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THE WORLD 作者:SEASONS

4月16日

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兵の宿舎

《サイド:三倉純》

うぅぅ~。

緊張するわね…。

無事に水路に突入したのはいいんだけど。

これはまだ最初の工程でしかないわ。

砦の内部に潜入して。

アストリア軍の情報を入手して。

砦の攻略法を確立させて。

砦を脱出して生還する。

…っていう流れの序盤部分なのよ。

まだまだ始まったばかりなの。

どこかで何らかの失敗をしようものなら、
即座に全滅という危険性のある潜入作戦だから最後まで気は抜けないわ。

無事に脱出するまで油断出来ないの。

だから今は余計なことは考えずに目的の宿舎に向かって水路内を走り続けているところよ。

水路の内部は各所に幾つもの分岐路があって、
一旦方角を見失うと迷ってしまいそうな地下通路なんだけど。

天城君は全くって言っても良いくらいに迷う素振りを見せずに走り続けているわ。

これはもうあれよね?

すでに見取り図を完全に記憶してるっていう感じよね?

すばらしい記憶力だと思うわ。

私だったら一々確認しながらじゃないと不安で前に進めないと思うからよ。

なのに。

天城君は最短距離で目的地にたどり着いて、宿舎への潜入に成功してみせたわ。

うわ~。

凄すぎ。

ホントに着くなんてね…。

こんなに簡単に潜入できるなんて、
正直思ってなかったから普通に驚いたわ。

だけど、これで内部に侵入できたのよね?

嘘じゃないわよね?

たどり着いたのは厨房みたい。

結構、大きな室内だけど、今ここに人の気配はないわ。

シンと静まり返っていて、厨房内には誰もいないのよ。

完全に閉め切られてるせいか、
窓から差し込む月明かりがなかったら何も見えない真っ暗闇でしょうね。

それでも天城君、朱鷺田さん、私、愛里ちゃんの順番に侵入してから、
息を潜めながら周囲の警戒を始めたわ。

「ここからが本番ね」

「ええ、そうですね」

小声で話す私に頷いてくれた朱鷺田さんが、
姿勢を低く保ったまま厨房の出口へと接近していく。

そのあとを追って、静かに行動する私達。

扉の向こう側は食堂なのかな?

多くの兵士達の話し声が聞こえるのよ。

今は暗くて確認できないけど、
図面が正しければ扉の向こうは食堂のはずよ。

ひとまず兵士達がこちらに来る様子はなさそうだけど、
酒を楽しむ兵士達の声から察するに立ち去ってくれる気配もないわね。

さしあたって食堂を抜けて移動するのは不可能ということよ。

「ここを抜けるのは難しそうですね…。」

呟く愛里ちゃんの意見は私と同じだったわ。

どう考えても通り抜けるのは無理よね?

だからかな?

天城君と朱鷺田さんは周囲を見回してから別の通路を探してる。

私はうろ覚えだけどね。

それでも図面上はもう一つ、直接外に通じる扉があるはずなのよ。

方角的には厨房の北側かな?

そこにもう一つの出口…と言うか勝手口があるはず。

兵士達を警戒する朱鷺田さんの代わりに、
今回は私が扉に接近してみたわ。

この扉の向こうは外になるはずよ。

…ってまあ、外って言っても砦の内部だから敷地内なんだけどね。

それでも扉の向こうは何らかの別の部屋に繋がってるんじゃなくて、
宿舎の外に出られるはずなのよ。

まずは扉に耳を当てて、外の様子を窺ってみる。

………。

特に何も聞こえないわね。

もしかしたら近くには誰もいないのかな?

周囲の状況を確認するために少しだけ扉を開けてみる。

その瞬間に『キィ…』っと、扉が軋んで音を立ててしまったわ。

うわっ!?

うわぁぁ~っ!!

扉の軋む音に慌ててしまったのよ。

だけど、運良く誰にも気付かれなかったみたい。

小さな音だったから食堂にいる兵士達に気付かれることもなかったでしょうね。

それでも一応、みんなに謝ってみる。

「…ごめんね。」

不安にさせたことは事実だから、
小声でみんなに謝ってから開いた扉の隙間から外の様子を窺ってみたわ。

………。

………。

………。

油断なく周囲を確認したつもりよ。

魔術師としては平均程度だけど、
これでも色々と訓練を受けてるからこういう時にどうすればいいのかは自然と体が覚えているわ。

感覚を研ぎ澄ませながら周囲の様子を確認していく。

宿舎の外は松明の明かりが砦中を明るく照らしていて、
数多くの兵士達が巡回を行っているのが見えたわ。

よっぽど訓練を積んだ密偵か暗殺者でもない限り。

この状況で誰にも見つからずに行動するのは無理じゃない?

個人的な意見を言わせてもらうなら、
私や愛理ちゃんではどう考えても足でまといにしかならないわ。

「…うわぁぁ…」

これはもう無理よね?

ぼやきながらもそっと扉を閉める。

そしてみんなの近くに戻ってから小さく首を振ることにしたわ。

「ここから抜け出すのもちょっと無理かな?見張りの兵士が多すぎるわ」

「…やはりそうですか」

私の言葉を聞いた朱鷺田さんが天城君に話しかける。

「どうします?一旦、水路に戻って別の場所に向かいますか?」

別の通路を探すかどうかを尋ねる朱鷺田さんだけど。

天城君は地下の水路じゃなくて、何故か上を見上げていたわ。

上なんて見上げても出口なんてないわよね?

あるとしたら天井裏への点検口くらい?

…って、まさか天井裏を移動するとか言わないわよね?

「何を見てるの?」

「空調用の換気口がある」

ん?

換気口?

天城君の視線の先を見上げて、換気口を確認してみる。

あ~、うん。

確かにあるわね。

「悪くはありませんが、私達では通れないでしょう」

まあね~。

朱鷺田さんと天城君にはきびしいと思うわ。

換気口はそれほど大きくないから、
二人の体格では通り抜けるのは難しそうに見えるからよ。

だけど天城君は気にした様子もないまま、
私と愛里ちゃんに視線を向けたわ。

「三倉と愛里なら通れるはずだ。換気口を潜って倉庫か物置にでも辿り着ければ兵士の服を手に入れられる可能性がある」

あぁ~。

うん。

なるほどね。

天城君の言葉を聞いて納得したわ。

「それも目的だったわね」

少しでも安全を確保するために
兵士の服を入手することも作戦の一つだったのよ。

「上手く他の部屋とつながってくれてればいいんだけどね~」

期待を込めながら換気口に向かってみたわ。

私の後ろを愛里ちゃんも追ってきてるわね。

だけどね~。

換気口に潜るって言っても、
わりとしっかり鉄格子で封鎖されてるから穴を開けるところから始める必要があるわけよね?

「ひとまず換気口を開く必要がありますね」

換気口に歩みよった朱鷺田さんが鉄格子に手を伸ばしてくれたわ。

でもね?

かなり力を込めてるようだけど、腕力だけで破壊するのは難しそうだったわ。

「壊すのは難しくない?」

「まあ、そうですね。ですが即席の砦ですからね。厨房の設備まで頑丈には作られていないでしょう」

ん~。

まあ、それは同感かな?

さすがに何もかも完璧になんて言ってたら、
それこそ数年単位での建設期間が必要だったはずよ。

だけど実際にはひと月足らずで作られた砦なんだからそれなりに突貫工事はあったと思うわ。

…なんて考えてる間に朱鷺田さんが鉄格子を外してた。。

本当に問題があったのかな?

鉄格子を動かしてる間に力を込め過ぎたのか、
空気口の柵そのものが外れていたのよ。

「どうやらこれはめ込み式のようですね。ある程度の体重をかけて押し込めば、内部からでも外せると思いますよ」

あぁ~。

なるほどね~。

それなら中に入ったあとも脱出できると思うわ。

「ここから別の部屋に向かえばいいのよね?」

開かれた換気口は30センチ角ってところかしら?

自分で言うのもなんだけど。

結構小柄なほうだから余裕で入れると思うわ。

まあ、愛里ちゃんも楽勝だとは思うけどね。

近場の椅子を踏み台にして身軽な動きで換気口へと忍び込んでみる。

うんうん。

何とか進めそうね。

これでも治安維持部隊の一員として日々訓練を行ってるから、
この程度の行動は苦でも何でもないのよ。

だけどさすがに中で振り返る余裕はないから、
一旦外に出てKら愛里ちゃんに呼びかけることにしたわ。

「愛里ちゃん」

「あ、はい」

名前を呼びながら手を伸ばしたことで、
愛里ちゃんは椅子の上に立ってから私の手を掴んでくれたわ。

だけどそこで動きが止まってしまったのよ。

「ん?どうかしたの?」

心配しなくても引き上げてあげるわよ?

そう思って声をかけようとしたんだけど。

どうやらそういう問題じゃないようね。

「えっと、その…」

愛里ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、
朱鷺田さんと天城君に懇願していたからよ。

「あ、あの…っ。う、後ろを向いてて下さい…っ」

恥ずかしそうに制服のスカートを反対の手で押さえたわ。

ああ、そっか…。

戦闘を考慮してる私は治安維持部隊の制服を着てるけれど。

愛里ちゃんは学園の制服なのよね。

当然、スカートだから気になると思うわ。

天井の換気口に上がるのは恥ずかしいでしょうね。

「あ、ああ。ごめんごめん」

素直に謝ってから背中を向ける朱鷺田さんに続いて、
天城君も愛里ちゃんの指示に従って視線を背けてた。

「それじゃあ、愛里ちゃん。引っ張るわね」

「は、はい。ありがとうございます」

換気口によじ登る愛里ちゃんを手助けしてから、まずは私が内部に入る。

そのあとを愛里ちゃんが付いてくる形になるわ。

さすがに狭いからほふく前進だけど。

出来たばかりの砦の換気口はまだそれほど汚れてないようね。

私もそうだけど、愛里ちゃんも制服が汚れる心配はなさそうだったわ。

「行くわよ~」

「はい」

愛里ちゃんと二人で換気口の内部に侵入する。

「それじゃあ、待っててね~」

「行ってきます」

一応、挨拶をしてみた私達の声がちゃんと聞こえたみたい。

「無理はしないように気をつけてください」

朱鷺田さんが言葉を返してくれたからよ。

その後。

私と愛里ちゃんは無言で換気口を進み始めたわ。
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