戦闘の訓練もなにも受けていない状態で、
戦場の最前線に送り込まれてしまっているわけだから。

どれほど学園で実技試験を繰り返していても命懸けの緊張感がなくなりはしないわ。

それに殺人という罪の重さも実感してしまうことで、
吐き気すら感じるほどの目眩に襲われているようね。

「ふう」

静かに周囲を見回してみる。

力尽きているのは翔子だけじゃなくて龍馬や沙織も同じ様子よ。

直接戦闘に参加したわけじゃない深海さんと悠理さんと武藤君は呆然と戦場を様子を眺めているわね。

唯一元気そうなのは北条君だけかしら?

まあ、空元気というか、単なる強がりでしょうけれど。

他の魔術師達も極度の疲労を感じているようで深々とため息を繰り返しているわ。

「辛いけれどね。これが戦争なのよ…。」

翔子にさえ届かないくらいの小さな声で呟いてみる。

実際問題、私だって精神的にかなり追い込まれているからよ。

まあ、嘆いたところで状況は改善されないんだけどね。

「これはまだ序盤なのよ…。」

積み重なる死体と崩壊した防壁。

これらはまだ砦攻略の始まりでしかないのよ。

それでも戦いの傷跡が、戦争の凄惨さを物語っているように思えるわね。
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