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THE WORLD 作者:SEASONS

4月17日

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遺体への攻撃

《サイド:美袋翔子》

うあ~っ!!

もぉぉぉぉっ!!!!

どうして諦めないのよっ!?

次々と仲間が死んで行くのに、
どうして誰も足を止めようとしないの!?

強引に前衛を突破したアストリア兵は、
後方に布陣していた私のところにまで包丁を持って接近してきているわ。

もちろんその程度の特攻で大人しく殺されてあげるつもりはないけどね。

「だけど!死んでしまったら意味がないじゃないっ!」

慌てて包丁を回避して後退したわ。

そしてルーンを発動させて狙いを定める。

「手加減なんてしないわよっ!!」

放つのは虹色の矢。

…と言っても、アルテマじゃないわよ?

こんな乱戦状況でアルテマなんて使ったら味方にまで被害が出てしまうから大規模魔術は使えないわ。

「ジェノサイドっ!!!」

威力を抑えて貫通力を重視した一点突破攻撃を放つ。

「「「ぐぅっ!!」」」

「「「きゃあああああああああっ!?」」」

共和国軍の陣営に突撃を仕掛けようとしていたアストリア軍を一気に蹴散らしてあげたわ。

もちろん直線攻撃だから味方への被害はないわよ。

だけどアストリアの部隊は一瞬で全滅してしまったでしょうね。

「「「「「うぁぁぁぁっ!!!!」」」」」

私の攻撃を受けて吹き飛ぶ人々。

たった一撃で数十名の命が消え去ってしまったのよ。

うわぁぁ…っ。

力尽きて倒れるアストリア兵の動かない体と転がる死体を見てしまったことで、
抑えきれない吐き気を感じてしまったわ。

何なのこれ?

これが戦争ってことなの?

こんなの最悪な気分でしかないわ。

絶対に気持ちの良いものじゃないのよ。

「これで私も犯罪者の仲間入りね…。」

魔術で『殺人』を犯したからよ。

私の攻撃で沢山の人が死んでしまったの。

その事実を目の当たりにしたことで、
もう今までの日々に戻れる気がしなかったわ。

「…だけどっ!!」

だけどここで引き下がる訳にはいかないのよっ!

こんなところで後悔するくらいなら最初から戦争になんて参加しなかったわ!

「これ以上、仲間は殺させないわっ!!」

再び弓を構えて狙いを定める。

今度の狙いは城壁の上よ。

弓を構えて地上の魔術師を狙う弓術部隊を一掃するために。

今度は手加減なしの矢を放つ。

「アルテマっ!!!」

私にできる最強の一撃。

共和国軍がいない城壁に虹色の矢が突き刺さった瞬間。

大爆発を起こしたアルテマの破壊力によって、
防壁ごと兵士達を吹き飛ばすことに成功したわ。

巻き起こる粉塵と散らばる防壁の破片。

10メートル以上もの高さから次々と落下する兵士達の死体。

改めて圧倒的な破壊力を見せ付ける私の攻撃だったけれど。

それでも砦全体から見ればごく一部の被害でしかないでしょうね。

たぶん千にも満たない数よ。

3万近いアストリア軍のほんの一部でしかないの。

それでも私にとっては間違いなく『殺人』であって、
その数に関係なく『人の命を奪った』ことに変わりはないわ。

「うあ~っ!本当に最悪っ!」

こんなことの為に魔術を勉強したわけじゃないのよ。

転がる死体を眺めながらそんなふうに呟いてしまう。

その一瞬の戸惑いが、
私の命を危険にさらしてしまっていたわ。

「死ねっ!!バケモノ!!!」

「…え…っ!?」

振り返った私の視界に、刃を向ける青年が映りこむ。

「う、あ…っ。」

この状況で回避なんて間に合わないわ。

反撃する余裕さえないと思う。

「死…ぬ…っ!?」

恐怖を感じて目を閉じてしまってた。

そして刃が私の体に突き刺さる…その直前に。

「翔子に近付くんじゃねぇぇぇっ!!」

大声で叫ぶ真哉が青年を吹き飛ばしてくれたみたいね。

『ザシュッ!!!!』という音が聞こえたことで目を開けてみると。

青年の体を貫いて背後から突き抜ける刃が見えたわ。

「ぐぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

明らかに瀕死の重傷よね?

放っておけば確実に死ぬはずよ。

だけどそれでも真哉は動きを止めなかったわ。

ラングリッサーを横に薙いで青年の体を引きちぎっていたのよ。

「ぁ、ぁぁ…ぁ…。」

下半身を失ってしまった自分の体を見つめながら、青年は意識を失って倒れてた。

これでまた一人、人が死んだのよ。

「大丈夫か!翔子!?」

えっ?

あ…っ。

「ぁ…うん…。」

一瞬の出来事だったからはっきりとは見ることが出来なかったけれど。

真哉が助けてくれたことはすぐに理解出来たわ。

「ありがとう、真哉」

「油断するな!次は死ぬぞっ!」

「…う、うん。ごめんね」

素直に謝ってから倒れた青年に視線を向けてみる。

斬り裂かれた体から溢れ出る多量の血。

間違いなく死んでるでしょうね。

それでも真哉は青年の体にラングリッサーを突き立てたわ。

確実にとどめを刺すために。

すでに死んでいるようにしか見えない青年の心臓を貫いたのよ。

一瞬だけ震えた青年の体。

それは生きていたというよりも攻撃を受けた反動で揺れただけだったと思う。

だけど真哉は私を庇うかのように周囲の遺体を次々と攻撃してた。

死んだふりをして襲いかかってくる敵がいないように。

周囲の安全を確保してくれたのよ。

「ここは戦場だ。確実に敵を減らすことに集中しろ。それが出来なければ次に転がる死体はお前になるぞ」

「そ、それは分かってるんだけどね…。」

分かっていてもどうしても気にしてしまうのよ。

「次からは気をつけるわ」

「そう思うのならさっさと敵を殲滅しろ!それがお前の役目だろ!」

一方的に告げた真哉は一気に加速してた。

「ボルガノン!!!!」

紅蓮の炎を纏いながら突撃する真哉の槍の影響を受けて、
数え切れないほどのアストリア兵がその生涯を終えていったのよ。

「はっ!この程度かアストリア軍!!!この程度で俺を止められると思うんじゃねえぜっ!!!」

大声で宣言した真哉が再び槍を構える。

「吹き飛べっ!!ソニックブーム!!!!」

風を纏って兵士達の間を突き抜ける真哉の攻撃はまさしく暴風ね。

アストリア軍の中心部を切り裂くように突進する真哉の一撃によって数百もの死体が転がり。

アストリア軍の前線部隊は左右二つに分断されていたわ。

その瞬間に新たな魔術が夜空を彩る。

「アストラルフロウ!!!」

沙織の最強の攻撃魔法が発動して、
左翼のアストリア軍を飲み込んだのよ。

全ての命を消し去る大爆発。

試合場と違って遮るものが何もない戦場では爆発の余波が広範囲に広がってしまうようね。

まあ、私も人のことは言えないけれど。

並の魔術師を遥かに上回る圧倒的な破壊力だったと思うわ。

そのために大幅な魔力の消費と引き換えにして、
数千人規模のアストリア軍が壊滅してくれたのよ。

さすがにここまでの破壊力になるとアストリア軍だけじゃなくて共和国軍も驚いているようね。

「あ、悪魔だ…っ!!」

アストリア軍は沙織を怖れて…

「素晴らしい!」

共和国軍は沙織を讃えて…

「…凄い…」

一部の人達は沙織に憧れさえ抱いていたようね。

沙織の一撃によって恐慌状態に陥ったアストリア軍。

その隙をついた龍馬が一気に駆け出していったわ。

「真哉!翔子!この隙に一気に攻めるぞっ!!」

「任せろっ!」

うぅ~。

仕方がないわね…。

龍馬の指示に従って、真哉と私はルーンを構えたわ。

「オーバードライブ!!!!」

「ファイナルアタック!!!」

龍馬の攻撃がアストリア軍を吹き飛ばして、
真哉の攻撃が残存兵を蹴散らしていく。

そして最後に私が放つ魔術によって、
アストリア軍の前線部隊はついに限界を迎えることになったのよ。

「メテオストライク!!!」

狙いも何もないまま上空に向けて連続で虹色の矢を放つ。

それらが地上に堕ちると同時に様々な攻撃魔術がアストリア軍を飲み込んでいく。

今回は遠慮なく魔力を込めた圧縮魔術の乱舞なのよ。

これはもう絨毯じゅうたん爆撃と言ってもいいくらいデタラメな攻撃になってしまったわ。

龍馬と真哉と私。

3人揃って放つ究極の魔術によって何が何だか分からないくらいの爆音が辺り一帯に響き渡って、
モクモクと広がる粉塵のせいで視界が遮られてしまったわ。

その結果として一時的に静まり返る戦場。

敵も味方も動きを止める中で徐々に粉塵が収まっていく。

そしてゆっくりと広がる視界。

私達が放った魔術の結果は『無』だったわ。

そこにはもう何もないの。

爆発の影響でえぐれた大地には死体すら残っていなかったのよ。

「バケモノだぁぁぁぁっっっ!!!!!」

誰かが叫んでた。

「死神が来たぁぁぁぁっっ!!!!」

怯えるアストリア軍の悲鳴が響き渡ったのよ。

今の私達の攻撃によって東門のアストリア軍の死者は1万を越えたでしょうね。

まあ、実際の数なんて数えようもないけれど。

目測で3分の1程度の部隊が減少したように見えるからよ。

それでもまだ半数以上のアストリア軍が残っているわ。

続々と正門から飛び出してくるアストリア軍の勢いは止まらないわね。

「一度、退こう!」

「おう!」

「おっけ~」

龍馬の指示を受けて撤退を始める真哉と私。

このまま前線にいたら間違いなく数の力に飲み込まれてしまうからよ。

そうなる前に、私達は一旦、後退することにしたわ。

さりげなく敵の接近を阻んでくれる沙織の援護を受けながら、後方の共和国軍と合流したのよ。

「大丈夫ですか!?」

心配して駆け寄ってきてくれたのは優奈ちゃんね。

理事長の護衛…という名目で後方に控えてた優奈ちゃんは直接的な戦闘には参加してないわ。

別に戦えないわけじゃないんだけど。

単に魔術の詠唱が遅いから、
敵に接近されてしまった場合に対処できないことで理事長の傍で待機してもらっていたのよ。

「私なら大丈夫よ~。」

優奈ちゃんの頭を軽く撫でてから、そっと微笑んでおいたわ。

まあ、今のところは、だけどね。

「本当にきついのはここからよ」

私の視線の先には新たに行軍を始めたアストリア軍がいるのよ。

その数はざっと見てさっきと同数かな?

推定1万のアストリア軍よ。

龍馬達と入れ代わりで突撃を始めた共和国軍の必死の抵抗によって、
何とかアストリア軍の進攻を止めているけれど。

共和国軍の死者も相次いで増えてしまっている状況よ。

「これが戦争なんですね…」

呟く悠理ちゃんの視線の先にも次々と倒れる魔術師がいるわ。

時間の経過と共にその数は増えてしまってるの。

それはつまり。

徐々に共和国軍の戦力が削られてるっていうことよ。

そのせいで理事長の表情が曇り始めていたわね。

「この状況はまずいわ…」

…やっぱりね。

呟いた理事長の悩みは私と同じだと思う。

この状況は、本格的に危険だからよ。

指揮をとる為に後方で戦況を眺めてた理事長も確実に焦りを感じてるはずよ。

「長期戦はまずいわ」

「どうしますか?」

「………。」

必死に作戦を考えてる様子の理事長だけど。

どう考えても良い案は思い浮かばないでしょうね。

攻撃も防御もどちらにしても、
時間をかければかけるほど魔力を消費していくからよ。

魔力を失った魔術師なんて一般人と同じでしかないわ。

何とかそうなる前に向こうの正規軍だけでも叩いておかないとこっちが負けてしまうでしょうね。

いくら優秀な魔術師を集めても魔力を失えば『普通の人間』だから。

そうなる前に決着をつける必要があるのよ。

「他の部隊はどうしてるのかしら?」

頭を悩ませる理事長だけど…。

たぶん、どこも同じでしょうね。
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