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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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誰かの幸せ

《サイド:近藤悠理》

「私ね。明日からまた…しばらく出かけることになるの」

「はぁ?また!?」

帰ってきたばかりなのに、
また出かけるって、どれだけ忙しいのよ?

って言うか、魔術大会が終わったばかりだから
学園の行事ってもうないはずよね?

個人的な理由なの?

それとも新しい行事でも出来たの?

そんな噂は聞いてないんだけど…。

「今度は何なの?」

驚く私に、優奈は予想外の言葉を告げてくる。

「あのね。驚かないで聞いてね?」

いや、驚かないでって言われてもね~。

内容によるでしょ?

「何なの?」

「その、ね。理事長さんと総魔さんが言ってたの…。」

理事長と天城総魔?

よくわからない組み合わせよね。

「言ってたって、何を?」

「えっと、ね…。これから、『戦争』が始まるって…」

はぁっ!?

なにそれ?

「戦争って何よ!?」

「その…。アストリアの軍が攻め込んで来るって…」

「な…っ!?」

冗談でしょ!?

アストリアってあれよね?

共和国の北にある国よね?

行ったことはないけど、仲が悪いっていう話は聞いたことがあるわ。

それはまあ…。

噂っていうか、お爺ちゃん達が話してるの聞いたことがあるっていうくらいだけど。

「ホントなの?」

「う、うん。理事長さんが言ってたから間違いないと思う。それに、ね。総魔さんは戦争を止める為にアストリアに向かったみたいなの。」

「戦争を止めるって、そんなのどうするのよ?」

「分からない。私達は何も教えてもらえなかったから総魔さんがどこに行って何をするつもりなのか何も知らないの。」

「連絡が取れないの?」

「うん…。何も言わずに行っちゃったから。」

へ~。

そうなんだ。

まあ、あいつらしいと言えばあいつらしいのかな?

「天城総魔は戦争に参加するのね?」

「…うん。だから、ね。」

驚いてばかりの私に、優奈は自分の気持ちを話し始める。

「だから私達も行くことにしたの。総魔さんを助けたいから。そして戦争を止めたいから…」

「…優奈…」

こういう時ってどうすればいいのかな?

どう声をかけるべきなのかな?

よくわからない。

だけどそもそも優奈が行く必要ってあるの?

戦争っていう事実は驚いたけど。

それ以上に優奈が参加すると言ったことで動揺してしまったのよ。

戦争…なのよね?

それは考えるまでもなく、殺し合ったり、命を奪い合う場所のはず。

そんなところに行けば、生きて帰って来れる保証なんてどこにもないわ。

…ううん。

それ以前に、人を殺さなければ終わらない争いなのよ?

誰も傷つかずに終わる戦争なんてありえないわ。

沢山の人達が争って、沢山の人達が死ぬのが戦争なの。

そこに参加するっていうことは、
優奈も人を殺すっていうことなのよ?

「ホントに行くの?」

「…うん。」

戸惑う私に、優奈は自分の考えを教えてくれる。

「私は行くよ。先輩達もそうだけど、私も総魔さんのために出来ることをしたいって思うの」

「どうしてそこまで思えるの?」

戦争なのよ?

殺し合うためだけの戦いなのよ?

そんな場所に向かって、
人を殺してまで追いかける必要なんてあるの?

「ねえ、優奈。優奈は…あいつのことが好きなの?」

「え?う~ん。どうなのかな?よくわからないけど、尊敬はしてると思う。ちゃんと私と向き合って、私のことを考えてくれた人だから、その恩返しがしたいって思うの」

恩返し、ね。

優奈の気持ちにどう答えるべきか悩むわね。

言いたいことは理解できるし、何となくだけど気持ちも理解できるわ。

でもね?

だからと言って戦争に参加するっていうのはどうなの?

「恩返しはいいけど、だからって人殺しになる必要はないんじゃない?」

「…う、うん。そうだね。そうかもしれない…ね。ううん。きっと悠理ちゃんの言うとおりだと思う」

「だったら!」

「でもね、逃げちゃだめだと思うの」

そんな危険な場所に行く必要なんてない!って言おうとしたんだけど。

その前に、優奈が私の言葉を遮ってしまったわ。

「きっとね。総魔さんは私達を守るために一人で行ったんだと思うの。私達が傷つかなくていいように、一人で全てを背負おうとしたんだと思うの」

「それはそうかもしれないけど、実際にどうかはわからないんでしょ?」

「うん…。分からないよ。総魔さんは何も言ってくれなかったから何もわからないの。だけどね?もしも総魔さんが私達を守るために行動してるんだとしたら、私達は黙って見てるだけじゃダメだと思うの」

まあ、言いたいことはわかるけど。

「でもそれだと、あいつの好意が無駄になるんじゃない?」

「…かもしれないね。でもね、悠理ちゃん。私もそうだけど、みんな総魔さんのことが心配なの。私達のために、たった一人で苦しんでるかもしれないって思うだけで、いてもたってもいられないの。私達を守るために傷ついてるかもしれないって思うだけで心が痛くなるんだよ」

うあ~。

それってもう好きとか嫌いとかっていう話じゃないわよね?

完全に恋愛の話よね?

むしろ恋を通り越して愛に近づいてない?

「そんなに、あいつのことが気になるの?」

「…うん。」

「優奈が戦争に参加しても、きっと喜んでなんて貰えないよ?」

「それは分かってる。きっと総魔さんは悲しむと思う。でもね、総魔さんと同じ苦しみを私も感じていたいの。総魔さんだけに全てを押し付けて、自分だけが安全な場所にいるなんて我慢できないの」

「優奈…。」

「だから、ね。悠理ちゃん。もしかしたら…ね。」

えっ?

ちょっ!?

「…い、嫌よっ!!認めないわっ!!」

もう会えないかもしれないなんて聞きたくなかった。

そんな言葉は絶対に聞きたくなかったのよ。

「そんなの絶対に許さない!!」

大声で叫んで、優奈の言葉を止める。

そして必死に引き止める。

「そんなの嫌っ!そんなの絶対に認めないっ!!私は…私は優奈が好きだから…。大切な友達だから…そんな言葉なんて聞きたくないっ!!」

全力で叫んでみたけれど。

「悠理ちゃん…。」

優奈は悲しそうな表情をするだけだったわ。

「ごめんね、悠理ちゃん。でもね。もう行くって決めたから…」

うぅ…。

「あいつの為に?」

「うん。もちろんそれもあるよ。総魔さんのことが一番の理由だと思ってる。」

一番…ね。

「他にも理由があるってこと?」

「…うん。あるよ。私ね、この町が好きなの。お父さんとお母さんがいて、大好きな悠理ちゃんがいて、優しくしてくれる翔子先輩や沙織先輩がいて、困ったときに助けてくれる御堂先輩や北条先輩がいて、色々な人が私のことを想ってくれるこの町が好きなの。だからね。誰かの為とか国の為とか私には難しくて分からないけど、この町は守りたいと思うの。それがね。それが私の戦う理由だと思うの」

………。

優奈の気持ちを聞いたことで何も言えなくなったわ。

そこまで言われて反論なんて出来るはずがないからよ。

そこまで考えてた優奈に口出しなんて出来ないし。

私に出来ることは優奈を困らせることだけだったわ。

「優奈が死ねば…悲しむ人がいるのよ?」

それが精一杯の言葉だった。

そんな言葉しか出てこなかったのよ。

だけどそんな私の言葉を聞いても、優奈は微笑みを浮かべて答えてしまう。

「そうだね。分かってるよ。でもね。私に出来ることがあるのなら精一杯やってみたいの。何もせずに安全な場所から願い続けるだけなんて私には出来ないから。全てを知っていながら目を逸らすことなんて出来ないから。私を必要としてくれる人達がいて、私が守りたいと思える人達がいるから。だから自分に出来る事をちゃんとやりたいの。そうすることで『この町』や『大切な人』を守れるのなら…。そしていつまでも幸せでいてくれるのなら、私はそれだけで嬉しいって思えるの」

優奈は自分の命よりも、他の誰かの幸せを願ってた。

その理由を私は知ってる。

優奈が自分の力に悩んでいたこと。

自分の力のせいで家族に負担をかけてきたこと。

優奈がいじめに近い行為を受けてきたことも知ってる。

だから。

優奈の言葉はとても…とても重く感じたのよ。

「私にはもう止められないのね?」

「…ごめんね、悠理ちゃん。」

諦めにも似た心境で呟く私に、優奈は頭を下げて謝ってくる。

「ごめんなさい。でもね、嘘は言いたくなかったの。大好きな悠理ちゃんには私の本当の気持ちを知っていて欲しいから。だから聞いて欲しかったの。勝手なことを言ってるのは自分でもわかってる。だけど、ちゃんと聞いて欲しかったの。だから、ごめんね。辛い思いをさせて…ごめんね」

何度も何度も謝りながら、優奈は静かに立ち上がったわ。

「ごめんね、悠理ちゃん。それと、ありがとう。悠理ちゃんと友達になれて良かった。悠理ちゃんと出会えて本当に良かった。だから、もしもこの戦争が終わって、ちゃんと帰ってくることが出来たら…。その時はまた一緒に、ご飯を食べたいな…。」

「優、奈…。私は…」

精一杯微笑む優奈に、私は何も言えなかった。

引き止める言葉が思い浮かばなくて、
応えるべき言葉が見つからなくて、
私は何も言えなかったのよ。

そんな私を見つめながら、優奈は別れの言葉を告げてしまう。

「ありがとう、悠理ちゃん。そして、さよなら…。」

っ!?

はっきりと告げられた言葉。

別れの言葉を聞いてしまったことで、私は涙を流してしまってた。

「優…奈ぁ。」

「ごめんね…悠理ちゃん。いつかまた…会えると良いね…。」

最後にささやかな願いを残してから、
優奈は部屋を出て行ってしまったわ。

たった一人で残された私は、一人きりの部屋で泣くことしかできなかったのよ。
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