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THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

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鞍馬宗久

《サイド:米倉美由紀》

時刻はすでに午後8時30分ごろね。

私の走らせる馬車は目的の場所にたどり着いたわ。

ここはファンテリナ魔導共和国とアストリア王国の国境付近にある国境警備隊の砦よ。

この砦の先には国を隔てる広大な樹海が広がっているわ。

決して大きくはない砦だけど。

それでも3万5千人もの魔術師が集結しているはずなのよ。

陽が沈んで焚かれる篝火かがりび

砦とその周囲に集まる魔術師達からは、緊迫した雰囲気が漂っているわね。

「さすがに空気が重いわね」

戦場は目と鼻の先なんだからピリピリするのは当然でしょうね。

あと数時間もすれば本格的な戦争が始まってしまうからよ。

緊張するなというほうが無理があるわよね。

そんなことを考えながら砦の内部に馬車を進めて、ゆっくりと馬車を停止させる。

「着いたわよ」

呟いた直後に私の到着を知った警備隊の幹部が出迎えに現れたわ。

「来たか!」

真っ先に駆け付けたのは国境警備隊の総司令官である鞍馬宗久くらまむねひささん。

でも、どちらかと言えば元代表と呼んだ方がいいんじゃないかしら?

引退してかなりの年月になるけれど初代共和国代表だった人物なのよ。

私からすれば大先輩になるわ。

すでに60歳を越えているとは思えないくらいがっしりとした体つきで、
とても魔術師とは思えない筋肉質な体は威圧感が半端じゃないわね。

こうして向き合うだけでも自然と緊張してしまうのよ。

2代目を新藤兼成しんどうかねなりさんに。

3代目を父さんに任せたとは言え。

こうして現役で最前線に立つ鞍馬元代表は畏怖すべき存在だと思うわ。

私にとって、頭の上がらない数少ない人物でもあるのよ。

「お久しぶりです」

馬車を下りて挨拶をする私に鞍馬元代表も頭を下げる。

「いやいや、堅苦しい挨拶はやめておこう。今は美由紀がこの国の代表なのだ。ワシに気を遣わずに堂々と構えておれば良い。だがそんなことよりも確かに久し振りだな。以前にあったのは…」

「4ヶ月程前です」

「そうそう。宗一郎の次の後継者を決める投票の時以来か。元気にしておったか?」

「はい。おかげさまで、健康そのものです」

「うむ。健康がなによりだ」

鞍馬元代表が大きな声で笑い出す。

何度見ても豪快という言葉がよく当てはまる人物だと思うわ。

楽しそうに笑う鞍馬を見ているだけで自然と微笑んでしまうのよ。

貫禄が私とは桁違いよね。

でもまあ、ここで落ち込んでいても仕方がないし。

馬車に視線を向けて中で様子を見ている御堂君達に呼び掛けることにしたわ。

「みんなも降りてきて良いわよ~」

私の言葉を聞いて次々と馬車を降り始める御堂君達。

御堂君が最初に降りて、
沙織、北条君、翔子、深海さん、近藤さん、
武藤君の順番に7人の生徒が馬車を降りて私の側へと歩み寄ったわ。

素直に集まってくれた生徒達を眺めてから、鞍馬元代表に話しかける。

「紹介しておきます。この子達は全員ジェノス魔導学園の生徒です。幾つか事情がありまして今回の作戦に同行させました」

「うむ。理由はともかく来ることは聞いておったから問題はない。報告よりも増えているようだがまあいいだろう。予備も含めて例の物は用意してあるからな。人数分に足りるだろう」

鞍馬元代表が側に控える兵士に指示を出す。

「例の物を持ってきてくれ」

「はっ!かしこまりました!!」

即座に反応する兵士がどこかに向かって駆け出した。

しばらくしたらまたここに戻ってくるみたいだけど。

その間にも次々と砦を管理する幹部達が私に歩み寄ってきたわ。

「ご苦労様です!」

直立不動の姿勢で挨拶をしてくるのは岸本克也きしもとかつやよ。

この砦の司令官であり。

アストリア方面の国境警備隊の責任者でもあるわ。

順列で言うと、鞍馬元代表の直属の部下ということになるわね。

続いて砦から駆け付ける一人の男性。

その男性は私に歩み寄ろうとした途中で不意に足を止めて驚愕の表情を浮かべていたわ。

「なっ!?」

戸惑う男性の視線は私の後方に向いてるように思えるわね。

どうかしたのかしら?

疑問に感じた私がどうしたのかを問い掛ける前に…。

「え?お兄ちゃん!?」

近藤悠理さんが反応していたわ。

驚きながら叫ぶ近藤悠理さんの声を聞いた瞬間に、
男性は私への挨拶も忘れて近藤悠理さんに詰め寄っていく。

「悠理!何故、お前がここにいる!?ここはお前が来るような所ではないはずだっ!!」

「わ、私がどこにいようと、私の勝手でしょ…っ!?」

怒鳴る男性から怯えたように逃げる近藤悠理さんは、
深海さんの背後へと逃げ込んで弱々しく反論していたわ。

気持ち的に完全に負けてるけど、それが精一杯の反論のようね。

だけどその言葉を聞いた男性は怒りをあらわにして、
近藤悠理さんにつかみ掛かろうとしてる。

だけど…

「静にしろ、悠護」

鞍馬元代表の一言で、近藤悠護は動きを止めていたわ。

「………。申し訳ありません。」

落ち込んだ表情で後退する悠護だけど、
その目は悠理さんを睨みつけているように見えるわね。

「…ぅぅ…。」

劣等感によって兄に対して苦手意識を持つ悠理さんは深海さんの背中に隠れたまま、
悠護と視線を合わさないように視線を逸らし続けているわ。

そんな悠理さんを心配する深海さんが声をかけてる。

「悠理ちゃん…?」

呟く深海さんの気持ちを察したのか…

「みゃ~♪」

猫の姿をした精霊が悠理さんの肩に跳び移ってから頬に擦り寄ってる。

「ありがと…。ごめんね…」

深海さんに心配をかけたことを謝ってから、悠理さんは子猫の頭を撫でていたわ。

「みゃ~♪」

嬉しそうに鳴く子猫に微笑んでから、悠理さんが悠護に向き合う。

「私も行くって決めたの!」

「何を馬鹿なことことをっ!」

はっきりと宣言する悠理さんの言葉を聞いたせいか、悠護は再び怒りだしたわ。

「お前が参加しても死にに行くようなものだ!今ならまだ間に合う!ジェノスに引き返せっ!!」

「嫌っ!!!」

兄の指示に対して、悠理さんは怯えながら逆らってた。

「…くっ!!お前はっ!!!」

言うことを聞かない悠理さんに歩み寄ろうとする悠護だけど。

「静かにしろと言ったはずだ」

鞍馬元代表が再び引き止めてくれたわ。

「…うぅっ…」

鞍馬元代表の言葉に威圧感を感じて悠護はその場から動けなくなっていたわね。

上司に逆らうわけにはいかないと思う心が悠護の足を止めさせていたのよ。

「申し訳ありません」

深く頭を下げる悠護が反省する姿を見て、
鞍馬元代表は満足そうに頷いてる。

「軍に所属する限り私情は挟むな。互いに言い分はあるだろうが、話して解決することではないのだろう?ならば騒ぐだけ時間の無駄だ」

悠護を説得してから、今度は悠理さんに話しかけたのよ。

「命をかける覚悟に実力は関係ない。戦う意志があるのならば止めはせん。だが、軍と行動を共にするのならば最低限、司令官の指示には従うことだ。それが出来なければ連れていくことはできん」

「…分かりました」

上下関係を告げる鞍馬元代表に悠理さんは小さく頷いていたわ。

「うむ。ならば良い」

鞍馬元代表の許可が出たことで何も言えなくなった悠護は大人しく後ろへと下がったようね。

若干、気まずい雰囲気になったけれど。

騒動のあとで先程離れて行った兵士が大きな荷物を持って戻ってきたわ。
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