挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

775/4820

コート

「お待たせ致しました」

大きな木箱を鞍馬の前に下ろした兵士は木箱の蓋を外してから中身を見せてくれたわ。

月明かりと篝火の明かりが照らし出す木箱の中身。

鞍馬元代表自身が確認の為に覗き込む箱の中には
数着の服が綺麗に折り畳まれて仕舞われていたのよ。

「うむ。間違いないな」

中身を確認したことで、鞍馬元代表が話しかけてくる。

「これが頼まれていた物だ」

「ありがとうございます」

私も箱の中身を確認したわ。

中に入っているのは大小10着を越える服よ。

服の大きさまで指定する余裕はなかったから適当に揃えてもらうように頼んでいたんだけど。

鞍馬元代表はちゃんと私の希望通りに用意してくれたようね。

「無理を言ってごめんなさい」

感謝する私を見て、鞍馬元代表は笑顔を浮かべてくれたわ。

「いやいや、この程度ならば大したことではない。朱鷺田に声を掛けたら、僅か数時間で用意しおったからな」

楽しそうに笑い出す鞍馬元代表だけど。

それを聞いた私はマールグリナの知事である朱鷺田直道ときたなおみち
挨拶さえ出来ないまま出発したことを僅かに後悔してしまったわ。

「帰ったら、ちゃんとお礼を言わないとね」

呟きながらも背後の龍馬達に振り返って指示を出すことにしたのよ。

「それじゃあ、準備を始めましょうか」

箱の中の服を指差す。

「今から皆にはここにある服を着てもらうわ。学園の制服は『対魔術用』に加工してあるけど、これから行うのは魔術戦ではなくて物理的な戦いよ。向こうは武器を手に襲い掛かって来るわ。これはその為の防護服よ。魔力を込めれば、ある程度の攻撃を防いでくれる特殊な服になるわ」

対物理攻撃用の防護服なのよ。

これは栗原薫さんが天城君に用意した服と同じ種類でもあるわね。

形は様々だけど、今の制服の上から着るだけで良い魔術師用のコートなの。

本当ならしっかり着込めるローブが良いんだけど。

さすがに動きにくくなる服装はどうかと思うし。

前線で戦う御堂君や北条君には似合わないでしょうしね。

だから動きやすいコートを用意してもらったのよ。

「時間がないから、ささっと袖を通しちゃって!」

急かしながら出す指示にしたがって、
御堂君達はそれぞれに木箱の中のコートを手にとっていったわ。

「思ったよりも軽いわね~」

真っ先に選んだ翔子がコートを羽織る。

膝下まで届くロングコートは春の夜風を遮って体を暖めてくれるはずよ。

「これはこれで便利ね。見た目も可愛いし」

軍の支給品とは思えない可愛らしい装飾の白いコート。

確かにデザインはなかなかだと思うわ。

…で。

他のコートを選ぶ子達に視線を向けてみると、
沙織が選んだのは翔子と色違いの藍色のコートだったわ。

「これにしようかしら?」

色以外はほとんど同じはずなのに、沙織が着ると少し大人っぽい雰囲気があるわね。

「私はこれにします!」

深海さんが選んだのは翔子もちょっぴり羨ましく眺めてる純白でふわふわの可愛いコートよ。

サイズは翔子と同じくらいだけど。

腰の辺りにリボンが付いていて、長さは膝の上までしかないわ。

「じゃあ、私はこれかな~?」

悠理さんが選んだのは深海さんと同じ形で色違いの黒いコートになるわ。

それを見て、思うことは唯一つ。

みんな見た目で選んでるわよね?

別にいいんだけど…。

続いて選んだのは御堂君よ。

「僕はこれにするよ」

御堂君が選んだのは無駄な装飾のない足元まで届く質素な漆黒のコートだったわ。

それでも御堂君が着るだけで、とても格好よく見えるわね。

続いてコートを手にとったのは北条君。

「動きにくくなる服は、あんまり好きじゃねぇんだが…」

一番短いコートを選んだ北条君は防具としての効果よりも動きやすさを重視して選んでいるようね。

そして最後に歩みを進めるのは武藤君よ。

「これが無難かな?」

残りの中から動きやすそうなコートを選んで袖を通してる。

7人全員がコートを選んだのを確認したことで再び仕切ることにしたわ。

「みんな準備出来たわね?」

頷く一同。

ひとまず準備を終えたことで、鞍馬元代表が話しかけてきたわ。

「さて。順番が前後してしまったが、美由紀にこれを渡しておこう」

鞍馬元代表が一通の封書差し出してくれたのよ。

「これは?」

「中身はまだ確認していないが。アストリアの使者が1時間ほど前に届けに来た物だ」

「えっ?」

戸惑いを感じながらも急いで封書を開封する。

中身は一枚の書状。

そこに書かれているのは…

『明日の夕刻までに降伏しない場合。全軍を持って共和国に進軍する』

ただそれだけが記されていたのよ。

だけどこの書状こそが『宣戦布告』だと私と鞍馬元代表は判断したわ。

この書状が偽りでなければ、明日の夕刻には軍隊が動き出すということよ。

ほぼ一日の猶予があるけれど、一日しかないとも言えるわね。

「どんどん状況が悪化するわね」

不満を感じるけれど、こうなった以上は行動するしかないわ。

「すぐにでも軍は動かせるの?」

「すでに準備は整っている。いつでも行動可能だ。だが、出発の前にやるべきことがある」

「やるべきこと?」

不思議そうな表情で首を傾げる私に鞍馬元代表は笑顔で答えてくれたわ。

「食事だ」

「食事?」

何故この状況で?

疑問を問い掛ける前に鞍馬元代表は笑顔を浮かべたまま答えてくれたのよ。

「戦争である限り死の危険は否定出来ん。これが最後の食事になるかもしれない者達が大勢いるだろう。ならばせめて出発の前くらいは思う存分食わせてやるのがせめてもの思いやりだとは思わんか?」

ああ、確かに。

それくらいの配慮は必要でしょうね。

鞍馬元代表の言葉を聞いて私は焦る気持ちを押さえてその言葉に同意したわ。

「そうですね。その方が良いかもしれません」

最後の休憩を取るために御堂君達に振り返る。

「聞いての通りよ。全員が生きて帰れる保証なんてないから全員揃っての食事はこれが最後になるかもしれないわ。だから、悔いのないように思う存分楽しみなさい」

指示を出す私の背後で、鞍馬元代表も兵士達に指示を出していたわ。

「最後の晩餐だ。倉庫の全ての食糧を開放して、全員に行き渡るように手配しろ」

「はっ!了解しました!!」

即座に動き出す兵士達。

すでにある程度の準備は整っていたんでしょうね。

食糧の配給は滞りなく行われていったわ。

忙しく動き回る兵士達の姿を眺めながら思う。

「最後の晩餐…ね」

確かにそうかもしれないわ。

ここにいる戦力の何割が生きて生還できるかわからないけれど。

戦いの中で死んでいく仲間達は確実にでてくるのよ。

全員が生きて生還なんてありえない。

それこそアストリアが無条件降伏でも宣言しない限り。

戦いが終わることはないのよ。

だから争い続ける限りは必ず誰かが死んでいくの。

それがアストリア軍の命ならどうでもいいとは言えないけれど。

出来ることなら一人でも多くの仲間たちが生き残ることを願うわね。

だけど、これが最後の食事になる人もいるだろうから
せめて今だけは楽しい思い出であってほしいとも思うわ。

少なくとも、私自身はそう思うのよ。

もしももう二度とこの国に帰って来れないとしたら。

悔いのない最期を迎えたいと思うの。

だから今は…。

今だけは…。

これから始まる戦争に不安を感じつつも最後になるかもしれない食事を始めることにしたわ。

大事な生徒達の笑顔を見つめながら、
少しでも多くの思い出を作りたいと願ったのよ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ