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THE WORLD 作者:SEASONS

4月17日

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せめてあの世で

「何故だっ!?何故、死を選ぶ必要がある!?」

戸惑い続ける俺に、
今度は別の子供が襲い掛かってきた。

「うわああああああ!!!!!」

錯乱しながら突撃して来る少年の手にも少女と同じナイフが握られているのが見える。

理香りかぁぁぁぁ!!!!」

泣き叫びながら襲い掛かってくる少年は少女よりも僅かに年上だろうか?

だとしたら。

この少年は少女の兄なのかもしれない。

…などと。

些細なことを考えている間に、
少年は憎しみを込めた瞳で俺を睨みつけてきた。

「お前達さえいなければっ!!」

叫び続ける少年が襲い掛かってくる。

ナイフでの攻撃。

その動きはただの素人だ。

訓練も何もしていないでたらめな攻撃でしかない。

それでも足を負傷してしまった俺には十分すぎるほど危険な攻撃といえる。

「待つんだっ!!」

呼び掛ける俺の声を無視して、少年は全力で切り掛かってきた。

その攻撃を回避しきれなかったことで再び足を切られてしまうことになった。

「くっ!」

軽傷だが、右足を斬られてしまっている。

これで両足を負傷したことになる。

だが、身を呈したおかげか、少年を捕らえることはできた。

「落ち着くんだ!」

「うるさいっ!!放せぇっ!!」

必死に逃げ出そうとする少年だが、
ここで逃がすつもりはもちろんない。

止血する暇がないためにまだ突き刺さったままのナイフの痛みを堪えながらも、
捕らえた少年にもう一度問い掛けてみる。

「何故、こんなことを!?きみまで死ぬつもりなのか?」

「うるさいっ!!お前達魔術師がいるから!お前達のせいで…!!僕達は家族を失ったんだ!!」

家族を失った?

魔術師のせいで?

それはつまり…。

「きみも犠牲者なのか?」

「うるさいっ!!!!」

大声で泣き喚き。

再び襲い掛かろうとしてくる少年だったが、
俺の仲間の放った魔術が少年の体に直撃してしまっていた。

「うあああああああ!!!!!」

炎の矢を受けて燃え上がる少年の体。

その炎を見て一瞬だけ手を離した瞬間に、
少年は炎に飲み込まれて地面に崩れ落ちてしまう。

「わあああああああああっ!!!」

炎に包まれたことで転がるように暴れる少年の姿を見た俺は、
足を引きずりながら必死に歩み寄ってみた。

だが…すでに遅かったのだろう。

「くそっ!!!」

少年はすでに死んでいた。

死因は考えるまでもない。

焼死だ。

俺は何もできないまま、幼い兄妹を死なせてしまったのだ。

「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

二人の死を悔やみながら、周囲の子供達に対して叫び続ける。

「止めるんだっ!!!こんなことをして何になるっ!?」

何とか子供達を止めようとしてみた。

必死に救おうと考えたのだ。

だが、狂気に捕われた子供達は俺の言葉に耳を傾けない。

その手の凶器を振り回し続けて、一人また一人と倒れてしまう。

「何故だっ!?何故、子供達を巻き込んだっ!!!!」

子供達を戦争に巻き込んだのは誰だっ!?

子供達を戦場に放ったのは誰だっ!?

「何故、子供達を犠牲にしたぁぁぁぁぁぁ!!」

憎しみさえ感じながら叫ぶ俺の前に一人の男性が立ちはだかった。

「…犠牲にしたのではない。犠牲にされたのだ」

「お前は…っ!!」

一目見ただけで、その男が誰なのかは思い出した。

アストリア軍の国境警備隊の隊長『兵藤進一ひょうどうしんいち』だ。

今まで何度も敵対してきた男の顔を忘れてはいない。

「兵藤ぉぉぉ!!何故、子供達を巻き込んだぁぁ!」

「何故…か。」

叫び続ける俺を見て、兵藤は微笑みを見せている。

「分からんか?とても簡単な理由なんだがな」

くっくっく、と余裕の笑みを浮かべる兵藤だったが、
その瞳にはどこか影があるようにも感じられる。

これは何か事情があるのだろうか?

だとしてもだ!

人道的に許されることだとは思えない!

「簡単だとっ!?ふざけるなっ!!!」

「いや、ふざけてはいない。だが、それも今はどうでもいいことだ。お前達が死ねば…この子達も満足なのだからな」

兵藤は子供達の亡きがらを避けるように歩みを進めつつ。

まともに歩けない俺に歩み寄ってくる。

「巻き込んだのが俺達なのか?それともお前達なのか?よく考えることだな」

俺の目前に立った兵藤は、帯刀していた剣を引き抜いて構えをとる。

「せめてあの世で子供達に詫びてこい」

兵藤が剣を振り上げた。

今すぐ逃げ出さなければ回避不可能だ。

それが分かっていても足の治療が出来ていないために立ち上がることすらできない。

「ちっ!」

子供達に気を取られ過ぎて接近をゆるしてしまった以上。

今からでは魔術による迎撃も間に合わない。

「魔術師でさえなければ話し合うことも出来ただろう。だが、これも運命だ」

振り下ろされる刃が俺を狙う。

「くそっ!」

痛む足を庇いながら、倒れこむように後退して兵藤の剣をかわした。

だが、その代償として転がる死体に退路を阻まれしまい。

体勢を崩して転げてしまう。

「ちぃっ!!!」

回復魔術を詠唱する隙がない。

痛む足を引きずりながら後退するだけの俺に、兵藤はゆっくりと歩み寄ってくる。

「子供達を思ってくれるのであれば、せめて亡きがらを傷めるような行動はしてくれるな。大人しく俺の剣の餌食となれ」

一方的に告げて構える剣が俺の体を捉えようとしている。

だがその一撃が襲いかかってくる前に一人の仲間が駆け付けてきてくれた。

「隊長!!ご無事ですか!?」

「久志か!すまない、助かった!足をやられて動けなかったんだ」

感謝する俺を庇うようにルーンを構える久志が兵藤と向かい合う。

「兵藤進一か…。」

互いに剣を構える久志が兵藤を牽制して、
一時的に時間を稼いでくれている間に回復魔術を詠唱することにした。

20秒もあれば十分だ。

光の輝きが消えると同時に消え去る傷。

痛みはまだ残っているものの。

今はこれで十分だ。

俺の実力では傷を塞ぐことは出来ても完治まではできないからな。

回復魔術は中の上程度の魔術しか使えない。

そのせいで痛みを感じてしまうが、
しっかりと自分の足で立ち上がることはできている。

今なら走る程度は問題ないだろう。

「ふむ。折角の機会を逃したか」

残念そうに呟く兵藤は、剣を構えたまま少しずつ後退し始めた。

「さすがに2対1では不利だな」

勝ち目がないと判断したようだな。

兵藤は周囲の兵士達を盾代わりにしつつ。

俺達の前から離脱を始めてしまう。

「全ての魂に安らかな眠りを…」

祈りの言葉だけを残した兵藤は、砦の内部へと走り去ってしまった。

ようやく見つけた敵の幹部を取り逃がしてしまったということだ。

「逃げられましたね」

「ああ。だがまだ終わったわけじゃない」

俺の周囲ではまだまだ各地で激戦が繰り広げられているのだ。

気が付けば子供達は全滅しているようだが、全てを殺したとは思えない。

おそらくは自害した子供のほうが多いのではないだろうか?

体にナイフを突き立てている子供の遺体が各地に見受けられるからな。

「自ら死を選んだのか…。」

この結末だけは苦渋の思いを残してくれた。

俺がもっとうまく立ち回っていれば救えた命があったはずだからだ。

なのに、結果は全滅。

子供達は一人残らず死んでしまっている。

「これがアストリアのやり方かっ!!」

不満を感じるが、まだまだ抵抗戦力との戦いが残っている状況だ。

悔やんでいる暇はない。

アストリア軍の死者は1万を優に越えたが、共和国軍の死者も数千単位に増えてしまっている。

おそらく2割は倒れただろう。

「傭兵部隊は大幅に減少。国境警備隊も死者を出したか…。」

それでも城門の突破は達成出来るだろうが、
失った戦力が大きすぎる。

あまり無理をするわけにはいかないだろう。

改めて状況を判断したことで再び決断を下すことにした。

「他の部隊の為に目的を突破から殲滅に移行する」

方針を変えて、部下の久志に指示を出す。

「全部隊に通達してくれ。今より南門の突破を放棄してアストリア軍の殲滅を優先する…とな」

「ああ、了解」

支持を受けた久志は即座に俺から離れていく。

その後。

周囲を取り囲むアストリア軍を眺めながら、大きくため息を吐いた。

数え切れないほどの死体。

多くの仲間の死。

それでも止まらない争い。

「これが戦争か…」

悲しみを感じながらも自らの手にルーンを発動させる。

白銀色に輝く長剣。

『アルビオン』を構えた俺は、再び戦場を駆け抜けた。
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