挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

778/4820

心意気

《サイド:米倉美由紀》

午後10時。

一通りの食事が終わったことで最後の晩餐が終了したわ。

結局、箱の中身まで全て完食した北条君と武藤君だけど。

それでも足りない二人は、揃って配給所に向かったらしいわ。

だけどあっさりばっさりと却下されて、しぶしぶ食事を諦めていたようね。

「十分過ぎるくらい食べすぎなのよ!」

本気で怒る翔子だけど。

「もっと食いてー!!!」

北条君は全く気にせずにお腹をさすりながら大声で叫んでる。

う~ん。

あまり騒がれるとちゃんと食べさせてあげてないみたいで恥ずかしいから
出来れば大声で叫ぶのは控えて欲しいわね…。

「はいはい。はしゃぐのはそこまでにしてくれる?さすがに私のところにまで配給係から苦情が来てるわよ」

いくら立場的にこの子達の保護者といっても、
こんなくだらないことで苦情を言われることになるとは思ってもいなかったわ。

「続きは戦争が終わってからにしなさい。ちゃんと生きて帰れたら、私が何でも食べさせてあげるから」

まあ、限度はあるけどね。

だけど私の言葉を聞いた北条君は叫ぶのを止めてくれたわ。

そして、即座に確認してきたのよ。

「今の言葉は本当だな!?」

「ええ、約束するわ」

何でも、だけど。

好きなだけ、じゃないわよ?

もちろんそこは曖昧にしておくけどね。

「よっしゃー!!それまでに全力で腹を空かせておくぜ!!!」

うんうん。

上手くごまかせたわね。

笑顔を浮かべる北条君の笑顔を見て、私は大きくため息を吐いたわ。

まあ、何でもいいんだけどね…。

とりあえずは私のお財布がカラになるまでは付き合ってあげるわ。

もちろんみんなの分も含めて、だけどね。

「程々にしないと本当にお腹が裂けるわよ?」

「心配はいらねえ!食える時に食う!!それが俺の流儀だ!!」

それって流儀なのかしら?

単に暴食だと思うんだけど?

本気で言い切る北条君を見てると私だけじゃなくて、
御堂君や翔子達もため息を吐いていたわ。

「本当に底無しね~」

呆れる翔子だけど、問題児は一人じゃないのよ。

「って言うか、こっちの馬鹿も食べ過ぎですよね?」

疑問を呟く近藤悠理さんの視線の先には
何を考えているのかイマイチ良く分からない武藤君がいるわ。

彼の胃袋もどうなってるのか疑問だけど。

北条君と同じくらい食べてたんじゃないかしら?

こういうのを食欲旺盛っていうの?

何か違う気がするわね。

育ち盛りなの?

成長期なの?

それとも病気なの?

良く分からないけど。

近藤悠理さんの言葉を聞き付けた武藤君は笑顔を見せてる。

「今の内にしっかり食べて栄養をつけておかないと、いざという時に悠理を守れないからな!」

「はぁっ!?だからそれが余計なお世話って言ってるでしょ!!ってか、学園最弱のあんたに何が出来るのよっ!?」

「頑張れば何でも出来るっ!!」

うぅ~ん。

どうなのかしらね?

結果を気にしないという意味なら確かに何でもできるとは思うけど。

結果を出そうと思うなら実力は大事よ?

まあ、何を言っても聞いてくれなさそうだけどね。

自信を持って答える武藤君の言葉が実践されたことはないと思うけど。

その心意気だけはずっと変わらないから。

ある意味では素晴らしい才能だと思うわ。

そんな武藤君だから、御堂君は微笑ましく眺めてるのかもしれないわね。

「ははっ、そうだね。目的はともかくとして、諦めたらそこで終わりだからね」

「はいっ!!だから僕は絶対に諦めません!悠理が振り返ってくれるまで全力で頑張りますっ!!」

………。

どこまでも方向性が間違ってるのよね~。

発言自体は男らしいと思うけれど。

ここまで実力が伴わない発言は聞いたことがないわ。

だから、でしょうね。

無駄に気合いを入れる武藤君に近藤さんは冷たい眼差しを向けていたわ。

「…だからさぁ。それはないってば…」

まあ、ね~。

言いたくなる気持ちはわかるわ。

言っても、通じないんだけどね。

まだこの子達の関係がよくわからないけど、近藤さんの心労は何となく理解できるわ。

…でも、ね。

好きな人に好きって言える勇気というか、
その心意気だけは男らしくていいと思うわ。

変にこそこそして何を考えてるかわからない気持ち悪さがないだけまだいいんじゃない?

こういう一途さは大事よ。

例え想いが届かないとしてもね。

武藤君の純粋さはありだと思うわ。

目をつけられてしまった近藤さんは不運かもしれないけれど。

傍目で見てる分には青春してるって思うのよ。

そんな緊張感のない生徒達を眺めていると何故か自然と微笑みを浮かべてしまったわ。

こうなるともうダメね。

「…ったく。あなた達を見ていると、真剣に悩んでる自分が馬鹿馬鹿しく思えて来るわね」

これから戦場に向かうっていう状況なのに、
どうしても緊張感が薄れてしまうのよ。

「ちゃんと気合を入れなさいよ?」

自分自身に言い聞かせつつ話しかけると、
背後から鞍馬元代表が歩み寄ってきたわ。

「はっはっは、良い生徒を持ったようだな」

笑顔を浮かべる鞍馬元代表を見て、
愛想笑いを浮かべながら慌てて頭を下げる。

「ご迷惑をおかけしてすみません。」

「いやいやいや。子供達はそれぐらい元気な方が良いだろう。その笑顔こそが、この国の目指している守るべき未来なのだからな」

守るべき未来、ですか。

確かにそうですね。

こんなふうに馬鹿騒ぎできる未来なら楽しいかもしれませんね。

「騒がしいくらいがちょうどいい。それこそ生きている、というものだ。そうは思わないか?」

う~ん?

ちょうどいいかどうかは疑問だけど。

生きているからこそ騒げるという意味でならまあ、納得できなくはないわね。

「そうですね。」

大きな声で笑い出す鞍馬元代表と向き合いながら同意してみた私は、
改めて気持ちを切り替えて鞍馬元代表に問い掛けることにしたわ。

「それで、準備はどうですか?」

「ははっ。それならすでに整っておる。指示さえあればいつでも行動出来るぞ」

つまり、私達の準備待ちってことね。

鞍馬元代表の言葉を聞いて決断を下すことにしたわ。

「それなら行きましょう。敵の本隊が動き出す前に砦を落とします!」

それだけで戦争が終わるわけじゃないけれど。

そこから始めなければ何も変わらないのよ。

「進軍します!!」

力強く宣言する私の決断を受け入れて、鞍馬元代表が兵士達に指示を出したわ。

「良し!では、行軍を開始するぞ!!」

鞍馬元代表を中心として全ての魔術師に伝令が広がっていく。

「全軍行動を開始せよっ!!!」

指揮を執る岸本司令官の言葉を合図に一斉に動き出す3万5千の魔術師達。

共和国の未来を決める戦争が、今…始まろうとしていたわ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ