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THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

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一心不乱

《サイド:常盤沙織》

そろそろ午後9時頃でしょうか。

食糧の配給を受けた私達は馬車の側に集まって全員分の食糧を囲んで座っています。

ですが、これから始まる『戦争』という名の戦いを前にして不安と緊張感が高まってしまって、
あまり食欲がないのが正直な気持ちでした。

ただ静かに食糧を眺めるだけの私達ですが…。

北条君だけは違いますね。

「やっと飯だっ!!」

嬉しそうに叫んだ北条君は猛烈な勢いで食事を始めました。

「腹が減りすぎて戦争の前に餓死して死ぬところだったぜ!」

それはないと思いますが、
気持ちだけならなんとなくわかります。

今日の朝に食事をとって以来。

およそ12時間ぶりの食事だからです。

北条君は大喜びで食糧に手を伸ばしています。

「戦争が、終わるまで、次は、いつ食えるか、分からねえんだ。今のうちに、しっかり、食っとか、ねえとな」

言葉をとぎらせながらガツガツと口に物を詰め込む食べっぷりは誰もが呆れるほど激しくて、
自分の分だけではなくて龍馬や翔子達の分まで食べ尽くす勢いでした。

「これじゃあ、全然足りないわね~」

北条君を眺めながら呟いた翔子の言葉に苦笑しながら私は静かに立ち上がりました。

北条君の為に食糧を分けてもらうためです。

あまりご迷惑をおかけしたくはないのですが、
周囲を動き回っている兵士さん達に声を掛けることにしました。

「あの、お忙しいところ申し訳ありません。もう少し食糧を分けていただきたいんですけどダメでしょうか?」

できる限り丁寧な態度で頼んでみると、
兵士さんは嫌そうな顔を見せずに笑顔で応対してくれました。

「ええ、良いですよ。そちらにお持ちいたします」

私達の人数を確認した兵士さんは配給所に戻ってから
両手一杯の食糧を抱えて私達の側に運んでくれました。

「もしも足りなければ、また呼んでください」

足りなければまだいただけるようですね。

もしかすると社交辞令という可能性もありますが、
お願いして断られることはないと思います。

一応、最後の晩餐なのですから、怒られることはないと思います。

…たぶん。

…そのはず。

…ですよね?

食料を届けてくれた兵士さんは、笑顔のまま私達から離れていきました。

その直後に北条君が動き出します。

「よっしゃー!!まだまだ食うぜっ!!!」

追加していただいた食糧を目の前にして食欲を暴走させる北条君は先ほどの量だけでは物足りなかったようです。

手を止めることもなく追加の食糧までも食べ尽くす勢いで幸せ一杯の笑顔を浮かべながら全力で食事を続けています。

「うあ~。底無しにも程があるわよね~」

心の底から呆れる翔子ですが。

そんな翔子の呟きなど気にした様子もないまま。

北条君は『一心不乱』に食べ続けています。

そんな北条君の止まらない食欲を見た龍馬が苦笑いを浮かべながら立ち上がりました。

「もう少し追加したほうが良さそうだね。もうすでになくなりそうな勢いだから、僕達の分も貰ってきた方がいいかな?」

追加していただいたばかりの食料がすでに半分近くまで減ってしまっていることで、
龍馬は配給所へと向かっていきました。

さすがに何度も兵士さんに頼むのは気が引けると思ったのでしょう。

ですが一度往復した程度ではきっと足りません。

なので龍馬は北条君の分を確保してから私達の所へと戻って、
再び配給所に向かって全員分の食糧を受けとってから往復を終えました。

ただ…。

2度目の往復を終えた時にはすでに北条君の食糧はなくなりかけているようです。

「あのさ?いつもより早くないか?」

問い掛ける龍馬に北条君は笑顔を向けています。

「今日の分と、これからの、分を、食い貯め、しとかねえと、あとで、腹が減るだろ?」

手の勢いを止めずに答える北条君はすでに普段の倍は食べているはずなのに。

それでもまだまだ足りないようですね。

「………。もう一度行ってくるよ」

再び配給所に向かおうとする龍馬でしたが、
さすがに一人では大変だと思いますので私と優奈ちゃんも立ち上がりました。

「私も手伝うわ」

「私も行きます!」

3人で向かう配給所。

何度も訪れる龍馬を見てさすがに不審に思ったのでしょうか?

配給所に行くと冷たい目を向けられてしまいました。

さすがに限度を超えてしまったのでしょうか?

怒られるのも仕方がないとは思うのですが、
何度も食糧を下さいとは言いにくい状況の中で優奈ちゃんが前に歩み出てくれました。

「あの、すみません。もう少しだけ欲しいんですけど…ダメですか?」

申し訳なさ一杯の表情で頼み込む優奈ちゃんの表情を見て嫌とは言えなかったようですね。

兵士さんは控えめに食糧を用意してくれました。

「…どうぞ…」

何かを言いたそうにしながらも兵士さんは文句を言わずに食糧を用意してくれたんです。

「ありがとうございます♪」

感謝一杯の気持ちで笑顔を浮かべる優奈ちゃんの無邪気な表情を見て、
兵士さんは優奈ちゃんの後ろにいる私と龍馬に視線を向けました。

「一応、確認させていただきますが、本当に食べてるんですか?」

問い掛ける兵士さんの言葉に私達は苦笑するしかありません。

『たった一人で食べている』とは言えなかったからです。

「すみません。今日一日、ほとんど何も食べていなかったので…」

そんなふうに答える龍馬に同情したのでしょうか?

兵士さんは更に多くの食糧を用意してくれました。

「あまりこういうことは言いたくありませんが、配給出来る食糧には限りがありますので、出来ればこれで最後にして下さい」

ああ、やっぱり言われてしまいましたね。

最初から予想はしていましたが、
何度もお願いするのはさすがに問題がありそうです。

なので、私達は精一杯のお礼を伝えておくことにしました。

「ありがとうございます」

「何度も無理を言ってすみません」

私と龍馬も食糧を受けとったことで優奈ちゃんと3人でみんなの所へと戻ってみると。

すでに全ての食料が完食されていました。

「うわわわ~」

驚く優奈ちゃんの気持ちは理解できます。

「あらあら…」

私もちょっぴり困ってしまいます。

「うーん…。」

悩む龍馬も完全に呆れていますね。

食料の『完食』は、もう一人の少年によって行われていたからです。

武藤君が北条君に匹敵する食欲で食糧を食べ尽くしていたのです。

ですがそれでもまだ武藤君の表情は物足りないように見えます。

「どうだろう?もう一度行ったら分けてもらえるかな?」

呟く龍馬の言葉に私と優奈ちゃんは苦笑するしかありません。

「さすがにこれ以上はちょっと…」

「無理じゃないですか?」

私達3人で抱えている食糧は相当な量があります。

ですが北条君だけではなくて武藤君まで大食いとなると全然足りる気がしません。

「ったく、もう。しょうがないわね…。」

愚痴を言いながらも立ち上がった翔子が配給所に向かってくれるようです。

「せっかくだから龍馬も沙織も食べておいた方がいいわよ。とりあえず、足りない分は私が貰って来るからゆっくりしてて」

配給所に向かう翔子を見送ったあとで。

龍馬は北条君に、私は武藤君に食糧を差し出しました。

そして優奈ちゃんの運んだ分をみんなで分けることにしました。
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