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THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

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出発の朝

《サイド:常盤沙織》

…朝になりました。

時刻は午前5時です。

旅立ちの支度を整えた私は玄関へと向かいました。

まだまだ朝陽が指したばかりの早朝にもかかわらず。

お父さんとお母さん、それに成美が見送りに来てくれています。

「お父さん、お母さん。行ってきます」

これが最後になるかもしれない別れの挨拶です。

だからこそ最後まで何も説明せずに、
態度にも出さないように接しました。

今日という日も普通の一日でありたいと願ったからです。

そのためにいつもと変わらないありふれた日常として出発するつもりでいました。

「行ってらっしゃい」

笑顔で見送ってくれるお父さん。

「体に気をつけて、無理をしないようにね」

お母さんも優しい微笑みを浮かべてくれています。

何度も聞き慣れた言葉ですが、
それでも私にとっては幸せを感じる言葉に思えました。

ですが、正面に立つ成美だけはいつもと違います。

何も話していないのに。

何も伝えていないはずなのに。

成美の表情には影が見えるからです。

悲しみを思わせる仕種に気づいたことで、
私は笑顔を浮かべながら成美に話し掛けることにしました。

「行ってくるわね、成美」

「…うん…」

頷いてくれる成美ですが、
その声に明るさは感じられません。

まるで翔子に出会う以前の半年前に戻ったかのような、
そんな雰囲気が今の成美にはあります。

「…成美…」

成美の手を握り締めて、優しく語りかけました。

「またすぐに帰ってくるからね。だから、だからそれまで待っていてね」

精一杯の笑顔で言葉を伝えたからでしょうか?

私の気持ちを感じてくれたのか、
成美はようやく笑顔を見せてくれました。

「…うん。ずっと待ってるから、お姉ちゃんと翔子さんが帰って来るのをずっと待ってるよ」

それが成美のたった一つの願いです。

これから私がどこへ向かうのか?

成美は何も知りません。

それでも成美は信じたいと思ってくれたようです。

私の言葉を信じて。

帰って来るその日を信じて。

成美は待つことを受け入れてくれました。

「あのね、お姉ちゃん」

「ん?どうしたの?」

向き合う成美は、私の手を手繰り寄せてから力いっぱい私の体を抱きしめてくれました。

「行ってらっしゃい!お姉ちゃん♪」

それが成美に言える精一杯の言葉だったと思います。

それでもその言葉が何よりも嬉しくて、
涙をこらえる姿を愛しく思いながら、成美の頭を優しく撫でました。

「大丈夫。またすぐに帰って来るから、安心して待っててね」

最後に成美と約束をしてから離れます。

これ以上ここに居たら覚悟が揺らいでしまう気がしたからです。

なので、家族に別れを告げることにしました。

「行ってきます」

いつもと同じ言葉を残して、家族に背中を向けました。

「いってらっしゃい」

「気をつけるのよ」

「お姉ちゃん、またね」

最後まで見送ってくれる家族に感謝しながら。

足早に学園に向かうことにしました。
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