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THE WORLD 作者:SEASONS

4月17日

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呪いの言葉

「ここは通さないっ!!!!」

「敵だーー!!!」

「殺せ!!殺せ!!」

「死ねーーーー!!!!」

次々と現れる『敵』の姿を見た俺達は動揺してしまうことになる。

「なっ!?」

戸惑ったのは俺だけではないだろう。

共和国軍の誰もが同じだったはずだ。

新たに現れた敵は兵士でも大人でもなかった。

まだ幼い子供達だったからだ。

「馬鹿なことは止めるんだっ!!」

声をかけてみるが子供達は怯まない。

それぞれの手に握られたナイフや包丁を武器として共和国軍に突撃を開始してくる。

子供が持つには危険すぎる凶器だ。

それでも憎しみを秘めた子供達の表情に迷いは見えない。

「みんな死ねばいいんだっ!!」

叫びながら突撃して来る子供達が共和国軍に襲い掛かってくる。

その中の一人が攻撃の手を緩めた俺にも襲い掛かってきた。

「みんな!みんないなくなっちゃえ!!」

幼い少女のナイフが俺の右太ももに突き刺さった。

「くっ!」

油断したというべきなのだろうか?

それとも覚悟が足りなかったというべきなのだろうか?

どちらとも言えるし、
どちらでないのかもしれない。

だがそれでも、
事実として子供達の攻撃を避けることができなかったのだ。

「ち…っ!」

この状況はまずい。

痛みによる苦痛程度は我慢できる。

この程度の負傷で死ぬことはない。

それに魔術による治療さえ行えばすぐに治せるからな。

だから怪我そのものはどうでもいい。

だが負傷してしまった足では走れないのだ。

この状況でアストリアの兵士達に襲われるのは危険でしかない。

…とは言え…。

目の前の子供を切り捨てるのも躊躇われてしまう。

「これで…気は済んだか…?」

多くの仲間達が前進を続ける中で、
俺は目の前にいる少女と向き合うことにした。

まだ10歳にも満たない少女だ。

ナイフを刺されたといって殺すことなど出来るはずもない。

「すぐにここから逃げるんだ。今ならまだ間に合う。戦場から離れて、安全な場所へ…」

例え俺が何もしなくても防壁の上から放たれる矢の流れ弾に当たってしまう可能性があるだろう。

そうでなくとも魔術の攻撃範囲に入ってしまえば助かる可能性など考えられない。

「早く逃げろっ!」

足に突き刺さったナイフを投げ捨てながら逃げるように指示を出したのだが…。

「………。」

少女は逃げるどころか完全に動きを止めてしまっていた。

俺の足から噴き出した鮮血を浴びて怯える少女の瞳には涙が浮かんでいるのが見える。

その涙は後悔だろうか?

それとも恐怖だろうか?

その答えはわからない。

だが、血で汚れた自分の手を眺めた少女ははっきりと分かるほど表情を曇らせていた。

「…わたし…」

呟いた少女の手は真っ赤な血で染まっている。

おそらくは…いや。

間違いなく、人を傷つけたのはこれが初めてなのだろう。

自分の犯した罪を今になって自覚したのかもしれない。

「…大丈夫だ。」

まだ10歳にも満たない小さな少女の肩に、そっと手を置いた。

その瞬間にビクッと肩を震わせた少女の瞳には明らかな恐怖が見て取れたが、
今は気にしていられるような余裕はない。

俺に対して怯えているのは明白だからな。

だからこそ、出来る限り優しく話しかけようと思う。

「怪我はないかい?」

自分のことよりも少女の体を心配したのだが、
やはり説得は無理なのだろうか?

「魔術師は敵なのよっ!!」

少女はきつく睨みつけてきた。

精一杯の声で叫んだ少女は俺の手から逃げ出して、
新たなナイフを握り締めてから再び襲いかかってくる。

「あなた達さえいなければ…っ!!」

握り締めたナイフを武器としてもう一度切りかかろうとする少女だが、
何度も攻撃を受けるほど俺もお人好しではない。

『パシッ』と少女の手を掴んでから、再び問いかけてみる。

「怪我はないかい?」

「うるさいっ!」

改めて問い掛ける俺を睨みつけた少女は必死に暴れて逃げようとしていた。

「うるさい!うるさい!うるさい!放してよっ!!!」

どう見ても話を聞いてもらえるような雰囲気ではないな。

「みんな死んじゃえっ!!!」

闇雲に暴れる少女を説得できるようには思えない。

…かと言って、この場で見殺しにするのもどうかと思う。

「まいったな…。」

少女の扱いに困り果てたことで、仕方なく掴んでいた手を放してみた。

もちろんナイフは奪い取ったうえでだ。

「こんなことはやめるんだ」

少女のためにもならないと思うのだが。

「優しいふりなんてしないでっ!!!」

少女はまだナイフを隠し持っていたらしい。

3本目のナイフを取り出した少女は迷うことなく自らの胸にナイフを突き立てた。

そう。

俺ではなく、自らの胸にだ。

「…な…っ!?馬鹿なっ!!」

突然の出来事に戸惑ってしまう。

「何故、死ぬ必要があるっ!?」

手を差し延べようとしても、
少女の瞳には拒絶の色しか感じられない。

「あなた達を…私は、絶対に…赦さないっ!!」

呪いの言葉だけを残して、少女はそのまま力尽きた。
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