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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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数時間の間に

《サイド:美袋翔子》

…う~ん…。

何だか騒がしいわね~。

状況がよくわからないけど。

周囲の慌ただしさが増して、
急に騒がしくなろうとしているのを感じたわ。

その理由はとある検定会場から一斉に運び込まれてきた意識不明の生徒達の看護のためらしいけど。

何も知らずに眠りについていた私としてはただただうるさく感じていたのよ。

ただまあ、その騒音に嫌気がさしたわけじゃなくて単なる偶然なんだけれど、
私は医務室に運び込まれてから数時間ぶりにようやく目を覚ませたみたい。

「…う…ん…?」

目を開けるとすぐに天井が見えたわ。

だけど、見覚えは…ないわね。

そもそも医務室で眠ることってあまり経験がなかったからこれはこれで新鮮な気持ちになれる気がするんだけど。

ここに運ばれてきた理由を考えるとあまり楽しめる状況じゃないわね。

とりあえず匂いや雰囲気で自分が医務室にいるんだろうなってことはすぐに理解できたわ。

それともう一つ。

私がいるベッドのすぐ側で一人の女の子が心配そうな表情を浮かべながら私を見つめている姿が見えたことで寝起きでも冷静でいられたんだと思う。

「…ん~?」

隣にいる少女に視線を向けてみたけれど何故か名前がすぐに出てこなかったわ。

まだ少し頭が寝ぼけているのかな?

親友の名前を思い出すまでに少しだけ時間がかかってしまったのよ。

「あれ?…って、沙織さおり?」

ようやく思い出せたことで小さな声で名前を呼んでみると、
沙織は嬉しそうな表情を見せてから私を抱きしめてくれた。

「良かった!やっと起きてくれたのね。ずっと、ずっと心配していたのよ」

ん~。

いい匂い。

なんて、馬鹿なことを考えてる場合じゃないわね。

親友と呼ぶべき沙織がいつから傍にいてくれたのか私は知らないけど、
かなり心配させていたみたいね。

私を抱きしめてくれる沙織の両手がかすかに震えていたから、
不安にさせていたのはすぐに分かったわ。

「ごめんね。ありがとう、沙織」

本気で不安にさせてしまうくらい心配をかけてたみたいね。

自分ではわからないことだけど、
もしかしたら不安や恐怖を感じさせてしまうくらい危険な状態だったのかもしれないわ。

まあ、魔力を斬られるなんて経験はそうそう何度もあるような出来事じゃないからしょうがないんだけどね。

前代未聞って言ってもいいほどの出来事だと思うわ。

だから沙織が不安になるのも当然かな?

「ごめんね、心配かけて」

右手を伸ばして沙織の頭を撫でてみる。

指先が触れるのは、真っ直ぐで、癖が無くて、背中まで届く艶やかな黒い髪。

私とは違ってとても繊細でとても綺麗な髪なのよ。

さりげなく甘い香りを漂わせている辺りに気品すら感じさせる沙織は
学年は私よりも二つ上だけど年齢は同じ18歳よ。

それなのに沙織は大人びて見えて、
私は幼く見られることが多いわね。

そのことを不満に思うことはないけれど私とは真逆の存在だと思ってる。

だからこそ意気投合して仲良くなれたんだけど、
見慣れたはずの親友の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるのが見えたわ。

「…ごめんなさい…。」

本気で謝るべきだと思ったわ。

私の行動のせいで親友が泣いてるのよ?

ここで謝らないで、いつ謝るっていうの?

少なくとも、今ここで謝ることしか私には思い浮かばなかったわ。

「ごめんね、沙織」

「…ううん、いいの。翔子が無事ならそれでいいのよ」

無茶をした私を責めずに優しく微笑んでくれる沙織の笑顔が見れたことで、
心から幸せな気持ちになれた気がする。

「ありがとう、傍にいてくれて」

「ふふっ。翔子のためならいつでも傍にいてあげるわよ」

沙織は怒らなかった。

いつもと同じように微笑みを向けてくれてる。

誰よりも優しくて、誰よりも私を認めてくれてる。

そんな親友なのよ。

だから大切な親友を愛おしく思う気持ちは沙織にも負けないわ。

私も沙織の体をもう一度強く抱きしめ返す。

「ありがとう、沙織」

「どういたしまして」

優しく微笑んでくれる沙織は私よりも少しだけ背が高いのよ。

まあ、高いっていっても2センチくらいしか変わらないんだけどね。

その僅かな差を羨ましいって思ってる。

個人的にはもう少し身長が欲しいのよね~。

別に私の背が低いとは感じていないけれど、
親友と並びたいと思う程度のささやかな願いはあるのよ。

ホンの少しとは言え、
沙織を見上げて沙織に見下ろされる関係が
まるで姉と妹のように思えるからなんだけどね。

沙織がそんなふうには思っていないとしても、
同じ目線で話をしたいと思う程度の願望はあるの。

まあ、なくても困らないんだけどね。

身長にしてもあればいいなって思う程度でしかないし。

今の自分に不満はないわ。

だけど…いつ見ても思うのよね~。

目の前の親友は完璧だって思ってしまうのよ。

清楚せいそ』という言葉が誰よりもよく似合う沙織は
私でさえ羨ましく思える程の超絶美少女なのよ。

学園内においては私と並ぶ有名人だけど、
才色兼備の親友は学園内において教師すら凌ぐほどの天才なの。

学園で学ぶことのできる全ての魔術を身につけているという超人でもあるわ。

当然、魔術師としての実力は私よりも沙織が遥かに上よ。

学園3位としてその名を轟かせる親友の名前は常盤沙織ときわ さおり

成績は抜群に優秀で、
私が知る限り沙織が筆記試験で100点以外の点数をとったことは一度もないわ。

もちろん実技も完璧よ。

沙織に使えない魔術は何一つとして存在しないでしょうね。

私達を管轄する理事長でさえも舌を巻く才女なのよ。

扱える魔術は千種類にも及び、
魔力の総量においても学園一なのは間違いないわ。

ただその反面。

運動はあまり得意じゃないっていう欠点でしょうけど、
『優等生』という言葉がぴったりの女の子だと思うわ。

仕種の一つ一つには気品さえ感じさせて、
透き通るような声は心に優しく響き渡るって感じ。

すれ違う誰もが一度は沙織を見つめて、
誰もが格の違いを思い知ることになるほどなのよ。

それぐらい、どこからどう見ても完璧な美少女。

それが常盤沙織なの。

見た目だけで言えば私も負けてないって思うんだけど…。

『可愛い』という意味で言えば私でも
『綺麗』という意味では沙織になるでしょうね。

私と沙織。

二人とも学園内において美少女としての評価は圧倒的に高いわ。

多くの男子生徒から視線を集める存在で在る事に間違いはないでしょうね。

とは言え。

今いる場所が場所なだけに私達に近付こうと思う生徒はいないと思う。

ここは医務室だしね。

誰がいようと関係なく、
騒ぎ立てていい場所じゃないのよ。

だからこそ二人だけの雰囲気になりつつあるんだけど、
医務室の一角で優しく微笑んでくれる沙織の手を借りた私はゆっくりと体を起こしてみた。

そして、気付く。

今更とも言えるけれど、
自分が医務室にいる事を確認したのよ。

それと同時に医務室を見渡したことで数多くの生徒達が周辺のベッドで眠りについている事にも気付いたわ。

医務室は慌ただしい雰囲気が広がってる。

普段知る雰囲気とは大きくかけ離れているのよ。

そんな普段とは異なる雰囲気のせいで嫌な予感を感じてしまったわね。

「…何があったの?」

尋ねてみると。

「翔子と、同じよ」

沙織が周囲を見渡してから少し言いにくそうに小さな声で呟いた。

うわぁ~っ。

沙織の一言を聞いただけで全て理解できてしまったわ。

今ここにいる生徒達は『全員』総魔の魔剣によって魔力を奪われたっていうことにね。

私と同じように魔力を吸収されてしまったってことよ。

だけど、ひと目でわかる違いもあるわ。

私と他の生徒の違い。

それは一部を奪われた私とは違って他の生徒達は全員『全ての魔力』を奪われているという事よ。

魔力は物理的に補給する事が出来ないの。

自然回復を待つか、
瞑想などによって回復速度を早めるか、
どちらにしてもすぐに回復はできないのよ。

魔力を失って倒れた彼等が目を覚ます為には魔力が自然回復するのを待つしかないわ。

一旦、目が覚めればあとはなんとかなるんだけど、
目を覚ますまでは手のほどこしようがないの。

それが魔術師の欠点でもあるんだけどね。

それなのに全員が魔力を奪われているのよ。

私の周りで眠る生徒だけでも10人はいるわね。

そして新たに運ばれてきた5人の生徒達。

その中には私の知っている顔もある。

同僚の矢野桃花よ。

彼女を含めた合計15名が医務室で眠りについているみたい。

まだ他にもいるようだけど、
私が倒れてからわずか数時間の間に総魔が戦闘不能に追い込んだ生徒達が医務室のベッドに並べられているようね。

この異常事態に寒気を感じてしまったわ。

一体、どこまで成長しているの?

私が寝ていた間にも総魔は戦い続けて成長し続けているのよね?

今の私の力で総魔に勝てるのかどうかが分からない。

心の中が不安で一杯になってしまう。

そんな私の気持ちに気付いてくれたのかな?

沙織が優しくそっと抱きしめてくれた。

「大丈夫よ」

耳元で囁く沙織の優しさに触れて少しずつだけど冷静さを取り戻せた気がする。

「ありがとう、沙織」

いつもの笑顔を浮かべられたと思う。

まだ不安は消えないけれど笑える程度の余裕は持てた気がするからよ。

そんな私の笑顔を見た沙織はそっと手を離してくれたわ。

「色々と考えることはあるかもしれないけれど、ひとまず翔子が無事でよかったわ」

「あ、うん。私は大丈夫だけど…」

自分の周りには大丈夫と言い切れない生徒達が数多くいるのよね。

「何があったの?」

もう一度尋ねてみたものの。

沙織は少しだけ困ったような表情を浮かべてから首を左右に振ってみせた。

「ごめんね。私に分かることなら教えてあげたいけれど、詳しい事は何も知らないの。翔子が倒れたって聞いてからずっとここにいたから…」

沙織はずっと医務室にいたから詳しい事情を知らないみたい。

何も説明できないことで言葉を途中で詰まらせてる。

う~ん。

こうなると沙織に聞くのは無理よね~。

それならと、別の質問をしてみることにする。

「それじゃあ、総魔がいまどこにいるのか分かる?」

新たな質問に対しても沙織は再び首を横に振って答える。

「ごめんね。私は何も知らないの。でも、翔子の代わりに北条君が向かったみたいだから、彼なら何があったのか知ってると思うわ」

「え?あのバカが総魔に会いに行ったの?…ったく、あいつ、余計な問題を起こしてなければいいけど」

ぶつぶつと呟きながらもとりあえずベッドを降りて立ち上がろうとしてみる。

「大丈夫?」

「ありがとう」

そっと手を貸してくれるさりげない優しさに感謝しつつ。

ゆっくりベッドを下りてみると、
沙織の背後を見覚えのある少女が通り過ぎようとしているのが見えたわ。

「あれ?って、美春じゃない!?」

見覚えのある生徒がいたことに驚いて名前を呼んでみると、
美春は面倒くさそうな表情を浮かべながらも足を止めて振り向いてくれた。

「ん?ああ、翔子ね。目が覚めたの?」

「え、あ、うん。そうなんだけど…。って、そうじゃなくて、美春がどうしてここにいるのよ?」

「どう、って、私がここにいたらダメなわけ?」

ダメとかそういうことじゃないんだけどね。

知り合いがいた事に驚いた私とは正反対に、
美春は当然と言わんばかりに堂々としてる。

見た感じだと怪我をして医務室にいるわけじゃないみたい。

他に理由があるのかな?

「こんなところで会うとは思ってなかったから聞いてるの」

「ああ、そういうこと?まあ、翔子がこの間の会話を聞いてたかどうかは知らないけど、私も一応救命医療班に所属してるから、こういう時には手を貸してるのよ」

この間っていうのは総魔と試合をした時のことだと思うわ。

確か美春は自分を治癒術師と名乗って、
医療班に所属していると宣言してたはず。

あ~。

うん。

そういえば言ってたような気がするかも?

総魔の監視に集中しすぎて完全に聞き流していたんだけど、
私も同じ場所にいたから美春の言葉は確かに聞いていたわ。

「まあ、どうせ翔子の事だから忘れてるんでしょうけどね」

「う、ごめん」

素直に謝ったけれど、
美春は深々とため息を吐いてる。

ちょっぴり落ち込んだみたいね。

「はあ、やっぱり忘れてたのね。まあ、無理に覚えてくれなくてもいいけどね」

病み上がりの私と言い争いをするつもりはないみたいで、
美春は軽く手を広げてから周囲を示した。

周りにいるのは全員、意識不明の生徒達。

全ての魔力を奪われて昏睡状態にある生徒達の看病とか、
もしくは移送の為に手を貸しているっていうことだと思う。

美春の言う『こういう時』とは、つまりそういう事なんでしょうね。

「まあ、今回の出来事は後々問題になる可能性もあると思うけど…。だけど一応は正式な試合だから文句をいう事は出来ないと思うのよね~。でも、実際にはどうなるのかしら?私としては穏便に終わってくれるのが一番楽なんだけど」

面倒事には関わりたくないと言いたげな態度で立ち去ろうとする美春だけど、
その前に私は美春の手を力一杯掴み取ったわ。

「ちょっと待って!何があったのか知ってるの?」

「え?あ、うん、まあ、知ってるっていうほどじゃないけどね。私が駆け付けたのは試合終了後だから何があったのかは知らないわ。でも、一応、何が起こったのかは知ってるっていう程度よ」

「それでもいいから教えて!!」

真剣な表情で訴えてみると、
美春は呆れた表情を浮かべながら私に握り込まれている腕を指差した。

「これ、けっこう、痛いんだけど」

「あ、ごめん」

謝りながら手を離す。

美春は不満そうな表情を見せてるけれど、
隣にいる沙織は楽しそうに微笑んでいたわ。

「ぶ~、笑わないでよ」

「ふふっ。ごめんなさい」

私の慌てふためく姿が面白かったみたい。

言葉では謝りながらも、
沙織の表情は微笑みを絶やしていないわね。

「…まあ、いいけどね」

私達のやりとりを眺めていた美春は小さくため息を吐いてから自分の目と耳で確認してきた話を語り始めたわ。
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